虹彩
鍵穴状瞳孔:典型的には鼻下側に欠損が位置し、瞳孔が鍵穴状に変形する。
耳下側寄り:非定型的な位置に生じることもある。

コロボーマ(coloboma)はギリシャ語で「欠損」を意味する語に由来し、胎生裂の閉鎖不全により眼のさまざまな部位に組織欠損を生じる先天性疾患である。眼瞼・虹彩・水晶体・毛様体・脈絡膜・網膜・視神経に発生しうる。欠損は典型的には鼻下側に位置し、小眼球症を伴うことが多い。
有病率は出生10,000人あたり0.5〜2.2例とされる。米国では出生10,000人あたり約2.6例4)、ヨーロッパでは出生100,000人あたり4〜19例と報告されている6)。小児失明の約11%を占め、遺伝学的な診断率は30%未満にとどまる6)。眼瞼コロボーマの有病率は出生10,000人あたり0.2〜0.8例である。先天眼奇形に占める割合は0.07%、視力障害小児では3.2〜11.2%と報告されている。
コロボーマには定型的欠損と非定型的欠損がある。定型的欠損は胎生裂の閉鎖不全に起因し鼻下側に位置するのに対し、非定型的欠損は他の部位に生じ異なる発生機序が想定される。
ICD-10コードはQ10.3(眼瞼)、Q13.0(虹彩)、Q12.2(水晶体)、H47.319(視神経)、Q14.8(脈絡膜・網膜)である。
孤発性と遺伝性の両方がある。常染色体優性・常染色体劣性・X連鎖性など多様な遺伝形式が報告されている。PAX2、CHD7、FZD5など複数の原因遺伝子が同定されているが、遺伝子診断率は30%未満である6)。家族歴がある場合は遺伝カウンセリングが推奨される。
視力は欠損の部位と範囲により光覚なしから正常まで大きく異なる。
コロボーマは眼の各部位にそれぞれ特徴的な所見を呈する。
虹彩
鍵穴状瞳孔:典型的には鼻下側に欠損が位置し、瞳孔が鍵穴状に変形する。
耳下側寄り:非定型的な位置に生じることもある。
脈絡膜・網膜
黄白色病巣:強膜が透見される境界鮮明な円形〜扇状の欠損部。
網膜剥離リスク:発生率23〜40%7)。定期的な経過観察が必要。
視神経・水晶体
視神経陥凹拡大:片眼性から両眼性まで、程度は様々。
水晶体赤道部平坦化:チン小帯欠損に伴い生じる。散瞳下で観察される。
眼瞼
上眼瞼内側の欠損:全層性の組織欠損。
全身奇形合併:単独例もあるが全身奇形を伴うことがある。
毛様体コロボーマが単独で生じることはまれで、大きな脈絡膜コロボーマに連続して認められることが多い。
視力は光覚なしから正常まで幅広い。虹彩のみの限局性コロボーマであれば視力は保たれることが多い。黄斑や視神経を含む場合は視力不良となりやすい。
コロボーマの主な原因は胎生裂の閉鎖不全である。
胎生裂(眼杯裂)は胎生4週に形成され、5週で完成する。閉鎖は6週から開始し、7週に完了する。この閉鎖過程が何らかの原因で障害されるとコロボーマが発生する。ビタミンAの関与も指摘されている。
コロボーマの発生に関与する遺伝子が複数同定されている。
| 遺伝子 | 関連疾患・表現型 |
|---|---|
| PAX2 | 腎コロボーマ症候群5) |
| CHD7 | CHARGE症候群 |
| FZD5 | 症候性OC+小角膜6) |
| TENM3 | MCOPS15(小角膜+発達遅延)8) |
| FAT1 | コロボーマ+腎症9) |
| YAP1 | コロボーマ関連 |
| ABCB6 | コロボーマ関連 |
| SALL2 | コロボーマ関連 |
コロボーマは以下の全身症候群に合併しうる。
CHD7遺伝子の変異により生じる多発奇形症候群である。コロボーマ(C)、心疾患(H)、後鼻孔閉鎖(A)、成長・発達障害(R)、性器低形成(G)、耳介異常(E)の頭文字をとった名称で、各所見の組み合わせで診断される。
全エクソーム解析(WES)などの網羅的遺伝子検査が行われるが、診断率は30%未満にとどまる6)。
コロボーマは部位に応じて以下の疾患との鑑別が必要である。
| 部位 | 主な鑑別疾患 |
|---|---|
| 眼瞼 | 羊膜索症候群、外傷 |
| 虹彩 | 無虹彩症、外傷性虹彩離断 |
| 視神経 | 朝顔症候群、視神経低形成 |
コロボーマに対する根治的治療法はなく、部位に応じた対症療法と合併症管理が中心となる。
Castilla-Martinezら(2024)は、虹彩・水晶体・チン小帯コロボーマに白内障を合併した症例にフェムトセカンドレーザー白内障手術(FLACS)と瞳孔形成術を併用し、CTRを留置した。術後視力はlogMAR 0.2に改善した4)。
視神経コロボーマでは、篩板に形成不全があるため網膜中心動静脈が乳頭後方ですでに分枝しており、網膜血管は乳頭辺縁の複数の部位から起始する所見を呈する。乳頭下方には胎生裂閉鎖不全に伴う網脈絡膜萎縮がみられることが多い。
裂孔原性網膜剥離には硝子体手術が行われる。フィブリン糊を併用した網膜復位術7)や眼内光凝固+ガスタンポナーデ3)などの手術手技が報告されている。漿液性網膜剥離の場合は自然消退例もあり、治療方針は個別に判断される。
眼杯は胎生4週に神経外胚葉から形成される。眼杯の腹側には胎生裂(眼杯裂)が生じ、硝子体動脈が通過する。この裂は5週に完成し、6週から閉鎖が開始される。閉鎖は赤道部付近から始まり前方(虹彩側)と後方(視神経側)に向かって進行し、7週に完了する。
閉鎖過程には上皮間葉転換(EMT)が関与する。胎生裂辺縁の神経網膜上皮細胞は基底膜を分解し、間葉系形質を獲得して融合する。この過程が障害されるとコロボーマが発生する。
FZD5遺伝子はWntシグナル伝達経路の受容体をコードする。FZD5の機能低下型変異はWntシグナルの異常を引き起こし、胎生裂閉鎖不全と小角膜を生じる6)。
神経堤細胞(NCC)もコロボーマの発生に関与する。NCCは眼杯周囲の間葉組織に分化し、胎生裂の閉鎖過程に重要な役割を果たす2)。NCC遊走の障害は虹彩・脈絡膜の発生異常をもたらす。
Cortes-Gonzalezら(2024)は、FZD5のホモ接合性ミスセンス変異(p.M160V)が症候性眼コロボーマと小角膜を引き起こすことを報告した6)。劣性遺伝形式を示し、Wntシグナル伝達経路のリガンド依存性活性化が障害されることが機能解析で確認された。コロボーマの遺伝学的診断率は30%未満であり、新規原因遺伝子の同定が診断向上に寄与することが期待される。
Zhouら(2022)は、TENM3遺伝子の複合ヘテロ変異がMCOPS15(小角膜・虹彩脈絡膜コロボーマ・全般性発達遅延)を引き起こすことを報告した8)。TENM3は細胞接着と神経発生に関与するトランスメンブレンタンパクをコードする。
Esmaeilzadehら(2022)は、FAT1遺伝子変異が虹彩コロボーマと腎症を合併するイラン人家系で同定されたことを報告した9)。FAT1は細胞極性と組織形態形成に関与するカドヘリンスーパーファミリーのメンバーである。
Huら(2024)は、PAX2のc.76delGフレームシフト変異が巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の家系で同定されたことを報告した5)。腎コロボーマ症候群の表現型スペクトラムが従来考えられていたよりも広いことを示唆する所見である。
Jainら(2024)は、コロボーマ関連網膜剥離に対しフィブリン糊併用網膜復位術を施行した1例を報告した7)。コロボーマ辺縁の網膜裂孔周囲にフィブリン糊を塗布して接着を強化する手法であり、最終視力は20/50に改善した。
Ratraら(2023)は、非典型的脈絡膜コロボーマに外傷後の強膜瘻を合併した症例に対し、硝子体手術+眼内光凝固+ガスタンポナーデで治療に成功したことを報告した3)。
Scemlaら(2021)は、19歳男性の脈絡膜コロボーマ部位に経強膜濾過が生じ低眼圧(4mmHg)をきたした症例を報告した1)。超音波生体顕微鏡で強膜欠損が確認された。6週間で自然回復し、眼圧11mmHg、視力1.0を維持した。