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神経眼科

サッカード侵入(衝動性眼球運動混入)

1. サッカード侵入(衝動性眼球運動混入)とは

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サッカード(衝動性眼球運動)は、視覚対象を中心窩に捉えるための迅速・両眼性・共役性の急速眼球運動であり、固視の合間に約3回/秒の頻度で発生する。

サッカード侵入は、固視を中断させる不随意な共役サッカードの総称である。眼振は「緩徐眼球運動(drift)」が引き金となるのに対し、サッカード侵入は「急速眼球運動(サッカード)」そのものが引き金となる点で根本的に異なる2)。連続する異常眼球運動の間にサッカード間隔(intersaccadic interval; ISI)を持つものを矩形波状振動(square-wave oscillations)、持たないものを正弦波状振動(sine-wave oscillations)と分類する。

衝動性眼球運動はpulse-step刺激によって成立する。バーストニューロン(BN)からの高頻度発射刺激(pulse信号)がトニックニューロンへの眼位保持信号(step信号)を介して眼位を保持し、ポーズニューロン(OPN)によって抑制・制御されている。この局所神経回路が破綻するとサッカード侵入が生じる。

少数の断続的SWJは健常者でも見られるが、眼球フラッターやオプソクローヌスなどの持続的サッカード侵入は病的であり評価が必要である。

Q サッカード侵入と眼振はどう違うのか?
A

眼振はリズミカルで規則的な眼球運動であり、「緩徐相(drift)」で開始され、速相が対抗する。サッカード侵入は「急速眼球運動(サッカード)」そのものが引き金であり、非リズミカルで間欠的・非持続的である。臨床的に区別困難な場合は眼球運動記録(video-oculography)が必要2)

  • 無症状:軽度で断続的なサッカード侵入(少数のSWJなど)では無症状のことがある。
  • 動揺視(オシロプシア):持続的な眼球フラッターやオプソクローヌスでは視界が揺れて見える感覚を生じる。
  • 視覚のかすみ:非特異的な視覚障害として訴えることがある。
  • 随伴神経症状オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群では不随意の筋肉のぴくつき(ミオクローヌス)、パーキンソン病では多様な運動・認知症状が伴う。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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サッカード侵入はISIの有無によって大別される。

ISIを伴うタイプ(矩形波状振動)

矩形波ジャーク(SWJ):振幅0.5〜5°(典型的には<2°)、ISI約200ms。水平サッカード二連発。高齢者・PD・MSPSPで多い。

大矩形波ジャーク(macro SWJ):振幅5〜15°、静止時間0.1秒前後。小脳疾患・PSP・MSで見られる。

矩形波パルス(SWP):SWJに類似するがISIが短く振幅が大きい。ほぼ常にMS・PSP・MSAに関連。

マクロサッカード振動(MSO):視線移動で誘発。振幅が漸増・漸減する水平サッカード。小脳室頂核・流出路の病変による。

サッカードパルス(SP):対象物から離れる短いサッカードと迅速な再固視。MS・外傷で多い。

ISIを伴わないタイプ(正弦波状振動)

眼球フラッター:振幅1〜5°、周波数10〜25Hzの水平共役サッカード。瞬目や随意眼球運動で誘発。PPRF・小脳室頂核の機能障害。

オプソクローヌス:眼球フラッターと異なり垂直・回旋成分を持つ多方向サッカード。ISIなし。脳幹・小脳の広範な機能障害。運動失調・ミオクローヌスを伴う。

Q 矩形波ジャーク(SWJ)が見つかった場合、必ず病気があるのか?
A

少数の断続的SWJは健常者や高齢者でも認められることがある。ただし、頻度が高い・振幅が5°を超える・多方向性・非共役性のSWJはPSP・小脳疾患などの神経疾患を示唆し、精査が必要である。

サッカード侵入の主な原因を以下に示す。

  • 神経変性疾患:パーキンソン病(PD)・進行性核上性麻痺(PSP)・多系統萎縮症(MSA)・脊髄小脳失調症
  • 脱髄疾患:多発性硬化症(MS)
  • 腫瘍随伴症候群:小児では神経芽細胞腫、成人では小細胞肺癌・乳癌・卵巣癌
  • 感染性脳炎:ウイルス性脳炎(エンテロウイルスなど)
  • 代謝性・中毒性の病因
  • 非偶発的外傷(NAT / shaken baby syndrome):極めてまれだが眼球フラッターが呈示徴候となりうる1)
  • まれ:NMO・C型肝炎ウイルス(HCV)・クラッベ病・ALS
  • 特発性

リスク因子は基礎疾患に依存する。サッカード侵入に特異的なリスク因子は確立されていない。

  • 完全な眼科的検査視力・視野・前眼部・眼底
  • 眼球運動検査:眼位ずれ・眼振・滑動追従運動・前庭眼反射(VOR)・視運動性眼振(OKN)・ヘッドインパルステスト(HIT)・同向運動・輻輳運動
  • 遮閉・非遮閉試験:近見・遠見の両方で第一眼位および診断的眼位にて実施
  • ビデオ眼球運動記録検査(video-oculography):微細な所見の検出に必要。高速アイトラッキングが推奨される2)
  • 眼球電図(EOG:水平・垂直の2次元、さらに回旋を含む3次元記録が望ましい。検討パラメータ:視覚誘導サッカード(潜時と振幅)・パシュート(利得)・VOR(利得)・固視(眼振波形解析・矩形波潜時・鋸波緩徐相波形)

眼振との鑑別が最重要である。

特徴眼振サッカード侵入
引き金緩徐眼球運動(drift)急速眼球運動(サッカード)
リズムリズミカル・規則的非リズミカル・間欠的
持続性中心視で持続非持続的
確認臨床的に可能眼球運動記録が必要な場合あり
  • 腫瘍随伴症候群関連抗体:抗Ri抗体・抗Hu抗体2)
  • その他:抗NMDAR抗体・抗ガングリオシドGQ1b抗体・抗GAD抗体
  • 現時点でサッカード侵入に共通するバイオマーカーは存在しない
  • MRI:小脳萎縮・皮質下灰白質容積の減少
  • SPECT・FDG-PET:小脳深部核の代謝亢進を示す
  • 小児の眼球フラッター・オプソクローヌス:神経芽細胞腫スクリーニングのため脳・交感神経鎖・副腎のMRIが必要1)

生理的サッカードや視線保持を妨げずに異常眼球運動を減少・消失させることが目標。治療は基礎疾患を標的とするのが原則である。

日本の教科書に基づく治療(第一選択)

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垂直眼振・周期性方向交代性眼振・衝動性眼球運動混入に対し、小脳の抑制性伝達物質であるGABA_B作動薬が著効することがある。

  • バクロフェン(ギャバロン錠5 mg 3〜6錠 分1〜3):GABA_B作動薬。小脳性眼球運動障害に有用。
  • プリズム眼鏡:眼位依存性を認める場合、ベースを悪化する向きで両眼に同じプリズム度数を付加することで正面視時の動揺視軽減を試みる。
  • 原疾患が明らかな場合はその治療を進める。治療不可能な場合は動揺視の軽減・視覚情報の取り込み改善を目標とする。
  • パーキンソン病:レボドパ・カルビドパ
  • 小脳失調症のMSO:ガバペンチン・メマンチン
  • ウイルス性脳炎IVIG+ステロイドアザチオプリン
  • 腫瘍随伴症候群:癌治療に加えてIVIG・血漿交換療法
  • 神経芽細胞腫リツキシマブ・ステロイド・またはIVIG
  • SWJ:ジアゼパム・クロナゼパム・フェノバルビタール・バルプロ酸
  • MSO:ガバペンチン・メマンチン
  • オプソクローヌス・眼球フラッター:プロプラノロール・クロナゼパム・ガバペンチン・トピラマート・レベチラセタム・エトスクシミド
  • 脳深部刺激療法(DBS):PD設定やその他の原因によるSWJで改善が報告されている。
Q サッカード侵入の治療はどの診療科で受けられるのか?
A

基礎疾患に応じて神経眼科または神経内科が中心となる。腫瘍随伴症候群が疑われる場合は腫瘍内科との連携が必要。小児例では小児神経科も関わる。専門施設での精査と多科連携が重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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固視中はOPNが発火しBNを抑制する。サッカード開始前には上丘の抑制センターが切り替わり、OPN→BN抑制が減少するとともに、BN→OPN抑制が増加することでサッカードが実行される。この局所神経回路は脳幹に存在し、大脳(前頭葉・頭頂葉)・視床・基底核・上丘・小脳の上位中枢が制御している。

正確なメカニズムは不明で基礎疾患に依存するが、以下の仮説が提唱されている。

  • BN膜特性変化説:BNの膜特性変化により、生理的サッカードの興奮・抑制バランスが乱れる。
  • 上位中枢の抑制機能不全説:大脳基底核・小脳・大脳半球・上丘の抑制機能不全がOPNを強化できない状態を招く。
  • 免疫介在説:B細胞およびT細胞による免疫介在性メカニズムとの関連。

各タイプの推定病変部位は以下の通りである2)

  • SWJ:小脳虫部またはOPN機能障害
  • MSO:室頂核/小脳虫部の障害
  • SP:視線保持系の不安定性(橋・延髄のバーストニューロン不全)
  • 眼球フラッター:脳幹網様体/サッカードバーストニューロンの脱抑制
  • オプソクローヌス:小脳/脳幹からのOPN抑制の破綻

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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小児NATにおけるサッカード侵入

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Dai & Kuwera(2022)は、9か月児の非偶発的外傷(NAT)で眼球フラッターが呈示徴候となった症例を報告した1)。両側テント上硬膜下血腫・皮質静脈血栓が発見され、NATの疑いがある場合は画像検査の閾値を低く保つべきであると指摘している。早産児では満期産児と比較して随意サッカード制御(特にアンチサッカードの抑制制御)に障害があり、追跡運動中の侵入サッカードの出現頻度が高いことも報告されている。

眼球フラッターやシーソー眼振は依然として治療困難であり、さらなる研究の必要性が指摘されている2)。予後は基礎疾患に大きく依存する。

  • 神経芽細胞腫を伴う小児オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群:約80%に神経学的後遺症が残る。予後不良。
  • 成人の特発性オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群:通常単相性で予後良好。
Q オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群の予後はどうか?
A

小児の神経芽細胞腫に関連するオプソクローヌス・ミオクローヌス症候群では、約80%に神経学的後遺症が残り予後不良とされる。一方、成人の特発性オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群は通常単相性であり予後は比較的良好。いずれも早期診断・治療が重要である。


  1. Dai X, Kuwera E. Saccadic intrusions in pediatric non-accidental trauma. Am J Ophthalmol Case Reports. 2022;26:101564.
  2. Gurnani B, et al. Nystagmus: A Comprehensive Review of Etiology, Classification, Diagnostic Work-Up, and Management. Clin Ophthalmol. 2025;19:1617-1653.

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