眼底・網膜所見
色素性網膜症:患者の15〜20%に報告される。脈絡網膜萎縮、RPE斑状変化を含む。m.3243A>G保因者の86%に何らかの網膜ジストロフィを認めるとの報告もある。4)
視神経萎縮:約20%に報告される。
黄斑変性・黄斑ジストロフィ:中心窩温存型の網膜ジストロフィを含む。
卵黄様黄斑症:まれだが小児例での報告がある。1)

MELAS(Mitochondrial Encephalopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like episodes)は、1984年にPavlakisらが初めて報告したミトコンドリア疾患である。3つの典型的特徴として、(1) けいれん・認知症を伴う脳症、(2) 乳酸アシドーシスおよび筋生検でのragged red fibers、(3) 40歳未満での脳卒中様発作(stroke-like episodes; SLE)が挙げられる。
ミトコンドリア異常症の中でMELASは最も頻度が高い疾患のひとつである。世界的な有病率は10万人あたり11.5人とされ、日本では10万人あたり0.2人と報告されている。遺伝形式はほぼ母系遺伝をとる。
患者の50%以上に眼科的徴候を認め、眼科の受診動機となることも少なくない。
世界的な有病率は10万人あたり11.5人とされる。日本では10万人あたり0.2人と報告されており、比較的まれな疾患である。最も一般的な原因変異であるm.3243A>Gの有病率はフィンランドで10万人あたり16〜18人、オーストラリアで10万人あたり236人と地域差がある。
MELASの眼科所見は多彩であり、前眼部から後眼部・神経眼科領域まで広範に及ぶ。
眼底・網膜所見
色素性網膜症:患者の15〜20%に報告される。脈絡網膜萎縮、RPE斑状変化を含む。m.3243A>G保因者の86%に何らかの網膜ジストロフィを認めるとの報告もある。4)
視神経萎縮:約20%に報告される。
黄斑変性・黄斑ジストロフィ:中心窩温存型の網膜ジストロフィを含む。
卵黄様黄斑症:まれだが小児例での報告がある。1)
神経眼科所見
進行性外眼筋麻痺(PEO):10〜15%に報告される。全方向への眼球運動障害が緩徐に進行する。
眼瞼下垂:片眼から両眼へ徐々に進行する。
同名半盲・皮質盲:脳卒中様発作の後遺症として生じる。
眼振:報告あり。
その他の所見
白内障:合併することがある。
屈折異常:報告あり。
血管新生緑内障(NVG):極めてまれ。m.3243A>G変異例での報告がある。4)
角膜内皮細胞異常:m.3243A>G変異保因者でpolymegethismと軽度guttaeが報告されており、バイオマーカーとなる可能性がある。
複数の機序が関与する。脳卒中様発作による皮質盲・同名半盲、色素性網膜症や黄斑ジストロフィによる網膜障害、視神経萎縮、白内障などがある。視力低下が急性発症か緩徐進行性かによって原因が異なる。
MELASの原因はミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異であり、母系遺伝の形式をとる。
ヘテロプラスミーと閾値効果:変異mtDNAの組織分布と各組織での閾値が表現型を決定する。変異を持つすべてのキャリアが発症するわけではない。
必ずしも発症するわけではない。ヘテロプラスミー(変異mtDNAの割合)と各組織での閾値が表現型を決定するため、変異を持つすべてのキャリアが発症するわけではない。より軽症の表現型(MIDD: ミトコンドリア糖尿病・難聴症候群など)として発現することもある。
MELASの診断基準として主に2つが用いられる。
1992年の平野(Hirano)診断基準:(1) 脳症(認知症 and/or けいれん)、(2) 若年での脳卒中様発作、(3) ミトコンドリア機能不全の証拠(乳酸アシドーシス or ragged red fibers)の3項目を要件とする。
2012年日本のMELAS診断基準(Yatsuga et al.):カテゴリA(頭痛+嘔吐、けいれん、片麻痺、皮質盲、急性皮質病変)2項目以上、カテゴリB(血漿/髄液乳酸上昇、筋生検異常、MELAS関連遺伝子変異)2項目以上を要件とする。2)7)
遺伝性網膜ジストロフィとの鑑別において、ミトコンドリアゲノム検査を含む遺伝子パネルを用いることが重要である。初回のIRDパネルにミトコンドリア遺伝子が含まれていないことがある点に注意を要する。4)
対症療法が基本であり、根本的治療は確立されていない。
ミトコンドリアカクテル療法として以下の薬剤が用いられる。
脳卒中様発作の急性期治療として静注L-アルギニンが推奨される。発症5時間以内の開始が望ましく、急性期2日間の静注後に経口へ切り替える。5) 初回SLE後は再発予防のため経口アルギニンを継続投与する。
抗てんかん薬によるけいれん管理も重要である。レベチラセタム、オクスカルバゼピン、ラモトリギン等が用いられる。バルプロ酸はミトコンドリア毒性があるため禁忌である。5)7)
難聴管理には人工内耳が適応となることがある。
糖尿病管理においてはメトホルミンが乳酸アシドーシスのリスクから禁忌となる。インクレチン製剤(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬)が最適な選択肢との報告がある。3)
年次眼科経過観察が推奨される。治療は眼科的訴えに特化した対症療法が中心となる。
妊娠は高エネルギー需要状態であり、MELASが初発または増悪する可能性がある。6) 糖尿病・呼吸不全・心機能のモニタリングが必要である。遺伝カウンセリングが推奨されるが、出生前スクリーニングの感度は100%ではない。
分娩管理では遷延分娩の回避、早期硬膜外麻酔、第2期を60分以内に制限、乳酸モニタリングが推奨される。Newcastle Mitochondrial Disease Guidelinesに基づく集学的管理が基本となる。6)
対症療法として眼瞼クラッチ(眼鏡フレームに装着するサポート具)、眼瞼形成術(blepharoplasty)、前頭筋吊り上げ術(frontalis sling)が用いられる。外眼筋が侵されているため、眼瞼挙筋機能が不十分な場合には前頭筋吊り上げ術が選択されることが多い。
MELASの根本的病態は、ミトコンドリア電子伝達系の機能不全である。mtDNA変異がタンパク質翻訳を低下させ、酸化リン酸化障害によるATP産生不全をきたす。高エネルギー需要組織(脳、筋肉、網膜色素上皮、角膜内皮、外眼筋)が選択的に障害される。
脳卒中様発作の発症機序として、NO(一酸化窒素)の相対的不足が重要な役割を果たす。
眼科的病態として、網膜色素上皮(RPE)はミトコンドリア含有量が高く代謝活性が高い。RPE障害が色素性網膜症・黄斑ジストロフィの原因となる。1)
MIDDとの連続スペクトラム:m.3243A>G変異はMIDD(ミトコンドリア糖尿病・難聴症候群)とMELASの両方を引き起こしうる。MIDDはより軽症の表現型であり、MELASへの進展が仮説として提唱されている。4)
Ghoshら(2022)は33歳男性でm.13513G>A(MT-ND5)変異(ヘテロプラスミー率11%、リンパ球)によるMELASを報告した。7) m.13513G>A変異は呼吸鎖複合体IサブユニットをコードするMT-ND5遺伝子上に位置し、D393Nアミノ酸変化がキノン反応部位の喪失と酸化リン酸化活性低下を引き起こす。この変異は23歳から繰り返す脳卒中様発作を引き起こしており、低いヘテロプラスミー率でも高い病原性を示す。
Alvesら(2023)は35例の後方視的研究で、MELASを「Classic」と「Atypical」の2つの表現型パターンに分類した。2) Classic型は感音難聴(SNHL)、SLE発症時の視力低下、初回SLE 10歳超、大型皮質脳卒中様病変(≧30mm)を特徴とし、mt-tRNA変異群が多い。Atypical型は発達遅延、Leigh症候群重複、初回SLE 10歳以下、小型病変、前方・小脳分布を特徴とし、呼吸鎖サブユニット遺伝子群が多い。Atypical群は呼吸不全・延髄機能障害のリスクが有意に高く予後不良であった。均質なサブグループを用いた治験設計への応用が期待される。
Jahrigら(2023)は11歳女児のMELAS患者(m.3243A>G 72%ヘテロプラスミー)に両眼の卵黄様黄斑病変を報告した。1) 最高矯正視力 20/30・20/25で無症候性。OCTでは網膜下ドーム状高反射病変を認め、EOGは正常。大規模NGSパネルでBEST1、PRPH2、IMPG1、IMPG2等のIRD遺伝子に疾患原因変異は検出されなかった。無症候性のため見落とされる可能性があり、MELASにおける卵黄様黄斑症スクリーニングの重要性が示唆された。
Khannaら(2024)は48歳女性(m.3243A>G 39.7%、糖尿病・難聴合併)でのNVG発症を報告した。4) 両眼に虹彩新生血管、黄斑萎縮、新生血管性視神経乳頭(NVD)を認め、PRP・afliberceptを施行。右眼に緑内障チューブシャント留置が必要となった。ミトコンドリア遺伝子パネルを含む遺伝子検査の重要性が強調されている。
Senら(2021)はCOVID-19感染によるSLE悪化例を報告した。5) 感染症はカタボリックストレスとして乳酸アシドーシスを悪化させる。静注L-アルギニンと抗凝固薬の時期的分離管理(同時投与回避)の提案がなされた。
Finstererら(2022)はm.13513G>A変異によるMELAS/Leigh overlap症候群を報告した。8) 脳幹障害による呼吸不全・嚥下障害が主な死因であり、MELASとLeigh症候群のoverlapを示す例が蓄積されている。
Jahrig C, Ku CA, Marra M, Pennesi ME, Yang P. Vitelliform maculopathy in MELAS syndrome. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023.
Alves CAPF, Zandifar A, Peterson JT, et al. MELAS Phenotype Classification into Classic-versus-Atypical Presentations. AJNR Am J Neuroradiol. 2023.
Baszynska-Wilk M, Moszczynska E, Szarras-Czapnik M, et al. Endocrine disorders in a patient with a suspicion of a mitochondrial disease, MELAS syndrome. Pediatr Endocrinol Diabetes Metab. 2021.
Khanna S, Smith BT. Neovascular Glaucoma in MELAS syndrome. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024.
Sen K, Harrar D, Hahn A, Wells EM, Gropman AL. Management considerations for stroke-like episodes in MELAS with concurrent COVID-19 infection. J Neurol. 2021.
Balachandran Nair D, Bloomfield M, Parasuraman R, Howe DT. MELAS syndrome in pregnancy. BMJ Case Rep. 2021.
Ghosh R, Dubey S, Bhuin S, Lahiri D, Ray BK, Finsterer J. MELAS with multiple stroke-like episodes due to the variant m.13513G>A in MT-ND5. Clin Case Rep. 2022.
Finsterer J, Hayman J. MELAS/Leigh Overlap Syndrome Due to Variant m.13513G>A in MT-ND5. Cureus. 2022.