AN(神経性やせ症)
眼球陥凹・眼瞼閉鎖不全:眼窩脂肪の萎縮により眼球が陥凹し、兎眼(ラグオフタルモス)を呈する。Gaudianiら(2012)は重度AN 5例で眼瞼下垂・眼球陥凹・兎眼を報告した。2)
乾性角結膜炎(ドライアイ):Schirmerスコアが対照群と比較して有意に低値(約11 mm/5分低下)。4)
網膜神経線維層厚の減少:OCTで確認される網膜神経線維層の菲薄化。
軟性白斑・網膜内出血:重症例で眼底検査上認められる。
眼瞼点状出血:排出型ANで報告されている。3)

摂食障害は神経性やせ症(AN)・神経性過食症(BN)・過食性障害(BED)の3疾患からなる。いずれも眼を含む多臓器に影響を及ぼすマルチシステム疾患である。
米国における生涯有病率はAN 0.80%・BN 0.28%・BED 0.85%であり、大多数が女性である。摂食障害患者は一般集団と比較してドライアイリスクが1.64倍高いことが、オランダの約80,000人規模のコホート研究で示されている1)。
主な眼科的徴候は以下の通りである。
眼科的徴候は疾患活動期のみならず、AN治療中のリフィーディング段階(リフィーディング症候群)でも出現しうる点が重要である。
ある。AN治療中の急激な体重増加・必須栄養素の急速な喪失によってリフィーディング症候群が生じ、IIHの発症を招くことがある。治療段階でも頭痛・一過性視覚暗転などの症状に注意が必要である。
摂食障害の種類によって、出現する眼症状が異なる。
疾患別の主な臨床所見を以下に示す。
AN(神経性やせ症)
眼球陥凹・眼瞼閉鎖不全:眼窩脂肪の萎縮により眼球が陥凹し、兎眼(ラグオフタルモス)を呈する。Gaudianiら(2012)は重度AN 5例で眼瞼下垂・眼球陥凹・兎眼を報告した。2)
乾性角結膜炎(ドライアイ):Schirmerスコアが対照群と比較して有意に低値(約11 mm/5分低下)。4)
網膜神経線維層厚の減少:OCTで確認される網膜神経線維層の菲薄化。
軟性白斑・網膜内出血:重症例で眼底検査上認められる。
眼瞼点状出血:排出型ANで報告されている。3)
BN・BED
結膜下出血(BN):自己誘発性嘔吐による静脈圧上昇で点状〜斑状の出血が生じる。
乳頭浮腫(BED・リフィーディング):IIHに伴う視神経乳頭の浮腫。放置すると視神経萎縮へ進行する。
外転神経麻痺(BED):IIH増悪時に第VI脳神経が障害される。複視を呈する。
はっきりと異なる。ANでは眼窩脂肪萎縮による兎眼・ドライアイ・栄養欠乏性視力障害、BNでは結膜下出血、BEDでは過食による肥満を介したIIH症状(頭痛・乳頭浮腫・外転神経麻痺)が主な眼科的問題となる。
摂食障害の種類ごとに、眼科的徴候の発症機序が異なる。
特発性頭蓋内圧亢進症のリスク因子は若年女性(18〜44歳)、肥満(高BMI)、内分泌障害である6)。摂食障害自体がドライアイのリスクを1.64倍高める1)。
摂食障害患者の眼科的評価には以下の検査が有用である。
| 検査法 | 目的・主な所見 |
|---|---|
| Schirmerテスト | 涙液量評価(AN群で有意に低値)4) |
| フルオレセインTBUT | 涙液膜安定性の評価 |
| ローズベンガル染色 | 角結膜上皮障害の評価 |
| 光干渉断層計(OCT) | 網膜神経線維層厚の定量評価 |
| 眼底検査 | 乳頭浮腫・視神経萎縮・軟性白斑・網膜内出血の確認 |
AN診断の目安はBMI 18.5 kg/m²未満である。
IIHが疑われる場合は以下の手順で評価する。
視力低下・頭痛・複視・眼痛・乾燥感などの眼症状が出現した場合は速やかに眼科を受診すべきである。また、AN治療中(リフィーディング期)に急激な体重変化が生じた場合も、乳頭浮腫の有無を確認するための眼科受診が推奨される。
根本にある摂食障害のコントロールが最優先事項である。ビタミン補充と正常な食事の回復が、神経眼科的徴候に対する治療の第一歩となる。
ウェルニッケ脳症(チアミン欠乏)
疑い次第、確定診断を待たずに直ちに経験的治療を開始する。
チアミン投与により眼球運動障害は急速に改善するが、完全な回復には数週間を要することがある。慢性例では眼振が残存する場合もある。
ビタミン欠乏性視神経症
IIH(特発性頭蓋内圧亢進症)
兎眼・眼瞼閉鎖不全に対する手術
難治性IIHに対する手術
チアミンの静脈内投与により、眼球運動障害は急速に改善することが多い。ただし完全な回復には数週間を要する場合があり、慢性例では眼振が残存しうる。疑い次第の早期治療開始が予後を左右する。
重度ANによる極度の体重減少が眼窩内脂肪組織を萎縮させる。眼窩内の支持組織が失われると眼球陥凹が生じ、眼瞼が解剖学的に正常に閉鎖できなくなる(眼瞼閉鎖不全)。多臓器不全を伴う重症ANで顕著に報告されている2)。
チアミン(ビタミンB1)はグルコース代謝の重要な補酵素である。欠乏により、高いグルコース代謝を必要とする脳部位が選択的に障害される。
障害を受けやすい部位は以下の通りである。
眼球運動異常としては、外転制限、側方注視眼振、第1眼位での垂直眼振、核間麻痺、1½症候群などが認められる。水平・垂直眼球運動の制限から完全眼球運動障害へ進行する例もある。外眼筋麻痺はほとんどが両眼性だが、左右差を呈する例も多い。Downbeat眼振はチアミン欠乏と特に強く関連し、栄養失調患者でウェルニッケ脳症を疑うべき重要な所見である。
IIHはCSF動態の調節不全と代謝的・ホルモン的因子が複合して生じる。肥満との関連が最も強く、BEDでは過食による急激な体重増加が誘因となる。遺伝的因子(家族性発症、染色体5・13・14に候補領域)も関与するが、メンデル遺伝パターンは確立されていない6)。IIHは肥満とは異なる固有の代謝的特徴を持つ全身代謝疾患として認識されつつある5)。
栄養失調により涙液中のIgA・分泌型IgA濃度が低下し、涙腺組織中のIgA含有細胞数も減少する。感染性刺激に対する分泌型IgA抗体応答も鈍化する1)。これがドライアイのみならず、眼表面感染リスクの上昇につながると考えられる。
ビタミンB9(葉酸)・B12(コバラミン)欠乏により中心視力障害(中心暗点・中心周囲暗点)が生じ、放置すると両眼性視神経萎縮へ進行する。血清ホモシステインとメチルマロン酸は長期欠乏の指標として有用である。
Markoulliら(2023)のシステマティックレビューは、摂食障害と眼表面に関する研究の大部分が質の低い横断研究であり、十分な検出力を持つ比較コホート研究が存在しないと総括した1)。AN誘発性栄養失調が眼にどのように発現するか、各疾患重症度でどの徴候が出現するか、各徴候に関連する視覚的予後、ANの眼合併症の最適な管理法について、今後の包括的研究が必要とされている。
Bonelliら(2024)は、特発性頭蓋内圧亢進症が肥満とは異なる固有の代謝的特徴を持つ全身性代謝疾患であることを示し、標的治療の可能性について論じた5)。IIH Weight Trialの結果から、24%の体重減少が乳頭浮腫寛解に必ずしも必要ではなく、5〜15%の体重減少でも有益な効果が得られることが示された。