この疾患の要点
キアリ奇形は小脳扁桃が大後頭孔を超えて下方に逸脱した状態で、眼科的徴候が最大80%に出現する。
下向き眼振 (downbeat nystagmus)が最も特徴的な所見であり、大後頭孔付近の病変に関連する。
視神経乳頭 浮腫は有症状CM-Iの約2%に出現し、特発性頭蓋内圧亢進症 (IIH)との鑑別が重要である。
MRI矢状断が確定診断の標準で、5mm以上の小脳扁桃下垂がCM-1の診断基準となる。
主治療は後頭窩減圧術(後頭下減圧術+C1椎弓切除)であり、大多数で症状改善が得られる。
約22%に術後の症状再発があり、術後合併症は41%に認められる。
約50%が無症状で偶然発見され、無症状例は経過観察が選択される。
キアリ奇形(Chiari malformation; CM)は後頭蓋窩の構造異常に伴い、小脳扁桃が大後頭孔を超えて脊柱管内へ下垂する疾患である。
CM-1(キアリI型奇形) は小脳扁桃が大後頭孔を5mm以上下方に逸脱した状態と定義される。小児では3mm以上の逸脱で診断される場合がある5) 。先天性・後天性のいずれもあり、脊髄空洞を合併しやすい。
CM-2(キアリII型奇形) は小脳扁桃に加え小脳虫部・延髄も逸脱する状態で、典型的に先天性であり脊髄髄膜瘤を伴う。
MRI研究での有病率は最大0.77%と報告されている4) 。有症状成人の有病率は0.01〜0.04%と低く2) 、約50%が無症状で偶然発見される1) 。女性:男性の比は3:1である1) 。
眼科的徴候は最大80%に出現し、神経眼科医が関与する契機として頭蓋内圧(ICP)亢進症状・眼振・第VI脳神経麻痺・内斜視 などがある。III型・IV型は極めて稀なため本記事では扱わない。
Q キアリI型奇形はどのくらいの頻度で見つかるのか?
A MRI研究での有病率は最大0.77%とされる4) 。一方、有症状成人の有病率は0.01〜0.04%と低く2) 、約50%が無症状で偶然発見される1) 。多くの場合、頭痛や神経症状の精査で施行されたMRIで発見される。
後頭部頭痛 :最多の症状で約80%に認められる。Valsalva様動作(咳嗽・くしゃみ・笑い・いきみ・激しい身体活動)で誘発されるのが特徴的である7) 。
霧視 :視力 のかすみ。頭蓋内圧亢進に伴い出現する。
羞明 :光への過敏性。
複視 :外転神経麻痺 などの脳神経障害によって生じる。
眼窩 後部痛 :眼球の後ろ側に感じる疼痛。
一過性視覚障害 :ICP亢進による一時的な視力低下や暗点。
悪心・嘔吐 :頭蓋内圧亢進または小脳圧迫によるもの。
拍動性耳鳴 :ICP亢進時に生じやすい。
上肢のしびれ・脱力 :脊髄空洞を合併した場合に出現する2) 。
歩行障害 :小脳圧迫による運動失調に起因する2) 。
CM-1の所見
下向き眼振(downbeat nystagmus) :最も特徴的。大後頭孔付近の病変に関連する。視覚固視で抑制されないことが多い。
その他の眼振 :upbeat・注視誘発性・シーソー眼振・周期性交代性眼振(PAN)など、あらゆる種類が起こり得る。体幹失調・測定障害・滑動性追従障害を伴うことが多い。
外転神経(第VI脳神経)麻痺 :脳神経麻痺のなかで最多。両側性の場合もある。
視神経乳頭浮腫(papilledema) :有症状CM-Iの約2%に出現する6) 。初期は一過性視力低下のみだが、持続すると視野狭窄・視力低下に至る。
CM-2の所見
後天共同性内斜視 :小児では内斜視として発見されることが多い。
交代性上斜視 :垂直方向の眼位ずれ。
運動失調(ataxia) :小脳・脳幹の広範な圧迫による。
複数脳神経障害 :CM-2では延髄も逸脱するため、複数の脳神経が障害されることがある。
Q キアリ奇形による乳頭浮腫と特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)はどう区別するのか?
A CM-IによるものはMRIで小脳扁桃の下垂・後頭蓋窩の過密・CSF流動障害が確認できる6) 。IIHでは後頭蓋窩に解剖学的異常がなく、空トルコ鞍・視神経鞘拡張・横静脈洞狭窄などの所見が参考になる。詳細は「診断と検査方法」の項 を参照。
CM-1の発症機序については複数の説がある。
胎児水頭症説 :CSF流体力学的拍動による胎生期の扁桃押し出し。
後頭蓋窩容積不足説 :CSF減少による後頭蓋窩の成長障害→機械的過密(mechanical crowding)。
出産時外傷 :分娩中の外力による後頭蓋窩構造への影響。
分子遺伝学的異常 :一部の家族性症例では遺伝的背景が示唆されている。
脊髄空洞の合併 :CM-1への脊髄空洞合併率は23〜85%と報告され1) 、小児MRIでの合併率は女児1.2%・男児0.5%である1) 。脊髄空洞の合併時は症状が重症化しやすい。
性差 :女性に多く、女性:男性 = 3:11) 。成人では第3〜4十年代での発症が多い7) 。
GH過剰との関連 :成長ホルモン(GH)過剰による頭蓋底結合組織肥厚が後頭蓋窩容積を減少させ、扁桃下垂を引き起こす可能性が報告されている。先端巨大症手術後にCM-1が消退した例が2例報告されている2) 。
脳MRI(矢状断) :確定診断の標準。小脳扁桃が大後頭孔を越えて5mm以上(他の特徴があれば3mm以上)下方変位していればCM-1と診断する。CM-2では脊髄髄膜瘤の存在と小脳虫部・延髄の変位が診断に必要である。
CT :MRIが禁忌の場合の代替として使用する。骨格異常の評価にも有用である。
CSF流量解析(cine MRI) :大後頭孔でのCSF流動障害を評価する6) 。
MR静脈造影(MRV) :静脈洞狭窄を評価する。IIHとの鑑別に重要である6) 。
腰椎穿刺(LP)開放圧が25cmH2Oを超えれば異常高値とされる。48時間持続モニタリングにより夜間ICP亢進スパイクを捉えられる場合がある(CM-I症例でLP開放圧40mmH2Oを超え、夜間スパイクが50mmH2Oを超えた報告がある6) )。なお、ICP亢進が疑われる場合、LP前に必ずCT/MRIで占拠性病変・水頭症を除外する。
眼底検査 :視神経乳頭浮腫の評価。
視野検査 (Humphrey/Goldman):乳頭浮腫 による視野障害の評価。
光干渉断層計 (OCT) :網膜神経線維層 の変化を定量評価する。
CM-Iに乳頭浮腫のみが認められる場合は以下との鑑別が重要である。
鑑別疾患 CM-Iとの相違点 特発性頭蓋内圧亢進症(IIH) 後頭蓋窩に解剖学的異常なし。MRIで扁桃下垂を認めない 頭蓋内占拠性病変 CT/MRIで腫瘍・血腫を確認 脳静脈洞血栓症 MRVで静脈洞閉塞を確認 偽乳頭浮腫 OCTや造影検査で真の乳頭腫脹と鑑別
無症状または症状が軽微な例では経過観察が選択される。無症状・軽症CM-Iは非進行性の経過をたどることが多いことを示唆するエビデンスが蓄積している4) 。
眼振の薬物療法 :GABA作動薬であるクロナゼパムまたはバクロフェンが用いられる。
斜視 の治療 :軽度はプリズム矯正。顕著な場合は手術を行う。斜視手術は通常、脳外科的減圧術後に施行する。
非眼科的症状を含む有症状例の主な治療である。標準術式は後頭下減圧術(suboccipital craniectomy)+C1椎弓切除(C1 laminectomy)である7) 。
硬膜外減圧 vs 硬膜内操作 :脊髄空洞を伴わないCM-Iでは硬膜外減圧が良好な転帰と短い入院期間をもたらすとされる6) 。
拡大硬膜形成術(expansile duraplasty) :重症例で施行される7) 。
術後転帰の目安は以下の通りである。
項目 割合 症状改善(全般) 約75% 症状持続・再発 約22% 術後合併症(CSF漏出・偽髄膜瘤・髄膜炎等) 約41%
C2椎弓以下への扁桃下垂は再手術リスクが2倍となる7) 。頭痛は他の症状より70%高い確率で術後に持続・再発する7) 。
後頭窩減圧術により乳頭浮腫の改善が得られる6) 。アセタゾラミド (ダイアモックス®)などの頭蓋内圧下降薬は補助的な位置づけであり、単独での効果は限定的とされる。早期治療で乳頭浮腫は吸収され視機能障害を残さないが、治療の遅延は不可逆的な障害につながる。
Q 手術を受けた場合、症状が再発する可能性はあるのか?
A 術後の症状持続・再発は約22%に認められる7) 。頭痛は他の症状より70%高い確率で術後にも残存・再発しやすい7) 。C2椎弓以下への扁桃下垂がある場合、再手術リスクが2倍になるとされる。
後頭蓋窩の容積不足により小脳扁桃が大後頭孔へ下降する。これにより脳幹・脊髄への直接圧迫と、大後頭孔でのCSF流動障害が生じる。後者がICP亢進と脊髄空洞形成の原因となる。
CSF流動障害により脊髄実質内に液体貯留腔(脊髄空洞)が形成される。正確な病態は未解明の部分が多い。頸胸髄(C2〜T9)に好発するが全脊髄へ拡大しうる1) 。脊髄空洞が後角を障害すると中枢性疼痛が生じ、大後頭孔減圧術後も40%に残存する3) 。
後頭蓋窩の過密によりCSFの間欠的な圧力不均衡が生じ、一過性のICP亢進が起こる。これが乳頭浮腫の原因となる6) 。IIHと類似した人口統計・症状・治療反応を示すが、CM-IではMRIで後頭蓋窩の解剖学的異常(小頭蓋・後頭蓋窩過密)が確認できる点が異なる6) 。
下垂した扁桃への慢性的な血流障害が虚血→嚢胞変性へと進行することがある。この変化の発生率は0.01%と極めて稀であり、脊髄空洞合併率は75%とされる1) 。
Q 脊髄空洞はなぜ形成されるのか?
A 大後頭孔でのCSF流動障害により、脊髄実質内への液体流入・貯留が生じると考えられている。合併率は23〜85%と報告され1) 、脊髄空洞の存在は症状の重症化と関連する。形成の正確な機序はいまだ推測段階の部分もある。
CM-1に合併した脊髄空洞症への大後頭孔減圧術後も疼痛が残存する症例が一定数存在する。
Yamanaら(2024)は、大後頭孔減圧術後も難治性中枢性疼痛が持続した症例に脊髄刺激療法(SCS)を施行した3) 。FA ST療法+Contour療法の併用でVAS 9.5→5、McGill情動痛スコア 7→3の改善が得られた。文献上6例のレビューでは全例で疼痛改善が報告され、有害事象はなかった。
成人でのCM-1完全自然消退は極めて稀である。
Cuthbertら(2021)は25歳男性で4年間の経過中にCM-1と脊髄空洞が完全消退した症例を報告した4) 。文献上の自然消退報告は16例にとどまる。消退の機序として、小脳扁桃の萎縮・扁桃の自然上昇(加齢平均2.8mm)・Valsalva等によるCSF動態の回復が推察されている。
この報告は無症状・軽症CM-Iへの保存的管理の根拠の一つとなっている。
Zielinskiら(2024)は、CM-1に非機能性下垂体腺腫 と副腎腫瘍を合併した症例を報告し、GH過剰以外の機序によるCM-1発症の可能性を考察した2) 。経蝶形骨的腺腫摘除後にCM-1が消退した先端巨大症症例は過去に2例報告されており、GH関連治療によるCM-1消退の機序が研究されている。
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Yamana S, Oiwa A, Nogami R, et al. Successful spinal cord stimulation using fast-acting sub-perception therapy for postoperative neuropathic pain of syringomyelia with Chiari malformation type 1: a case report and literature review. BMC Neurol. 2024;24:284.
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Turk ML, Schmidt K, McGrath ML. Diagnosis, management, and return to sport of a 16-year-old patient with a Chiari I malformation: a case report and literature review. J Athl Train. 2022;57(2):177-183.
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