視神経症
**視神経炎または非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)**として報告される。免疫チェックポイント阻害薬関連視神経炎の多くはイピリムマブに関連する。
非典型的な呈示:11人の後方視的レビューで、痛みを伴う視力低下は10%のみ、色覚異常67%、片眼性36%、MRI異常40%であった。
発症時期:複数ICI使用が早期発症(中央値4サイクル)のリスク因子。発症最長は95サイクル。

免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint Inhibitor; ICI)は悪性腫瘍に対するモノクローナル抗体製剤であり、免疫系を活性化して癌細胞を標的とする。副作用は主に免疫系の過剰活性化に伴う自己免疫疾患の発症または再活性化として現れ、免疫関連有害事象(immune-related adverse event; irAE)と総称される。
神経眼科的合併症は109人を対象としたレビューで発生率0.46%と報告されており、ICIによる眼irAEの中では稀な部類に属する。最も多く関連するICIはペムブロリズマブ(症例の32%)であり、治療適応として最多は皮膚メラノーマ(44%)であった。眼のirAE全体の発生率は1〜3%であるが、後眼部炎症は眼症例の約5〜20%にとどまる一方でより重篤で視力障害リスクが高い1)。
現在9種のICIが承認されており、3つの標的分子(CTLA-4、PD-1/PD-L1、LAG-3)に分類される。
承認されているICIの一覧を以下に示す。
| 薬剤クラス | 一般名 | 承認年 |
|---|---|---|
| CTLA-4阻害薬 | イピリムマブ / トレメリムマブ | 2011 / 2022 |
| PD-1阻害薬 | ペムブロリズマブ / ニボルマブ / セミプリマブ | 2014 / 2014 / 2018 |
| PD-L1阻害薬 | アテゾリズマブ / アベルマブ / デュルバルマブ | 2016 / 2017 / 2017 |
| LAG-3阻害薬 | レラトリマブ | 2022 |
神経眼科的発現は、基礎疾患の悪性腫瘍や他の治療によるものである可能性もあり、鑑別が重要である。
109人のレビューでICI療法後の発生率は0.46%と報告されている。最も関連するICIはペムブロリズマブ(32%)であり、適応疾患ではメラノーマ(44%)が最多である。神経眼科的合併症は稀であるため、リスク因子の詳細な特徴付けは困難な状況である。
ICIによる神経眼科的合併症の自覚症状は、侵された解剖学的部位により異なる。
ICIによる神経眼科的合併症は5つの主要な発現形式に分類される。
視神経症
**視神経炎または非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)**として報告される。免疫チェックポイント阻害薬関連視神経炎の多くはイピリムマブに関連する。
非典型的な呈示:11人の後方視的レビューで、痛みを伴う視力低下は10%のみ、色覚異常67%、片眼性36%、MRI異常40%であった。
発症時期:複数ICI使用が早期発症(中央値4サイクル)のリスク因子。発症最長は95サイクル。
眼窩炎症性疾患
眼窩・眼窩尖端・海綿静脈洞の炎症。主に抗CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)が関与2)。
発症:初回注入後〜数サイクル後(2日〜2ヶ月)に出現2)。通常両側性で、倦怠感・発熱・全身性筋炎・心筋炎を伴うことがある2)。
画像所見:MRIでガドリニウム増強効果。腫瘤病変から外眼筋の腫大まで多様2)。
甲状腺眼症・巨細胞動脈炎
甲状腺眼症(TED):抗体介在性。眼窩線維芽細胞の活性化により、腱付着部を除く外眼筋が肥大する。下直筋・内直筋が早期に侵される。甲状腺ホルモン状態と無関係に発生。CTLA-4 +49A/G多型との関連が示唆される。
巨細胞性動脈炎(GCA):大型血管の血管炎。側頭動脈の圧痛・顎跛行・視力障害が主症状。生検で証明された症例あり。
重症筋無力症
神経筋接合部の自己免疫疾患。ICI関連全身型MGの有病率は約0.24%で、PD-1阻害薬との関連が多い。
眼症状:眼瞼下垂75%、複視42%。コーガン眼瞼単収縮・眼瞼の偽後退を認めることがある。
発症:症状発現の中央値29日。ICIの最終投与から3ヶ月後の発症例もあり。
典型的な視神経炎では痛みを伴う視力低下・眼球運動痛・色覚異常が主体だが、ICI関連視神経炎では痛みを伴う視力低下は10%のみ、片眼性は36%、MRI異常は40%と非典型的な呈示を示す。イピリムマブとの関連が最も多い。
ICIの作用機序が免疫系の過剰活性化を引き起こし、irAEの基盤となる。
眼の免疫特権は、BRB・眼内リンパ管の乏しさ・RPE細胞上のPD-L1/PD-L2・Müller細胞上のPD-L1発現により維持されている。ICIによりこれらの抑制機構が阻害されると、眼内の炎症が増大する1)。
米国保健福祉省が発行するCTCAEバージョン5による眼毒性グレード分類を治療方針の決定に用いる。
| グレード | 視力・症状 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 軽度・無症状(臨床的に検出可能) | 通常ステロイド不要、ICI継続可 |
| 2 | 中等度・ADL支障あり、視力20/40以上 | ICI一時中断+全身ステロイド検討 |
| 3 | 視力20/40未満〜20/200以上 | ICI中断、改善なければ中止+全身ステロイド |
| 4 | 視力20/200以下 | ICI中止+全身ステロイド |
現在、ICI関連神経眼科的合併症に対する正式な治療推奨はない。免疫療法学会(SITC)によるグレード別管理を参考に、個々の症例でリスク・ベネフィット分析を行う。文献では患者の62%が神経眼科的合併症のためにICIを中止している。
視神経炎
眼窩炎症性疾患
甲状腺眼症(TED)
巨細胞性動脈炎(GCA)
重症筋無力症(MG)
ICI中止後も眼炎症が持続する可能性があり、長期モニタリングが必要である1)。同一薬剤・同一クラスで再開する場合は厳重な経過観察が求められる1)。
グレード別管理に従い、グレード1では継続可、グレード2以上で中断または中止を検討する。文献では患者の62%がICIを中止しているが、最終的な判断には癌治療の代替手段と患者の長期予後を含めたリスク・ベネフィット分析が必要である。
眼は免疫特権部位であり、以下の機構により過剰な免疫応答から保護されている1)。
ICIはこれらの抑制機構を阻害し、BRB破綻時にT細胞が硝子体・脈絡膜腔へ侵入することで炎症が惹起される3)。
Haliyurら(2025)はICI関連後眼部・脈絡膜有害反応の病態を以下の3型に分類した1)。
Type 1:T細胞交差反応
Type 2:バイスタンダー効果
非特異的炎症:ICIによる非特異的な炎症がBRBを破綻させ、網膜血管炎・血管閉塞を引き起こす。
直接的な抗原認識ではなく、炎症の「飛び火」による眼組織障害が本型の本質である。
Type 3:自己抗体介在性
B細胞活性化→自己抗体産生:傍腫瘍症候群の悪化や、癌関連網膜症(CAR)・メラノーマ関連網膜症(MAR)様の反応が含まれる。
複数のメカニズムが同一患者で共存する可能性があり、単一の病型に分類できない症例もある1)。
主に3つの経路が想定されている。①抗腫瘍T細胞と眼組織の交差反応(Type 1)、②非特異的炎症によるBRB破綻と網膜血管炎(Type 2)、③B細胞活性化による自己抗体産生と傍腫瘍症候群(Type 3)である。眼の免疫特権を維持する機構(BRB・RPEのPD-L1発現)がICIにより阻害されることが根本的な背景にある1)。
ICI適応疾患の拡大に伴い、後眼部irAEの症例数増加が見込まれる1)。後眼部・汎ぶどう膜炎はグレード3・4のirAEとみなされ、ICI中止または一時停止を要することが多い1)。
Haliyurら(2025)は今後の研究課題として、特定薬剤に関連するぶどう膜炎スペクトラムの定義・硝子体検体の-omics解析・血清学的検査の有用性・遺伝/免疫/環境因子の役割・ICI再開後の眼炎症再発率の解明を挙げた1)。
TED治療薬として最近承認されたインスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)抗体であるテプロツムマブは、ICI関連TEDに対しても適応が期待されている。ICI投与中は各種の薬物相互作用や免疫学的背景が通常のTEDと異なるため、効果・安全性に関する専門的なデータの蓄積が求められる。
4〜6ヶ月ごとの定期眼科検査を推奨する意見もあるが、無症状またはグレード1の毒性では患者への追加利益が不明であり、スクリーニング頻度の最適化が課題となっている。RPE/ブルッフ膜損傷例では脈絡膜新生血管(CNV)形成のリスクがあり、長期モニタリングの枠組みが求められる1)。