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神経眼科

免疫チェックポイント阻害薬による神経眼科的合併症

1. 免疫チェックポイント阻害薬による神経眼科的合併症とは

Section titled “1. 免疫チェックポイント阻害薬による神経眼科的合併症とは”

免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint Inhibitor; ICI)は悪性腫瘍に対するモノクローナル抗体製剤であり、免疫系を活性化して癌細胞を標的とする。副作用は主に免疫系の過剰活性化に伴う自己免疫疾患の発症または再活性化として現れ、免疫関連有害事象(immune-related adverse event; irAE)と総称される。

神経眼科的合併症は109人を対象としたレビューで発生率0.46%と報告されており、ICIによる眼irAEの中では稀な部類に属する。最も多く関連するICIはペムブロリズマブ(症例の32%)であり、治療適応として最多は皮膚メラノーマ(44%)であった。眼のirAE全体の発生率は1〜3%であるが、後眼部炎症は眼症例の約5〜20%にとどまる一方でより重篤で視力障害リスクが高い1)

現在9種のICIが承認されており、3つの標的分子(CTLA-4、PD-1/PD-L1、LAG-3)に分類される。

承認されているICIの一覧を以下に示す。

薬剤クラス一般名承認年
CTLA-4阻害薬イピリムマブ / トレメリムマブ2011 / 2022
PD-1阻害薬ペムブロリズマブ / ニボルマブ / セミプリマブ2014 / 2014 / 2018
PD-L1阻害薬アテゾリズマブ / アベルマブ / デュルバルマブ2016 / 2017 / 2017
LAG-3阻害薬レラトリマブ2022

神経眼科的発現は、基礎疾患の悪性腫瘍や他の治療によるものである可能性もあり、鑑別が重要である。

Q 免疫チェックポイント阻害薬による神経眼科的合併症はどの程度の頻度で起こるか?
A

109人のレビューでICI療法後の発生率は0.46%と報告されている。最も関連するICIはペムブロリズマブ(32%)であり、適応疾患ではメラノーマ(44%)が最多である。神経眼科的合併症は稀であるため、リスク因子の詳細な特徴付けは困難な状況である。

ICIによる神経眼科的合併症の自覚症状は、侵された解剖学的部位により異なる。

  • 視力低下:片眼性または両眼性。視神経症・巨細胞動脈炎で顕著。
  • 複視:眼窩炎症・MG・巨細胞動脈炎による眼筋麻痺に伴う。
  • 眼瞼下垂:MGの主要症状。変動性が特徴。
  • 眼球突出:眼窩炎症・TEDで認める。
  • 眼痛:眼窩炎症で顕著。眼球運動痛はICI関連視神経炎では10%のみ。
  • 側頭部痛・顎跛行:巨細胞動脈炎に特徴的な症状。

臨床所見(5つの主要な神経眼科的発現)

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ICIによる神経眼科的合併症は5つの主要な発現形式に分類される。

視神経症

**視神経炎または非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)**として報告される。免疫チェックポイント阻害薬関連視神経炎の多くはイピリムマブに関連する。

非典型的な呈示:11人の後方視的レビューで、痛みを伴う視力低下は10%のみ、色覚異常67%、片眼性36%、MRI異常40%であった。

発症時期:複数ICI使用が早期発症(中央値4サイクル)のリスク因子。発症最長は95サイクル。

眼窩炎症性疾患

眼窩・眼窩尖端・海綿静脈洞の炎症。主に抗CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)が関与2)

発症:初回注入後〜数サイクル後(2日〜2ヶ月)に出現2)。通常両側性で、倦怠感・発熱・全身性筋炎・心筋炎を伴うことがある2)

画像所見:MRIでガドリニウム増強効果。腫瘤病変から外眼筋の腫大まで多様2)

甲状腺眼症・巨細胞動脈炎

甲状腺眼症(TED):抗体介在性。眼窩線維芽細胞の活性化により、腱付着部を除く外眼筋が肥大する。下直筋・内直筋が早期に侵される。甲状腺ホルモン状態と無関係に発生。CTLA-4 +49A/G多型との関連が示唆される。

巨細胞性動脈炎(GCA):大型血管の血管炎。側頭動脈の圧痛・顎跛行・視力障害が主症状。生検で証明された症例あり。

重症筋無力症

神経筋接合部の自己免疫疾患。ICI関連全身型MGの有病率は約0.24%で、PD-1阻害薬との関連が多い。

眼症状:眼瞼下垂75%、複視42%。コーガン眼瞼単収縮・眼瞼の偽後退を認めることがある。

発症:症状発現の中央値29日。ICIの最終投与から3ヶ月後の発症例もあり。

Q ICI関連視神経炎は通常の視神経炎とどう異なるか?
A

典型的な視神経炎では痛みを伴う視力低下・眼球運動痛・色覚異常が主体だが、ICI関連視神経炎では痛みを伴う視力低下は10%のみ、片眼性は36%、MRI異常は40%と非典型的な呈示を示す。イピリムマブとの関連が最も多い。

免疫チェックポイントの阻害機序

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ICIの作用機序が免疫系の過剰活性化を引き起こし、irAEの基盤となる。

  • CTLA-4経路:リンパ節での「プライミング相」。CD28よりもB7に高親和性で結合し、T細胞活性化を抑制。CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)はこの抑制を解除する。
  • PD-1/PD-L1経路:末梢組織での「エフェクター相」。活性化T細胞の抑制を解除する。
  • LAG-3経路:エフェクターT細胞・調節性T細胞の表面に発現。T・APC経路の調節に関与。
  • 複数ICIの併用:早期発症のリスク因子(中央値4サイクル目での発症)。
  • 遺伝的素因:宿主のHLA型などがirAEへの感受性に関与する可能性がある1)
  • CTLA-4 +49A/G多型:TEDとの関連がメタ解析で示されている。
  • 血液網膜関門(BRB)の破綻:糖尿病眼疾患などでBRBが障害されている場合、T細胞が眼内に侵入しやすくなる1)

眼の免疫特権は、BRB・眼内リンパ管の乏しさ・RPE細胞上のPD-L1/PD-L2・Müller細胞上のPD-L1発現により維持されている。ICIによりこれらの抑制機構が阻害されると、眼内の炎症が増大する1)

米国保健福祉省が発行するCTCAEバージョン5による眼毒性グレード分類を治療方針の決定に用いる。

グレード視力・症状対応の目安
1軽度・無症状(臨床的に検出可能)通常ステロイド不要、ICI継続可
2中等度・ADL支障あり、視力20/40以上ICI一時中断+全身ステロイド検討
3視力20/40未満〜20/200以上ICI中断、改善なければ中止+全身ステロイド
4視力20/200以下ICI中止+全身ステロイド
  • 視神経症:視力検査・色覚検査・RAPD確認・MRI(視神経増強効果の確認)。
  • 眼窩炎症:MRIでガドリニウム増強効果・外眼筋腫大を確認。
  • 甲状腺眼症:CT/MRI/超音波で腱温存型外眼筋肥大・甲状腺機能検査。
  • 後眼部炎症全般OCT・眼底写真+FAF・Bスキャン超音波・蛍光眼底造影(FA)±ICGA1)
  • 巨細胞動脈炎:側頭動脈生検による確定診断。
  • 鑑別:基礎疾患の悪性腫瘍・感染症・血栓塞栓イベントとの鑑別が重要1)

現在、ICI関連神経眼科的合併症に対する正式な治療推奨はない。免疫療法学会(SITC)によるグレード別管理を参考に、個々の症例でリスク・ベネフィット分析を行う。文献では患者の62%が神経眼科的合併症のためにICIを中止している。

視神経炎

  • 高用量ステロイド投与後に急速漸減。
  • 最大規模のレビュー(11人)では10人がICI中止+ステロイド治療を受け、初診時視力不良の16眼中12眼で視力改善、2眼で安定、2眼で悪化した。
  • 非動脈炎性前部虚血性視神経症では心血管リスク因子の管理と抗血小板療法を検討する。

眼窩炎症性疾患

甲状腺眼症(TED)

  • 症状の重症度に応じて段階的に選択:NSAID→全身ステロイド→免疫抑制薬→テプロツムマブ(IGF-1R抗体)。
  • ICI関連TEDでは腎機能障害リスクを考慮しNSAIDのリスク・ベネフィットを慎重に評価する。

巨細胞性動脈炎(GCA)

  • 疑われた時点で直ちに高用量ステロイドを開始する。視力障害の不可逆的進行を防ぐため、生検確定前でも開始が原則である。

重症筋無力症(MG)

  • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミン)+免疫抑制療法の組み合わせ。
  • 単一施設65人の報告では、ステロイド94%・ピリドスチグミン51%・血漿交換48%・IVIG 44%が使用された。重篤例が多く96%が入院、19%が侵襲的人工呼吸を要した。

ICI中止後も眼炎症が持続する可能性があり、長期モニタリングが必要である1)。同一薬剤・同一クラスで再開する場合は厳重な経過観察が求められる1)

Q 神経眼科的合併症が起きた場合、ICIは必ず中止しなければならないか?
A

グレード別管理に従い、グレード1では継続可、グレード2以上で中断または中止を検討する。文献では患者の62%がICIを中止しているが、最終的な判断には癌治療の代替手段と患者の長期予後を含めたリスク・ベネフィット分析が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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免疫チェックポイントと眼の免疫特権

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眼は免疫特権部位であり、以下の機構により過剰な免疫応答から保護されている1)

  • 血液網膜関門(BRB):炎症細胞の眼内流入を制限する。
  • 眼内リンパ管の乏しさ:免疫細胞の接触が限定的。
  • RPE・Müller細胞のPD-L1/PD-L2発現:眼内T細胞活性化を最小化する1)

ICIはこれらの抑制機構を阻害し、BRB破綻時にT細胞が硝子体脈絡膜腔へ侵入することで炎症が惹起される3)

Haliyurら(2025)はICI関連後眼部・脈絡膜有害反応の病態を以下の3型に分類した1)

Type 1:T細胞交差反応

Type 1a(交差反応性):抗腫瘍T細胞と眼組織の間の分子擬態。メラノーマ患者でのVKH様汎ぶどう膜炎が代表例。

Type 1b(自己反応性):素因のある個体での眼特異的自己反応性T細胞の増殖。肉芽腫性ぶどう膜炎・多巣性平坦状脈絡網膜炎・MEWDS様反応が含まれる。

Type 2:バイスタンダー効果

非特異的炎症:ICIによる非特異的な炎症がBRBを破綻させ、網膜血管炎・血管閉塞を引き起こす。

直接的な抗原認識ではなく、炎症の「飛び火」による眼組織障害が本型の本質である。

Type 3:自己抗体介在性

B細胞活性化→自己抗体産生:傍腫瘍症候群の悪化や、癌関連網膜症(CAR)・メラノーマ関連網膜症(MAR)様の反応が含まれる。

複数のメカニズムが同一患者で共存する可能性があり、単一の病型に分類できない症例もある1)

Q ICIが眼に影響を及ぼすメカニズムは何か?
A

主に3つの経路が想定されている。①抗腫瘍T細胞と眼組織の交差反応(Type 1)、②非特異的炎症によるBRB破綻と網膜血管炎(Type 2)、③B細胞活性化による自己抗体産生と傍腫瘍症候群(Type 3)である。眼の免疫特権を維持する機構(BRB・RPEのPD-L1発現)がICIにより阻害されることが根本的な背景にある1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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後眼部irAEの症例増加と研究の加速

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ICI適応疾患の拡大に伴い、後眼部irAEの症例数増加が見込まれる1)。後眼部・汎ぶどう膜炎はグレード3・4のirAEとみなされ、ICI中止または一時停止を要することが多い1)

Haliyurら(2025)は今後の研究課題として、特定薬剤に関連するぶどう膜炎スペクトラムの定義・硝子体検体の-omics解析・血清学的検査の有用性・遺伝/免疫/環境因子の役割・ICI再開後の眼炎症再発率の解明を挙げた1)

TED治療薬として最近承認されたインスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)抗体であるテプロツムマブは、ICI関連TEDに対しても適応が期待されている。ICI投与中は各種の薬物相互作用や免疫学的背景が通常のTEDと異なるため、効果・安全性に関する専門的なデータの蓄積が求められる。

4〜6ヶ月ごとの定期眼科検査を推奨する意見もあるが、無症状またはグレード1の毒性では患者への追加利益が不明であり、スクリーニング頻度の最適化が課題となっている。RPE/ブルッフ膜損傷例では脈絡膜新生血管(CNV)形成のリスクがあり、長期モニタリングの枠組みが求められる1)


  1. Haliyur R, Elner SG, Sassalos T, Kodati S, Johnson MW. Pathogenic Mechanisms of Immune Checkpoint Inhibitor (ICI)-Associated Retinal and Choroidal Adverse Reactions. Am J Ophthalmol. 2025;272:8-18.
  2. Ang T, et al. Orbital inflammation associated with immune checkpoint inhibitors. Surv Ophthalmol. 2024;69:622-631.
  3. Tomkins-Netzer O, et al. Drug-induced uveitis and BRB disruption. Prog Retin Eye Res. 2024;99:101245.

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