コンテンツにスキップ
神経眼科

リー脳症(リー症候群)

リー脳症(Leigh syndrome;亜急性壊死性脳脊髄症)は、ミトコンドリア機能に影響する核遺伝子またはミトコンドリア遺伝子の変異によって生じる神経変性疾患である。1951年、神経精神科医Archibald Denis Leighにより初めて記載された。1)

有病率は小児で約1:40,000出生と報告されている。1)2) スウェーデンの調査では就学前児童における有病率は32,000人に1人とされている。原因遺伝子は現在110種以上が同定されており、核ゲノム・ミトコンドリアゲノム双方に分布する。1) なお、ミトコンドリア病PMD)全体の出生有病率は1:5,000と推計されている。4)

発症年齢と臨床的特徴から以下の3病型に分類される。2)

病型発症時期特徴
早期発症型2歳未満最多。予後が最も不良
遅発型2歳以降まれ。成人発症例を含む
Leigh様症候群多様典型的基準を満たさない類縁例

20歳までの死亡率は約80%と予後は不良である。1) 日本の166例の報告では、6か月未満発症群の40.3%が死亡し、6か月以降発症群では14.3%が死亡したとされる。6)

Q リー脳症は大人になってから発症することもあるか?
A

乳幼児期発症が最多だが、遅発型(思春期〜成人期発症)もまれに報告される。成人発症例は進行が緩徐で予後が比較的良好なことが多い。6)

保護者が気づく初期症状として以下が挙げられる。

  • 発達遅延・精神運動後退:座る・歩くなどの運動能力の喪失
  • 哺乳困難・嚥下障害:脳幹の嚥下中枢の損傷に起因する
  • けいれん:患者の約40%が経験する6)
  • 嘔吐・下痢:消化器症状として現れることがある
  • 易疲労性:筋エネルギー代謝障害に伴う4)

眼症状

眼筋麻痺外眼筋の筋力低下。外眼筋はエネルギー要求が高くミトコンドリア機能障害の影響を受けやすい。

眼振:不随意な眼球運動。小脳・脳幹病変による眼球運動制御障害が原因。

視神経萎縮視神経の変性・菲薄化。SURF1変異例ではMRIで視神経のT2高信号と造影増強が確認される。5)

眼瞼下垂:上眼瞼挙筋の筋力低下による。

神経・全身所見

筋緊張低下:乳幼児期の初発所見として頻度が高い。

ジストニア:不随意な筋肉収縮。運動異常は初発症状の82.8%を占める。3)

運動失調:バランス障害。

乳酸アシドーシス:血液・尿・髄液中の乳酸上昇。

心筋症・尿細管障害:多系統の関与を示す。

MRI所見:基底核・視床・脳幹における両側対称性のT2/FLAIR高信号壊死性病変が特徴的である。3)6) SURF1変異例では被殻が保たれ脳幹優位の病変分布を示し、白質脳症・小脳萎縮・頭蓋神経および脊髄神経根の造影増強を伴うことがある。5)

Q リー脳症ではどのような眼の症状が現れるか?
A

眼筋麻痺(外眼筋の筋力低下)、眼振(不随意眼球運動)、視神経萎縮が代表的な眼症状である。眼瞼下垂を伴うこともある。SURF1変異を有する例では、MRIで視神経の菲薄化・造影増強が確認されることがある。5)

リー脳症の病因はミトコンドリア機能障害であり、以下の機序が関与する。

  • ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異:点変異またはヘテロプラスミー欠失(野生型と変異型mtDNAの共存)
  • 核遺伝子変異:呼吸鎖酵素複合体や補助タンパクをコードする遺伝子の異常

関与する主な酵素・複合体:

  • 複合体I(NADH-ユビキノン酸化還元酵素):MT-ND5変異(m.13513G>A)など3)
  • 複合体IV(チトクロムcオキシダーゼ/COX):SURF1、NDUFA4変異など4)5)
  • ピルビン酸脱水素酵素複合体
  • コエンザイムQ10代謝系

主な原因遺伝子としてMT-ATP6(T8993G、9176T>C)、MT-ND5(m.13513G>A)、SURF1、NDUFA4などが知られている。2)3)4)5)6) 現在までに110種以上の原因遺伝子が同定されている。1)

ヘテロプラスミーの割合が表現型の重症度に影響し、同一家系内でも病状が異なることがある。2)

  • 母系遺伝:mtDNA変異による
  • 常染色体劣性遺伝:核遺伝子変異による(最多)
  • X連鎖遺伝:まれ6)
  • 近親婚:常染色体劣性遺伝の性質からリスクが高い
  • 感染・ワクチン接種・麻酔・手術・脱水:これらのストレス状態が急性増悪の誘因となりうる5)6)
Q リー脳症は遺伝するのか?
A

母系遺伝・常染色体劣性遺伝・X連鎖遺伝のいずれの形式もとりうる。近親婚はリスク要因となる。感染や手術などのストレスが急性増悪の誘因となることがある。5)6)

少なくとも3世代にわたる詳細な家族歴の聴取(早期乳幼児死亡・多系統疾患の既往)が重要である。

血液検査:血算、血清CK、血清乳酸・ピルビン酸の測定。

髄液検査:CSFのピルビン酸、アミノ酸、乳酸、5-メチルテトラヒドロ葉酸の分析。

脳MRI(T2/FLAIR):被殻・基底核・脳幹の異常白質信号が特徴的である。MRスペクトロスコピーでは乳酸ピークを認める。6) SURF1変異例では被殻が保たれ脳幹優位の病変分布、白質脳症・小脳萎縮・頭蓋神経増強が特徴的である。5)

**次世代シーケンシング(NGS)/ 全エクソーム解析(WES)/ 全ゲノム解析(WGS)**による原因遺伝子の同定が診断の主軸となる。3)4)

筋生検:骨格筋生検では電子伝達系(呼吸鎖)酵素群の活性異常、Gomori trichrome染色によるragged-red fiber、電子顕微鏡によるミトコンドリア形態異常が観察されることがある。ただしCPEOを含むミトコンドリア病に特異的ではない点に留意する。

計算診断ツール:MINERVAプラットフォーム上のLeigh disease map(2人の研究者によるブラインド検証で80%の症例に遺伝子を正しく特定)が公開されている。

主要なミトコンドリア疾患との鑑別を以下に示す。

疾患主な相違点
MELAS脳卒中様発作・乳酸アシドーシス中心
MERRFミオクローヌスてんかん・ragged-red fiber
NARP網膜色素変性・学童期以降発症
LHON若年男性の視力喪失・ミオパチー通常なし
Barth症候群拡張型心筋症・好中球減少症

現在、リー脳症に関連するほとんどの変異に対する根本的治療法は存在しない。対症療法が中心となる。

ミトコンドリア機能異常を補完する目的で以下の投与が試みられる。

  • コエンザイムQ10(補酵素Q10):呼吸鎖を補助する補酵素
  • チアミン(ビタミンB1):ピルビン酸脱水素酵素複合体の補酵素
  • ビオチン:特定の変異に有効な場合がある
  • ビタミンB群・ビタミンC:ミトコンドリア機能補助として用いられる
  • ビタミンカクテル(小児例での報告):CoQ10 10 mg/kg/d、VitE 10 mg/kg/d、VitB1 5 mg/kg/d、VitB2 10 mg/kg/d、VitC 25 mg/kg/d、レボカルニチン50 mg/kg/dの組み合わせが症状改善に寄与した報告がある3)

また、小児期発症ミトコンドリア脳筋症において5-アミノレブリン酸(5-ALA)と鉄剤との併用療法がATP産生を高めることが示唆され、臨床治験が開始されている。

てんかんを呈する患者では抗けいれん薬を使用する。6) 選択にあたっては以下に留意する。

  • レベチラセタム:ミオクローヌス性てんかんに対して推奨されることが多い
  • ケトジェニック食:ミトコンドリア難治性てんかんに有効との報告がある5)6)
  • ラモトリギン:一般的に安全だが、ミオクローヌスを増悪させる可能性がある
  • バルプロ酸ナトリウム:POLG変異患者では禁忌(ミトコンドリア毒性)6)

統合失調症様症状を呈した成人LS例でリスペリドン3 mg/dayにより著明改善した報告がある。ただし、ミトコンドリア疾患における精神病治療に関するコンセンサスは未確立である。2)

Q リー脳症の治療で使ってはいけない薬はあるか?
A

POLG変異が確認されている場合、バルプロ酸ナトリウムはミトコンドリア毒性があるため禁忌となる。6) 抗精神病薬を使用する場合は、定型薬より非定型薬の方がミトコンドリア機能への影響が少ないとされるが、コンセンサスは未確立である。2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

典型的な病理学的所見は、視床・基底核・脳幹・脊髄における微小嚢胞と海綿状変化を伴う両側性壊死性病変である。

電子伝達系の各部位における核DNA・mtDNAの変異がミトコンドリア代謝を破壊する。

  • 酸化的リン酸化(OXPHOS)の障害→ATP産生低下→エネルギー依存性の高い脳・筋組織が特に脆弱となる6)
  • フリーラジカル生成:未使用酸素による酸化ストレス→細胞障害1)
  • 免疫介在性炎症:Ndufs4ノックアウトマウスの研究で、中枢神経病変への白血球介在性炎症の関与が示されている1)

複合体IVは14のサブユニットから構成され、3つのmtDNA由来触媒コアサブユニットと11のnDNA由来制御サブユニットを含む。NDUFA4遺伝子はnDNA由来の複合体IVサブユニットをコードし、その両アレル欠失によりCOX/CS活性の有意な低下が生じる。4)

外眼筋は単位重量あたりのエネルギー要求が高く、ミトコンドリア機能障害の影響を受けやすい。頭蓋神経・脊髄神経根の造影増強には、活動性脱髄・血管周囲炎症・細胞毒性代謝産物の蓄積が関与すると推定されている。5)

Jaballahら(2023)は、MT-ATP6 T8993G変異(ヘテロプラスミー)を持つ成人LS家系において、変異型mtDNAの割合が家族内で44〜98%と大きく異なり、表現型の重症度と相関することを報告した。2)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

遺伝子治療

AAV9-SURF1遺伝子補充療法:Surf1ノックアウトマウスでSURF1発現回復、複合体IV活性・乳酸値の正常化が確認された。1)

ミトコンドリアジンクフィンガーヌクレアーゼ:特異的mtDNA配列を切断することで、in vivoでのヘテロプラスミー是正を目指す手法。マウス心臓でミトコンドリア機能改善が示されている。1)

薬物・細胞療法

Vatiquinone(EPI-743):反応性酸素種スカベンジャー。14例のミトコンドリア病で11例に臨床改善が報告された。1)

CSF-1R阻害剤(免疫療法):Ndufs4ノックアウトマウスで神経炎症性病変の進行抑制が確認されている。1)

低酸素療法:Ndufs4ノックアウトマウスで運動障害・体温調節障害の改善が報告されている。1)

iPSC由来脳オルガノイドを用いたスクリーニング:SURF1変異由来の神経前駆細胞を用いた大規模薬剤スクリーニングが進められている。1)

患者レジストリ:Cure Mito財団のグローバルLS患者登録には200名以上が参加し、研究基盤の整備が進んでいる。1)


  1. Moreira JD, Smith KK, Zilber S, et al. Teamwork makes the dream work: functional collaborations between families, scientists, and healthcare providers to drive progress in the treatment of Leigh Syndrome. Orphanet J Rare Dis. 2023;18(1):341.

  2. Jaballah F, Ben Soussia Nouira R, Mallouli S, et al. Schizophrenia-Like Psychotic Symptoms Associated to Leigh Syndrome. Case Rep Psychiatry. 2023;2023:6690750.

  3. Zhang J, Gan J, Wang J. A case of Leigh syndrome presented with paroxysmal body swing. Heliyon. 2024;10(2):e24356.

  4. Misceo D, Strømme P, Bitarafan F, et al. Biallelic NDUFA4 Deletion Causes Mitochondrial Complex IV Deficiency in a Patient with Leigh Syndrome. Genes. 2024;15(3):380.

  5. Dupré M, Warne R, Shipman P, et al. Cranial and spinal nerve enhancement in SURF1-associated Leigh syndrome. Pediatr Radiol. 2024;54(9):1547-1552.

  6. Liao Y, Lai Y, Chen X, Zhao S. Adult-onset Leigh syndrome with recurrent seizures and peripheral neuropathy due to the 9176T>C mutation: a case report and literature review. BMC Neurol. 2025;25(1):78.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます