この疾患の要点
核間性眼筋麻痺(INO)は内側縦束(MLF)の障害により生じる眼球運動障害 で、患側眼の内転障害・対側眼の外転時解離性眼振 ・輻輳の保持が三徴である。
若年者(45歳未満)では多発性硬化症 (両側性に多い)、高齢者では脳血管障害(片側性に多い)が主な原因であり、この2疾患で全体の約70%を占める。
水平性の複視 が主訴となるが、第一眼位では複視を認めないことが多い。
診断は眼球同向運動(サッケード 速度検査)により臨床的に行われ、MRIが脳幹病変の同定に有用である。
INO自体への特異的治療はなく、原因疾患の治療が基本となる。
脳血管障害による場合は予後比較的良好だが、MSによる場合は軽度の内転速度低下が残存することが多い。
両側MLF障害(WEBINO)や1½症候群など、関連する眼球運動症候群の知識が診断の手がかりとなる。
核間性眼筋麻痺(Internuclear Ophthalmoplegia; INO)は、内側縦束(medial longitudinal fasciculus; MLF)の障害により生じる特徴的な眼球運動障害である。別名MLF症候群、内側縦束症候群とも呼ばれる。
MLFは脳幹を縦走する高度に髄鞘化された神経線維束であり、対側の外転神経核(CN VI核)から同側の動眼神経内直筋亜核(CN III核)へ至る介在ニューロンが通る経路である。この経路が障害されると、水平注視時の患側眼の内転が制限される。
梗塞と脱髄疾患 (多発性硬化症)が全体の約70%を占める。
原因 頻度 側性の特徴 脳梗塞 約38% 片側性が多い(87%) 多発性硬化症(MS) 約34% 両側性が多い(73%)
脳血管障害による発症は62〜66歳に多く、高齢者に多い。
MSによる発症は45歳未満の若年者に多い。
INOの側名は内転障害がある側(MLF病変の同側)で呼ぶ。
Q 核間性眼筋麻痺は、どのような年齢層に多いのですか?
A 若年者(45歳未満)では多発性硬化症が主な原因で両側性に多く、高齢者では脳血管障害が主な原因で片側性に多い。脳血管障害による発症は62〜66歳に多いとされる。
水平性複視 :健側方向を見ると増強する。通常、第一眼位では複視を認めない。
oscillopsia(視界の揺れ) :高速移動物体の追跡困難。
めまい・頭痛 :側方注視時のめまい、運転中のめまいとして訴えることがある。
読書疲労・立体視 の喪失 :視覚疲労や奥行き感覚の障害。
日常生活への支障 :交通事故・転倒リスクの増大。
斜偏位 を合併しても上下の複視を訴えることはほとんどない。
INOの三徴を以下に示す。
① 患側眼の内転障害(不完全〜完全) :内転サッケード速度の低下が特徴。改善後も内転速度低下が残存することが多い。OKNドラムで微妙な速度低下を検出できる。
② 対側眼(健側眼)の外転時解離性眼振 :外転時に単眼性眼振を認める。患眼の内転不全に対するヘーリングの等分神経支配の法則による適応現象である。
③ 輻輳の保持 :水平注視での内転障害があっても輻輳は通常可能。輻輳・対光反射の経路はMLFを通らないため温存される。ただし、動眼神経核近傍の病変では輻輳も障害される場合がある。なお、輻輳消失はINOの診断を否定しない。
斜偏位(skew deviation) :橋病変による同側眼の上斜位(内旋を伴う)。片側性INOでは患側が上斜視 となることが多い。前庭神経核を出た線維が交叉してMLFを上行するため、病側が上斜する。
上方注視時の垂直注視誘発眼振 :MLFを通る内耳からの線維が障害された場合に生じる。
眼球傾斜反応(OTR) :対側への眼球傾斜反応を伴うことがある。
垂直眼振・回旋眼振 :MLFを通る内耳からの線維が障害されると生じる。
WEBINO
定義 :両側MLF障害により生じる。Wall-Eyed Bilateral Internuclear Ophthalmoplegiaの略。
所見 :第一眼位で外斜視 (壁目)を呈し、両側性の内転ラグと両側性の外転眼振を認める。
原因 :高齢者では中脳梗塞、若年者では脱髄が多い。
1½症候群
定義 :同側MLF+PPRF/CN VI核の障害による複合症候群。
所見 :患側への同向運動が完全麻痺(half)+健側への同向運動で患側眼の内転障害(half)。健側眼の外転のみが可能。麻痺性橋外斜視を呈する。
関連 :8½症候群(1½症候群+顔面神経麻痺)へと発展することもある。
WEMINO(Wall-Eyed Monocular 核間性眼筋麻痺) :片側MLF障害で外斜視を呈する稀な亜型。
Half-and-Half症候群 :核間性眼筋麻痺+同側CN VI束障害。
ルッツ後部核間性眼筋麻痺(逆核間性眼筋麻痺) :外転制限を伴う対側眼の内転眼振。典型的核間性眼筋麻痺の逆の病像を示す。
Q 輻輳が保たれているのに内転ができないのはなぜですか?
A 輻輳の経路はMLFを通らず、動眼神経核付近で直接調節されるため、MLFが障害されても輻輳は温存される。一方、水平共同運動の内転はMLFを経由するため、MLF障害により選択的に内転サッケードが障害される。
核間性眼筋麻痺の原因は脳幹・MLFに影響を与えるあらゆる病態が対象となる。
多発性硬化症(MS) :45歳未満の若年患者。通常は両側性。MLFの脱髄はどの分節にも生じうる。INOがMSの初発症状となることもある。
脳血管障害(CVA) :高齢者。通常は片側性。脳底動脈の穿通枝(傍正中動脈)、特に脳底動脈下橋被蓋枝の梗塞が大部分を占める。高血圧・糖尿病・喫煙がリスク因子となる。
NMO(視神経脊髄炎 /デビック病)・MOGAD :抗AQP4抗体・抗MOG抗体 関連疾患でも生じうる。
感染症 :梅毒、ライム病 、クリプトコッカス症、ウイルス性・細菌性髄膜脳炎。
炎症性疾患 :サルコイドーシス 、全身性エリテマトーデス (SLE)、ベーチェット病 。
ウェルニッケ脳症(チアミン欠乏) :アルコール依存症、食事摂取不良、胃切除後で注意。悪性貧血も原因となる。
代謝性疾患 :メープルシロップ尿症、肝性脳症、ファブリー病。
腫瘍 :第四脳室・脳幹腫瘍(髄芽腫、橋神経膠腫)。小児のINOでは腫瘍や脳室拡大が多い。
外傷 :頭部外傷。
薬物毒性 :リチウム、プロプラノロール、三環系抗うつ薬、麻薬、フェノチアジン系。
変性疾患 :進行性核上性麻痺 (PSP)。
先天奇形 :アーノルド・キアリ奇形。
傍腫瘍性脳幹脳炎 :抗Ri抗体陽性PNSの臨床スペクトラムにINOが含まれる。乳癌(女性の79%)、肺癌(男性の25%)との関連が多い1) 。
Q 核間性眼筋麻痺が片側性か両側性かで原因の推測はできますか?
A 片側性は脳血管障害に多く(梗塞例の87%が片側性)、両側性は多発性硬化症に多い(MS例の73%が両側性)。ただし、この傾向はあくまで参考であり、確定診断にはMRI等の精査が必要である。
眼の同向運動能力の検査により臨床的に診断する。
サッケード速度検査 :水平サッケードで患側の内転ラグを確認する。急速に健側を注視させた直後が観察しやすい。OKNドラムやOKNテープは微妙な非同向性サッケードの検出に有用である。
輻輳検査 :輻輳による内転は病初期には観察できないこともあり、診断に必須ではない。
定量的赤外線眼球運動記録法 :微妙な症例の診断精度を向上させる。軽度の内転速度低下では医師の71%がINOを特定できなかったとの報告がある。
MRI :INOの評価にはCTより優れる。薄いオーバーラップスライスで微小病変を検出する。MSにおけるMLF病変検出にはプロトン密度強調画像がT2/FLAIRより好ましい。拡散強調画像(DWI)はT2単独では検出できない脳幹梗塞の検出に有用で、発症後4.5時間以内に梗塞巣を確認できる。
CT :急性期の出血・腫瘍のスクリーニングに用いる。
以下の疾患との鑑別が重要である。
動眼神経麻痺 :内転速度低下はあるが上転・下転制限なし。眼瞼下垂 ・散瞳 ・対光反射減弱・対側眼の外転眼振がないことでINOと鑑別する。
偽性核間性眼筋麻痺(重症筋無力症 ) :日内変動・易疲労性の確認。テンシロン試験で改善しないこと、上方注視時の垂直眼振なしで区別する。
偽性核間性眼筋麻痺(ギラン・バレー症候群・フィッシャー変法) :腱反射消失・運動失調・眼筋麻痺の三徴。両眼対称性の眼筋麻痺で体幹失調によるふらつきを伴う点で核間性眼筋麻痺と鑑別する。
抗ガングリオシド抗体関連眼筋麻痺 :抗GD1a抗体陽性で複合的眼筋麻痺を呈した症例報告がある。IVIg に反応するが再燃しやすい2) 。
進行性核上性麻痺(PSP) :パーキンソン症候群を伴う。眼球頭反射で眼球運動異常を克服可能(核間性眼筋麻痺では不可能)な点で鑑別する。
その他 :キアリ奇形、特発性頭蓋内圧亢進症 (IIH)、第四脳室シャント後、眼窩 転移。
核間性眼筋麻痺そのものへの特異的治療は存在せず、原因疾患に対する治療が基本となる。
発症4.5時間以内 :MRI DWIで梗塞確認後、血栓溶解療法(t-PA静注)が適応となる。
発症24時間以内 :神経保護薬ラジカット点滴静注も選択肢となる。
実際の外来診療 :眼球運動異常のみで超急性期治療が行われることはほとんどなく、メチコバール錠500μg 3錠+カリクレイン錠10単位 3錠(各分3)で経過観察されることが多い(いずれも保険適用外)。
急性増悪期 :ステロイドパルス療法 (神経内科と協力)。無効の場合は血液浄化療法を検討する。
寛解期(疾患修飾療法) :インターフェロンβ、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、ナタリズマブなど。
ウェルニッケ脳症 :ビタミンB₁療法(神経内科と協力)。早期治療で1〜2週間で眼球運動異常が消失する。
橋出血・橋部腫瘍 :脳神経外科が主体となる。
Fresnel膜プリズム :残存する複視の症状緩和に有用。
斜視 手術 :保存的治療に抵抗する場合に検討する。
斜偏位の持続例 :プリズム、ボツリヌス毒素注射 を考慮する。
脳血管障害 :比較的良好。画像で病巣が確認できない軽症梗塞例は数日で治癒することもある。
ウェルニッケ脳症 :早期治療で1〜2週間で眼球運動異常が消失する。
多発性硬化症 :完全に症状が消失することはなく、わずかな制限を残すことが多い。ただし眼球運動異常で発症するMSの疾患自体の予後は良好とされる。
内転障害の改善後も内転速度の低下が残存することが多い。
Q 核間性眼筋麻痺の予後はどの程度ですか?
A 原因によって異なる。脳血管障害による場合は予後比較的良好で、軽症例では数日で治癒することもある。MSによる場合は完全に症状が消失することは少なく、軽度の内転速度低下が残存することが多い。ウェルニッケ脳症による場合は早期のビタミンB₁治療で1〜2週間での回復が期待できる。
MLFは高度に髄鞘化された神経線維束で、中脳から脊髄に至る長い線維束である。中脳・橋の背内側脳幹被蓋、中脳水道または第四脳室の腹側に位置し、正中線の非常に近くに走行する。このため両側のMLFが近接しており、両側性INOが起こりやすい。
血管支配 :橋下部(CN VI核付近)は脳底動脈からの傍正中動脈(小穿通枝)が供給。中脳(CN III核付近)は後大脳動脈P2セグメントの小穿通枝が供給。
水平注視の中枢はPPRF(傍正中網様体)である。前頭葉8野(対側サッケード)→PPRF→同側CN VI核という経路でサッケード信号が伝達される。CN VI核からは二方向に出力される。
同側外直筋 :外転(CN VI本体)
対側CN III内直筋亜核 :CN VI核から交叉してMLFを上行し、対側の動眼神経内直筋亜核に到達→対側内直筋が内転
PPRF・CN VI核・MLFは橋下部背側被蓋に近接しており、病変の微小な違いで異なる眼球運動異常が生じる。
MLFが障害されると、CN VI核からCN III内直筋亜核への信号伝達が遮断される。その結果、患側眼の内転サッケード速度が低下する(同側の内転障害)。
健側眼の外転眼振 :ヘーリングの等分神経支配の法則に基づく。患眼の内転不全に対して健側眼への神経支配が亢進し、外転眼振として現れる適応現象である。
輻輳保持の機序 :輻輳・対光反射の経路はMLFを通らないため、MLF障害があっても輻輳は保たれる。
前部核間性眼筋麻痺と後部核間性眼筋麻痺 :前部核間性眼筋麻痺(中脳・CN III核レベル)では輻輳障害を伴う。後部核間性眼筋麻痺(CN III核より下)では輻輳が保持される。
MLFは水平注視以外にも以下の機能に関与する。
前庭眼反射・垂直追従運動・視運動性眼振(OKN)
垂直性眼球運動 :riMLF(内側縦束吻側間質核)が上下方向・回旋性サッケードを生成する
MLFを通る内耳からの線維が障害されると、垂直眼振・回旋眼振・斜偏位を伴う
Rodrigo-Gisbertら(2023)は、82歳女性の亜急性眼筋麻痺・失調の症例を報告した1) 。抗Ri抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群(PNS)であり、核間性眼筋麻痺は傍腫瘍性脳幹脳炎の臨床スペクトラムの一部として生じていた。抗Ri抗体陽性PNSは乳癌(女性の79%)・肺癌(男性の25%)との関連が多く、原因不明の核間性眼筋麻痺では悪性腫瘍の検索が必要な場合がある。
McKeanら(2021)は、抗GD1a抗体強陽性(抗GM1/GM2/GD1b抗体も陽性)を呈した23歳女性の免疫性眼筋麻痺を報告した2) 。両側外転障害・上方注視制限・輻輳後退眼振を呈し、INOとの鑑別が問題となった。IVIg(2g/kg、5日間)で完全寛解するも2週間で再燃し、4週毎のIVIg投与で維持された。アザチオプリン 等の免疫調節薬による長期管理が検討されている。
INOがMSにおける軸索と髄鞘の完全性のバイオマーカー として使用できる可能性が示されている。定量的赤外線眼球運動記録法を用いた客観的評価が、軽微なINO症例の診断精度向上に貢献しうる。医師の観察だけでは軽度の内転速度低下を71%が見逃すとの報告があり、定量的計測の重要性が指摘されている。
Rodrigo-Gisbert M, Llaurado A, Baucells A, Auger C, González V. Clinical Reasoning: An 82-Year-Old Woman With Subacute Ophthalmoparesis and Ataxia. Neurology. 2023;101(5):e570-e575.
McKean N, Chircop C. Immune-mediated ophthalmoparesis with anti-GD1a antibodies. BMJ Case Rep. 2021;14:e244273.
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