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神経眼科

巨細胞性動脈炎-骨髄異形成亜型(GCA-MDS)

1. 巨細胞性動脈炎-骨髄異形成亜型(GCA-MDS)とは

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巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis; GCA)は、高齢者に最も頻度の高い原発性の中・大血管炎である。中・大血管の肉芽腫性炎症を特徴とする。1890年にHutchinsonが側頭部の有痛性腫脹を血栓性動脈炎として報告したのが始まりであり、後に側頭動脈以外の中等大以上の動脈も障害すること、組織に巨細胞が証明されることから「巨細胞動脈炎」と呼称されるようになった。

疫学的には、欧州で50歳以上の原発性全身性血管炎の中で最も多く、毎年100万人あたり32〜290人に発症する。60歳以上に多く、やや女性に多い(約3倍)。黒人・東洋人にはまれであり、日本では高安動脈炎が多く巨細胞動脈炎は欧州ほど多くない。HLA-DRB1アレルとの関連が示唆されており、HLA-DR4の有病率増加の報告もある1)

骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome; MDS)は、クローン性・無効造血、形態学的異形成、末梢血血球減少、進行性骨髄不全を特徴とする血液悪性腫瘍である。最大30%が急性骨髄性白血病(AML)へと移行しうる。MDS患者は自己免疫疾患(血管炎・結合組織疾患・炎症性関節炎・好中球性疾患など)を10〜20%の頻度で発症する。

巨細胞動脈炎-MDSはMDS患者における巨細胞動脈炎発症であり、典型的巨細胞動脈炎とは異なる臨床経過・治療反応を示す亜型として認識されている。最大規模の報告は2019年フランス多施設共同研究による21例である。巨細胞動脈炎とMDSが因果関係にあるのか、関連する併存症なのかは現時点では未解明である。

Q 巨細胞動脈炎-MDSは通常の巨細胞動脈炎とどう違うのか?
A

巨細胞動脈炎-MDS患者では頭痛・顎跛行・AAIONといった古典的症状の有病率が低い可能性がある。またステロイド依存性に陥りやすく、無ステロイド生存率・無再発生存率が低下する傾向がある。ただし巨細胞動脈炎-MDS患者において自己免疫疾患の発症自体は生存率悪化とは関連しないとされる。

巨細胞動脈炎一般の全身症状は眼症状の数か月前から出現することがある。

  • 頭痛:新たに経験する局所性頭痛。最も多い全身症状の一つ。
  • 顎跛行(がくはこう):咀嚼時の顎の痛みや疲労感。巨細胞動脈炎に比較的特異的な症状。
  • 筋肉痛・関節痛:肩や股関節周囲に多い。筋力低下を伴うこともある。
  • 発熱・体重減少・うつ状態:全身炎症に伴う非特異的症状。
  • 一過性黒内障:2〜19%にみられる眼症状で、前駆症状として自覚されることも多い。
  • 視力喪失:本症患者の30〜50%にみられる。通常、片眼または両眼に急激に発症し重篤な視力障害を残す。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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巨細胞動脈炎の眼症状は多彩である。最も重篤なのはAAIONであり、一度発症すると視力回復は難しい。

眼症状

AAION(動脈炎性前部虚血性視神経症):最もよくみられる眼症状。短後毛様動脈の閉塞による。50歳以上(多くが75歳以上)に発症し、20%以上が光覚なしの重篤な視機能障害に至る。

蒼白な乳頭浮腫視神経乳頭の蒼白な腫脹が特徴的。乳頭周囲に出血や軟性白斑を認めることもある。

RAPD陽性:片眼性では相対的瞳孔求心路障害が患側で陽性となる。

水平半盲:最も多い視野障害パターン。

その他の眼・全身所見

その他の眼虚血病変:PION(後部虚血性視神経症)・CRAO網膜中心動脈閉塞)・毛様網膜動脈閉塞・脈絡膜灌流不全・眼虚血症候群外眼筋麻痺。

側頭動脈の異常:圧痛・結節性・肥厚・拍動減弱が認められる。

潜在性巨細胞動脈炎(occult GCA):約20%は全身症状なしに視力喪失のみで発症する。

Q 巨細胞動脈炎で視力喪失が起こる確率はどのくらいか?
A

本症患者の30〜50%に視力喪失が生じるとされる。AAIONでは20%以上が光覚なしの重篤な障害に至る。無治療では短期間で僚眼にも発症するリスクがあり、早急な治療開始が求められる。

巨細胞動脈炎の病態は、動脈壁への非特異的炎症に始まり、隣接領域への肉芽腫性炎症が生じて動脈狭窄・閉塞に至る経過をたどる。組織学的には単核細胞浸潤または肉芽腫性炎症(通常巨細胞を伴う)が特徴的である。

巨細胞動脈炎の主なリスク因子を以下に示す。

  • 年齢:50歳以上。60歳以上で頻度が急増する。
  • 性別:女性がやや多い(約3倍)。
  • 人種:白人に多い。黒人・東洋人にはまれ。
  • 遺伝的要因:HLA-DRB1アレルとの関連。非白人における家族性巨細胞動脈炎の報告もある1)
  • 環境因子:呼吸器感染症が巨細胞動脈炎発症のトリガーとなる可能性が示唆されている2)

MDSと巨細胞動脈炎の関連については、MDS患者の10〜20%に自己免疫疾患が発症するとされており、MDSにおける免疫調節異常が巨細胞動脈炎様血管炎の惹起に関与する可能性がある。ただし因果関係は未解明である。

なお、COVID-19ワクチン接種後に巨細胞動脈炎が発症した症例報告が複数ある3)。mRNAワクチンで産生されたスパイクタンパク質に対する抗体の組織交差反応やIL-6の過剰産生が関与する可能性が推察されている。

巨細胞動脈炎の診断にはACR分類基準(1990年)が広く用いられる。以下5項目中3項目以上を満たす場合に巨細胞動脈炎と診断する。

項目基準
発症年齢50歳以上
頭痛新たな局所性頭痛
側頭動脈の異常圧痛または脈拍減弱
赤沈値≧50mm/時
動脈生検単核細胞浸潤または肉芽腫性炎症(通常巨細胞を伴う)
  • 血液検査(赤沈・CRP:95%以上の症例で赤沈亢進がみられる。ただし5%では赤沈が正常であることに注意する。50歳以上のCRAO/網膜動脈閉塞患者全例で赤血球沈降速度(ESR)・C反応性蛋白(CRP)・CBC+血小板を測定すべきである。
  • 側頭動脈生検:巨細胞動脈炎確定診断のゴールドスタンダード。感度・特異度ともに95%以上。検体はできるだけ大きく採取することが重要である。
  • 側頭動脈超音波検査:ハローサイン(halo sign)が特徴的。非侵襲的で外来での迅速評価が可能であり、近年使用が増加している。
  • 蛍光眼底造影:視神経乳頭への充盈遅延、乳頭周囲脈絡膜への充盈遅延・欠損が認められる。
  • 光干渉断層計(OCT)網膜神経線維層黄斑部神経節細胞層の評価に有用。
  • 頭部MRI:急性期は基本的に正常だが、視神経炎や鼻性視神経症の鑑別に用いられる。
  • ポジトロン断層撮影(PET)-CT:大血管型巨細胞動脈炎(LV-GCA)では大動脈・その分枝の異常集積を検出できる2)

鑑別すべき疾患として、結節性多発性動脈炎・Wegener肉芽腫症・全身性エリテマトーデス(SLE)などが挙げられる。巨細胞動脈炎では肺・腎臓は侵されないことが特徴である。また眼梅毒が巨細胞動脈炎に類似した症状を呈することがある4)

巨細胞動脈炎-MDS患者では古典的症状の有病率が低い可能性があるため、MDS患者の視力低下には巨細胞動脈炎を積極的に疑い、早期に血液検査・生検を行うことが重要である。

Q 側頭動脈生検が陰性でも巨細胞動脈炎は否定できないか?
A

側頭動脈生検の感度は95%以上であるが偽陰性が存在する。生検が陰性であっても、ACR分類基準の他の項目を満たす場合には巨細胞動脈炎の診断は否定されない。臨床的に強く疑われる場合は診断を待たずにステロイド治療を開始することが推奨される。

副腎皮質ステロイド(第一選択)

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副腎皮質ステロイドが巨細胞動脈炎の第一選択治療である。治療開始のタイミングが視力予後を大きく左右するため、生検による確定診断を待たずに早急に治療を開始することが原則である。

  • 眼・中枢神経・脳神経症状がない場合:プレドニゾロン(PSL)30〜40mg/日から投与開始。
  • 眼症状・視力低下がある場合:PSL 1mg/kg/日を3〜4週間投与後、症状・炎症マーカーを指標に漸減。
  • 視力喪失が生じた場合:入院のうえ、メチルプレドニゾロン(mPSL)による大量点滴療法を施行する。点滴治療終了後はステロイド内服をゆっくり漸減する。
  • 漸減レジメン:6〜24か月かけて症状と炎症マーカーに応じて漸減する。

海外では経口プレドニゾロン40〜60mg/日が用いられ、頭蓋虚血症状がある場合にはmPSL 500〜1000mg/日を3日間静注後に漸減するレジメンも報告されている。

  • メトトレキサート:減量が困難な症例に免疫抑制薬の併用を検討する(保険適用外)。
  • トシリズマブ(TCZ):難治例・再燃例に有効な報告がある(保険適用外)。COVID-19ワクチン後巨細胞動脈炎症例でもTCZ 162mg皮下注の使用報告がある2)3)
  • 低用量アスピリン:心疾患・脳血管虚血性合併症の予防に併用することがある。

MDS合併例では、低メチル化薬(アザシチジンまたはデシタビン)の追加が有益な可能性がある。MDS合併自己免疫疾患をアザシチジンで治療した研究では、臨床症状の改善とステロイド依存性の減少が報告されている。前向き研究(NCT02985190)が進行中である。詳細は「最新の研究と今後の展望」の項を参照。

Q 巨細胞動脈炎-MDSにはどのような特別な治療があるか?
A

低メチル化薬(アザシチジン・デシタビン)の追加が有益な可能性がある。MDS合併自己免疫疾患へのアザシチジン投与で臨床症状改善・ステロイド依存性減少が報告されており、現在前向き研究(NCT02985190)が進行中である。これらはまだ標準治療として確立されていないため、詳細は担当医に相談することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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巨細胞動脈炎の基本的な病態は、動脈壁への非特異的炎症から始まり、隣接領域に肉芽腫性炎症が生じて動脈狭窄・閉塞に至る過程である。

組織病理学的特徴は以下の通りである。

  • 肉芽腫性炎症:動脈内膜・中膜に単核細胞浸潤と多核巨細胞の形成。
  • 内膜の肥厚:炎症に伴う反応性変化で血管内腔が著しく狭小化する。
  • 内弾性板の断裂:巨細胞と隣接して生じることが多い。

AAIONの発症機序:後毛様動脈(PCA)からの灌流が障害される。巨細胞動脈炎では短後毛様動脈(SPCA)の閉塞が視神経乳頭虚血を引き起こす。一方、非動脈炎性AAION(NA-AION)は血管危険因子による小血管病変が主因であり、病態が異なる。

MDSと自己免疫の関連:MDS患者の10〜20%に自己免疫疾患が発症する。MDSにおける免疫調節異常(T細胞・NK細胞機能異常、サイトカインバランスの変化)が巨細胞動脈炎様の血管炎を惹起する可能性が示唆されている。巨細胞動脈炎とMDSが因果関係にあるのか、独立した疾患として併存するのかは未解明である。

ワクチン関連巨細胞動脈炎の機序(参考):mRNAワクチンで産生されたスパイクタンパク質に対する抗体の組織交差反応、IL-6の過剰産生が関与する可能性が報告されている3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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低メチル化薬による巨細胞動脈炎-MDS治療の前向き研究

Section titled “低メチル化薬による巨細胞動脈炎-MDS治療の前向き研究”

アザシチジンを用いた巨細胞動脈炎-MDS治療の前向き研究(Clinical Trials: NCT02985190)が進行中である。MDS合併自己免疫疾患にアザシチジンを投与した既存の研究では、臨床症状の改善とステロイド依存性の減少が報告されており、巨細胞動脈炎-MDS患者に対する低メチル化薬の有用性が期待されている。

Yoshimotoら(2023)は、COVID-19ワクチン接種後の巨細胞動脈炎14症例のレビューを行い、発症から診断までの期間が2週〜4か月(平均約6週)であることを報告した2)。14例中2例で失明が生じた。治療反応は従来型巨細胞動脈炎と同様に一般的に良好であり、mPSL大量療法→PSL漸減→TCZ 162mg皮下注の経過が報告されている。

巨細胞動脈炎-MDSの予後に関する知見

Section titled “巨細胞動脈炎-MDSの予後に関する知見”

巨細胞動脈炎-MDS患者はステロイド依存性に陥りやすく、無ステロイド生存率・無再発生存率が低下する傾向がある。一方で、MDS患者において自己免疫疾患の発症自体は生存率の悪化と関連しないことが示されている。

Hayrehら(2021)はインド系5兄弟のうち3名が巨細胞動脈炎を発症した家族性巨細胞動脈炎の症例を報告し、常染色体劣性遺伝パターンを示唆した1)。非白人における初の家族性巨細胞動脈炎報告として注目されている。


  1. Hayreh SS. Familial giant cell arteritis. BMJ Case Rep. 2021;14(8):e244865.
  2. Yoshimoto K, Kaneda S, Asada M, et al. Giant Cell Arteritis after COVID-19 Vaccination with Long-Term Follow-Up: A Case Report and Review of the Literature. Medicina. 2023;59(5):932.
  3. Wakabayashi H, Iwayanagi M, Sakai D, et al. Development of giant cell arteritis after vaccination against SARS-CoV2: A case report and literature review. Medicine. 2023;102(21):e33814.
  4. Qadir A, Khakwani AS, Khan MR, et al. Ocular Syphilis Mimicking Giant Cell Arteritis. Cureus. 2022;14(9):e29286.

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