シグナル経路異常
NF-κB経路:構成要素に変異が生じ、恒常的に活性化する。
MAPK経路:p-ERK1/2が80%の症例で発現している。
BRAF V600E変異:全体の20%に認められる。

濾胞樹状細胞肉腫(follicular dendritic cell sarcoma:FDCS)は、間葉系起源の濾胞樹状細胞から発生する稀な腫瘍である。軟部肉腫全体のわずか0.4%を占めるに過ぎない。1986年にMondaらが初めて記載した。
343例を対象としたプール解析では、診断時年齢の中央値は50歳であった1)。男女比はほぼ等しく、アジア系の患者が比較的多い1)。約2/3がリンパ節内に発生し、残りの約1/3は節外に発生する。近年の報告では節外発生が79.4%に達するとされる6)。主な節外発生部位は頭頸部・消化管・肝臓・脾臓である。
頭蓋内に発生した節外性FDCSは過去3例のみ報告されている。眼窩内の発生例はわずか1例であり、極めて稀な病態である。10〜20%の症例がキャッスルマン病(非クローン性リンパ増殖性疾患)と関連する4)。
軟部肉腫全体の0.4%を占めるに過ぎない。さらに頭蓋・眼窩への発生は極めて稀であり、頭蓋内は過去3例、眼窩内はわずか1例しか報告されていない。
FDCSは通常、緩徐に増大する無痛性のリンパ節腫脹として発症する。節外発生例ではB症状(発熱・盗汗・体重減少)を伴うことがある。
頭蓋内に発生した場合の自覚症状は以下の通りである。
眼窩に発生した場合は以下の症状が出現する。
眼科的診察で以下の所見が確認される。
海綿静脈洞や斜台への浸潤が進行すると、複数の脳神経障害を同時に呈する場合がある。
霧視・視力低下・眼瞼下垂・眼球突出・複視などが出現しうる。診察ではRAPD・眼球運動制限・乳頭浮腫が確認される。海綿静脈洞への浸潤により複数の脳神経障害を同時に呈することもある。
FDCSの腫瘍化メカニズムは不明な点が多い。以下の分子異常が関与すると考えられている。
FDCSの炎症性亜型(inflammatory variant)は、EBV感染との相関が知られている。この亜型は主に肝臓・脾臓に発生し、豊富なリンパ形質細胞浸潤を特徴とする。
10〜20%の症例が硝子血管型キャッスルマン病と関連する4)。キャッスルマン病に伴う濾胞樹状細胞の過形成から腫瘍化が進行するとの仮説がある。
FDCSの確定診断には組織生検と免疫組織化学染色が必須である。
組織学的には、弱い好酸性細胞質をもつ紡錘形細胞が車輪状(storiform)または渦巻状(whorled)のパターンを呈する。小型成熟リンパ球の浸潤を伴うことが特徴的である。
主要な免疫組織化学マーカーは以下の通りである。
頭蓋内・眼窩内病変が疑われる場合は、以下の包括的な眼科検査を実施する。
主な鑑別疾患と鑑別ポイントを以下に示す。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 指状嵌入樹状細胞肉腫 | S100陽性、クラスタリン陰性 |
| ランゲルハンス細胞組織球症 | CD1a・ランゲリン陽性 |
| ロザイ・ドルフマン病 | S100陽性、emperipolesis |
| 悪性黒色腫 | S100・HMB45・Melan A陽性 |
キャッスルマン病の併発や副腫瘍現象(重症筋無力症など)の有無も評価する必要がある。
組織生検による病理学的確認が必須である。免疫組織化学染色でCD21・CD23・CD35の陽性を確認する。クラスタリンは感度100%・特異度93%と高い診断精度を示す3)。画像検査(CT・MRI・PET)は局在評価に用いる。
治療の主体は腫瘍の外科的完全切除である。化学療法や放射線療法単独で治療された患者と比較して、完全切除例のほうが良好な転帰を示す。
462例のプール解析では、FDCSは中間悪性度の肉腫として振る舞い、局所再発率は28.1%、遠隔転移率は27.2%であった1)。完全切除後に補助放射線療法を追加することで局所制御が有意に改善するとの報告がある2)。
補助放射線療法として50〜55 Gyの照射が一般的に行われる。術後の断端近接例や陽性例に対して適応となる5)。
切除不能例・再発例・転移例に対しては全身化学療法が選択される。
化学療法使用例では無再発生存期間中央値2.9年が報告されている。
外転神経麻痺に続発する複視に対しては、以下の対応が考慮される。
標準化されたサーベイランスプロトコールは確立されていない。主治医・腫瘍内科医・神経放射線科医・眼科医を含む多職種連携チームによる定期的フォローアップが不可欠である。安定が得られるまで画像検査の再検が推奨される。
外転神経麻痺による複視に対しては、まずプリズム眼鏡で症状の軽減を図る。眼位のずれが固定した場合には斜視手術が適応となることもある。根本的には原発腫瘍の治療が重要である。
濾胞樹状細胞(FDC)はリンパ濾胞の胚中心に存在する間葉系由来の免疫補助細胞である。B細胞およびT細胞に抗原を提示する役割を担い、リンパ濾胞の構造維持にも寄与する。造血系由来の他の樹状細胞とは異なる系統に属する。
FDCの起源について、血管周囲前駆細胞(PDGFRb陽性)に由来するとの報告がある4)。この知見はFDCが間質系細胞であることを裏付ける。
腫瘍化に関与する分子異常を以下に示す。
シグナル経路異常
NF-κB経路:構成要素に変異が生じ、恒常的に活性化する。
MAPK経路:p-ERK1/2が80%の症例で発現している。
BRAF V600E変異:全体の20%に認められる。
エピジェネティクス
EZH2過剰発現:FDCS腫瘍の67%で確認されている。
RB1機能喪失変異:細胞周期制御の破綻に寄与する。
腫瘍抑制遺伝子
TP53変異:複数の症例で報告されている。
PTEN変異:PI3K-AKT経路の脱抑制につながる。
FBXW7変異:ユビキチン経路の異常を示す7)。
組織学的には低悪性度肉腫に分類される。紡錘形〜卵円形の腫瘍細胞が車輪状または渦巻状のパターンを呈する。弱い好酸性の細胞質と、小型成熟リンパ球の浸潤が特徴的である。核内偽封入体(nuclear pseudoinclusion)がしばしば認められる。
EGFRの過剰発現はほぼ全例で認められ、肉腫であるにもかかわらず上皮系増殖因子受容体が高発現する点が特異的である。
FDCSに対する新規治療の探索が進められている。PD-L1が50〜80%の症例で陽性であることから、免疫チェックポイント阻害薬への期待が高い4)。
Leiら(2021)は、多剤化学療法後に進行した腸管FDCS症例に対し、PD-1抗体シンチリマブとレンバチニブの併用を三次治療として投与した。無増悪生存期間は7ヶ月であり、二次治療の3ヶ月を上回った。PD-L1発現率は90%であった4)。
免疫チェックポイント阻害薬に関する追加報告として、ニボルマブとイピリムマブの併用で安定病態が得られた2例がある4)。一方、ニボルマブ単剤は無効であった症例も報告されている4)。
分子標的治療として以下の報告がある。
ペムブロリズマブの第II相臨床試験(NCT03316573)が進行中であり、FDCS を含む樹状細胞腫瘍に対する有効性が評価されている4)。
NGS(次世代シーケンシング)による分子プロファイリングの進展も注目される。TP53・RB1・FBXW7の機能喪失変異が繰り返し報告されており7)、これらの分子異常を標的とした治療開発が今後の課題である。