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神経眼科

CAPOS症候群

CAPOS症候群は、以下の5大徴候の頭文字をとった名称の稀な神経疾患である。

  • C:Cerebellar ataxia(小脳失調)
  • A:Areflexia(反射消失)
  • P:Pes cavus(凹足)
  • O:Optic atrophy(視神経萎縮)
  • S:Sensorineural hearing loss(感音難聴)

1996年にNicolaidesらが初めて報告した。1家族3名に早期発症小脳失調・進行性視神経萎縮・反射消失・凹足変形を認め、独立した症候群として記述された。患者数は世界で1,000人未満と推定され、2020年時点の英語文献報告症例数は33例にとどまる。乳児期から症状が現れることがある。

原因遺伝子はATP1A3(第19染色体19q13)であり、Na⁺/K⁺-ATPaseのα3サブユニットをコードする。ATP1A3変異による疾患スペクトラムには、CAPOS以外にも急性発症ジストニア・パーキンソニズム(RDP)、小児交互性偏麻痺(AHC)、重度乳児てんかん性脳症の4表現型が知られる。1)

Q CAPOS症候群の患者数はどのくらいか?
A

世界での患者数は1,000人未満と推定される。2020年時点で英語文献で報告された症例数は33例であり、きわめて稀な疾患である。

発熱や感染を誘因として急性発作が起こる。発作時の主な症状は以下の通りである。

  • 歩行障害(失調):小脳炎症による運動協調性の喪失
  • 筋力低下:四肢の脱力
  • 構音障害:話しづらさ・ろれつが回らない
  • 嚥下障害:飲み込みにくさ
  • 意識障害・けいれん:重症例では昏睡に至ることもある
  • 視力低下:視神経萎縮による進行性の低下
  • 難聴:感音難聴として出現

CAPOS症候群の5大徴候を神経系・眼・耳足の3群に分類して示す。

神経系

小脳失調(Cerebellar ataxia):小脳の炎症による筋運動の協調性喪失。発作性に出現し、部分的な回復を示す。

反射消失(Areflexia):深部腱反射の消失。反射減弱(hyporeflexia)として出現することもある。

視神経萎縮(Optic atrophy)網膜神経節細胞軸索の死滅による。進行性の視力低下を引き起こす。

眼球運動異常眼振(nystagmus)や斜視(strabismus)が発作的に出現することがある。

耳・足

感音難聴(Sensorineural hearing loss):内耳または聴神経の損傷に起因する難聴。

凹足(Pes cavus):土踏まずが異常に高い足の変形。

その他の所見として、筋緊張低下(hypotonia)またはジストニア、ミオクローヌス、動作緩慢(bradykinesia)、自閉的行動、知的障害、心伝導ブロック、認知機能障害が報告されている。

Q 発作が起きたとき、どのような症状に注意すべきか?
A

発熱時に急性の失調・筋力低下・構音障害・嚥下障害が出現した場合は発作の可能性がある。意識障害やけいれんが加わる場合は重症例であり、速やかに医療機関を受診する必要がある。詳細は「自覚症状」の項を参照。

CAPOS症候群の原因は、第19染色体(19q13)上のATP1A3遺伝子の変異である。この変異によりNa⁺/K⁺-ATPaseのα3ポリペプチドが機能障害を起こし、細胞膜を隔てた電気化学的勾配が歪む。

遺伝形式は常染色体優性遺伝であり、罹患者の子が疾患を受け継ぐ確率は50%である。一方、de novo変異(新規孤発性変異)としても発生するため、家族歴は診断に必須ではない。出生前診断が可能である。

主な発症誘因は以下の通りである。

  • 感染に伴う発熱:最も重要な誘因
  • 出産:分娩が誘因となった報告がある

α3サブユニットはGABAergicニューロン(基底核全核:線条体、淡蒼球、視床下核、黒質)に集中して発現しており、微細運動制御の重要な回路に関与する。1)

Q 家族に患者がいなくてもCAPOS症候群になることはあるか?
A

なる可能性がある。CAPOS症候群はde novo変異(新規孤発性変異)として発生しうるため、家族歴がない場合でも診断を否定できない。常染色体優性遺伝疾患であるが、孤発例も報告されている。

CAPOS症候群の診断は、5大徴候(CAPOS)の臨床症状に基づく臨床診断と、ATP1A3遺伝子変異の同定による遺伝子診断の組み合わせによる。

  • 遺伝子診断:全エクソームシーケンシング(WES)等でATP1A3変異を同定する2)
  • 脳MRI:通常正常だが、4/35例(11.4%)で小脳萎縮・脳梁低形成・前交連低形成を認めた1)
  • 髄液検査・代謝スクリーニング:通常正常。他疾患の除外に使用する
  • 脳波(EEG):通常正常2)

ATP1A3関連疾患スペクトラム内での鑑別および他疾患との鑑別が重要である。

ATP1A3関連4表現型の鑑別を以下に示す。

疾患主な特徴CAPOS特有の徴候
CAPOS発熱誘発・失調・視神経萎縮・難聴・凹足あり(視神経萎縮・難聴・凹足)
RECA/FIPWE(756残基変異)発熱誘発・失調・筋緊張低下なし1)
AHC片麻痺発作・睡眠で改善・ジストニアなし2)
RDPジストニア+パーキンソニズム・永続的なし2)

その他の鑑別疾患として以下が挙げられる。

  • 感染性脳炎:発熱時の急性神経症状との鑑別が必要2)
  • Fisher症候群:運動失調・腱反射消失・外眼筋麻痺の三徴。抗GQ1b抗体陽性率80%以上、髄液蛋白細胞解離が特徴
  • Wolfram症候群(DIDMOAD):若年発症糖尿病+視神経萎縮+尿崩症+難聴。WFS1遺伝子変異
  • ADOA(常染色体優性視神経萎縮):学童期発症。OPA1遺伝子変異、後天性第三色覚異常

根本的治療法は現時点で確立されていない。治療の中心は対症療法と発作の予防である。

  • 理学療法(PT):運動失調・筋力低下に対するリハビリテーション
  • 作業療法(OT):日常生活動作の維持・改善
  • 言語療法(ST):構音障害・嚥下障害への対応
  • 視力低下・難聴:標準的な医療管理(補聴器、低視力補助具など)
  • 積極的な解熱管理:定期的な解熱薬投与と十分な水分摂取により、発達退行を回避できた症例報告がある2)
  • アセタゾラミド(acetazolamide):炭酸脱水素酵素阻害薬。代謝性アシドーシスを誘導することでイオン漏出を減少させ、ニューロンの興奮性を正常化する可能性が示唆される。ただし症例報告での効果は限定的である
  • フルナリジン(flunarizine):AHCで使用実績があり、CAPOS管理にも使用されることがある
  • トピラマート(topiramate)ケトン食:一部で使用が報告されている
  • オクスカルバゼピン:Na⁺/K⁺-ATPaseポンプ機構への作用が期待されたが、有効性は確認されず中止された症例がある2)
Q 発熱時にどのような対策をとればよいか?
A

定期的な解熱薬投与と十分な水分摂取が、発達退行の回避に寄与した症例報告がある2)。発熱を早期に察知して積極的に管理することが推奨される。詳細な対応については主治医に相談すること。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ATP1A3遺伝子はNa⁺/K⁺-ATPaseポンプのα3サブユニットをコードする。このポンプは3分子のNa⁺を細胞外へ、2分子のK⁺を細胞内へ輸送し、細胞膜の電気化学的勾配を維持する機能を持つ。1)

α3サブユニットの発現はニューロン(特にGABAergicニューロン)に限定される。基底核(線条体、淡蒼球、視床下核、黒質)に集中して発現しており、微細運動制御の重要な神経回路を形成している。ATP1A3変異によりα3ポリペプチドが機能障害を起こすと、電気化学的勾配が歪み、神経細胞の興奮性が異常となる。1)

CAPOS症候群に特異的な変異として、c.2452G>A(p.Glu818Lys)が知られている。一方、756残基変異(p.Arg756His/Cys/Leu)はCAPOSではなくRECA/FIPWEを引き起こし、CAPOS特有の難聴・視神経萎縮・凹足を示さない点が重要な鑑別点である。1)

ATP1A3変異と表現型の対応を以下に示す。

変異表現型特徴的な症状
p.Glu818LysCAPOS視神経萎縮・難聴・凹足あり
p.Arg756His(34例)RECA/FIPWE視神経萎縮・難聴・凹足なし1)
p.Arg756Cys(20例)RECA/FIPWE視神経萎縮・難聴・凹足なし1)
p.Arg756Leu(3例)RECA/FIPWE視神経萎縮・難聴・凹足なし1)

視神経萎縮の病態については、ADOA(OPA1遺伝子変異によるミトコンドリア機能障害)やWolfram症候群(WFS1遺伝子変異による小胞体機能障害)と類似した網膜神経節細胞死の機序が、CAPOS症候群においても関与している可能性が示唆されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

ATP1A3表現型スペクトラムの拡大

Section titled “ATP1A3表現型スペクトラムの拡大”

AHC・RDP・CAPOSに加え、RECA/FIPWEが新たに提唱され、ATP1A3疾患スペクトラムの遺伝子型-表現型相関の精緻化が進んでいる。1)2)

Bielaら(2021)は756残基変異57例(p.Arg756His 34例、p.Arg756Cys 20例、p.Arg756Leu 3例)の文献レビューを実施した1)。35例の詳細解析では、発作時症状として重度筋緊張低下(30/35, 85.7%)・失調(28/35, 80.0%)・構音障害(26/35, 74.3%)・意識障害(22/35, 62.9%)・ジストニア(21/35, 60.0%)・嚥下障害(18/35, 51.4%)・舞踏様運動(9/35, 25.7%)・眼球運動症状(8/35, 22.9%)が報告された。初回発作年齢は8か月〜10歳(中央値1.9歳)で、19/35例(54.3%)が2歳未満での発作であった。

p.Arg756His群とp.Arg756Cys群の比較では、意識障害の頻度に差異がみられた(47.4% vs 76.9%)。p.Arg756Cys群では認知発達遅延の頻度がより高かった。1)

長期予後と脳画像フォローアップ

Section titled “長期予後と脳画像フォローアップ”

小脳萎縮は遅発性に出現する可能性があるため、長期にわたる脳MRIフォローアップが推奨される。1) 小児期以降は疾患の進行が通常認められないことが報告されている。発作エピソードおよび神経学的転帰の悪化を防ぐ予防治療は、現時点では存在しない。1)


  1. Biela M, Rydzanicz M, Szymanska K, et al. Variants of ATP1A3 in residue 756 cause a separate phenotype of relapsing encephalopathy with cerebellar ataxia (RECA)—Report of two cases and literature review. Mol Genet Genomic Med. 2021;9:e1772.
  2. Tahir S, Chencheri N, Abdalla AA, et al. A Rare Cause of Recurrent Febrile Encephalopathy in a Child: The Expanding Spectrum of ATP1A3 Mutations. Cureus. 2021;13(12):e20438.

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