後半規管型
誘発試験:Dix-Hallpike試験(患側下)
眼振の方向:上打ち回旋性眼振(upbeat-torsional nystagmus)
潜時:2〜20秒
持続時間:通常1分未満で増強後消失
減衰:反復検査で眼振が減弱する(fatigability)
座位復帰:頭位を戻すと眼振方向が逆転しうる

良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertigo; BPPV)は、半規管内へ迷入した耳石(炭酸カルシウム結晶)が頭位変化時に内リンパを流動させることで誘発される、反復性の回転性めまい発作を特徴とする疾患である。めまい全体の17.1%を占め、高齢者ではめまいの約50%がBPPVに起因するとされる5)。難聴や神経学的症状を伴わない点が特徴であり、「良性」の名称はそのことを反映している。
生涯有病率2.4%、1年有病率1.6%、年間発生率0.6%であり4)5)、一般集団の累積罹患率は10%に達する10)。有病率は11〜64/100,000人と報告されている8)。60歳代女性に多く、小児BPPVは全体の1%にとどまり加齢とともに有病率が上昇する2)4)。
眼科医にとっての重要性は、動揺視(oscillopsia)・霧視・頭位誘発眼振の評価において中心的な役割を担う点にある。またDix-Hallpike試験や仰臥位頭部回旋試験で観察される眼振の性状が、中枢性疾患(小脳・脳幹病変)との鑑別の鍵となる。
BPPVはめまい疾患の中で最も頻度が高い末梢性めまいである。生涯有病率は2.4%、一般集団の累積罹患率は10%に達し10)、高齢者のめまいの約50%を占める5)。
BPPVの主症状は、特定の頭位変化によって誘発される短時間の回転性めまい発作の反復である。
頭位誘発眼振の性状が診断の核心である。罹患半規管の部位によって眼振の特徴が異なる。
後半規管型
誘発試験:Dix-Hallpike試験(患側下)
眼振の方向:上打ち回旋性眼振(upbeat-torsional nystagmus)
潜時:2〜20秒
持続時間:通常1分未満で増強後消失
減衰:反復検査で眼振が減弱する(fatigability)
座位復帰:頭位を戻すと眼振方向が逆転しうる
水平半規管型
誘発試験:仰臥位頭部回旋試験(supine roll test)
眼振の方向:水平眼振(向地性または背地性)
潜時:後半規管型より短いか、ほぼなし
持続時間:60秒を超えることがある
減衰:向地性では認めるが背地性では乏しい
偽自発眼振(PSN):座位でも持続性水平眼振を呈することがある6)
半規管結石症(CAN)とクプラ結石症(CUP)の鑑別は治療法の選択に影響する。
| 鑑別点 | 半規管結石症(CAN) | クプラ結石症(CUP) |
|---|---|---|
| 発作持続 | 60秒未満 | 60秒超 |
| 潜時 | 2〜5秒あり | なし〜短い |
| 減衰 | あり | なし |
BPPVの約50%は特発性であり、加齢による卵形嚢黄斑の変性が主因と推定されている5)10)。残りは二次性であり、以下の原因が知られている。
二次性BPPVの主な原因
主なリスク因子
COVID-19後のBPPV(PC-BPPV)の発症が報告されている。COVID-19による微小血栓形成・過凝固状態が内耳微小循環障害を引き起こし、耳石脱落につながると推定されている5)。いずれの報告症例もEpley法で寛解している。
後半規管型BPPVの診断に用いる標準的な検査法である。
手技:座位で頭部を患側に45度回旋させた状態から、頭部を30度垂下させながら仰臥位へ迅速に移行する。上打ち回旋性眼振の出現を確認する。
判定基準:潜時後の上打ち回旋性眼振(30秒未満)、反復で減衰(fatigability)が認められると陽性とする。
検査精度:成人での感度79%、特異度75%2)。水平眼振が出現する場合は水平半規管型BPPVを考慮し、仰臥位頭部回旋試験(supine roll test)を追加する。
仰臥位で頭部を左右に急速回旋させる。
BPPVと鑑別すべき主な疾患を以下に示す。
| 疾患 | 持続時間 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| メニエール病 | 数分〜数時間 | 耳鳴り・低音域難聴・耳閉感 |
| 前庭神経炎 | 数日〜数週間 | 安静時にもめまい、ウイルス前駆症状 |
| 前庭性片頭痛 | 数秒〜数時間 | 片頭痛を伴う、頻繁に再発 |
| 中枢性頭位めまい | 持続性 | 下打ち眼振、眼筋麻痺、回旋成分欠如 |
中枢性頭位めまい:小脳病変では下打ち眼振が持続的に出現し、BPPVの一過性上打ち回旋性眼振と対照的である。回旋成分を欠く純粋な垂直眼振も中枢性を示唆する。
前庭発作症:前庭神経の血管圧迫を原因とし、数秒〜数分持続する。カルバマゼピンやオクスカルバゼピンに反応する点で鑑別される。
上半規管裂隙症候群:大きな音・バルサルバ法・圧力変化がめまいのトリガーとなる点でBPPVと異なる。
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい):3か月以上持続する浮動感・不安定感・視覚過敏を特徴とする。BPPVが誘因となり移行することがある。
起立性低血圧:立ち上がり時のみに症状が出現し、血圧測定で鑑別される。
小児の場合:後頭蓋窩腫瘍などの中枢性病変の除外が特に重要であり、MRIおよび完全な神経学的評価が必要となる2)。
否定できない。水平半規管型BPPVではDix-Hallpike試験が陰性となるため、仰臥位頭部回旋試験が別途必要である。また誘発手技中にめまいはあるが眼振が出現しない「自覚的BPPV」も存在する。検査感度は成人で79%であり2)、臨床的に疑う場合は繰り返し評価する。
BPPVの治療は耳石置換法(canalith repositioning maneuver)が基本であり、薬物療法ではなく物理的手技が第一選択である。未治療でも通常は自然消失するが、整復操作により早期寛解が得られる。
Epley法
対象:後半規管型BPPV(最も一般的)
概要:頭部と体の連続的位置変換により後半規管から耳石を卵形嚢へ移動させる。
有効性:1〜2回の施行で多くの症例が寛解する。ほぼすべての症例報告でEpley法が適用され寛解が得られている1)2)3)4)8)9)。
Semont法
対象:後半規管型BPPVのEpley法代替
概要:座位から患側下方に急速に倒し、続いて反対側に素早く転換する手技である。
有効性:Epley法の代替として有効だが、Epley法の方が効果的な可能性がある。
Lempert法
対象:水平半規管型BPPV(半規管結石症)
概要:仰臥位で頸椎30度屈曲させ、頭部を患側90度回旋→30秒保持→中立→健側90度→腹臥位の順に360度回転させる(BBQロール)。眼振・めまいが消失するまで繰り返す7)。
有効性:救急外来での施行例で完全寛解が得られ、当日退院が実現した7)。
Gufoni法:クプラ結石症(CUP)型の水平半規管型BPPVに有効とされる6)。
1年再発率は15%、5年再発率は37〜50%に達する10)。外傷後BPPVや水平半規管型ではさらに高い再発率が報告されている。ビタミンD欠乏のある症例では補充療法が再発予防に有効な可能性がある1)5)。
BPPVの発症機序は**半規管結石症(canalithiasis)とクプラ結石症(cupulolithiasis)**の2つに大別される。
卵形嚢黄斑から脱落した耳石粒子が半規管内(主に後半規管)のクプラ付近に集合する。頭位変化時に重力の作用で内リンパ管内を移動し、プランジャー効果でクプラを同方向に偏位させる。この不適切なクプラ偏位が脳に誤った回転運動情報を送り、めまい・一過性眼振を誘発する。位置依存的・短時間・減衰性・潜時あり、という特徴をとる。
耳石が内リンパ中に浮遊するのではなく、クプラに直接付着する。クプラの比重が変化し重力依存性の持続的偏位が生じる。このため頭位保持中も症状が持続し、減衰しない。水平半規管型では座位でも偽自発眼振(PSN)を呈することがある6)。
Schwarzら(2022)は水平半規管型BPPVにおけるPSNの機序として、クプラ下部への耳石付着が重力依存性の持続偏位を引き起こすという新機序を提唱した6)。水平半規管の解剖学的な前方30度傾斜や「canalith jam」に加え、クプラ結石症がPSNの原因となりうる。
耳石脱落には複数の機序が関与する。
COVID-19後のBPPV(PC-BPPV)の発症機序として、COVID-19特有の微小血栓形成・過凝固状態が内耳微小循環障害を引き起こす可能性が提唱されている5)。COVID-19パンデミック期間中のBPPV発症率増加が観察されており、今後の大規模研究による検証が待たれる。
Maslovaraら(2021)はCOVID-19軽症後約1か月で右側後半規管型BPPVを発症した2症例(28〜41歳女性)を報告した5)。いずれもEpley法2回で寛解し、COVID-19特有の炎症性・微小血管性機序が病因として考察された。
外傷後・スポーツ関連BPPVの研究が進んでいる。
Warmingら(2023)はサッカー選手のBPPV症例を報告し、若年成人BPPVの22%にアマチュアサッカー歴があったことを示した10)。当該症例では主にクプラ結石症型・水平半規管型が関与し、2年間で10回の治療セッション・6年後のフォローアップで完全寛解を達成した。
TRV-chair(機械的回転椅子)を用いた強化整復法(potentiated Epley法・dynamic BBQ roll法)は、標準的な手技に抵抗する外傷後BPPV症例への応用が検討されている10)。
脳振盪後BPPVでは、診断が数週間遅れることが多いと報告されている9)。
Bashirら(2023)は2名のラグビー選手(15〜16歳)の脳振盪後BPPVを報告し、症状発現から確定診断まで5〜6週間を要したと述べた9)。ED医師の85%が薬物療法のみで対応し、物理的手技を第一選択としたのは4%にとどまっており、Gagne’s nine stepsに基づく教育プログラムによる改善が提案されている。
Epley法などの整復術がエピジェネティクス修飾を引き起こす可能性が示唆されており(Tsai et al. 2016)、BPPVの分子機構解明に向けた研究が進行中である5)。