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緑内障

ゴースト細胞緑内障

ゴースト細胞緑内障は、硝子体出血後に変性した赤血球(ゴースト細胞)が線維柱帯を閉塞し、房水流出抵抗が上昇することで眼圧上昇をきたす続発開放隅角緑内障である1)。1976年にCampbellらによって初めて報告された。

ゴースト細胞とは、硝子体中に数週間以上停留した赤血球が、細胞内容成分(ヘモグロビン)をほぼ消失し、変性ヘモグロビンのみが残った中空の胞体である。正常赤血球と比較して変形能が著しく低下しており、線維柱帯の通過が困難となる。

眼内出血に伴う緑内障にはゴースト細胞緑内障以外にも複数の病型がある1)

病型機序発症時期
前房出血赤血球によるTM閉塞受傷直後
溶血性マクロファージによるTM閉塞数日〜数週
ゴースト細胞性変性赤血球によるTM閉塞1〜3ヶ月

溶血性緑内障とゴースト細胞緑内障は臨床像が類似することがある1)。鑑別には前房穿刺液の顕微鏡検査が有用である。

硝子体出血による視力低下に加え、出血後しばらくして眼圧上昇に伴う症状が出現する。眼圧上昇の程度は硝子体出血の量やゴースト細胞の前房への移動量により異なる。

主な自覚症状は以下の通りである。

  • 霧視
  • 眼痛・眉間部痛
  • 悪心・嘔吐(高眼圧時)
  • 頭痛

眼圧は著しく上昇し、60〜70 mmHgに達することもある。重度の眼圧上昇から予想されるよりも疼痛が軽いことが特徴的である。

前房所見:カーキ色(土褐色)の小さな球状細胞が前房内を循環する1)2)。ゴースト細胞が多量の場合は偽前房蓄膿を形成する。新鮮赤血球とゴースト細胞が共存する場合、下方に重い新鮮赤血球層、上方に軽いカーキ色のゴースト細胞層が重なり「キャンディストライプ」様の外観を呈する。

隅角鏡所見:隅角は開放しており、線維柱帯の下方にゴースト細胞が層状に沈着していることがある1)。隅角閉塞は認めない。

硝子体所見:古い出血の様相を呈し、カーキ色の赤血球や変性ヘモグロビンによる細胞外色素塊を認める。

角膜所見:高眼圧が持続する場合は角膜浮腫を生じる。高度な前房出血に高眼圧が合併すると角膜染血症をきたすことがある。

ゴースト細胞緑内障の直接的な原因は硝子体出血である1)。硝子体出血をきたす原因として以下が挙げられる。

ゴースト細胞緑内障の発症には2つの条件が必要である。

  1. 硝子体中に赤血球が数週間以上閉じ込められること
  2. 前部硝子体面が破壊され硝子体前房間に交通があること

前房出血のみでゴースト細胞緑内障が発症することはまれである。

外傷後緑内障のリスク要因として、高齢、初診時視力0.1未満、虹彩損傷、水晶体損傷、前房出血、隅角後退が報告されている。

ゴースト細胞緑内障の診断は臨床所見に基づく。以下の要素を総合して診断する。

  • 硝子体出血の既往(手術、外傷、網膜疾患など)
  • 出血後1〜3ヶ月の遅発性眼圧上昇
  • 前房内のカーキ色の小胞
  • 隅角鏡検査での開放隅角
  • 前部硝子体面の破綻所見

前房穿刺液の顕微鏡検査により確定診断が可能である。位相差顕微鏡検査で、細胞膜内側に変性ヘモグロビン残渣(ハインツ小体:Heinz body)を有する球状の赤血球を確認する。H&E染色でもハインツ小体が観察される。

硝子体出血後の眼圧上昇では常に新生血管緑内障を除外する必要がある1)。特に糖尿病や網膜血管疾患の既往がある場合は注意が必要である。

溶血性緑内障

機序:ヘモグロビンを含有するマクロファージがTMを閉塞

前房所見:赤色調の細胞

TM変色:赤褐色の色素沈着1)

発症時期:出血後数日〜数週間

特徴:ゴースト細胞緑内障と臨床像が類似する1)

ヘモジデリン緑内障

機序:鉄沈着による線維柱帯の慢性損傷

前房所見:ゴースト細胞を認めない

TM変色:わずかな変色のみ

発症時期:原因損傷から数年後

特徴:極めて稀な慢性経過の緑内障

Q ゴースト細胞緑内障と溶血性緑内障はどう鑑別しますか?
A

溶血性緑内障ではヘモグロビンを取り込んだマクロファージと赤血球破片が線維柱帯を閉塞し、前房水は赤色調を呈する。一方ゴースト細胞緑内障では、変性して中空となったカーキ色のゴースト細胞が線維柱帯を閉塞する。前房穿刺液の顕微鏡検査で両者を鑑別できる。ただし臨床像は類似することがある1)

房水産生抑制薬が第一選択である2)β遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬、α₂受容体作動薬などを単剤または併用で使用する。急性期で眼圧が著しく高い場合は経口炭酸脱水酵素阻害薬やマンニトール静注を追加する。

薬物療法で眼圧がコントロールできない場合は外科的治療を考慮する。眼圧上昇の原因を取り除く意味でも、外科的にゴースト細胞を除去することが望ましいとされている。

前房洗浄:前房穿刺によりゴースト細胞を洗い出す。比較的単純で安全な処置であり、繰り返し施行可能である。洗浄後も硝子体由来のゴースト細胞が再蓄積する場合がある。

硝子体切除術(PPV:前房洗浄で効果不十分な場合に施行する。硝子体腔内のゴースト細胞供給源を除去する根本的治療である。

濾過手術:ゴースト細胞による線維柱帯の慢性的閉塞に起因する難治性緑内障に対しては、線維柱帯切除術緑内障ドレナージデバイスの使用が適応となる。ただし外傷や手術の既往がある場合は結膜の瘢痕化により濾過手術が困難なことが多い。難治例には毛様体破壊術や緑内障インプラント手術も考慮する。

ゴースト細胞緑内障は通常、一過性の病態であり、硝子体出血が消失すれば治癒する。硝子体腔内のゴースト細胞の供給が尽きれば前房への再蓄積は停止する。ただし完全に消失するまでに数週間〜数ヶ月を要することがある。眼圧コントロール不良が持続すると視神経障害をきたすため、早期の適切な治療が重要である。

Q ゴースト細胞緑内障は治りますか?
A

多くの場合、ゴースト細胞緑内障は一過性であり、硝子体出血が消失すれば治癒する。房水産生抑制薬による薬物療法で眼圧をコントロールしながら経過観察し、難治例には前房洗浄や硝子体切除術でゴースト細胞を除去する。硝子体腔内のゴースト細胞供給が尽きれば再蓄積は停止する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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硝子体出血後3〜10日で血栓が線維素溶解を起こし、赤血球が硝子体腔全体に拡散する。硝子体中に数週間以上停留した赤血球は以下の変化をたどる。

  1. 細胞内ヘモグロビンが細胞外の硝子体腔へ流出する
  2. 流出したヘモグロビンは硝子体線維に付着する
  3. 赤血球は細胞膜以外の成分がほとんど消失した中空の胞体となる
  4. 残存する変性ヘモグロビンはハインツ小体として細胞膜内壁に沈着する

このようにして形成されたゴースト細胞は、正常赤血球と比較して以下の特徴を持つ。

  • 大きさ:4〜7μm(正常赤血球と同等)
  • 形態:球状(正常赤血球の両凹円盤状と異なる)
  • 色調:カーキ色(正常赤血球の赤色と異なる)
  • 変形能:著しく低下し硬い
  • 付着性:細胞同士や硝子体線維には付着しない

ゴースト細胞は変形能を失っているため、線維柱帯の細孔を通過できない1)。大量のゴースト細胞が前房に流入すると線維柱帯内に蓄積し、房水流出抵抗が急激に上昇する。

前房への流入経路は、手術、外傷、または自然な破綻により損傷した前部硝子体面(前部硝子体境界膜)である1)。この経路が存在しなければゴースト細胞は前房に到達できず、緑内障は発症しない。

眼圧上昇の程度は硝子体出血の量、ゴースト細胞の変性の程度、前房への移動量に依存する。数週間〜数ヶ月持続し、著明な場合は角膜浮腫・眼痛・悪心などの高眼圧症状を呈する。

外傷後の前房出血では受傷後3〜7日に再出血が生じることがある(頻度5〜10%)2)。再出血は初回出血より多量で重篤となることが多い。大量の前房出血では「8ボール前房出血(8 ball hyphema)」と呼ばれる前房全体が黒褐色となる状態を呈することがある。

Q 前房出血だけでゴースト細胞緑内障になることはありますか?
A

前房出血のみでゴースト細胞緑内障が発症することはまれである。ゴースト細胞が形成されるには硝子体中に赤血球が数週間閉じ込められる必要があり、さらに前部硝子体面が破壊されて硝子体前房間に交通がなければゴースト細胞は前房に到達できない。前房出血単独による眼圧上昇は、赤血球自体による線維柱帯の直接閉塞が原因であり、ゴースト細胞緑内障とは機序が異なる。

ゴースト細胞緑内障は比較的稀な疾患であり、大規模な臨床試験や最新の治療開発に関する報告は限定的である。近年は硝子体切除術の安全性向上や、網膜疾患による硝子体出血の増加に伴い、診断・治療法の標準化が重要性を増している。

  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-230.
  2. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021;105(Suppl 1):1-169.
  3. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

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