瞳孔所見
散瞳固定:光刺激にも調節にも反応しない。瞳孔径は7.5〜9 mmに達する1)2)3)4)。
縮瞳薬への無反応:ピロカルピン2〜4%やカルバコールに反応しない1)2)3)。
発症時期:80.9%が術後2日目までに検出されるが、術後5ヶ月まで遅発する例もある。

ウレッツ・ザバリア症候群(Urrets-Zavalia syndrome: UZS)は、眼科手術後に瞳孔が散瞳固定し、光刺激や縮瞳薬に反応しなくなるまれな術後合併症である。1963年にアルゼンチンの眼科医Alberto Urrets-Zavaliaが、全層角膜移植術(PKP)後に散瞳固定・虹彩後癒着・虹彩萎縮を呈した6症例を初めて報告した。
当初はPKP後の合併症として認識されていたが、現在では多数の眼科手術後に発生することが判明している1)2)3)4)。PKP後の発生率は0〜17.7%と報告されており、通常は片眼性に発生する。白内障術後の全体発生率は8.2%とされる4)。これまでに約100例の症例報告が公表されている2)4)。
| 関連手術 | 特徴 |
|---|---|
| 全層角膜移植術(PKP) | 最多、発生率0〜17.7% |
| 深層層状角膜移植術(DALK) | 2番目に多い、発生率7.5% |
| 角膜内皮移植術(DSAEK) | 空気注入・再注入後に発生 |
| 白内障手術 | TASS関連が多い4) |
| 有水晶体眼内レンズ(ICL) | 瞳孔ブロック関連3) |
| 内視鏡的毛様体光凝固術(ECP) | 初の報告例あり2) |
| 強膜縫着眼内レンズ | 初の報告例あり1) |
UZSは当初PKP後の合併症として報告されたが、現在ではDALK、DSAEK、白内障手術、線維柱帯切除術、有水晶体眼内レンズ(ICL)挿入術、内視鏡的毛様体光凝固術(ECP)、強膜縫着眼内レンズ挿入術など、多数の眼科手術後に報告されている1)2)3)4)。さらに、アルゴンレーザー周辺虹彩形成術や経強膜毛様体光凝固術の後にも発生が報告されている。これらに共通するのは、虹彩虚血を引き起こしうる状況であること、および術後の眼圧上昇である。
瞳孔所見
散瞳固定:光刺激にも調節にも反応しない。瞳孔径は7.5〜9 mmに達する1)2)3)4)。
縮瞳薬への無反応:ピロカルピン2〜4%やカルバコールに反応しない1)2)3)。
発症時期:80.9%が術後2日目までに検出されるが、術後5ヶ月まで遅発する例もある。
虹彩・前房所見
虹彩萎縮:前層・後層のびまん性萎縮を認める4)。透過性亢進を呈する。
周辺虹彩前癒着(PAS):隅角閉塞の原因となる4)。
虹彩後癒着:水晶体前嚢上の色素沈着を伴うことがある4)。
円錐角膜眼では、PKP後のUZS発生率が非円錐角膜眼の約10倍高い(7.8% vs 0.8%)。これには以下の機序が考えられている。第一に、円錐角膜眼の低い強膜剛性により、術中に強膜内の虹彩根部血管が閉塞しやすくなる。第二に、円錐角膜眼に固有の虹彩異常が存在する可能性がある。ただし、201例のPKP症例でUZSを認めなかったとする報告もあり、円錐角膜の関与の程度については議論が残る。
UZSは特徴的な臨床像と手術歴から臨床的に診断する。術後に散瞳固定が認められ、縮瞳薬に反応しないことが診断の根拠となる。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 外傷性散瞳 | 眼外傷歴あり、不整形散瞳 |
| Adie瞳孔(緊張性瞳孔) | 低濃度ピロカルピンに過敏 |
| 動眼神経麻痺 | 眼瞼下垂・眼球運動障害 |
| TASS | 術後早期の前房内炎症 |
| 薬剤性散瞳 | 散瞳薬の影響が消退すれば回復 |
| 急性緑内障発作後 | 高眼圧発作歴 |
中毒性前眼部症候群(TASS)はUZSの重要なリスク因子の一つである。TASSでは術後早期に前房内炎症が発生し、瞳孔括約筋の壊死が生じて散瞳固定に至る5)。典型的にはTASSの炎症と同時に散瞳固定が出現するが、術後2週間で炎症が出現し、その1週間後にUZSが発症した遅発例も報告されている4)。TASSとUZSの鑑別というよりも、TASSがUZSの原因となるという因果関係がある。
UZSは一度発症すると不可逆的であることが多いため、予防が最も重要である。
術前の予防策:
術中の予防策:
術後の予防策:
眼圧上昇への対応
前房洗浄:残存した血液や粘弾性物質が原因の場合は直ちに施行する。
隅角解離:前房浅水化による虹彩・角膜接触が原因の場合、前房を再形成し接触を解除する。
薬物的眼圧降下:ブリンゾラミド・ブリモニジン・チモロールなどの併用1)。
薬物療法
ダピプラゾール:交感神経遮断薬。虹彩交感神経系の過活動に対処し縮瞳を誘導する目的で使用される。
グアネチジン・ピロカルピン併用:虹彩の交感神経痙攣を治療する報告があるが、多くの報告で効果は限定的である。
UZSの正確な原因は不明であるため完全な予防は困難であるが、いくつかの有効な予防策が報告されている。術前の静脈内マンニトール投与は発生率を4%から1.5%に低下させる。術前のYAGレーザー虹彩切開術も有効とされる。術中には前房を深く保ち、周辺虹彩切開術を施行し、粘弾性物質を確実に除去することが重要である。術後は24時間の厳密な眼圧管理と散瞳薬の回避が推奨される。Plateau iris形態を有する患者では、薬理学的散瞳の代わりに機械的散瞳(iris hooks)の使用を考慮すべきとの提案もある1)。
UZSの主要な病態として、虹彩の虚血と瞳孔括約筋の壊死が最も広く受け入れられている1)2)。
虹彩蛍光血管造影では、UZS患者において虹彩血管の充盈遅延・分節状充盈・血管の蛇行・後期の漏出が認められる。これらの所見は重度の虹彩虚血と一致する。
術後の急激な眼圧上昇が虹彩血管を閉塞させ、虹彩虚血を引き起こすとする説が有力である。PKP後24時間以内の眼圧上昇はUZS発症の有意なリスク因子である。白内障手術においても、術周期に眼内炎・TASSまたは過度の眼圧上昇が生じると、瞳孔括約筋壊死から慢性的な散瞳に至りうる5)。
一方、眼圧上昇のないUZS症例も報告されており、Urrets-Zavaliaの原著論文の全症例で眼圧は正常であった。
72歳男性が両側のECP/白内障同時手術を受け、両眼とも術後に眼圧36 mmHgまで上昇したが、ベースライン眼圧が低かった右眼(17 mmHg)のみにUZSが発症し、ベースライン眼圧が高かった左眼(21 mmHg)は発症しなかった2)。これは、ベースライン眼圧が低い眼では同程度の眼圧上昇でも虹彩虚血が生じやすい可能性を示唆する。
Plateau iris形態を有する眼では、虹彩周辺部が角膜に近接しているため、散瞳時に虹彩周辺部血管が圧迫されやすい1)。強膜縫着眼内レンズ挿入後にUZSを発症した患者の僚眼にplateau iris形態が認められた報告があり、虹彩解剖学的特徴がUZSの素因となる可能性が示唆されている1)。
硝子体切除液中のエピネフリンは小血管収縮作用を有し、術中の虹彩虚血を引き起こす可能性がある1)。長時間の散瞳維持と相まって、瞳孔括約筋の不可逆的虚血性損傷に至る可能性がある。
UZSの病態は単一の機序では説明できず、多因子性であると考えられている2)。虹彩蛍光血管造影で虹彩虚血所見を認めない症例も報告されており、すべてのUZSが虹彩虚血で説明できるわけではない。虹彩への直接的な手術的外傷、散瞳薬の毒性、炎症反応なども関与する可能性がある。
近年、従来報告されていなかった手術でのUZS発症例が相次いで報告されている。2024年には強膜縫着眼内レンズ挿入後の初の症例が報告され1)、内視鏡的毛様体光凝固術(ECP)と白内障手術の併用後の初の症例も報告された2)。2025年には有水晶体眼内レンズ(ICL)挿入後の瞳孔ブロックに続発したUZSの症例が報告された3)。
「術者は、長時間の眼内手術を予定している患者に対してplateau iris形態のスクリーニングを検討し、該当する患者では薬理学的散瞳の代わりに機械的散瞳(iris hooks等)を使用すべきである」1)
UZSの正確な病態生理はいまだ完全には解明されておらず、効果的な治療法も確立されていない。術前のリスク評価法の確立、虹彩虚血の早期検出法の開発、および発症後の瞳孔括約筋機能回復の可能性が今後の研究課題である。
本記事は上記の論文および日本の眼科診療ガイドライン・標準的な眼疾患教科書に基づいて作成されています。