急性期の治療
人工涙液・眼軟膏:防腐剤フリーの人工涙液(日中)と眼軟膏(就寝前)を使用する。0.1%ヒアルロン酸点眼1日4回+抗菌薬眼軟膏(就寝前)が基本処方である
眼帯・調節麻痺薬:急性期に局所調節麻痺薬と一時的な眼帯を使用し、眼表面の治癒を促進する
抗菌薬:上皮欠損に対する感染予防として局所抗菌薬を処方する
鎮痛薬:経口鎮痛薬(イブプロフェンなど)で不快感を軽減する

再発性角膜びらん(recurrent corneal erosion:RCE)は、角膜上皮と基底膜が形成する接着構造の異常により、角膜上皮が自然に剥離することを繰り返す疾患である。生じた上皮びらん自体は数日以内に治癒するが、一定期間(1〜2週間から数か月)を経て再発する。
発作は早朝の起床時に生じることがほとんどである。びらんの大きさに比べて疼痛や異物感などの自覚症状が強いのが特徴であり、頻回に繰り返す場合は再発への不安から患者の精神的ストレスとなりうる。片眼性で再発性の角膜炎として角膜ヘルペスと誤診されやすい。
Chandlerの分類では、RCEを以下の2形態に分類する。
主な自覚症状は以下の通りである。
非発作時にも起床時の異物感を訴えることがあり、診断的価値がある。睡眠後の発症が多いことから不眠を招くこともある。
細隙灯顕微鏡検査による所見は、正常から広範囲の上皮欠損まで多岐にわたる。
睡眠中は閉瞼しているため涙液の産生が減少し、角膜上皮が眼瞼と直接接触する。接着不良の上皮は瞼の開閉によって剥ぎ取られやすく、特に起床時の開瞼が引き金となる。夜間の角膜表面の乾燥と眼瞼との物理的な接触が重なることで、起床時のびらん発作が生じると考えられている。
RCEの原因は大きく外傷性と非外傷性に分けられる。
最も一般的な原因である。紙の端、爪、木の枝などの鋭利な物体による角膜への接線方向の外傷が契機となりやすい。本邦では外傷を契機としたものが多い。
以下の角膜ジストロフィがRCEの原因となりうる。
糖尿病、ドライアイ症候群、マイボーム腺機能不全(MGD)、眼座瘡(ocular rosacea)、帯状角膜変性、夜間の兎眼、過去の角膜感染症などもRCEの病態に関与する。
角膜ジストロフィがあってもすべての患者がRCEを発症するわけではない。上皮基底膜ジストロフィ(EBMD)が最も関連が深いが、それでもRCE症例の19〜29%程度にとどまる。角膜ジストロフィの種類や重症度、環境因子などが複合的に関与する。
RCEの診断は病歴聴取と細隙灯顕微鏡検査による臨床診断が基本である。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 角膜ヘルペス | 樹枝状潰瘍、知覚低下 |
| 神経栄養性角膜炎 | 角膜知覚の著明な低下 |
| ドライアイ症候群 | 涙液量減少、BUT短縮 |
その他の鑑別疾患として、帯状角膜変性、角膜潰瘍(細菌性・真菌性・ヘルペス性)、輪部幹細胞欠乏症、角膜異物、フロッピーアイリッド症候群、ザルツマン結節状変性がある。
上皮基底膜ジストロフィやRCEに対しては、上皮デブリドマンによる管理が適応となる1)。
RCEの治療は段階的に行う。急性期はびらんの治癒を促進し、その後は再発予防が主目標となる。
急性期の治療
人工涙液・眼軟膏:防腐剤フリーの人工涙液(日中)と眼軟膏(就寝前)を使用する。0.1%ヒアルロン酸点眼1日4回+抗菌薬眼軟膏(就寝前)が基本処方である
眼帯・調節麻痺薬:急性期に局所調節麻痺薬と一時的な眼帯を使用し、眼表面の治癒を促進する
抗菌薬:上皮欠損に対する感染予防として局所抗菌薬を処方する
鎮痛薬:経口鎮痛薬(イブプロフェンなど)で不快感を軽減する
再発予防の治療
就寝前の眼軟膏:びらん発作消失後も最低3か月、できれば半年間は継続する。起床直後の人工涙液点眼も励行する
高張食塩水:点眼液または軟膏。就寝前の使用が急性期・慢性期の両方に有効である
治療用コンタクトレンズ:連続装用で上皮の安定化を図る。3か月間の連続装用で75%が1年後も再発しなかったとの報告がある
涙点閉鎖:ドライアイを伴う場合に検討する。コラーゲンプラグによる一時的閉鎖またはシリコンプラグによる永久的閉鎖を選択する
保存的治療で効果不十分な場合に追加する。
保存的治療が奏効しない難治例に適応となる。
外科的治療の選択肢
上皮デブリドマン:接着不良の上皮を綿棒やスポンジで除去する。ボーマン層の滑らかな面を露出させる1)
角膜表層穿刺(anterior stromal puncture):25〜27ゲージ針でデブリドマン後の実質浅層に穿刺を行う。線維嚢胞性反応を誘発し、上皮と実質との接着を促進する。1回の治療で62.9%に有効との報告がある
ダイヤモンドバー研磨:上皮除去後にダイヤモンドバーでボーマン膜を研磨し、上皮の接着性を向上させる
PTK(治療的角膜切除術):エキシマレーザーで5〜6μmの深さで角膜を均一に切除する。73%の患者で症状消失が報告されている。遠視化の可能性がある
角膜表層穿刺は瘢痕形成の可能性があるため瞳孔領には行うべきではない。Nd:YAGレーザーを用いた穿刺法も報告されている。
25〜27ゲージの細い注射針を用いて、上皮欠損部の角膜実質浅層に微小な穿刺を行う処置である。点眼麻酔下で細隙灯顕微鏡を用いて施行できる。穿刺により線維嚢胞性反応と創傷治癒が誘導され、上皮と角膜実質との接着が強化される。1回の治療で約63%に有効であるが、穿刺部位に点状の混濁が残るため瞳孔領への施行は避ける。
びらん発作が消失してから最低3か月間、できれば半年間は就寝前の眼軟膏と起床直後の人工涙液を継続する。場合によっては1年以上経過してからびらん発作が生じることもあるため、十分な期間の継続が重要である。
正常な角膜上皮は、基底細胞のヘミデスモソームを介して基底膜に接着している。フィブロネクチン-インテグリン系による細胞間および細胞-マトリックス間の相互作用が接着構造の維持に重要である。
RCEでは、初期損傷後の上皮の下層実質への接着が不完全となる。病理学的には基底膜の断裂・欠損やヘミデスモソームの減少が認められる。
外傷後のRCEでは、何らかの理由により正常な接着構造の再構築が阻害される。角膜ジストロフィに伴うRCEでは、構成蛋白質成分の異常が原因である。
MGDや眼座瘡を合併する患者では、毒性遊離脂肪酸、インターロイキン-1(IL-1)、およびマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のレベルが上昇している。これらが接着複合体の不備や異常な基底膜形成を招く。ドキシサイクリンが粘膜類天疱瘡-9阻害薬として有効であるのは、この機序に基づく。
角膜上皮の治癒は以下の3段階で進行する。
RCEでは第3段階の接着構造の再構築が不十分であるため、上皮が容易に剥離しやすい状態が持続する。
- American Academy of Ophthalmology Corneal/External Disease PPP Panel. Corneal Edema and Opacification Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2019;126(1):P216-P285.