光学的角膜移植
水疱性角膜症:Fuchs角膜内皮ジストロフィ、偽水晶体性水疱性角膜症が代表的な適応である。多くの患者でPK後に有意な視力改善が得られる2)
円錐角膜:眼鏡・コンタクトレンズで機能的視力が得られなくなった場合が適応である1)。急性水腫後の遷延性角膜浮腫も全層移植の適応となる1)
角膜白斑:感染後・外傷後の瘢痕で視力障害をきたす場合が適応である
角膜ジストロフィ:格子状・顆粒状・斑状角膜ジストロフィなど全層にわたる混濁を呈する場合

全層角膜移植術(penetrating keratoplasty: PKP)は、病的な角膜全層を切除し、ドナーの全層角膜片で置換する手術である。通常、直径7.0〜8.5mmの中央円形角膜片を切除し、対応するドナー角膜と交換する2)。視力の改善が最も一般的な目的であるが、菲薄化・穿孔した角膜の構造的支持の回復も重要な適応である。
PKPは角膜移植術の中で最も長い歴史を有する。2012年の世界調査ではPKが角膜移植の70%を占め、2015〜2016年の英国移植登録でもPKは35%を占めていた3)。しかし同種移植拒絶反応がPK不全の主因であり続けている3)。近年は深層前部層状角膜移植術(DALK)や角膜内皮移植術(EK)の普及により、PKの施行数は減少傾向にある1)。
具体的な適応疾患は原因とリスク要因(適応疾患)の項を参照されたい。
全層角膜移植術は角膜の全層を置換するのに対し、層状角膜移植は角膜の一部の層のみを置換する。層状角膜移植には深層層状角膜移植術(前部実質を置換)と角膜内皮移植術(内皮のみを置換)がある。深層層状角膜移植術ではドナー内皮を移植しないため内皮型拒絶反応が生じない。角膜内皮移植術は内皮機能不全に特化した術式である。全層角膜移植術は角膜全層にわたる混濁や重度な形状異常など、層状移植では対応できない症例に適応される。
PKPの適応となる角膜疾患は多岐にわたり、自覚症状は原疾患に依存する。
原疾患により角膜所見は多彩であるが、以下が代表的な所見である。
PKP後の拒絶反応は術後6か月〜1年で好発し、内皮型拒絶反応の発症率は原疾患により異なるが10〜30%程度である。急激な霧視・視力低下・羞明が自覚症状として重要である。
| 所見 | 特徴 |
|---|---|
| Khodadoust line | 角膜後面の線状沈着物 |
| Descemet膜皺襞 | 内皮障害を反映する |
| 角膜後面沈着物 | 移植片内に限局する |
全層角膜移植術の適応は大きく3つに分類される。
光学的角膜移植
水疱性角膜症:Fuchs角膜内皮ジストロフィ、偽水晶体性水疱性角膜症が代表的な適応である。多くの患者でPK後に有意な視力改善が得られる2)
円錐角膜:眼鏡・コンタクトレンズで機能的視力が得られなくなった場合が適応である1)。急性水腫後の遷延性角膜浮腫も全層移植の適応となる1)
角膜白斑:感染後・外傷後の瘢痕で視力障害をきたす場合が適応である
角膜ジストロフィ:格子状・顆粒状・斑状角膜ジストロフィなど全層にわたる混濁を呈する場合
治療的・形成的角膜移植
PKPは複数回の全層角膜移植が不全となった症例、広範な前眼部瘢痕が存在する症例では禁忌となりうる1)。角膜菲薄化が輪部近傍に及ぶ場合は手術が困難であり、不全リスクが高まる1)。
角膜全層にわたる混濁や、内皮と実質の両方に障害がある場合にPKPが必要となる。角膜内皮のみの障害であればEK(内皮移植)、角膜実質のみの混濁であればDALK(深層前部層状移植)が選択される場合が多い。また、深い実質瘢痕でDALK中に穿孔の可能性が高い症例や、角膜穿孔・制御困難な角膜感染症では、PKPが第一選択となる。
| 因子 | PKP選択 | 層状移植選択 |
|---|---|---|
| 混濁の深度 | 全層にわたる | 前部のみ or 内皮のみ |
| 内皮機能 | 障害あり | 深層層状移植: 温存 |
| 前眼部異常 | 再建手術の併施 | 単純な症例 |
球後麻酔と瞬目麻酔で眼球運動を停止させ、ホナンバルーンで硝子体圧を十分に下げる。白内障同時手術や小児例では全身麻酔が推奨される。Flieringa輪を強膜に縫着して眼球虚脱を予防する。
ドナー角膜片はホスト角膜より0.25〜0.5mm大きく作成する。内皮側より作成し、トレパンで角膜深さの約4/5まで切開した後、メスで前房に刺入する。ドナー角膜の縫合には10-0ナイロンを使用し、8本の端々縫合と16糸の連続縫合、あるいは24糸の連続縫合を行う。
円錐角膜では将来的なグラフト急峻化を予想して、ホストと同じサイズのドナーを使用する場合もある。微生物性角膜炎では病変全体を囲むようにトレパンサイズを選択する。
2象限以上の血管侵入例、再移植例などはハイリスクである。
拒絶反応は術後1年半以内に多くみられる。早期発見・早期治療が移植片温存の鍵となる。
術中合併症
グラフト中心固定不良:視軸からの偏位は術後視力に影響する
不整なトレパン切開:不規則な切開は創閉鎖と乱視に影響する
脈絡膜出血・滲出:全身麻酔により発症リスクを軽減できる
水晶体損傷:トレパン刺入時に生じうる
硝子体脱出:前房内への硝子体脱出は術後管理を複雑化する
術後合併症
拒絶反応:内皮型が臨床的に最重要であり、発見が遅れると不可逆的な移植片機能喪失に至る
緑内障:前房内操作による周辺部虹彩前癒着、術後炎症、ステロイド緑内障が原因となる
感染症:縫合糸部位の感染やステロイド長期使用に伴う日和見感染(細菌性・真菌性・ヘルペス性)がある
乱視:不整乱視は最も一般的な術後屈折異常であり、コンタクトレンズ装用が必要となることが多い2)
創口離開:1.3〜5.8%に認められ、眼球の構造的脆弱性を生じる
PKの合併症には感染・拒絶反応・不全・緑内障・白内障・不良な屈折成績(不同視・高度角膜乱視)が含まれる1)。
PKP後は術後ステロイド点眼の長期使用により後囊下白内障(PSC)が進行しやすく、白内障手術が必要となる場合がある5)。通常の白内障手術とは異なる特有の課題に留意する。
IOL度数計算の困難:PKP後は縫合張力の不均一性や創傷治癒過程で高度乱視(抜糸後の角膜計量乱視は平均3.70±3.20 D)が生じ、IOL度数計算の予測性が低下する6)。白内障手術前にすべての角膜縫合糸を抜糸し、角膜曲率が安定してからIOL度数を算出することが望ましい。角膜が混濁している場合はAモード超音波を用いて眼軸長を計測する。
手術アプローチと内皮保護:強膜トンネルアプローチは移植片縁への影響を最小化できる。角膜切開を用いる場合は移植片縁付近まで延長しないよう注意する。分散型粘弾性物質を用いたソフトシェル法で移植角膜の内皮を保護し、超音波エネルギーは内皮から十分な距離を確保して使用する5)。
乱視管理:正乱視成分に対してはトーリックIOLが選択肢となるが、不正乱視には効果が限られる。角膜減張切開(CRI)を移植片・宿主接合部内で施行する方法もある6)。
トリプル手術(PKPと白内障手術の同時施行):白内障が進行しており角膜移植も必要な症例では同時施行が検討される。視認性が許す限り水晶体乳化吸引術をPK施行前に行い、open-sky時間を短縮する。混濁角膜を通じて連続環状切嚢を行う場合はトリパンブルーなどの水晶体嚢染色剤が有用である5)。段階的施行のほうが移植角膜安定後の屈折誤差が少ない利点がある。
拒絶反応が起きると、充血・霧視・視力低下・眼痛が急性に出現する。角膜後面にKhodadoust lineと呼ばれる線状沈着物やDescemet膜皺襞が認められる。早期に発見して集中的なステロイド治療を行えば、多くの症例で拒絶反応を抑制できる。しかし治療が遅れると内皮細胞が不可逆的に障害され、移植片が機能しなくなる。拒絶反応が一度でも起きると、それが元に戻っても長期的な移植片生存に悪影響を及ぼす。
術後は指示された通りにステロイド点眼を継続することが最も重要である。急な充血・霧視・視力低下・眼痛が出現した場合は拒絶反応の可能性があるため、速やかに受診する。縫合糸の緩みに気づいた場合も早急に受診が必要である。眼をこすらない・打撲を避けるなど、物理的な外力にも注意する。ステロイド長期使用中は眼圧上昇のチェックも欠かせない。
PKの移植片生存率は原疾患により大きく異なる。
角膜拡張症に対するPKの長期生存率は、オーストラリア角膜移植登録によれば5年で95%、10年で89%と報告されている1)。
10年生存率は円錐角膜で最も高く、感染後瘢痕がこれに続き、Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの炎症性疾患が最も予後不良である。
Fuchs角膜内皮ジストロフィに対するPKでは多くの患者で有意な視力改善が得られるが、術中の脈絡膜出血リスクが高く、術後の拒絶反応リスクや視力回復に要する期間がEKより長い2)。
Cornea Donor Study(CDS)では、FECDおよび偽水晶体性角膜水腫に対するPKにおいて高齢ドナー(66〜75歳)と若年ドナーの長期成績が比較された(1,090名、前向き多施設二重盲検非劣性試験)4)。5年グラフト生存率は両群とも86%で同一であり、10年時点でも若年群77%対高齢群71%と有意差はなかった。75歳までのドナー角膜はPKに安全に使用できることが示されたが、高齢ドナー組織では術後の内皮細胞減少がやや大きく(5年時点で若年群824対高齢群654 cells/mm²)、72〜75歳の最高齢群では6年目以降にグラフト生存率の低下が顕著であった4)。
角膜は血管のない組織であり、歴史的に免疫特権を有すると考えられてきた。しかし同種移植拒絶反応はPK不全の主因であり続けている3)。拒絶反応が一度治まっても、長期的な移植片生存に悪影響を及ぼす3)。
拒絶反応には上皮型・実質型・内皮型の3型がある。臨床的に頻度が多く重要なものは内皮型である。
PKの移植片不全は経時的に異なる原因で生じる。初期(術後数年以内)は拒絶反応が主因であり、後期にはドナー内皮細胞の経年的脱落による内皮不全が主因となる。
緩んだ縫合糸は感染巣や拒絶反応の誘因となるため、発見次第早急に抜糸を行う。
近年、深層層状角膜移植術および角膜内皮移植術(角膜内皮移植術・デスメ膜内皮角膜移植術)の普及により、全層角膜移植術の適応は減少傾向にある。
メタ解析では、深層層状角膜移植術の拒絶率は全層角膜移植術と比較して有意に低いことが示されている(オッズ比0.28; 95%信頼区間 0.15–0.50; P < 0.001)。一方、移植片不全率は両術式で同等である(オッズ比1.05; 95%信頼区間 0.81–1.36)1)。
コンタクトレンズのデザイン改良とコラーゲンクロスリンキング(CXL)の普及も、角膜拡張症に対する全層角膜移植術の減少に寄与している1)。米国眼球バンク協会(EBAA)のデータでは、円錐角膜に対する角膜移植は2011年から2022年にかけて継続的に減少している1)。
フェムト秒レーザー支援角膜移植術(FLAK)は、ドナーとレシピエントの両方にフェムト秒レーザーでトレフィネーションを行う技術である。理論上は創強度の向上・早期抜糸・視覚リハビリテーションの短縮・乱視の軽減が期待されるが、機械的トレフィネーションと比較して長期的な優位性は示されていない1)。
PKは円錐角膜のあらゆる重症度において、安全かつ有効で良好な視力成績を示す術式であることが報告されている。縫合技法は成績に影響しないが、グラフトとホストのサイズ差が小さいほど近視化が少ない1)。