第1型:片側性
好発年齢:60歳以上
特徴:非常に激しい疼痛。角膜周囲に広がり、厚い不透明な中央角膜を残す
血管所見:浅層血管の無灌流が特徴的。深層角膜縁血管からの激しい漏出を認める
予後:実質消失後に疼痛は軽減するが、角膜移植後に再発しやすい

モーレン潰瘍(Mooren ulcer)は、角膜周辺部にみられる原因不明の進行性角膜潰瘍である。蚕食性角膜潰瘍とも呼ばれる。何らかの角膜抗原に対する自己免疫性疾患と考えられている。
角膜縁から始まる灰色の腫脹が角膜浅層1/3に生じ、4〜12ヶ月かけて円周方向および中央方向へ進行する。潰瘍先端は突出した潜掘状(undermined)の深い坑道状の縁を呈する。輪部との間に透明帯を有さない点がカタル性角膜潰瘍との重要な鑑別点である。
潰瘍底には血管が侵入し、潜掘状の縁の基部に向かって進展する。しかし、潰瘍の進行縁を超えることはない。角膜の破壊は一般に実質組織のみに限定され、デスメ膜・内皮は無傷のまま残る。
隣接する強膜には炎症を認めない。この点が関節リウマチなど膠原病に伴う周辺部角膜潰瘍との最も重要な鑑別点である。
稀な疾患であり、中国における発生率は約0.03%と推定されている。アフリカ南部・中部やインドなど南半球でより一般的である。
Watson分類で以下の3型に分類される。第1型(片側性)は60歳以上に発症し激しい疼痛を伴う。第2型(両側性侵襲性)は14〜40歳の若年者に発症し、治療抵抗性で予後不良である。第3型(両側性緩徐進行性)は50代半ばに発症し、炎症が軽微で自然治癒することもある。
激しい眼痛が主訴となる。羞明、流涙、充血を伴う。視力低下は虹彩炎や中央角膜病変、不正乱視に起因する。約1/3の症例が両側性に発症する。
進行すると角膜周辺部を完全に囲む完全周辺部潰瘍となり、混濁した「中央の島」を残す。最終的に角膜実質が線維血管膜に置き換わる。角膜穿孔を生じることもある。
第1型:片側性
好発年齢:60歳以上
特徴:非常に激しい疼痛。角膜周囲に広がり、厚い不透明な中央角膜を残す
血管所見:浅層血管の無灌流が特徴的。深層角膜縁血管からの激しい漏出を認める
予後:実質消失後に疼痛は軽減するが、角膜移植後に再発しやすい
第2型:両側性侵襲性
好発年齢:14〜40歳
特徴:疼痛は第1型より軽度。角膜実質内に灰色斑が集合し典型的潰瘍を形成する
血管所見:浅層血管叢は拡張するが血流は維持される。深層血管からの漏出と新生血管を認める
予後:治療抵抗性で穿孔が多く予後不良
第3型(両側性緩徐進行性)は50代半ばに発症し、炎症を伴わない角膜の溝形成を呈する。緩徐に進行するが自然治癒例もある。
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)は角膜菲薄化のパターン(弓状、カニの爪状)の評価に有用である。治療反応のモニタリングにも使用される。
モーレン潰瘍の病因は不明であるが、自己免疫的基盤を示唆する証拠がある。
角膜実質のケラチノサイトが発現するカルグラニュリンC(calgranulin C)に対する自己免疫反応が中心的な役割を果たすと考えられている。通常は隠された抗原であるカルグラニュリンCが、外傷や感染により露出すると感作が成立する。
特定のHLAアレルとの関連が報告されている。患者の83%がHLA-DR17陽性、83%がHLA-DQ2陽性であった(対照群では5〜40%)。抗シトルリン化タンパク質抗体(ACPA)もモーレン潰瘍の特徴として示唆されている。
モーレン潰瘍は定義上、膠原病を背景に持たない周辺部角膜潰瘍である。関節リウマチなど膠原病に伴う周辺部角膜潰瘍は鑑別すべき別の疾患群であり、強膜炎の合併、免疫複合体沈着(III型アレルギー)、血管炎の存在で区別される。ただし、モーレン潰瘍もII型アレルギー(角膜上皮への自己抗体)が関与するとされ、いずれも自己免疫的機序を共有する点では共通している。
モーレン潰瘍の診断は除外診断である。周辺部角膜潰瘍を引き起こす眼感染症および全身性疾患が存在しないことが条件となる。
膠原病の除外のために以下の検査を施行する。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| Terrien辺縁変性 | 非炎症性、透明帯あり |
| カタル性角膜潰瘍 | 透明帯あり、眼瞼縁炎合併 |
| 膠原病性PUK | 強膜炎合併、全身疾患あり |
Terrien辺縁変性は無痛性で非炎症性の周辺部角膜菲薄化であり、モーレン潰瘍とは大きく異なる。Terrien変性は通常上方角膜から始まり、角膜縁との間に透明帯を有する。浅層血管新生と脂肪沈着を認めるが上皮欠損は認めない。進行も緩徐である。モーレン潰瘍は激しい疼痛と炎症を伴い、透明帯を持たず、潜掘状の潰瘍縁を呈する。
治療は局所療法から開始し、反応に応じて全身療法・外科療法へ段階的に進める。
局所療法で進行が抑制できない場合や両眼性の症例に適応される。
局所・全身療法でも寛解が得られない場合に施行する。
Brown手術は潰瘍に沿った結膜切除術である。潰瘍両端からそれぞれ約2時間分の範囲で、角膜輪部から3〜4mm幅の充血した結膜を切除する。モーレン潰瘍では結膜組織からの免疫細胞浸潤が潰瘍の進行を促進するため、その供給源を断つことで病勢を制御する。結膜切除後に強膜が露出した状態では病的結膜が再伸展する可能性があるため、角膜上皮形成術の併施が推奨される。
モーレン潰瘍の発症には、角膜実質のケラチノサイトが発現する隠された抗原「カルグラニュリンC」に対する自己免疫反応が中心的役割を果たす。カルグラニュリンCは循環血液中の多形核白血球にも存在する。
角膜の外傷・感染・手術後にカルグラニュリンCが露出すると、角膜縁の抗原提示細胞がHLAクラスII分子を介してT細胞に提示し感作する。素因のある人では加齢に伴い自然に抗原露出が生じることもある。
蠕虫の表面にカルグラニュリンCの受容体が発見されており、蠕虫抗原との交差反応による分子擬態も推定されている。HLA-DR17やHLA-DQ2との強い関連は遺伝的素因の存在を示す。
感作後、体液性と細胞性の両方の免疫反応が角膜を破壊する。
教科書ではII型アレルギー(角膜上皮への自己抗体)が関与するとされる。患者血清中に角膜・結膜上皮に対する循環IgGが認められる。結膜上皮に結合した抗体・補体も検出されている。血清IgAレベルの上昇も報告されている。
補体の活性化により好中球が浸潤し、脱顆粒してコラーゲナーゼを放出する。コラーゲナーゼが角膜実質を破壊し、変性した角膜抗原がさらに露出して免疫反応を永続させる正のフィードバックが形成される。
結膜・角膜検体ではリンパ球浸潤に加え、好中球、好酸球、形質細胞、肥満細胞が認められる。罹患結膜組織から高レベルのタンパク質分解酵素が検出される。NF-κB活性の上昇も報告されている。
浅層実質では形質細胞・リンパ球の浸潤と血管新生を認める。中間層ではコラーゲン層板の乱れと過活動な線維芽細胞を認める。深層実質にはマクロファージの浸潤がある。