眼瞼・付属器
水疱膿疱性病変:患者の最大25%で眼瞼を侵す。斑状疹→丘疹→水疱→膿疱→痂皮と段階的に進行する
眼瞼浮腫:周囲軟部組織の炎症に伴い出現する
眼窩隔膜前蜂窩織炎:二次的な細菌感染を伴うことがある
後遺症:眼瞼の瘢痕化や変形を残すことがある

エムポックス(monkeypox)は、オルソポックスウイルス属の猿痘ウイルス(MPXV)によって引き起こされる人獣共通感染症である。天然痘に類似した症状を呈する。1958年にデンマークに輸送されたアフリカ産サルから初めて同定された。
「猿痘」という名称はある意味で誤称である。自然宿主は未同定の齧歯類(ガンビアパウチラット、キリスリス等)と考えられている1)。
MPXVにはコンゴ盆地(CB)系統と西アフリカ(WA)系統の2つのクレードが存在する。CB系統はWA系統と比較して死亡率・罹患率が高い1)。2022年5月以降、非流行国を含む世界的なアウトブレイクが発生した1)。
眼科的合併症は猿痘関連眼疾患(MPXROD: monkeypox-related ophthalmic disease)と呼ばれる。主に外眼部(眼瞼、結膜、角膜)を侵す。過去の流行地域では9〜23%に眼合併症が認められたが、2022年のアウトブレイクでは1%未満と低報告されている。
両者はともにオルソポックスウイルス属に属するが、重要な違いがある。エムポックスではリンパ節腫脹を認める点が天然痘との主要な鑑別点である。また、エムポックスの致死率(CB系統で約10.6%、WA系統で3.6%)は天然痘(約30%)より低い。天然痘は1980年に根絶宣言がなされたが、エムポックスは動物宿主が存在するため根絶困難である。
潜伏期間は通常7〜14日(最大3週間)である。前駆症状として発熱、倦怠感、頭痛、リンパ節腫脹が出現する2)。眼症状としては眼痛、充血、流涙、視力低下を呈する。
皮膚病変は斑状疹→丘疹→水疱→膿疱→痂皮の順に進行する2)。分布は遠心性であり、顔面・四肢に密集する。2022年のアウトブレイクでは肛門生殖器領域が最多(73%)であった。
眼瞼・付属器
水疱膿疱性病変:患者の最大25%で眼瞼を侵す。斑状疹→丘疹→水疱→膿疱→痂皮と段階的に進行する
眼瞼浮腫:周囲軟部組織の炎症に伴い出現する
眼窩隔膜前蜂窩織炎:二次的な細菌感染を伴うことがある
後遺症:眼瞼の瘢痕化や変形を残すことがある
結膜・角膜・その他
結膜炎:患者の約20%に認められる。濾胞反応、水疱性・丘疹状結膜病変、偽膜を呈する
角膜炎:潰瘍性角膜炎がCB系統で3〜4%に報告される。免疫性実質角膜炎、神経栄養性角膜炎も生じうる
前部ぶどう膜炎:7例が報告されており、多くは角膜病変に随伴する
強膜病変:少数例で結膜下結節に関連した強膜充血が報告されている
重症例では角膜穿孔、角膜瘢痕化、二次性細菌感染が生じ、恒久的な視力障害に至る。
全身の重篤な合併症として脳炎3)、心筋炎・心膜炎4)、周産期における胎児死亡5)が報告されている。
過去のアフリカでのアウトブレイクでは眼合併症が9〜23%と比較的高頻度に報告されていた。しかし2022年の世界的アウトブレイクでは1%未満と低報告されている。この差は、クレードの違い(CB系統はWA系統より重症)、ワクチン接種率、医療アクセス、報告体制の違いに起因する可能性がある。
MPXVはエンベロープを持つ二本鎖DNAウイルスである2)。感染経路は傷のある皮膚、飛沫、体液を介する。性的接触も感染経路として確認されている。医療従事者の針刺し事故による職業感染も報告されている6)。
流行地域における既知のリスク因子は以下のとおりである。
| ワクチン | 種類 | 投与法 |
|---|---|---|
| ACAM2000 | 複製能あり | 経皮乱刺法1回 |
| JYNNEOS | 複製能なし | 皮下注射2回 |
JYNNEOSは改変ワクチニアウイルスAnkara(MVA)を使用する非複製型ワクチンであり、免疫不全患者にも安全に使用できる7)。ACAM2000は複製能のあるワクチニアウイルスを使用するため、ワクチニア感染症のリスクがある7)。
天然痘ワクチンはエムポックスに対して約85%の予防効果を持つ。JYNNEOSは高リスク群への曝露前予防(PrEP)と曝露後予防(PEP)の両方に使用される。曝露後の早期接種により、発症の予防または重症化の抑制が期待できる6)7)。
既知のエムポックス症例との接触歴、流行国・アウトブレイク発生国への旅行歴を確認する。性的接触歴の聴取も重要である。
眼瞼・眼窩周囲の水疱・膿疱の有無を確認する。結膜、角膜、強膜を細隙灯顕微鏡で詳細に検査する。前部ぶどう膜炎の評価も行う。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 水痘 | 体幹中心の分布 |
| 単純ヘルペス | 片眼性・再発性 |
| 帯状疱疹 | 皮膚分節に沿った分布 |
その他、天然痘、伝染性軟属腫、梅毒、牛痘、ワクチニアが鑑別に挙がる。エムポックスに特徴的なリンパ節腫脹の有無が天然痘との鑑別に有用である。
エムポックスの経過は通常自己限定的である。対症療法が治療の基本となる1)。重症例や重症化リスクの高い患者には抗ウイルス薬が使用される。
眼症状に対する治療は以下のとおりである。
軽症例では人工涙液による潤滑と局所抗菌薬による二次感染予防が中心となる。トリフルリジン点眼は近縁のワクチニアウイルスに対する使用実績があり、MPXRODにも検討されうる。重症の角膜病変には全身性抗ウイルス薬(テコビリマットなど)の投与が考慮される。角膜穿孔に至った場合は角膜移植が必要となる。
MPXVは傷のある皮膚、呼吸器粘膜、または粘膜(眼・鼻・口)から侵入する2)。リンパ系を介して一次ウイルス血症を起こし、全身感染へと進展する2)。
自然免疫においてNK細胞が重要な役割を果たす2)。NK細胞はMHC I分子との相互作用により活性化または抑制される。IFN-γやTNF-αの産生を通じて炎症応答を惹起し、樹状細胞を介してTヘルパー細胞を活性化する2)。
皮膚病理ではポックスウイルスに特徴的なグアルニエリ小体が角化細胞内に認められる。基底角化細胞の増殖、表皮壊死、海綿状態、角化細胞の蒼白化、血管炎を伴う炎症細胞浸潤が組織学的特徴である。
眼への侵入経路としては、直接的な接触感染(手指を介した自己接種)、または全身感染からの血行性播種が考えられる。角膜病変の機序は天然痘と同様に、ウイルスの直接的な細胞変性効果と免疫介在性の炎症反応の両方が関与すると推定される。
2022年以降のアウトブレイクを契機に、エムポックスに関する研究が急速に進展している。
テコビリマットの有効性に関する知見が蓄積されつつある。職業感染の症例では、曝露後のJYNNEOSワクチン接種とテコビリマット投与の組み合わせにより、局所感染に留まり全身播種が予防された6)。
エムポックスの神経学的合併症として脳炎と横断性脊髄炎の合併例が報告され、テコビリマット・シドフォビル・ステロイド・血漿交換による治療で改善が得られた3)。心筋炎・心膜炎などの心血管合併症も報告されている4)。
周産期のエムポックス感染は胎児死亡のリスクが高く、妊婦における感染管理の重要性が指摘されている5)。
眼科領域では、MPXRODの発生機序や最適な治療法に関するエビデンスは依然として限られている。今後の課題として、抗ウイルス点眼薬の有効性評価、MPXRODの長期予後の解明、および眼科的スクリーニング指針の確立が期待される。