浸潤病巣の特徴
角膜周辺部に1つまたは複数の円形〜楕円形の灰色浸潤が出現する。
浸潤は輪部から1〜2mm離れた位置に存在する。
輪部と浸潤病巣の間に浸潤のない**「透明帯」**を認めることが診断上重要である。
浸潤は輪部と平行に同心円状に広がる。

辺縁性角膜炎(marginal keratitis)は、角膜周辺部に実質浸潤を生じる炎症性疾患である。カタル性角膜潰瘍(catarrhal corneal ulcer)、ブドウ球菌性周辺部角膜浸潤(staphylococcal peripheral corneal infiltrates)とも呼ばれる。
本疾患は細菌の直接感染ではない。眼瞼縁に存在するブドウ球菌などの菌体外毒素に対するIII型アレルギー反応(免疫複合体型過敏反応)が本態である。病変部を擦過してもグラム染色で細菌は認められず、細菌培養も陰性となる。好中球を認めるのみの「無菌性」浸潤であることが特徴的である。
中高年に多く、慢性的なブドウ球菌性眼瞼縁炎を合併している症例が大部分を占める。角膜周辺部に浸潤病巣のみ呈するものを周辺部角膜浸潤、上皮欠損を伴うものをカタル性角膜潰瘍と呼ぶ。
充血、疼痛、異物感、羞明、流涙を主訴とする。症状は軽度〜中等度で非特異的であり、感染性角膜炎に比べると穏やかである。
浸潤病巣の特徴
角膜周辺部に1つまたは複数の円形〜楕円形の灰色浸潤が出現する。
浸潤は輪部から1〜2mm離れた位置に存在する。
輪部と浸潤病巣の間に浸潤のない**「透明帯」**を認めることが診断上重要である。
浸潤は輪部と平行に同心円状に広がる。
好発部位と関連所見
眼瞼縁と交差する2時・4時・8時・10時の位置に好発する。
対応する球結膜に限局性の充血を伴う。
浸潤が高度になると上皮が脱落し、びらんや潰瘍を形成する。
再発を繰り返した症例では表層性血管侵入を認めることがある。
大部分の症例で眼瞼炎を合併する。毛細血管拡張を伴う眼瞼縁の紅斑・浮腫、睫毛根部の硬い鱗屑、睫毛脱落などが観察される。
辺縁性角膜炎は角膜周辺部に限局し、輪部との間に透明帯があり、対応する結膜充血は限局性です。一方、感染性角膜炎は角膜中央部に多く、びまん性の毛様充血を伴い、強い眼痛と膿性分泌物がみられます。上皮欠損を伴う場合は感染との鑑別が重要であり、角膜擦過培養が推奨されます。
辺縁性角膜炎の最大の原因は、眼瞼縁に常在するブドウ球菌(主に黄色ブドウ球菌)の菌体外毒素に対する免疫反応である。角膜周辺部実質で補体の活性化と好中球の浸潤を伴う抗原-抗体反応(III型アレルギー反応)が生じた結果として浸潤が形成される。
主なリスク要因として、慢性ブドウ球菌性眼瞼炎、マイボーム腺炎(マイボーム腺機能不全)、酒さ性眼瞼炎が挙げられる。
コンタクトレンズ(CL)関連の辺縁部角膜浸潤も知られる。消毒が不十分なソフトCLの固着やカラーCLの色素露出が原因となる。レンズケースを3か月以上交換していない装用者に多く、ケース内のバイオフィルム形成と細菌毒素が関与すると考えられる。
近年、**免疫チェックポイント阻害薬(ICI)**による辺縁性角膜炎が報告されている。PD-L1阻害薬アテゾリズマブの投与後に両眼性のリング状辺縁部浸潤を発症した症例では、眼瞼炎やマイボーム腺機能不全の所見はなく、自己免疫機序が推定された1)。
COVID-19 mRNAワクチン接種後の発症例も報告されている。接種約2.5週間後に角膜周辺部の浸潤が出現し、ステロイド・抗菌薬点眼で軽快した2)。
コンタクトレンズの不適切なケアは辺縁部角膜浸潤の原因となります。特にソフトコンタクトレンズで消毒が不十分な場合や、レンズケースの交換を怠っている場合にリスクが高まります。装用を中止し、抗菌薬と低濃度ステロイドの点眼で約1週間で治癒しますが、レンズやケアの見直しが必要です。
診断は細隙灯顕微鏡検査による角膜の特徴的所見と眼瞼縁炎の確認に基づく。角膜周辺部の輪部平行な浸潤と透明帯の存在が診断の決め手となる。
典型例では追加検査は不要である。しかし上皮欠損を伴う場合は感染性角膜炎との鑑別が不可欠であり、角膜擦過培養を行う。
非感染性の実質浸潤はCL装用や局所・全身の細菌感染に関連する抗原によっても生じうる。フリクテン性角膜炎やブドウ球菌性辺縁性角膜炎のほか、自己免疫疾患に伴う周辺部潰瘍性角膜炎も鑑別に挙がる3)。
感染性角膜炎との鑑別
感染性角膜炎は角膜中央に多く、進行性で膿性分泌物を伴う。
辺縁性角膜炎は周辺部に限局し、透明帯があり、培養陰性である。
上皮欠損がある場合は角膜擦過培養で感染を除外する。
Mooren潰瘍との鑑別
Mooren潰瘍は輪部との間に透明帯を認めない。
掘込み状の深い潰瘍を呈し、より侵襲的に進行する。
全身性自己免疫疾患は伴わないが、免疫抑制療法を要する。
膠原病に伴う周辺部潰瘍性角膜炎(PUK) は関節リウマチ、多発血管炎性肉芽腫症などの全身疾患を背景に発症する。辺縁性角膜炎より重症で、強膜炎を伴うことが多い。ステロイド点眼への反応が乏しく、全身的免疫抑制療法が必要となる。
Terrien角膜辺縁変性は角膜周辺部の菲薄化を呈するが、炎症所見が乏しく進行も遅い。透明帯を認め、上皮欠損はなく脂肪沈着を伴うことが多い。
辺縁性角膜炎の治療は、局所の炎症抑制と原因となるブドウ球菌抗原の除去を目的とする。
基本処方は抗菌薬と低濃度ステロイドの併用点眼である。
| 薬剤 | 用法 |
|---|---|
| 抗菌薬点眼 | ガチフロキサシン等 1日4回 |
| ステロイド点眼 | フルオロメトロン0.1% 1日4回 |
| 抗菌眼軟膏 | エコリシン眼軟膏 眠前 |
眼瞼縁炎を合併する場合は眼瞼縁の清拭と抗菌眼軟膏の塗布が長期管理に重要である。再発を繰り返す症例では眼瞼縁・結膜囊の細菌培養と薬剤感受性試験により適切な抗菌薬を選択する。
マイボーム腺炎の合併例では、初期にセフェム系抗菌薬の内服を行い、その後マクロライド系抗菌薬の内服に移行してマイボーム腺の細菌叢を正常化させる方針が有効である。
CL関連の辺縁部浸潤では、CL装用を直ちに中止する。抗菌薬と低濃度ステロイドの点眼で上皮は3日程度で覆われるが、浸潤と充血は1〜2週間持続する。
免疫チェックポイント阻害薬誘発例では、ベタメタゾンリン酸ナトリウム0.1%点眼とモキシフロキサシン0.5%点眼を1日6回投与し、14日後に著明な浸潤の改善が得られた症例がある。化学療法継続中もステロイド点眼を維持し、再発は認められなかった1)。
ワクチン誘発例でも抗菌薬・ステロイド配合点眼が有効であった。2回目のワクチン接種時は点眼継続下で実施し、再発なく治癒に至っている2)。
細菌性角膜炎の治療において、瘢痕形成抑制を目的としたステロイド併用の可否については依然議論がある。ステロイド点眼の抗炎症作用により角膜融解や瘢痕形成を抑制し視力経過を改善する可能性がある一方、感染悪化のリスクも指摘されている4)。辺縁性角膜炎で上皮欠損を伴う場合は、感染の除外を確認してからステロイドを開始するのが安全である。
眼瞼炎が未治療の場合、再発は一般的です。予防には眼瞼衛生(温罨法と眼瞼清拭)が最も重要です。抗菌眼軟膏の眼瞼縁への塗布を習慣化し、マイボーム腺炎が活動性の場合はマクロライド系抗菌薬の内服を活動性に応じて継続することが推奨されます。自然経過は2〜3週間で自然治癒し、長期的な後遺症はほとんど残りません。
辺縁性角膜炎の本態は、眼瞼縁に常在するブドウ球菌の菌体外毒素に対するIII型アレルギー反応(免疫複合体型過敏反応)である。
ブドウ球菌抗原に感作された患者の角膜周辺部実質で、抗原が結膜血管から拡散してくる抗体と結合する。形成された免疫複合体が補体系を活性化し、好中球が遊走・浸潤することで角膜実質の混濁が生じる。この病変は上皮障害へ進展し、辺縁性潰瘍を形成することがある。
角膜中央部と輪部血管との距離があるため、IgMやC1などの高分子量タンパク質は角膜周辺部でより高い濃度で存在する。角膜周辺部にはランゲルハンス細胞も豊富に分布する。輪部から1〜2mmの領域は、より大きな免疫複合体の形成を促す抗原-抗体比を有しており、炎症反応が生じやすい環境にある。
角膜中央部は輪部からの距離が大きいため、抗原と免疫系求心路との接触が減少し、免疫介在性損傷から保護されていると考えられる。
黄色ブドウ球菌に対する好中球動員や炎症性サイトカイン産生において、Toll様受容体2(TLR2)および骨髄分化因子88(MyD88)が重要な役割を果たすことが示されている。
近年の研究では、ブドウ球菌のフェノール可溶性モジュリン(PSMs)がアラーミン放出とIL-36依存性経路の活性化を通じて角膜炎症を誘発する機序も明らかにされつつある。
角膜上皮・実質・内皮は恒常的にPD-L1を高発現しており、これが角膜の免疫特権維持に寄与している。PD-L1は角膜周辺部の抗原提示細胞を抑制し、T細胞浸潤を制限する。PD-1/PD-L1阻害薬は抗原提示細胞の活性化とT細胞の角膜内動員を引き起こし、自己免疫性角膜炎を惹起しうる1)。
角膜にはACE2受容体が有意に発現している。mRNAワクチンが産生するスパイクタンパク質に対する抗体が角膜のACE2受容体部位で免疫複合体を形成し、III型過敏反応を惹起する可能性が推定されている2)。
がん免疫療法の普及に伴い、ICI関連の眼有害事象が注目されている。PD-1/PD-L1阻害薬による眼有害事象の発生率は3.3〜7.4%と推定され、従来の想定より高い1)。アテゾリズマブは眼炎症との関連が最も強いICI薬剤の一つとされる1)。辺縁性角膜炎はICI関連の新規有害事象として認識されつつあり、がん治療中の角膜合併症への注意が必要である。
COVID-19ワクチン後の辺縁性角膜炎の報告は、角膜が全身性の免疫反応の標的となりうることを示している2)。造血幹細胞移植後や硝子体内注射後にも類似の症例が報告されており、新規抗原への曝露がIII型過敏反応を介して辺縁性角膜炎を惹起しうることが示唆される2)。
ブドウ球菌の超抗原やPSMsの角膜炎症における役割が解明されつつある。超抗原が辺縁性角膜炎に中心的役割を果たす可能性は低い一方、PSMsはアラーミン放出とIL-36依存性経路を介して顕著な角膜炎症を誘発することが実験的に示されている。これらの知見は将来的な分子標的治療の開発につながる可能性がある。
- Yamamoto M, Yamada M, Kusumi Y, et al. Fulminant marginal keratitis induced by atezolizumab, a programmed death ligand 1 inhibitor for lung cancer. Case Rep Ophthalmol. 2023;14:673-678.
- Farrell DA, Deacon S, Mauger T. Marginal keratitis following COVID 19 vaccination. IDCases. 2022;29:e01536.
- American Academy of Ophthalmology Cornea/External Disease Preferred Practice Pattern Panel. Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024.
- 日本眼感染症学会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版).