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角膜・外眼部疾患

角膜血染

角膜血染(corneal blood staining)は、前房出血(hyphema)後に赤血球の崩壊産物であるヘモジデリンが角膜実質内に沈着し、角膜が黄褐色〜赤褐色に混濁する状態である。

前房出血は鈍的外傷後に前房内に出血を認める状態であり、鈍的・穿通性外傷が最も多い原因である1)。前房出血の併発症として眼圧上昇、虹彩離断、隅角後退、角膜血染、硝子体出血水晶体亜脱臼・脱臼がある。少量の前房出血であっても緑内障、角膜血染、二次出血などの合併症を生じうるため、適切な管理が重要となる1)

前房出血の救急外来受診における年間発生率は約0.52/100,000と比較的まれであり、若年男性が大多数を占める1)。外傷性前房出血のほか、低侵襲緑内障手術(MIGS)後や出血性持続性胎児血管遺残(PFV)も原因となる。

Q 前房出血があれば必ず角膜血染になるのか?
A

大半の前房出血は1週間以内に自然吸収され、角膜血染には至らない1)。角膜血染の発症には眼圧上昇の持続、再出血、角膜内皮機能不全などのリスク因子が関与する。

前房出血に伴い以下の症状が生じる。

  • 視力低下:前房内の出血量に比例して霧視〜高度の視力低下を呈する1)。角膜血染が生じた場合、視力低下はさらに遷延する。
  • 疼痛:眼圧上昇に伴う眼痛を自覚する1)
  • 羞明:前房内の炎症に伴い光に対する過敏性が増す1)
  • 充血結膜強膜の充血を認める。

前房出血はその量に基づいて以下のように分類される1)

分類前房出血量特徴
Grade 0(微前房出血)顕微鏡でのみ確認浮遊する赤血球
Grade I前房の1/3未満自然吸収が多い
Grade II前房の1/3〜1/2入院管理を考慮
Grade III前房の1/2以上合併症リスク上昇
Grade IV(全前房出血)前房全体8-ball hyphema

全前房出血(Grade IV)では前房内が赤色〜黒褐色を呈し、あたかもビリヤードの黒い8番ボールのように見える(8-ball hyphema)。

角膜血染が生じると、角膜実質に黄褐色〜赤褐色の密な色素沈着を認める2)。混濁の消退は周辺部(輪部付近)から中央部へ向かって求心性に進行する2)。自然消退には通常2〜3年を要する2)

前眼部光干渉断層計AS-OCT)では、Descemet膜レベルに一致した高反射域が観察され、角膜実質の不均一性(リモデリング)を反映する2)

  • 外傷性前房出血:最も多い原因である1)。鈍的外力により虹彩・毛様体の血管が損傷される。
  • 低侵襲緑内障手術(MIGS)後:術後前房出血の合併として生じうる。
  • 出血性持続性胎児血管遺残(PFV):先天性の角膜血染の原因となる。

角膜血染の発症リスクを高める因子は以下の通りである。

  • 前房出血の遷延:6日以上の持続は高リスクである。
  • 全前房出血(Grade IV):大量の血液が長時間角膜と接触する。
  • 角膜内皮機能不全:内皮のバリア機能低下によりヘモグロビンが浸透しやすくなる2)
  • 眼圧上昇の持続:25 mmHg以上が6日間持続する場合、リスクが著しく上昇する。
  • Descemet膜の損傷:Haab線条(先天緑内障に伴うDescemet膜破裂)がある場合、眼圧が正常でも角膜血染が発症しうる2)
  • 再出血:初回損傷後1週間以内に最大38%で再出血が生じ1)、初回よりも多量となることが多い。EGSガイドラインでは再出血は3〜7日目に発生し、発生率は5〜10%と報告されている3)

鎌状赤血球症または鎌状赤血球形質の患者では、鎌状化した赤血球が線維柱帯の閉塞を増強するため、前房出血の重症度にかかわらず二次性緑内障や角膜血染のリスクが高い1)。アフリカ系患者では鎌状赤血球のスクリーニングが推奨される1)

Q 鎌状赤血球症があると角膜血染のリスクが高まるか?
A

高まる。鎌状化した赤血球は変形能が低く線維柱帯を閉塞しやすいため、少量の前房出血でも眼圧上昇を生じやすく、前房洗浄などの外科的介入の閾値が低くなる1)炭酸脱水酵素阻害薬や高浸透圧薬はsickling(鎌状化)を促進するため避けるべきである3)

前房出血および角膜血染の診断は、臨床所見と各種検査を組み合わせて行う。

主な検査法を以下に示す。

検査法目的時期・留意点
細隙灯顕微鏡検査前房出血の確認・分類初診時〜経過観察
眼圧測定眼圧上昇の評価定期的に実施
隅角鏡検査隅角後退の確認受傷後1〜2週は避ける
超音波生体顕微鏡 / 前眼部OCT(AS-OCT)隅角・毛様体の詳細評価穿孔性眼外傷では超音波生体顕微鏡禁忌
超音波検査(B-scan)後眼部の評価眼底透見不能時

細隙灯顕微鏡検査:前房出血の確認・分類に不可欠であり、角膜血染の有無も評価する1)。微前房出血は肉眼では判別困難なため、細隙灯での観察が必要となる。

眼圧測定:前房出血に伴う眼圧上昇が最多の合併症であり1)、定期的な測定が不可欠である。

隅角鏡検査:隅角後退や外傷後の構造変化の確認に有用であるが、再出血を誘発する危険性があるため、受傷後1〜2週間は避ける3)

超音波生体顕微鏡・前眼部OCT:隅角解離、毛様体解離、毛様体浮腫などの詳細評価に用いる2)。ただし穿孔性眼外傷では超音波生体顕微鏡は感染症および眼球圧迫の危険があり禁忌である。角膜血染を伴う症例では、AS-OCTでDescemet膜レベルの高反射域を確認できる2)

Seidel試験:角膜穿孔の有無を確認する。

鎌状赤血球スクリーニング:アフリカ系患者では、前房出血の管理方針決定のためスクリーニングが推奨される1)

画像検査(CT・MRI):高度の結膜浮腫、低眼圧結膜下出血を認める場合は眼球破裂を疑い画像検査を行う。金属性異物が疑われる場合、MRIは禁忌である。

角膜血染の治療は、前房出血の管理による発症予防が最も重要である。大半の前房出血は自然吸収されるが、合併症の発症を防ぐためには適切な内科的・外科的介入が求められる。

内科的治療

安静:仰臥位を避け、座位またはベッド頭側を30〜45度挙上。血液を前房下部に沈殿させ線維柱帯閉塞を軽減する。

散瞳薬:アトロピン点眼液1%を1日1回就寝前。後癒着予防と毛様体筋痙攣の緩和に用いる1)

ステロイド:リンデロン点眼液0.1%を1日4回。炎症抑制と二次出血予防に有効1)

止血薬:アドナ錠30mg 3錠 分3 毎食後。

眼圧下降薬:チモブトール点眼液0.5%を1日2回。必要に応じ炭酸脱水酵素阻害薬を追加する。

外科的治療

前房洗浄:眼圧上昇が持続する場合や角膜血染の徴候を認めた場合に適応1)3)。受傷後4日目頃が至適時期とされる。

眼圧の許容基準:健常若年者では50 mmHg×5日間、35 mmHg×7日間。

鎌状赤血球症:24時間以上の眼圧上昇で前房洗浄を考慮する1)

その他の術式線維柱帯切除術、周辺虹彩切除術、前房穿刺1)。すべて再出血のリスクを伴う。

トラネキサム酸やアミノカプロン酸は凝固を促進し再出血リスクを低減する1)3)。抗凝固薬、抗血小板薬、NSAIDs、アスピリンは再出血を助長するため中止する1)

角膜血染が一旦発症した場合、自然消退は緩徐である。混濁は周辺部から中央部へ求心性に消退し、完全消退には通常2〜3年を要する2)。小児では視軸の混濁が遷延すると深い弱視に至るリスクがあり2)、早期の角膜移植が選択肢となるが、小児角膜移植は移植片生着率の問題がある2)

Q 前房洗浄の最適な時期はいつか?
A

受傷後4日目頃が適切とされる。再出血の可能性が低下し、出血塊が眼組織からある程度分離している時期である。眼圧上昇が25 mmHg以上で6日間持続する前、あるいは角膜血染の最初の兆候が現れた時点で実施を検討する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

鈍的外力が眼球に加わると前房内圧が急激に上昇し、角膜輪部の伸展と房水の後方移動が生じる。これにより虹彩・毛様体が損傷され出血が起こる。再帰性脈絡膜動脈や虹彩大動脈輪の破綻が前房内への血液流入の原因となる1)

前房内に滞留した赤血球が崩壊し、その産物が角膜内に浸透する。初期には角膜実質内に細胞外ヘモグロビンが沈着する。赤血球崩壊産物の顆粒は、不連続となった角膜内皮および完全な状態のDescemet膜を通過して角膜実質に到達する。

角膜細胞(keratocyte)にはヘモグロビンが広範に蓄積され、ヘモジデリンやフェリチンの顆粒が出現する。持続的なヘモグロビンの過負荷は角膜細胞の壊死を引き起こし、不可逆的な角膜血染に至る。

Descemet膜損傷と低眼圧での角膜血染

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通常、角膜血染は眼圧上昇を伴う前房出血で発症するが、Descemet膜に破裂(Haab線条など)がある場合は内皮バリア機能が低下しているため、低眼圧でも発症しうる2)。角膜内皮の機能不全はヘモグロビンの角膜実質への浸透を容易にする重要な因子である2)

前房出血に伴う緑内障には複数の病態がある。

  • 赤血球・炎症性デブリスによる線維柱帯閉塞:最も多い機序である1)
  • 溶血性緑内障:ヘモグロビン含有マクロファージと赤血球破片が線維柱帯機能を障害する3)
  • Ghost cell緑内障硝子体中に数週間閉じ込められた赤血球が変性し、変性ヘモグロビン(Heinz body)が細胞内壁に沈着した球形のkhaki色細胞となる3)。これらは可動性が低く線維柱帯の通過が困難なため眼圧上昇を生じる。前部硝子体面の破壊により硝子体前房間に交通があることが発症の条件となる。
Q 眼圧が正常でも角膜血染は起こりうるか?
A

起こりうる。先天緑内障に伴うHaab線条(Descemet膜破裂)のある症例で、術後前房出血に対し眼圧9 mmHgにもかかわらず角膜血染が発症した報告がある2)。角膜内皮の機能不全やDescemet膜の損傷がある場合、眼圧上昇がなくても発症のリスクがある。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Atallahら(2025)は、両眼性先天緑内障に伴うHaab線条を有する4ヶ月男児の症例を報告した2)。全周糸状線維柱帯切開術後に前房出血を生じ、眼圧が9 mmHgと低値であったにもかかわらず術後2週で角膜血染が発症した。混濁は20ヶ月かけて部分的に消退したが、深い弱視が残存した。本報告はDescemet膜の破裂と角膜内皮機能不全が角膜血染の独立したリスク因子であることを示唆している。

鉄キレート剤による角膜血染消退の促進

Section titled “鉄キレート剤による角膜血染消退の促進”

Atallahら(2025)の報告では、経口デフェリプロン(全身性鉄キレート剤)がヘモグロビン由来の鉄沈着物の除去を促進し、角膜の透明性改善に寄与する可能性が言及されている2)。ただし当該症例では使用されておらず、今後の臨床的検証が必要である。

前眼部OCTによる角膜リモデリングの評価

Section titled “前眼部OCTによる角膜リモデリングの評価”

前眼部OCTでDescemet膜レベルの高反射肥厚線が観察され、Descemet膜破裂の治癒過程を反映することが報告されている2)。角膜血染後のリモデリング評価における非侵襲的画像検査としての有用性が注目される。

外傷性前房出血の長期合併症として隅角後退緑内障がある。180度以上の隅角後退を有する症例では10年間で6〜20%と高率に発症し、受傷後数年以上経過してからの発症が多いため、長期にわたる経過観察が重要である。


  1. Chen EJ, Fasiuddin A. Management of Traumatic Hyphema and Prevention of Its Complications. Cureus. 2021;13(6):e15771.
  2. Atallah EA, Alalawi SM, Alhendi SH, et al. A Rare Case of Early Corneal Blood Staining After Post-operative Hyphema in a Child With Congenital Glaucoma and Haab’s Striae. Cureus. 2025;17(11):e97269.
  3. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025. doi:10.1136/bjophthalmol-2025-egsguidelines.

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