自己血清(AS)
原料:患者自身の血液。
調製:遠心分離後、血清を20〜50%に希釈。
利点:自己由来のため感染伝播リスクが低い。
制限:採血が必要。炎症性疾患患者ではサイトカイン上昇の懸念あり。

血清点眼液(serum eye drops)は、血液の血清成分を点眼薬として調製したものである。1975年に眼表面疾患(OSD)患者の涙液不足に対する治療として初めて報告された。
血清には天然涙液と共通する増殖因子、ビタミン、フィブロネクチンなどの生物活性成分が含まれており、人工涙液にはないこれらの成分が眼表面の修復を促進する。血清と涙液はアルブミン含有量と浸透圧が類似しており、防腐剤を含まないため長期使用が可能である。
TFOS DEWS III報告書では、血清点眼液は段階的治療アルゴリズムのStep 3(人工涙液およびシクロスポリン点眼薬で効果不十分な場合)に位置づけられている1)。EULAR(欧州リウマチ学会連合)も、眼潤滑剤とシクロスポリンA(CsA)で症状がコントロールされない患者に対して自己血清点眼液の使用を推奨している1)。
ただし、調製方法の標準化が不十分であること、コストが高いこと、FDA承認がないことなどが普及を制限する要因となっている1)。
人工涙液や免疫抑制点眼薬(シクロスポリンなど)による保存的治療で十分な改善が得られない重症ドライアイや眼表面疾患に対して検討される。TFOS DEWS IIIの段階的治療アルゴリズムではStep 3に位置づけられている。
血清点眼液は、保存的・局所的治療で改善が見られない幅広い眼表面疾患に適応される。
自己血清の提供が困難な患者には、健康なドナーから調製される他家血清(ALS)点眼液が使用できる。臨床試験では自己血清と他家血清で同等の有効性と忍容性が示されている。静脈路確保困難、高齢、全身性疾患、血液疾患などの患者にとって有用な代替手段である。
血清には天然涙液と共通する多くの生物活性成分が含まれている。天然涙液は1,500種以上のタンパク質、サイトカイン、増殖因子、神経伝達物質を含む複雑な混合液である1)。血清点眼液はこれらの内因性成分を補い、アポトーシスを抑制するとともに、角膜上皮細胞の増殖・移動・分化を促進する。
主要な含有成分とその作用を以下に示す。
| 成分カテゴリ | 主な成分 | 作用 |
|---|---|---|
| 増殖因子 | EGF、NGF、TGF-α | 上皮増殖・神経再生 |
| ビタミン | ビタミンA、E | 分化促進・抗酸化 |
| 構造タンパク質 | フィブロネクチン | 細胞接着・移動促進 |
| 血漿タンパク質 | アルブミン | 抗酸化・眼表面保護 |
アルブミンはCyst34上の遊離チオール基により活性酸素・窒素ラジカルを中和し、酸化損傷から眼表面を保護する。増殖因子EGFおよびTGF-βは-20℃で3か月間保存しても活性が維持されることが報告されている。
臍帯血清(UCS)は自己血清と比較して、EGF、TGF-β、NGF、サブスタンスPの濃度が高い1)。
日本では20%自家血清点眼が以下の手順で院内調製される。
煩雑な院内調製が必要であり、細菌汚染のリスクもあるため、他の治療法と比較検討したうえで適応を判断すべきである。
自己血清(AS)
原料:患者自身の血液。
調製:遠心分離後、血清を20〜50%に希釈。
利点:自己由来のため感染伝播リスクが低い。
制限:採血が必要。炎症性疾患患者ではサイトカイン上昇の懸念あり。
他家血清(ALS)
原料:健康なドナーの血液。
調製:自己血清と同様の遠心分離・希釈工程。
利点:採血困難な患者に使用可能。感染スクリーニング済み。
適応:静脈路確保困難、高齢者、全身性疾患患者。
多血小板血漿(PRP)
原料:患者血液を抗凝固剤存在下で遠心分離。
調製:希釈せず使用。血小板を含む血漿。
利点:調製時間が短い。増殖因子・血漿因子が高濃度。
特徴:無傷の血小板が眼表面の治癒を促進。
Cochraneレビューでは29件の研究が同定されたが、組み入れ基準を満たしたのは5件のみであった。自己血清点眼液は人工涙液と比較して短期的な症状軽減効果がある可能性が示されたが、さらなるRCTが必要と結論された1)。
より最近の7件のRCTのメタアナリシスでは、自己血清点眼液は人工涙液と比較して患者の症状・臨床所見の双方で優れた有効性が報告された1)。
米国眼科学会(AAO)のPreferred Practice Pattern評価報告では10件の研究がレビューされ、8件が高品質であり、血清点眼液の使用により症状の改善と少なくとも1つの客観的臨床所見の改善が示された1)。
20%自己血清点眼液とシクロスポリンA 0.05%点眼液を比較した研究では、自己血清群でOSDIスコアの有意な減少が報告されている1)。
原発性シェーグレン症候群患者38名を対象としたRCTでは、自己血清点眼液と汎網膜光凝固点眼液を12週間使用し、角膜・結膜染色スコアおよびTBUTが4週と12週で両群とも有意に改善した。両群間に有意差は認められなかった1)。
羊膜移植後も遷延する角膜上皮欠損40例に対し、血清点眼液が人工涙液と比較して上皮治癒の促進と良好な視力回復をもたらしたと報告されている1)。
重症ドライアイ患者を対象とした前向きランダム化クロスオーバー試験では、自己血清と他家血清でOSDIスコアに差はなく、同等の有効性と忍容性が示された1)。
重症ドライアイ患者63名を対象とした二重盲検RCTでは、自己血清・他家血清・臍帯血清の3群を比較し、Schirmer値、TBUT、フルオレセイン染色、リサミングリーン染色のいずれも有意に改善した。3群間に有意差は認められなかった1)。
RCTやメタアナリシスにより、自己血清・他家血清の双方でドライアイの症状・所見改善に対する有効性が示されている。Cochraneレビューでは短期的な症状軽減効果が認められ、7件のRCTのメタアナリシスでは人工涙液に対する優位性が報告されている。ただし、調製方法の標準化が不十分であり、さらなる大規模RCTが求められている。
防腐剤を含む人工涙液と比較して、血清点眼液の副作用は最小限である。プロトコルに従って調製・保存されている限り、安全上の懸念は低い。
血清点眼液における最も重要な合併症は感染症である。ただし、適切な冷凍・冷蔵保存を行っている限り、感染リスクは低いと報告されている。
最も懸念される合併症は細菌汚染による感染症であるが、適切な冷凍・冷蔵保存プロトコルを遵守している限り、リスクは低い。血清点眼液は防腐剤を含まないため長期使用が可能であるが、開封後は4℃で保存し速やかに使い切る必要がある。