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角膜・外眼部疾患

血清点眼液(自己血清・他家血清)

血清点眼液(serum eye drops)は、血液の血清成分を点眼薬として調製したものである。1975年に眼表面疾患(OSD)患者の涙液不足に対する治療として初めて報告された。

血清には天然涙液と共通する増殖因子、ビタミン、フィブロネクチンなどの生物活性成分が含まれており、人工涙液にはないこれらの成分が眼表面の修復を促進する。血清と涙液はアルブミン含有量と浸透圧が類似しており、防腐剤を含まないため長期使用が可能である。

TFOS DEWS III報告書では、血清点眼液は段階的治療アルゴリズムのStep 3(人工涙液およびシクロスポリン点眼薬で効果不十分な場合)に位置づけられている1)。EULAR(欧州リウマチ学会連合)も、眼潤滑剤とシクロスポリンA(CsA)で症状がコントロールされない患者に対して自己血清点眼液の使用を推奨している1)

ただし、調製方法の標準化が不十分であること、コストが高いこと、FDA承認がないことなどが普及を制限する要因となっている1)

Q 血清点眼液はどのような場合に検討されるか?
A

人工涙液や免疫抑制点眼薬(シクロスポリンなど)による保存的治療で十分な改善が得られない重症ドライアイや眼表面疾患に対して検討される。TFOS DEWS IIIの段階的治療アルゴリズムではStep 3に位置づけられている。

血清点眼液は、保存的・局所的治療で改善が見られない幅広い眼表面疾患に適応される。

  • 重症ドライアイ:最も一般的な適応疾患。涙液層破壊時間(TBUT)の延長、角膜染色の減少、OSDIスコアの改善が報告されている。
  • シェーグレン症候群:重症ドライアイを伴う自己免疫疾患。自家血清点眼が有効であると報告されている。
  • 眼移植片対宿主病(ocular GVHD):造血幹細胞移植後の眼合併症。
  • スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN):重度の眼表面障害を伴う。
  • 化学外傷:急性期後の眼表面再建。
  • 遷延性角膜上皮欠損:従来の治療に抵抗する慢性的な上皮欠損の再上皮化を促進する。
  • 神経障害性角膜痛:角膜神経の再生を促進することが報告されている。
  • 自己血清の禁忌:繰り返しの採血に耐えられない患者。静脈路確保困難、低ヘモグロビン値、針への恐怖、高齢、移動能力の制限などが該当する。これらの患者は他家血清点眼液の候補となる。
  • 活動性全身性炎症性疾患:血清中の炎症性サイトカインレベルが上昇している可能性があり、治療効果に影響を及ぼすことがある。
  • 経済的障壁:FDA承認がなく、保険適用が限られるため、コストが使用を制限する主な要因である。
Q 採血が困難な患者でも血清点眼液は使用できるか?
A

自己血清の提供が困難な患者には、健康なドナーから調製される他家血清(ALS)点眼液が使用できる。臨床試験では自己血清と他家血清で同等の有効性と忍容性が示されている。静脈路確保困難、高齢、全身性疾患、血液疾患などの患者にとって有用な代替手段である。

血清には天然涙液と共通する多くの生物活性成分が含まれている。天然涙液は1,500種以上のタンパク質、サイトカイン、増殖因子、神経伝達物質を含む複雑な混合液である1)。血清点眼液はこれらの内因性成分を補い、アポトーシスを抑制するとともに、角膜上皮細胞の増殖・移動・分化を促進する。

主要な含有成分とその作用を以下に示す。

成分カテゴリ主な成分作用
増殖因子EGF、NGF、TGF-α上皮増殖・神経再生
ビタミンビタミンA、E分化促進・抗酸化
構造タンパク質フィブロネクチン細胞接着・移動促進
血漿タンパク質アルブミン抗酸化・眼表面保護

アルブミンはCyst34上の遊離チオール基により活性酸素・窒素ラジカルを中和し、酸化損傷から眼表面を保護する。増殖因子EGFおよびTGF-βは-20℃で3か月間保存しても活性が維持されることが報告されている。

臍帯血清(UCS)は自己血清と比較して、EGF、TGF-β、NGF、サブスタンスPの濃度が高い1)

自家血清点眼の調製法(日本)

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日本では20%自家血清点眼が以下の手順で院内調製される。

  1. 患者本人から血液を採取する。
  2. 3,000rpmで10分間遠心分離にかける。
  3. 得られた血清を0.45μmのミリポアフィルタに通す。
  4. 生理食塩水で5倍希釈し、20%自家血清点眼を作製する。

煩雑な院内調製が必要であり、細菌汚染のリスクもあるため、他の治療法と比較検討したうえで適応を判断すべきである。

自己血清(AS)

原料:患者自身の血液。

調製:遠心分離後、血清を20〜50%に希釈。

利点:自己由来のため感染伝播リスクが低い。

制限:採血が必要。炎症性疾患患者ではサイトカイン上昇の懸念あり。

他家血清(ALS)

原料:健康なドナーの血液。

調製:自己血清と同様の遠心分離・希釈工程。

利点:採血困難な患者に使用可能。感染スクリーニング済み。

適応:静脈路確保困難、高齢者、全身性疾患患者。

多血小板血漿(PRP)

原料:患者血液を抗凝固剤存在下で遠心分離。

調製:希釈せず使用。血小板を含む血漿。

利点:調製時間が短い。増殖因子・血漿因子が高濃度。

特徴:無傷の血小板が眼表面の治癒を促進。

  • 未開封バイアルは-18℃〜-20℃で冷凍保存する。
  • 使用中のバイアルは4℃で冷蔵保存する。
  • 増殖因子は4℃で1か月、-20℃で3か月間安定である1)

Cochraneレビューでは29件の研究が同定されたが、組み入れ基準を満たしたのは5件のみであった。自己血清点眼液は人工涙液と比較して短期的な症状軽減効果がある可能性が示されたが、さらなるRCTが必要と結論された1)

より最近の7件のRCTのメタアナリシスでは、自己血清点眼液は人工涙液と比較して患者の症状・臨床所見の双方で優れた有効性が報告された1)

米国眼科学会(AAO)のPreferred Practice Pattern評価報告では10件の研究がレビューされ、8件が高品質であり、血清点眼液の使用により症状の改善と少なくとも1つの客観的臨床所見の改善が示された1)

20%自己血清点眼液とシクロスポリンA 0.05%点眼液を比較した研究では、自己血清群でOSDIスコアの有意な減少が報告されている1)

原発性シェーグレン症候群患者38名を対象としたRCTでは、自己血清点眼液と汎網膜光凝固点眼液を12週間使用し、角膜・結膜染色スコアおよびTBUTが4週と12週で両群とも有意に改善した。両群間に有意差は認められなかった1)

羊膜移植後も遷延する角膜上皮欠損40例に対し、血清点眼液が人工涙液と比較して上皮治癒の促進と良好な視力回復をもたらしたと報告されている1)

重症ドライアイ患者を対象とした前向きランダム化クロスオーバー試験では、自己血清と他家血清でOSDIスコアに差はなく、同等の有効性と忍容性が示された1)

重症ドライアイ患者63名を対象とした二重盲検RCTでは、自己血清・他家血清・臍帯血清の3群を比較し、Schirmer値、TBUT、フルオレセイン染色、リサミングリーン染色のいずれも有意に改善した。3群間に有意差は認められなかった1)

Q 血清点眼液の有効性を支持するエビデンスはあるか?
A

RCTやメタアナリシスにより、自己血清・他家血清の双方でドライアイの症状・所見改善に対する有効性が示されている。Cochraneレビューでは短期的な症状軽減効果が認められ、7件のRCTのメタアナリシスでは人工涙液に対する優位性が報告されている。ただし、調製方法の標準化が不十分であり、さらなる大規模RCTが求められている。

防腐剤を含む人工涙液と比較して、血清点眼液の副作用は最小限である。プロトコルに従って調製・保存されている限り、安全上の懸念は低い。

血清点眼液における最も重要な合併症は感染症である。ただし、適切な冷凍・冷蔵保存を行っている限り、感染リスクは低いと報告されている。

Q 血清点眼液の主な合併症は何か?
A

最も懸念される合併症は細菌汚染による感染症であるが、適切な冷凍・冷蔵保存プロトコルを遵守している限り、リスクは低い。血清点眼液は防腐剤を含まないため長期使用が可能であるが、開封後は4℃で保存し速やかに使い切る必要がある。


  1. TFOS DEWS III Management and Therapy Subcommittee. TFOS DEWS III: Management and Therapy Report. Am J Ophthalmol. 2025;279.

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