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白内障・前眼部

膨隆白内障の外科的管理

膨隆白内障(Intumescent cataract)は、水晶体の混濁に加えて腫脹(hydration)と水晶体内圧の上昇を伴う複雑型白内障である。

過熟白内障と同様に白色の外観を呈するが、前皮質に顕著な扇状の紋理(sectorial markings)が認められる点で異なる。水晶体嚢に亀裂を伴う場合もある。

眼外傷や硝子体切除術(PPV)後に発症することがある。外傷性白内障は全眼外傷の5〜10%に生じ、糖尿病などの全身疾患も膨隆への進行リスクとなる。

水晶体内圧の上昇と赤色反射の消失により、標準的な白内障手術よりも高い手技難度を要する。しかし、適切な術前評価と手術戦略により良好な視機能回復が見込まれる。

Q 膨隆白内障と過熟モルガニー白内障はどう違うのか?
A

膨隆白内障は前皮質の扇状紋理を特徴とし、水晶体核は液状化せずに残存していることが多い。一方、過熟モルガニー白内障は核が液状化した皮質の底部に沈下した状態であり、嚢内での核の移動が見られる。膨隆白内障は未熟皮質白内障と成熟皮質核白内障の中間型に位置づけられる。

膨隆白内障では、混濁した水晶体核が光を遮断するため視機能が著しく低下する。

  • 霧視・かすみ視:最も頻度の高い主訴。視力は手動弁または指数弁まで低下することがある。
  • 暗所での視力低下:混濁の程度に応じて増悪する。
  • ハロー・光条:光源周囲の光のにじみや条状光視を生じる。
  • 色覚異常:色別能力が低下する。

細隙灯顕微鏡所見

緊張した前嚢:内圧上昇により前嚢が膨隆し、表面に光沢を帯びた緊張感が見られる。

白色不透明な水晶体:皮質は白濁し、核は赤色反射を遮断する。

前皮質の扇状紋理:過熟白内障との鑑別に重要な所見。

外傷例の特徴:嚢の亀裂や前嚢上の色素沈着が見られることがある。

画像検査所見

AS-OCT所見:水晶体厚5.36mm以上かつ球状形態は膨隆白内障を示唆する。術前に腫脹の程度を評価し、液体貯留部位の同定にも有用である。

シャインプルーフ濃度測定:高密度所見は大きな核の存在を示唆する。

赤色反射消失:不透明な核物質が赤色反射を遮断するため、術中の前嚢切開の視認性が著しく低下する。

項目膨隆白内障過熟モルガニー白内障
前皮質紋理扇状紋理ありなし
核の状態固形または軟化液状化・底部沈下
嚢の状態膨隆・緊張菲薄化
赤色反射消失消失
Q 術前にAS-OCTを行う意義は何か?
A

AS-OCTにより水晶体の厚さや球状度、液体貯留部位を非侵襲的に評価できる。術中の前嚢切開が放射状に伸展するリスクが高い部位を事前に把握でき、嚢切開の開始位置や手技の計画に役立つ。また、術前に水晶体腫脹の程度を客観的に分類する手段としても有用である。

膨隆白内障の主なリスク要因を以下に示す。

  • 眼外傷:鈍的外傷は炎症後プラークを伴う膨隆を引き起こすことがある。小さな穿孔では局所的な混濁に留まる場合もある。
  • 硝子体切除術(PPV)既往:術後変化として膨隆白内障が生じうる。
  • 糖尿病:血糖コントロール不良状態が水晶体の代謝障害を介して膨隆への進行を促進する。
  • 加齢:高齢患者では核が肥大・硬化する傾向がある。
  • 若年患者の特性:水晶体核が軟化しており、嚢が過度に伸展しやすく破綻しやすい。

チン小帯の脆弱性(高齢者・外傷性白内障患者で多い)は、術中のIOL固定の困難さを増す要因となる。

診断は細隙灯顕微鏡検査を基本とし、画像検査を組み合わせて行う。

  • 細隙灯顕微鏡検査:緊張した前嚢と白色不透明な水晶体の外観を確認する。前皮質の扇状紋理により過熟白内障との鑑別が可能。外傷例では嚢の亀裂や色素沈着も評価する。
  • AS-OCT:水晶体厚5.36mm以上かつ球状形態で膨隆白内障を示唆する。液体貯留部位の同定にも活用する1)
  • シャインプルーフ濃度測定:高密度所見により大きな核の存在を推定する。
  • IOL度数計算:術前に完全な生体測定を行い、IOL度数を決定する。
  • 過熟モルガニー白内障(核の液状化・底部沈下)
  • 成熟皮質白内障
  • 未熟皮質白内障
  • 非膨隆性白色白内障

術前に完全な検査とIOL度数計算を行う。静脈内マンニトール投与により眼圧を下げ、前嚢と嚢内の圧力差を軽減することが有効である1)

標準的な白内障手術(超音波乳化吸引術)を基本としつつ、以下の工夫を加える。

  1. 散瞳とサイドポート切開:標準的に行う。
  2. トリパンブルーによる前嚢染色前房を空気で置換後、トリパンブルーを注入して前嚢を染色する。視認性が著しく向上し、前嚢切開の制御が容易になる1)
  3. 分散型粘弾性物質(OVD)の注入:前房を満たし、前嚢を平坦化させる。高凝集型OVDは前嚢裂傷のリスク軽減に有用である1)
  4. 嚢の減圧:前嚢を穿刺し、カニューレまたは針で液状化皮質を吸引して水晶体内腔を減圧する。前嚢が平坦化して連続変性視嚢切開(CCC)が制御しやすくなる。
  5. 連続環状切嚢(連続変性視嚢切開):減圧後に行う。高い灌流圧と低流量設定で超音波チップを用いた嚢切開(phacocapsulotomy)も選択肢となる。
  6. 残余の白内障手術を続行:核の除去(若年患者では超音波エネルギーが少量で済む場合が多い)、皮質吸引、IOL挿入。

術中の特殊手技

真空吸引による嚢切開(vacuum rhexis):24ゲージ針と10mLシリンジによる吸引を利用した手技。連続環状切嚢困難例への代替法として報告されている。

2段階連続環状切嚢:まず小さな嚢切開を作成し、減圧後に拡大する手法。内圧が高い状態での突然の伸展を防ぐ。

術中OCTガイド:液体貯留部位をリアルタイムに確認しながら嚢切開を行う。内圧上昇部位(放射状裂傷リスク高)を回避して手技を進める。

嚢保護の工夫

人工的エピニュークリアスの作成:超音波乳化吸引中、核の後方に分散型OVDを注入して後嚢を保護する。膨隆白内障では保護的なエピニュークリアスが欠如していることが多い。

嚢拡張リング(CTR):チン小帯脆弱が疑われる症例で、前後嚢が完全な場合に挿入する。チン小帯喪失が高度な場合は縫着型CTRを用いる。

IOL固定の代替:嚢や毛様溝が利用不能な場合は強膜内固定IOLまたは前房IOLを選択する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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膨隆白内障では水晶体上皮細胞のナトリウム-カリウム(Na-K)ポンプの機能不全が中心的役割を担う。

Na-Kポンプ機能不全により電解質と水分バランスが崩れる。内向きの浸透圧と上皮細胞の腫脹が生じ、細胞溶解と白内障形成につながる。

透過型電子顕微鏡観察では以下が認められる:上皮の腫脹、細胞内空胞化、水晶体上皮細胞膜からの浸透圧性顆粒の放出、水晶体嚢縦方向の断裂。これらの変化が嚢の引張強度を低下させ、手術時の合併症リスクとなる。

外傷性の場合、眼内の水力学的エネルギーが外傷エネルギーを拡散させ、嚢を破裂させて即時または遅発性の混濁を引き起こす。

膨隆白内障患者では以下の合併症が生じやすい:

  • 水晶体溶解性緑内障:水晶体タンパク質を貪食したマクロファージが隅角線維柱帯を直接閉塞することで眼圧上昇を引き起こす。
  • 水晶体抗原性ぶどう膜炎:露出した水晶体タンパク質が免疫反応を誘発し、眼圧上昇の有無にかかわらず炎症が生じる。

若年患者では水晶体核が軟化し皮質が混濁する一方、嚢が過度に伸展して可動性が高く破綻しやすい傾向がある。超音波エネルギーは少量で済み、hydrodissectionやhydrodelineationが不要な場合もある。高齢患者では核が肥大・硬化する傾向があり、チン小帯脆弱のリスクも高い。

Q 膨隆白内障に対して手術を急ぐ必要があるのか?
A

緑内障やぶどう膜炎などの続発性合併症が生じている場合は早期手術が推奨される。合併症がなければ緊急性は低いが、高い水晶体内圧は嚢の自然破綻リスクを伴うため、適切な時期に専門施設での手術を計画することが望ましい。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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術中リアルタイムOCTを用いて液体貯留部位を同定しながら前嚢切開を行う手技の研究が進んでいる。水晶体内圧が特に高い部位を避けて嚢切開を開始することで、アルゼンチン国旗サインの発生リスクを低減することが期待される。

最初に小さな嚢切開を作成し減圧後に拡大する2段階法(two-staged CCC)は、高い水晶体内圧下での突然の前嚢裂傷を防ぐ手法として注目されている。術者教育・訓練への組み込みを含めた標準化が今後の課題である。

AS-OCTによる水晶体形状・厚さのデータを活用して術前に水晶体内圧を定量的に推定するモデルの研究が行われている。術前リスク評価への応用が期待される。


  1. European Society of Cataract and Refractive Surgeons. ESCRS Cataract Guideline 2023. ESCRS; 2023.

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