無虹彩リング(Aniridia Ring)
代表例:Morcher 50E
構造:カプセルテンション輪をベースに8枚の遮光パネル
配置:水晶体嚢内(endocapsular)
特徴:2本のリングで完全虹彩横隔膜を構成
備考:Morcher社は2020年末でマーケティング活動を停止4)

**人工虹彩デバイス(Prosthetic Iris Devices: PID)**は、先天性または後天性の虹彩欠損・機能不全に対し、虹彩機能を代替・補助するために眼内に植込まれる医療機器である。
人工虹彩デバイスは機能性人工虹彩デバイスと美容目的インプラントの2種類に大別される。機能性人工虹彩デバイスは無虹彩(aniridia)・外傷・先天性異常・虹彩萎縮などの治療目的で使用される。一方、美容目的インプラントは眼の色を変えるためだけに前房内に追加植込みするものであり、安全性の根拠が乏しく多くの国で未承認である。
最初の人工虹彩デバイス植込みは1956年にPeter Choyceによって前房型レンズとして報告された。4) 1994年にSundmacherらとReinhardらが先天性・外傷性無虹彩への黒色横隔膜IOLを植込んだことが現代的人工虹彩デバイスの出発点とされる。4)
無虹彩リング(Aniridia Ring)
代表例:Morcher 50E
構造:カプセルテンション輪をベースに8枚の遮光パネル
配置:水晶体嚢内(endocapsular)
特徴:2本のリングで完全虹彩横隔膜を構成
備考:Morcher社は2020年末でマーケティング活動を停止4)
虹彩レンズ横隔膜型
代表例:黒色横隔膜IOL
構造:IOLと一体化した虹彩横隔膜
配置:嚢内または強膜固定
特徴:IOLと虹彩機能を同時に補完
適応:外傷性無虹彩+水晶体摘出例
カスタムフレキシブル義虹彩
代表例:Customflex ArtificialIris(HumanOptics)
構造:シリコン製、個別注文・成形可能
配置:嚢内・毛様溝・強膜固定
特徴:2.6mm切開より挿入可能な柔軟設計
備考:日本では未承認(2024年現在)
機能性人工虹彩デバイスの対象となる患者が訴える主な症状。
| 評価項目 | 内容 |
|---|---|
| 虹彩欠損の範囲 | 部分欠損か全欠損か、片眼か両眼か |
| 嚢の残存状況 | 嚢内固定の可否の判断に必須 |
| 毛様溝の状態 | 毛様溝固定の判断 |
| 角膜内皮細胞数 | 術前・術後モニタリングの基準値 |
| 眼圧 | 合併緑内障の確認 |
機能性人工虹彩デバイスは羞明の大幅な改善が主な目的です。白化症患者を対象にした報告では、術後に羞明が劇的に改善し、日常生活の光環境への対応が改善したとされています。4) 視力は白内障手術・IOL植込みを同時に行えば改善することがあります。ただし、黄斑低形成(白化症に多い)など中枢側の問題がある場合は視力改善に限界があります。
美容目的の前房内インプラント(NewColorIris・BrightOcularなど)は虹彩の前面に追加植込みするものであり、以下の重篤合併症が報告されている。
人工虹彩デバイス手術の適応決定と術前計画に必要な検査を以下に示す。
角膜内皮細胞検査(スペキュラーマイクロスコピー):人工虹彩デバイス手術は角膜内皮に対してリスクがある。術前・術後の角膜内皮細胞数モニタリングが必須。機能性人工虹彩デバイス植込み後も経時的に角膜内皮細胞数が減少する可能性がある。2)
前眼部OCT(AS-OCT):虹彩欠損の範囲・嚢の残存状況・前房角の構造を詳細に評価。美容目的インプラントのデセントレーション(脱心)測定にも有用。1)
眼圧測定(ゴールドマン圧平眼圧計):色素分散・前房角閉塞・トラベキュラーメッシュワーク損傷による眼圧上昇の早期発見。
隅角鏡検査(gonioscopy):色素沈着・周辺虹彩前癒着(PAS)・前房角閉塞の程度を評価。美容目的インプラントによる眼圧上昇の機序解明に重要。1)
早期に眼科専門医を受診し、インプラントの除去を含む治療方針を検討する必要があります。ある症例報告では、新生血管が美容目的インプラント上に増殖し、眼圧が両眼で45/30mmHgに達したため、緊急で両眼にバーベルト緑内障ドレナージデバイスを植込んだ事例が報告されています。5) 合併症は術後数年経過してから発症することもあり、長期の経過観察が重要です。
嚢内固定(Endocapsular):白内障手術と同時に嚢内に人工虹彩デバイスを植込む。Morcher 50E無虹彩リングを2本重ね、同時挿入する手技(スタック法)が開発されている。従来の逐次挿入法ではリングのセグメント絡み(interdigitation)によるリスクがあったが、スタック法ではこのリスクを回避できる。4)
白化症患者にスタック法でMorcher 50E 2本を同時植込みした62歳男性の報告では、術後に羞明が劇的に改善し、室内でも遮光眼鏡が不要になった。術後UDVAは右眼20/160、左眼20/120(中心窩低形成が制限要因)。合併症なし。4)
カプセルサポートがない場合の強膜固定:HumanOptics Customflex ArtificialIrisを用いた縫合不要強膜固定(Yamane法)との組み合わせが報告されている。17歳男性(外傷性無水晶体・無虹彩)にCustomflex AIとKowa AvanseePreset UV IOLをYamane式強膜内固定で一体化固定するAI-IOLサンドイッチ法が施行された。術後logMAR CDVA -0.10を達成。3)
Customflex ArtificialIrisを用いた両眼植込み:虹彩欠損患者3例への両眼植込みでは、全例が美容的結果に満足し、CDVAは維持または改善。コントラスト感度は3例中2例で改善した。1例では術後に黄斑浮腫が発生しOzurdex(デキサメタゾン硝子体内注射)で治療した。2)
日本では、HumanOptics Customflex ArtificialIrisは薬事承認されておらず(2024年現在)、通常の診療での使用は困難です。無虹彩リング(Morcher型)も国内承認状況の確認が必要です。海外では機能性PIDが用いられていますが、日本では虹彩縫合・前房型IOLを虹彩支持として使用する方法などが代替として選択されることがあります。最新の承認状況は眼科専門医にご確認ください。
美容目的虹彩インプラント(NewColorIris・BrightOcularなど)は虹彩の前面に追加植込みされ、以下の機序で合併症を引き起こす。
色素分散症候群:インプラント表面の鋭利な縁や不整表面が虹彩を機械的にこすることで色素が剥離・分散する。走査型電子顕微鏡(SEM)によるexplant(摘出インプラント)の解析で、表面の不整や鋭利な縁が確認されている。1) 分散した色素がトラベキュラーメッシュワーク(隅角濾過帯)に蓄積し、房水流出を妨げてIOPを上昇させる。
角膜内皮細胞の減少:前房内での慢性炎症・房水乱流・脱心したインプラントによる物理的接触が角膜内皮を傷害し、角膜内皮細胞数を減少させる。ある症例では15年後に両眼角膜内皮細胞数 1268/1122 cells/mm²まで低下した。1)
角度閉塞と周辺虹彩前癒着形成:インプラントの縁が前房角構造(トラベキュラーメッシュワーク・シュレム管)と接触し、周辺虹彩前癒着(PAS)を形成する。これにより房水流出が慢性的に障害される。1)
インプラントのデセントレーション(脱心):経時的にインプラントが瞳孔軸から偏位する。右眼で瞳孔軸から耳側475μm・上方238μm、左眼で上方308μm・耳側15μmのデセントレーションが15年後の症例で報告されている。デセントレーションが大きいほどIOPが高く、合併症の発症が早い傾向がある。1)
新生血管の形成:眼圧が極度に上昇した状態(両眼45/30mmHg)では眼虚血が生じ、前房角に新生血管が出現する。美容目的インプラント上に新生血管が直接増殖した初の報告例が2025年に発表されている。5)
虹彩の色素が欠如(白化症)または虹彩そのものが欠損(無虹彩)すると、瞳孔を通過する光量を適切に調節できない。網膜への過剰な光刺激が羞明・眩惑を引き起こす。また、瞳孔が常時最大開大状態に近いため、レンズ周辺部の収差が大きく像質が低下する。人工虹彩デバイスはこの「絞り(diaphragm)」としての機能を代替する。4)
Morcher 50E無虹彩リングを2本同時にスタック挿入する技術により、従来の逐次挿入に比べてセグメント絡みのリスクを排除できることが示された。ただしMorcher社は2020年末に無虹彩インプラントの販売・マーケティングを停止したため、今後の利用可能性は不透明である。4)
縫合不要強膜固定(Yamane法)とCustomflex ArtificialIrisの組み合わせは、嚢外支持に適した新しいアプローチとして今後の症例蓄積が期待される。同法を用いた際のCustomflex AIのトリミングについては白対白(WTW)計測値±0.5mmが推奨されている。3)
HumanOptics Customflex ArtificialIrisは患者の健側眼の虹彩写真を基に色・形状をカスタマイズできる。外傷後の美容的回復において高い患者満足度が報告されている。今後は生体適合性素材・製造精度のさらなる向上が期待される。
美容目的虹彩インプラントによる合併症症例の増加を受け、医学界では倫理的・医学的観点からの規制強化が求められている。長期的な安全性データの欠如と重大な合併症リスクを考慮すると、現在の段階でこれらの機器のリスクは便益を上回ると考えられている。1)
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