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白内障・前眼部

有水晶体後房レンズ(ICL)

1. 有水晶体後房レンズ(ICL)とは

Section titled “1. 有水晶体後房レンズ(ICL)とは”

有水晶体後房レンズ(Implantable Collamer Lens; ICL)は、後房型有水晶体眼内レンズ(posterior chamber phakic intraocular lens; pIOL)の一種である。自然の水晶体を温存したまま、虹彩と水晶体の間(毛様溝)にレンズを挿入して屈折異常を矯正する。

有水晶体後房レンズはSTAAR Surgical社が開発した「コラマー(collamer)」と呼ばれる特許素材で作られている。組成は以下の通りである。

  • ポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA):60%
  • 水分:36%
  • ベンゾフェノン:3.8%(紫外線吸収剤)
  • 豚由来コラーゲン:0.2%

この素材はガスと栄養素の透過性に優れ、炎症反応がきわめて少ない1)

1993年にSTAAR Surgical社が最初の後房型pIOLを発売した。2005年に米国FDAの承認を取得し、数回の設計変更を経て、2022年3月にEVO/EVO+ 有水晶体後房レンズが米国でFDA承認された。世界全体で200万枚以上が使用されており、うち150万枚以上が中央ポート設計のEVOモデルである1)

最新のEVO 有水晶体後房レンズは中央に直径0.36mmのポート(KS-Aquaport)を備えている。この設計により以下の利点が得られた。

  • 従来モデルで必要だったNd:YAGレーザー虹彩切開術が不要
  • 生理的な房水循環が維持される
  • 前嚢下白内障瞳孔ブロックの発生率が低下
Q 有水晶体後房レンズとLASIKはどう違うのか?
A

LASIKは角膜をレーザーで削って屈折を矯正する。有水晶体後房レンズは角膜を温存しレンズを眼内に挿入する。有水晶体後房レンズには可逆性があり、ドライアイや角膜拡張症のリスクがない。将来の白内障手術時のIOL度数計算にも影響しない1)。高度近視では有水晶体後房レンズが有利とされる。

米国FDA臨床試験の中等度近視群(200眼)における6ヶ月時の成績を示す1)

  • 裸眼視力(UDVA)20/20以上:94.5%
  • UDVA 20/16以上:57.5%
  • 等価球面度数が±0.50D以内:91.5%
  • ±1.00D以内:100.0%
  • 有効性指数:1.03

矯正視力(CDVA)に関する成績は以下の通りである1)

  • CDVAが術前と同等以上:98.0%
  • 1段階以上のCDVA向上:56.0%
  • 2段階以上のCDVA低下:0%
  • 安全性指数:1.21

LASIK等の角膜屈折矯正術との比較結果を以下に示す1)

術式UDVA 20/20以上±0.50D以内
EVO 有水晶体後房レンズ94.5%91.5%
SMILE84.2%93.7%
Topo-LASIK88.9%93.0%

EVO 有水晶体後房レンズは角膜屈折矯正術と同等以上の有効性と安全性を示している1)

3. 適応・禁忌とレンズサイズ選択

Section titled “3. 適応・禁忌とレンズサイズ選択”

米国FDA承認に基づくVisian 有水晶体後房レンズの適応は以下の通りである。

  • 年齢:21〜45歳
  • 近視度数:眼鏡面で-3.0D〜-15.0Dの矯正、-20.0Dまでの軽減
  • 乱視:2.5D以下(Toric 有水晶体後房レンズでは1.0D〜4.0D)
  • 前房深度角膜内皮から3.00mm以上
  • 屈折安定性:術前1年間で0.5D以内の変化
  • 前房深度3.00mm未満
  • 隅角鏡検査でグレードII未満の隅角
  • 妊娠中または授乳中
  • 年齢に応じた最小値を満たさない角膜内皮細胞密度

レンズサイズの正確な決定は術後成績に直結する。以下の方法で計測する。

  • WTW距離(角膜横径)とACD(前房深度)に基づくSTAAR社ノモグラム
  • UBM(超音波生体顕微鏡)による毛様溝間距離の直接計測

理想的なボルト(ICLと水晶体前面の間隙)は250〜750μmである2)。ボルトが小さすぎると前嚢下白内障のリスクがあり、大きすぎると瞳孔ブロックや隅角狭小化を生じうる。

Q レンズサイズが合わないとどうなるのか?
A

ボルトが250μm未満の場合、水晶体との接触により前嚢下白内障が形成されるリスクがある。750μmを超えると瞳孔ブロックや虹彩との接触による色素散布が生じうる2)。FDA試験では0.5%の眼でボルト過剰によるレンズ交換が行われた1)

従来のVisian 有水晶体後房レンズでは、手術2〜3週間前に上方2箇所にYAGレーザー虹彩切開術を行っていた。EVO/EVO+ 有水晶体後房レンズでは周辺虹彩切開は不要である1)

  1. 点眼麻酔(前房内リドカイン併用)下で施行する
  2. 1%トロピカミドと2.5%フェニレフリンで散瞳する
  3. 3.0〜3.2mmの耳側角膜切開を作成する
  4. 凝集型粘弾性物質(HPMC 2%)を前房に注入する1)
  5. 有水晶体後房レンズを虹彩面の前方に注入し展開させる
  6. ハプティクスのフットプレートを虹彩下の毛様溝に配置する
  7. 粘弾性物質を完全に除去する
  8. 縮瞳剤を注入し、創口閉鎖を確認する

EVO 有水晶体後房レンズは高い安全性を示しているが、いくつかの合併症が報告されている。

眼圧上昇

OVD残留:最も頻度が高い。術後1〜6時間で18%に一過性上昇1)

ステロイドレスポンス:0.5%に発生。ステロイド減量で対応1)

隅角狭小化:ボルト過剰による。レンズ交換を要することがある1)

感染・炎症

TASS:発生率0.24%。術後1週間前後に遅発性に発症しうる。ステロイド集中治療で改善3)

眼内炎:発生率0.017〜0.036%。適切な抗菌薬治療で視力回復が可能4)

その他

前房出血:虹彩毛様体嚢胞破裂により発生。保存的治療で治癒しうる5)

白内障形成:EVO 有水晶体後房レンズでは視力に影響する白内障の発生は0%1)

術後早期の眼圧上昇は複数の原因が考えられる2)

  • OVD残留:最も多い原因。術後数日以内に自然に正常化する
  • ステロイドレスポンス:ステロイドの減量・中止で対応する
  • 瞳孔ブロック:EVO 有水晶体後房レンズの中央ポートが閉塞した場合に発生しうる。周辺虹彩切開で対応する
  • 色素散布緑内障:虹彩と有水晶体後房レンズの接触による色素遊離。隅角鏡検査で色素沈着を確認する
  • 閉塞隅角:ボルト過剰によりレンズ交換が必要になることがある

Moshirfarら(2024)が報告した症例では、術後のIOP上昇に対し粘弾性物質残留と早期ステロイドレスポンスが原因と推定された2)。6週間の経過観察とステロイド減量により、レンズ摘出や虹彩切開を要さず正常化した。

6ヶ月時の角膜内皮細胞減少率は平均2.2%であった1)。長期研究では術後早期のリモデリング後に安定化し、8年後の減少率は3.6±7.9%と報告されている1)

Liら(2023)は有水晶体後房レンズ手術後1週間で発症した遅発性TASS 2例を報告した3)。角膜後面の角膜後沈着物(KP)と前房内フィブリン形成を認めたが、ステロイド全身・局所投与(プレドニゾロン0.5 mg/kg内服+1%点眼1時間毎)を4〜5週間行い、視力・前房所見ともに改善した。発生率は0.24%(827眼中2眼)であった。

Zhengら(2023)は有水晶体後房レンズ術後20日目に発症したStaphylococcus epidermidis眼内炎の1例を報告した4)硝子体注射(バンコマイシン1 mg + セフタジジム2 mg)を2回施行し、有水晶体後房レンズ摘出や硝子体手術を行わずに視力22/20まで回復した。有水晶体後房レンズ術後の眼内炎発生率は約0.017〜0.036%と推定されている。

Q 術後に眼圧が上がった場合はどうするのか?
A

最も多い原因は粘弾性物質の残留であり、数日以内に自然に改善する。ステロイド点眼の減量やIOP降下薬の追加で対応する。瞳孔ブロックやレンズサイズ不適合が原因の場合は、虹彩切開やレンズ交換が必要となることがある2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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コラマーはきわめて高い生体適合性を持つ。スペキュラーマイクロスコピーとレーザーフレアセルメーターによる検査で、炎症反応がないことが確認されている1)。コラーゲン含有により生体組織との親和性が高く、ガスと代謝産物の透過性に優れている。

有水晶体後房レンズの光学部は水晶体の上方にアーチ状に架かる形で配置される。水晶体との間のボルトが適切に維持されることで、房水が水晶体表面を流れ、白内障形成を防ぐ。

EVO 有水晶体後房レンズの中央ポート(KS-Aquaport)は、後房から前房への生理的な房水の流れを可能にする。これにより以下の効果が得られる。

  • 瞳孔ブロックの予防
  • 水晶体への栄養供給の維持
  • 前嚢下白内障リスクの低減
  • ボルト過剰(>750μm):有水晶体後房レンズが虹彩を前方に押し出し、隅角を狭小化させる。色素散布や瞳孔ブロックのリスクが上昇する2)
  • ボルト不足(<250μm):有水晶体後房レンズが水晶体前嚢に接触し、代謝障害により前嚢下白内障を形成する

FDA試験では99.7%の眼で満足なボルトが得られ、閉塞隅角・色素散布・前嚢下白内障の発生は0件であった1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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2020年7月にCEマーク承認を取得した革新的な有水晶体後房レンズである。非球面の焦点深度拡張型(EDOF)光学系を備え、近方および中間視力の矯正を提供する。有水晶体眼および偽水晶体眼(白内障手術後の単焦点IOL挿入眼)の両方に適応があり、21〜60歳が対象年齢となっている。米国ではFDA承認待ちの段階である。

従来、有水晶体後房レンズは-6.0D以上の強度近視を主な対象としていたが、EVO 有水晶体後房レンズの安全性向上により適応が中等度〜低度近視にも拡大しつつある。

Packer(2022)のFDA臨床試験では被験者の約3分の1が-6.0D未満の中等度近視であり、全範囲の近視で安全性と有効性が一貫していることが示された1)

Q 老視も矯正できるのか?
A

EVO Vivaという老視矯正用有水晶体後房レンズが開発されており、欧州ではCEマーク承認を取得している。焦点深度拡張型の光学系により近方・中間視力を改善する設計であるが、米国ではまだFDA承認待ちの段階である。


  1. Packer M. The EVO 有水晶体後房レンズ for Moderate Myopia: Results from the US FDA Clinical Trial. Clin Ophthalmol. 2022;16:3981-3991.
  2. Moshirfar M, Moin KA, Pandya S, et al. Severe intraocular pressure rise after implantable collamer lens implantation. J Cataract Refract Surg. 2024;50:985-989.
  3. Li L, Zhou Q. Late-onset toxic anterior segment syndrome after 有水晶体後房レンズ implantation: two case reports. BMC Ophthalmol. 2023;23:61.
  4. Zheng K, Zheng X, Gan D, Zhou X. Successful antibiotic management of Staphylococcus epidermidis endophthalmitis after implantable collamer lens implantation. BMC Ophthalmol. 2023;23:410.
  5. Zhang W. Anterior Segment Hemorrhage after Implantable Collamer Lens Surgery. Ophthalmology. (Pictures & Perspectives).

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