眼圧上昇
OVD残留:最も頻度が高い。術後1〜6時間で18%に一過性上昇1)。
ステロイドレスポンス:0.5%に発生。ステロイド減量で対応1)。
隅角狭小化:ボルト過剰による。レンズ交換を要することがある1)。

有水晶体後房レンズ(Implantable Collamer Lens; ICL)は、後房型有水晶体眼内レンズ(posterior chamber phakic intraocular lens; pIOL)の一種である。自然の水晶体を温存したまま、虹彩と水晶体の間(毛様溝)にレンズを挿入して屈折異常を矯正する。
有水晶体後房レンズはSTAAR Surgical社が開発した「コラマー(collamer)」と呼ばれる特許素材で作られている。組成は以下の通りである。
この素材はガスと栄養素の透過性に優れ、炎症反応がきわめて少ない1)。
1993年にSTAAR Surgical社が最初の後房型pIOLを発売した。2005年に米国FDAの承認を取得し、数回の設計変更を経て、2022年3月にEVO/EVO+ 有水晶体後房レンズが米国でFDA承認された。世界全体で200万枚以上が使用されており、うち150万枚以上が中央ポート設計のEVOモデルである1)。
最新のEVO 有水晶体後房レンズは中央に直径0.36mmのポート(KS-Aquaport)を備えている。この設計により以下の利点が得られた。
米国FDA臨床試験の中等度近視群(200眼)における6ヶ月時の成績を示す1)。
矯正視力(CDVA)に関する成績は以下の通りである1)。
LASIK等の角膜屈折矯正術との比較結果を以下に示す1)。
| 術式 | UDVA 20/20以上 | ±0.50D以内 |
|---|---|---|
| EVO 有水晶体後房レンズ | 94.5% | 91.5% |
| SMILE | 84.2% | 93.7% |
| Topo-LASIK | 88.9% | 93.0% |
EVO 有水晶体後房レンズは角膜屈折矯正術と同等以上の有効性と安全性を示している1)。
米国FDA承認に基づくVisian 有水晶体後房レンズの適応は以下の通りである。
レンズサイズの正確な決定は術後成績に直結する。以下の方法で計測する。
理想的なボルト(ICLと水晶体前面の間隙)は250〜750μmである2)。ボルトが小さすぎると前嚢下白内障のリスクがあり、大きすぎると瞳孔ブロックや隅角狭小化を生じうる。
ボルトが250μm未満の場合、水晶体との接触により前嚢下白内障が形成されるリスクがある。750μmを超えると瞳孔ブロックや虹彩との接触による色素散布が生じうる2)。FDA試験では0.5%の眼でボルト過剰によるレンズ交換が行われた1)。
従来のVisian 有水晶体後房レンズでは、手術2〜3週間前に上方2箇所にYAGレーザー虹彩切開術を行っていた。EVO/EVO+ 有水晶体後房レンズでは周辺虹彩切開は不要である1)。
EVO 有水晶体後房レンズは高い安全性を示しているが、いくつかの合併症が報告されている。
眼圧上昇
OVD残留:最も頻度が高い。術後1〜6時間で18%に一過性上昇1)。
ステロイドレスポンス:0.5%に発生。ステロイド減量で対応1)。
隅角狭小化:ボルト過剰による。レンズ交換を要することがある1)。
感染・炎症
TASS:発生率0.24%。術後1週間前後に遅発性に発症しうる。ステロイド集中治療で改善3)。
眼内炎:発生率0.017〜0.036%。適切な抗菌薬治療で視力回復が可能4)。
その他
前房出血:虹彩毛様体嚢胞破裂により発生。保存的治療で治癒しうる5)。
白内障形成:EVO 有水晶体後房レンズでは視力に影響する白内障の発生は0%1)。
術後早期の眼圧上昇は複数の原因が考えられる2)。
Moshirfarら(2024)が報告した症例では、術後のIOP上昇に対し粘弾性物質残留と早期ステロイドレスポンスが原因と推定された2)。6週間の経過観察とステロイド減量により、レンズ摘出や虹彩切開を要さず正常化した。
6ヶ月時の角膜内皮細胞減少率は平均2.2%であった1)。長期研究では術後早期のリモデリング後に安定化し、8年後の減少率は3.6±7.9%と報告されている1)。
Liら(2023)は有水晶体後房レンズ手術後1週間で発症した遅発性TASS 2例を報告した3)。角膜後面の角膜後沈着物(KP)と前房内フィブリン形成を認めたが、ステロイド全身・局所投与(プレドニゾロン0.5 mg/kg内服+1%点眼1時間毎)を4〜5週間行い、視力・前房所見ともに改善した。発生率は0.24%(827眼中2眼)であった。
Zhengら(2023)は有水晶体後房レンズ術後20日目に発症したStaphylococcus epidermidis眼内炎の1例を報告した4)。硝子体注射(バンコマイシン1 mg + セフタジジム2 mg)を2回施行し、有水晶体後房レンズ摘出や硝子体手術を行わずに視力22/20まで回復した。有水晶体後房レンズ術後の眼内炎発生率は約0.017〜0.036%と推定されている。
最も多い原因は粘弾性物質の残留であり、数日以内に自然に改善する。ステロイド点眼の減量やIOP降下薬の追加で対応する。瞳孔ブロックやレンズサイズ不適合が原因の場合は、虹彩切開やレンズ交換が必要となることがある2)。
コラマーはきわめて高い生体適合性を持つ。スペキュラーマイクロスコピーとレーザーフレアセルメーターによる検査で、炎症反応がないことが確認されている1)。コラーゲン含有により生体組織との親和性が高く、ガスと代謝産物の透過性に優れている。
有水晶体後房レンズの光学部は水晶体の上方にアーチ状に架かる形で配置される。水晶体との間のボルトが適切に維持されることで、房水が水晶体表面を流れ、白内障形成を防ぐ。
EVO 有水晶体後房レンズの中央ポート(KS-Aquaport)は、後房から前房への生理的な房水の流れを可能にする。これにより以下の効果が得られる。
FDA試験では99.7%の眼で満足なボルトが得られ、閉塞隅角・色素散布・前嚢下白内障の発生は0件であった1)。
2020年7月にCEマーク承認を取得した革新的な有水晶体後房レンズである。非球面の焦点深度拡張型(EDOF)光学系を備え、近方および中間視力の矯正を提供する。有水晶体眼および偽水晶体眼(白内障手術後の単焦点IOL挿入眼)の両方に適応があり、21〜60歳が対象年齢となっている。米国ではFDA承認待ちの段階である。
従来、有水晶体後房レンズは-6.0D以上の強度近視を主な対象としていたが、EVO 有水晶体後房レンズの安全性向上により適応が中等度〜低度近視にも拡大しつつある。
Packer(2022)のFDA臨床試験では被験者の約3分の1が-6.0D未満の中等度近視であり、全範囲の近視で安全性と有効性が一貫していることが示された1)。
EVO Vivaという老視矯正用有水晶体後房レンズが開発されており、欧州ではCEマーク承認を取得している。焦点深度拡張型の光学系により近方・中間視力を改善する設計であるが、米国ではまだFDA承認待ちの段階である。