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白内障・前眼部

眼内レンズ(IOL)素材の比較

1. 眼内レンズ(IOL)素材の比較とは

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眼内レンズ(intraocular lens; IOL)は、白内障手術で混濁した水晶体を摘出した後に挿入する人工レンズである。1949年にHarold Ridleyが初めてポリメチルメタクリレート(PMMA)製IOLをヒトに移植した。以来、IOL素材とデザインは大きく進化してきた。

現在利用可能な主なIOL素材は以下の通りである。

  • 疎水性アクリル:1993年に導入。現在最も広く使用される素材である。
  • 親水性アクリル:高含水率で柔軟性に優れる。極小切開白内障手術に適する。
  • シリコーン:折りたたみ式IOLとして長い歴史を持つ。
  • PMMA:最初のIOL素材。硬性で折りたたみ不可。
  • コラマー(Collamer):コラーゲン含有共重合体。主に有水晶体眼内レンズ(ICL)に使用される。
  • PEG-PEA/HEMA/スチレン共重合体:親水性と疎水性の特性を兼ね備えた新素材。

折りたたみ式IOL(シリコーン・アクリル)は小切開で挿入できるため、硬性のPMMA IOLに大きく取って代わった1)。術者は各素材の利点と欠点を理解したうえで選択する必要がある1)

IOL素材はアッベ数・屈折率・含水率(吸湿性)・ガラス転移温度などの特性で分類される。

特性定義臨床的意義
屈折率光の曲がりの尺度高いほどレンズを薄くできる
アッベ数色分散の尺度高いほど色収差が少ない
含水率水分保持能力高いとグリステニング減少

天然水晶体の屈折率は1.4、アッベ数は47である。屈折率が高いほど同じ度数でもIOLを薄く設計でき、小切開からの挿入に有利となる。一方、屈折率が増加するとアッベ数は減少し、色収差が増大する。

生体適合性は嚢内生体適合性とぶどう膜生体適合性に大別される。

  • 嚢内生体適合性:IOLと残存水晶体上皮細胞(LEC)との相互作用を指す。前嚢混濁(ACO)および後嚢混濁(PCO)の発生に関与する。
  • ぶどう膜生体適合性虹彩毛様体・前部脈絡膜の免疫反応をどの程度回避できるかを指す。

IOL表面の親水性・疎水性は接触角で測定される。接触角が大きいほど疎水性が高い。疎水性素材は後嚢への接着性が高く、LECの移動スペースを減少させることでPCOを抑制する傾向がある。

現在世界で最も広く使用されるIOL素材である。アクリル酸エステルと他のコモノマーの架橋共重合体で構成される。

  • 屈折率:1.47〜1.56と高い。薄型設計が可能。
  • 含水率:0.1〜0.5%と低い。
  • ガラス転移温度:16〜55℃。
  • PCO:角型エッジとの組み合わせで発生率が低い1)。フィブロネクチン結合を介して後嚢に接着し、LEC移動を抑制する。
  • グリステニング:IOL内部に出現する液体充填微小空胞。低含水率素材で生じやすいが、視機能への影響や摘出を要することはまれである1)

AAOのCataract PPP(2021)では、角型エッジ疎水性アクリルIOLはPCOおよびNd:YAG後嚢切開率が最も低い素材の一つとされている1)

PMMAの骨格にヒドロキシル基を導入した素材であり、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)の添加で柔軟性を付与している。

  • 屈折率:1.40〜1.43と低い。レンズが厚くなる。
  • 含水率:18〜38%と高い。
  • グレア:発生率が低い。
  • PCO:シリコーンや疎水性アクリルより発生率が高い1)。膨潤により鋭利な後方エッジを維持しにくいことが一因と考えられる。
  • 石灰化:旧世代で問題となったカルシウム・リン酸沈着は新世代では改善されている。ただし、角膜移植(DSEK・DMEK)や硝子体手術で眼内に空気・ガスが入ると石灰化リスクが生じるため、これらの手術が予想される眼では回避が望ましい1)

非常に柔軟であるため約1.8mmの切開で挿入可能であり、極小切開白内障手術(MICS)に有利である。

偽落屑症候群86眼を対象とした前向き研究では、親水性アクリルIOLはLEC増殖が最も低く嚢内生体適合性に優れたが、表面へのデブリ沈着が多くPCO発生率は最も高く、ぶどう膜生体適合性は劣っていた。

シリコン-酸素骨格の繰り返し構造からなる合成ポリマーである。

  • 屈折率:1.43。アクリルより低く、同度数では厚くなる。
  • 含水率:0.38%。
  • 接触角:97〜120°。強い疎水性。
  • ガラス転移温度:-120〜-90℃。
  • PCO:LECが付着しにくく、最も鋭利な角型エッジを持つため、長期使用(6年以上)では疎水性アクリルよりPCO率が低いとの報告がある。
  • 欠点:細菌・細胞・シリコーンオイルが付着しやすい。硝子体手術中に結露で曇る可能性があるため、糖尿病眼では慎重に使用する1)。シリコーンオイル使用眼では回避すべきである1)
Q シリコーンIOLを避けるべき状況は?
A

シリコーンオイルや膨張性ガスが後眼部に入る可能性がある症例では使用を避ける1)。重症増殖糖尿病網膜症のように将来の硝子体手術リスクが高い眼でも同様である。

最初にIOLに使用された素材であり、優れた組織耐容性と長期安定性を持つ。

  • 屈折率:1.49。高い光学的透明度。
  • 含水率:0.4〜0.8%。
  • 接触角:65〜71°。
  • ガラス転移温度:105〜113℃。
  • 欠点:硬性で折りたたみ不可。挿入に5.5〜6mmの切開が必要であり、術後乱視や治癒遅延の原因となる。
  • 合併症:長期使用でスノーフレーク変性(IOL摘出の適応)が生じる。疎水性のため移植中に角膜内皮細胞に付着し、内皮障害を引き起こす可能性がある。

現在は嚢内固定が不可能な場合の強膜縫着IOLなど、限定的に使用されている。

HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)と豚由来コラーゲンの共重合体であり、主に後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)として使用される。

  • 屈折率:1.44。
  • 含水率:40%。
  • 特徴:EVO 有水晶体後房レンズファミリーとして球面・乱視矯正用が利用可能である。2022年に米国FDA承認。中心孔(セントラルポート)デザインにより、従来必要であった周辺虹彩切開術(PI)が不要となった。
  • 適応:21〜45歳、球面等価度数-3.0〜-20.0Dの近視前房深度3.0mm以上、屈折変化が1年以内に0.5D以下の安定した症例。
  • ボルト(vault):有水晶体後房レンズ背面と水晶体前面の距離。最適範囲は角膜中心厚の50〜150%(250〜900μm)とされる。低すぎると前嚢下白内障、高すぎると閉塞隅角緑内障のリスクがある。

親水性と疎水性の特性を兼ね備えた新世代IOL素材である。enVista MX60 IOLに採用されている。

  • 組成:PEG-PEA 40%、HEMA 30%、スチレン 26%、EG-DMA 4%。
  • 屈折率:1.54。
  • 含水率:4〜5%。
  • 硬度:1.8MPa。
  • 特徴:PEG-PEAが疎水性を、HEMAが吸湿性を付与する。グリステニングの発生がなく、PCO発生率およびNd:YAG後嚢切開率が低いと報告されている。

疎水性アクリル

最も広く使用:現在の標準IOL素材。

PCO発生率:角型エッジで低い。

グリステニング:主な欠点だが視機能への影響はまれ。

親水性アクリル

柔軟性に優れる:約1.8mm切開で挿入可能。

PCO発生率:他素材より高い。

石灰化リスク:空気・ガス注入後に注意。

シリコーン

長期PCO率:疎水性アクリルより低いとの報告あり。

注意:シリコーンオイル・ガス使用眼では回避。

結露:硝子体手術中に曇る可能性。

4. 眼内レンズ素材と後発白内障

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後嚢混濁(posterior capsule opacification; PCO)は白内障手術後の最も一般的な長期合併症であり、発生率は5〜54%と報告されている1)。Nd:YAGレーザー後嚢切開術で治療されるが、IOL素材とエッジデザインが発生率に大きく影響する。

  • 疎水性アクリル:角型エッジとの組み合わせでPCO率が最も低い1)
  • 親水性アクリル:シリコーンや疎水性アクリルよりPCO率が高い1)
  • シリコーン:LECが付着しにくく、長期的にはPCO率が低い。
  • PMMA:ハイドロゲルIOLとともにPCO率が高い傾向がある。

2013年のメタアナリシス(9件のRCT)および複数の縦断研究では、角型エッジ疎水性IOLは角型エッジ親水性IOLよりもPCOおよびNd:YAG後嚢切開率が低いことが示された1)。角型エッジのアクリル・PMMA・シリコーンIOLはNd:YAG後嚢切開の必要性において同等と報告されている(エビデンスレベルI+、推奨度Strong)1)

ただし、ある無作為化試験では、角型エッジ疎水性レンズの保護効果は12年後の時点で丸型エッジのシリコーン・PMMA IOLに対してPCO発生を「遅延」させるにとどまる可能性が示唆されている1)

Q どのIOL素材がPCOを最も起こしにくいか?
A

角型エッジの疎水性アクリルIOLが現時点で最もPCO率が低い1)。エッジデザインが素材と同程度に重要であり、角型エッジは素材を問わずPCO抑制に寄与する。

IOLの選択は、各素材の特性を踏まえたうえで患者の個別状況に応じて行う。

  • 標準的な白内障手術:疎水性アクリルIOLが第一選択である1)
  • 極小切開手術(MICS):親水性アクリルIOLが適する場合がある。
  • 将来の硝子体手術リスク:シリコーンIOLは回避する1)。疎水性アクリルを選択する。
  • 角膜移植予定眼:親水性アクリルIOLは石灰化リスクがあり回避が望ましい1)
  • ぶどう膜炎眼:アクリルIOLまたはヘパリン表面修飾(HSM)PMMA IOLが良好な視力予後と関連する1)。非HSM PMMAやシリコーンIOLより優れた成績が報告されている。
臨床状況推奨素材回避すべき素材
標準手術疎水性アクリル
硝子体手術リスク疎水性アクリルシリコーン
角膜移植予定疎水性アクリル親水性アクリル
ぶどう膜炎アクリル・HSM PMMA非HSM PMMA・シリコーン
Q ぶどう膜炎の患者にはどのIOL素材が適しているか?
A

アクリルIOL(特に疎水性アクリル)またはヘパリン表面修飾PMMA IOLが良好な成績と関連する1)。術前のぶどう膜炎コントロールとFuchs虹彩異色性毛様体炎の診断も予後良好因子である。

6. IOL素材の物理的特性と光学設計

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IOLの屈折率は素材の化学組成に依存する。ハロゲン・芳香族基・硫黄の添加で屈折率が上昇する。屈折率とIOLの厚さは逆相関であり、高屈折率素材ほど薄い設計が可能である。

偽水晶体眼での色収差はIOL素材のアッベ数によって決定される。IOL素材間のアッベ数は37〜55の範囲にわたる。色収差はコントラスト感度や正視化にも影響を及ぼす。

ガラス転移温度は、ポリマーが硬いガラス状態から柔軟なゴム状態に変化する温度である。IOLは生理的体温(37℃)および室温以下のガラス転移温度に設計される。体温を超えると眼内でレンズが正常に展開しない。

球面IOLは正の球面収差を持ち、角膜の正の球面収差と合算されて眼球全体の収差が増大する。若年者の水晶体は負の球面収差を有し、これを相殺しているが、加齢とともに水晶体の球面収差は正に傾く。

非球面IOLは各屈折面の傾斜を変化させ、周辺光線と近軸光線が同一点に集光するよう設計されたレンズである。現在ではほとんどのIOLが非球面構造を採用している。球面収差の軽減によりコントラスト感度が向上するが、偏心や傾斜によりコマ様収差が増加するため、IOL固定が不安定な症例では球面IOLが適する場合もある。

従来の非着色紫外線吸収IOLは短波長光を多く透過する。着色IOLはヒト水晶体に近い分光透過率を持ち、網膜光障害の抑制効果が期待されている。従来はPMMA製のみであったが、現在はfoldable製品も開発されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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親水性・疎水性ハイブリッド素材の開発

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PEG-PEA/HEMA/スチレン共重合体(enVista MX60)に代表されるように、親水性と疎水性の特性を最適にバランスさせた新素材の開発が進んでいる。従来の疎水性アクリルにおけるグリステニング、親水性アクリルにおけるPCO・石灰化といった素材固有の欠点を克服することが目標である。

ヘパリン表面修飾(HSM)PMMA IOLはぶどう膜炎眼で良好な成績を示しており1)、表面修飾による生体適合性の向上は今後のIOL開発においても重要な方向性と考えられる。IOL表面のコーティングやナノテクスチャリングによるLEC付着抑制やバイオフィルム形成抑制の研究が進められている。

親水性アクリルIOLの石灰化は、特に角膜内皮移植術後や硝子体手術後に問題となる。新世代の親水性アクリルIOLでは石灰化リスクが低減されているとされるが、完全な解決には至っていない。素材組成の改良や表面処理による石灰化耐性の向上が研究されている。


  1. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129:P1-P126.

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