疎水性アクリル
最も広く使用:現在の標準IOL素材。
PCO発生率:角型エッジで低い。
グリステニング:主な欠点だが視機能への影響はまれ。

眼内レンズ(intraocular lens; IOL)は、白内障手術で混濁した水晶体を摘出した後に挿入する人工レンズである。1949年にHarold Ridleyが初めてポリメチルメタクリレート(PMMA)製IOLをヒトに移植した。以来、IOL素材とデザインは大きく進化してきた。
現在利用可能な主なIOL素材は以下の通りである。
折りたたみ式IOL(シリコーン・アクリル)は小切開で挿入できるため、硬性のPMMA IOLに大きく取って代わった1)。術者は各素材の利点と欠点を理解したうえで選択する必要がある1)。
IOL素材はアッベ数・屈折率・含水率(吸湿性)・ガラス転移温度などの特性で分類される。
| 特性 | 定義 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 屈折率 | 光の曲がりの尺度 | 高いほどレンズを薄くできる |
| アッベ数 | 色分散の尺度 | 高いほど色収差が少ない |
| 含水率 | 水分保持能力 | 高いとグリステニング減少 |
天然水晶体の屈折率は1.4、アッベ数は47である。屈折率が高いほど同じ度数でもIOLを薄く設計でき、小切開からの挿入に有利となる。一方、屈折率が増加するとアッベ数は減少し、色収差が増大する。
生体適合性は嚢内生体適合性とぶどう膜生体適合性に大別される。
IOL表面の親水性・疎水性は接触角で測定される。接触角が大きいほど疎水性が高い。疎水性素材は後嚢への接着性が高く、LECの移動スペースを減少させることでPCOを抑制する傾向がある。
現在世界で最も広く使用されるIOL素材である。アクリル酸エステルと他のコモノマーの架橋共重合体で構成される。
AAOのCataract PPP(2021)では、角型エッジ疎水性アクリルIOLはPCOおよびNd:YAG後嚢切開率が最も低い素材の一つとされている1)。
PMMAの骨格にヒドロキシル基を導入した素材であり、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)の添加で柔軟性を付与している。
非常に柔軟であるため約1.8mmの切開で挿入可能であり、極小切開白内障手術(MICS)に有利である。
偽落屑症候群86眼を対象とした前向き研究では、親水性アクリルIOLはLEC増殖が最も低く嚢内生体適合性に優れたが、表面へのデブリ沈着が多くPCO発生率は最も高く、ぶどう膜生体適合性は劣っていた。
シリコン-酸素骨格の繰り返し構造からなる合成ポリマーである。
シリコーンオイルや膨張性ガスが後眼部に入る可能性がある症例では使用を避ける1)。重症増殖糖尿病網膜症のように将来の硝子体手術リスクが高い眼でも同様である。
最初にIOLに使用された素材であり、優れた組織耐容性と長期安定性を持つ。
現在は嚢内固定が不可能な場合の強膜縫着IOLなど、限定的に使用されている。
HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)と豚由来コラーゲンの共重合体であり、主に後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)として使用される。
親水性と疎水性の特性を兼ね備えた新世代IOL素材である。enVista MX60 IOLに採用されている。
疎水性アクリル
最も広く使用:現在の標準IOL素材。
PCO発生率:角型エッジで低い。
グリステニング:主な欠点だが視機能への影響はまれ。
親水性アクリル
柔軟性に優れる:約1.8mm切開で挿入可能。
PCO発生率:他素材より高い。
石灰化リスク:空気・ガス注入後に注意。
シリコーン
長期PCO率:疎水性アクリルより低いとの報告あり。
注意:シリコーンオイル・ガス使用眼では回避。
結露:硝子体手術中に曇る可能性。
後嚢混濁(posterior capsule opacification; PCO)は白内障手術後の最も一般的な長期合併症であり、発生率は5〜54%と報告されている1)。Nd:YAGレーザー後嚢切開術で治療されるが、IOL素材とエッジデザインが発生率に大きく影響する。
2013年のメタアナリシス(9件のRCT)および複数の縦断研究では、角型エッジ疎水性IOLは角型エッジ親水性IOLよりもPCOおよびNd:YAG後嚢切開率が低いことが示された1)。角型エッジのアクリル・PMMA・シリコーンIOLはNd:YAG後嚢切開の必要性において同等と報告されている(エビデンスレベルI+、推奨度Strong)1)。
ただし、ある無作為化試験では、角型エッジ疎水性レンズの保護効果は12年後の時点で丸型エッジのシリコーン・PMMA IOLに対してPCO発生を「遅延」させるにとどまる可能性が示唆されている1)。
角型エッジの疎水性アクリルIOLが現時点で最もPCO率が低い1)。エッジデザインが素材と同程度に重要であり、角型エッジは素材を問わずPCO抑制に寄与する。
IOLの選択は、各素材の特性を踏まえたうえで患者の個別状況に応じて行う。
| 臨床状況 | 推奨素材 | 回避すべき素材 |
|---|---|---|
| 標準手術 | 疎水性アクリル | ― |
| 硝子体手術リスク | 疎水性アクリル | シリコーン |
| 角膜移植予定 | 疎水性アクリル | 親水性アクリル |
| ぶどう膜炎 | アクリル・HSM PMMA | 非HSM PMMA・シリコーン |
アクリルIOL(特に疎水性アクリル)またはヘパリン表面修飾PMMA IOLが良好な成績と関連する1)。術前のぶどう膜炎コントロールとFuchs虹彩異色性毛様体炎の診断も予後良好因子である。
IOLの屈折率は素材の化学組成に依存する。ハロゲン・芳香族基・硫黄の添加で屈折率が上昇する。屈折率とIOLの厚さは逆相関であり、高屈折率素材ほど薄い設計が可能である。
偽水晶体眼での色収差はIOL素材のアッベ数によって決定される。IOL素材間のアッベ数は37〜55の範囲にわたる。色収差はコントラスト感度や正視化にも影響を及ぼす。
ガラス転移温度は、ポリマーが硬いガラス状態から柔軟なゴム状態に変化する温度である。IOLは生理的体温(37℃)および室温以下のガラス転移温度に設計される。体温を超えると眼内でレンズが正常に展開しない。
球面IOLは正の球面収差を持ち、角膜の正の球面収差と合算されて眼球全体の収差が増大する。若年者の水晶体は負の球面収差を有し、これを相殺しているが、加齢とともに水晶体の球面収差は正に傾く。
非球面IOLは各屈折面の傾斜を変化させ、周辺光線と近軸光線が同一点に集光するよう設計されたレンズである。現在ではほとんどのIOLが非球面構造を採用している。球面収差の軽減によりコントラスト感度が向上するが、偏心や傾斜によりコマ様収差が増加するため、IOL固定が不安定な症例では球面IOLが適する場合もある。
従来の非着色紫外線吸収IOLは短波長光を多く透過する。着色IOLはヒト水晶体に近い分光透過率を持ち、網膜光障害の抑制効果が期待されている。従来はPMMA製のみであったが、現在はfoldable製品も開発されている。
PEG-PEA/HEMA/スチレン共重合体(enVista MX60)に代表されるように、親水性と疎水性の特性を最適にバランスさせた新素材の開発が進んでいる。従来の疎水性アクリルにおけるグリステニング、親水性アクリルにおけるPCO・石灰化といった素材固有の欠点を克服することが目標である。
ヘパリン表面修飾(HSM)PMMA IOLはぶどう膜炎眼で良好な成績を示しており1)、表面修飾による生体適合性の向上は今後のIOL開発においても重要な方向性と考えられる。IOL表面のコーティングやナノテクスチャリングによるLEC付着抑制やバイオフィルム形成抑制の研究が進められている。
親水性アクリルIOLの石灰化は、特に角膜内皮移植術後や硝子体手術後に問題となる。新世代の親水性アクリルIOLでは石灰化リスクが低減されているとされるが、完全な解決には至っていない。素材組成の改良や表面処理による石灰化耐性の向上が研究されている。