小開口型
原理:ピンホール効果により焦点深度と被写界深度を増大させる。
IC-8 Apthera™(AcuFocus):疎水性アクリル製。小開口光学系で中間・近方視力を提供する。
Xtrafocus(Morcher):毛様溝固定用のピギーバックレンズ。度数なし。
注意点:入射光量が減少するため、暗所での視力低下が生じうる。

焦点深度拡張型眼内レンズ(Extended Depth of Focus 眼内レンズ; EDOF IOL)は、白内障手術において使用される老視矯正眼内レンズの一種である。従来の多焦点眼内レンズが遠方・近方に複数の独立した焦点を形成するのに対し、EDOF 眼内レンズは単一の引き延ばされた焦点を作り出す。これにより遠方から中間距離(約50〜80 cm)まで連続的な明視域が得られる。
多焦点眼内レンズのデフォーカス曲線において、焦点間の視力低下が最小限にとどまる場合にEDOFと分類される2)。EDOF 眼内レンズには回折型と非回折型の設計があり、グレア・ハロー・近方視力・コントラスト低下に関してそれぞれ長所と短所がある2)。
米国眼科学会(AAO)は、EDOF 眼内レンズの試験基準として以下を提示している。
理想的なEDOF 眼内レンズは正視から−1.5 Dまでの広範囲で鮮明な焦点を結ぶものであるが、そのようなレンズは依然として理論上の目標にとどまっている。
多焦点眼内レンズは光を2つ以上の焦点に分割して遠方・近方の明視域を得る設計である。EDOF 眼内レンズは焦点を分割せず、1つの焦点を引き延ばして連続的な明視域を作る。EDOF 眼内レンズではハローが生じにくい反面、近方視力は多焦点眼内レンズにやや劣る傾向がある。
EDOF 眼内レンズと三焦点眼内レンズの視覚性能は、22研究・2200眼を対象としたメタアナリシスで詳細に比較されている1)。
術後裸眼遠方視力(UDVA)にEDOFと三焦点の間で有意差はない(MD = 0.00, P = .84)1)。一方、矯正遠方視力(CDVA)ではEDOF群がわずかに良好である(MD = −0.01, P = .01)1)。
裸眼中間視力(UIVA)に有意差は認められない(MD = 0.01, P = .68)1)。遠方矯正中間視力(DCIVA)でも有意差はない(MD = −0.01, P = .39)1)。デフォーカス曲線では、EDOF 眼内レンズは中間距離(−1.00〜−1.50 D)でより滑らかなドーム状のカーブを示す1)。
裸眼近方視力(UNVA)は三焦点眼内レンズが有意に良好である(MD = 0.12 logMAR, P < .00001)1)。遠方矯正近方視力(DCNVA)でも三焦点眼内レンズが優れる(MD = 0.12, P = .002)1)。
EDOF 眼内レンズと三焦点眼内レンズの主な視覚性能を以下にまとめる。
| 項目 | EDOF vs 三焦点 | 有意差 |
|---|---|---|
| 遠方視力(UDVA) | 同等 | なし |
| 中間視力(UIVA) | 同等 | なし |
| 近方視力(UNVA) | 三焦点が優位 | あり |
10研究中7研究でEDOFと三焦点眼内レンズの間にコントラスト感度(CS)の有意差は認められなかった1)。一部の研究では、明所・暗所条件下でEDOF 眼内レンズが三焦点眼内レンズより高いCS値を示した1)。
EDF 眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べ眼鏡非依存率が有意に高い(RR 2.81, 95% CI 1.06–7.46, P = 0.04)3)。一方、三焦点眼内レンズとの比較ではEDOF 眼内レンズの近方視力がやや劣る(MD 0.10, 95% CI 0.07–0.13)3)。重篤な術後合併症はまれであった3)。
EDOF 眼内レンズは両眼遠方合わせまたはモノビジョン法で挿入できる2)。以下のような患者で三焦点眼内レンズよりも好まれることがある。
一方、多焦点眼内レンズ全般(EDOF含む)の候補として不適切な患者もいる。弱視、角膜異常、視神経疾患、進行した緑内障、黄斑疾患、潜伏性斜視のある患者は慎重な検討が必要である2)。光学的副作用として距離視力の質的低下を自覚する可能性があり、患者選択とカウンセリングがきわめて重要である2)。
遠方から中間距離までの連続的な明視域を重視する患者に適している。黄斑に軽度の病変がある眼や角膜屈折矯正手術の既往がある眼では、三焦点眼内レンズよりEDOF 眼内レンズが好まれることがある2)。近方作業(読書など)を重視する場合は三焦点眼内レンズの方が有利である1)。
EDOF 眼内レンズは光学原理により大きく3つに分類される。
小開口型
原理:ピンホール効果により焦点深度と被写界深度を増大させる。
IC-8 Apthera™(AcuFocus):疎水性アクリル製。小開口光学系で中間・近方視力を提供する。
Xtrafocus(Morcher):毛様溝固定用のピギーバックレンズ。度数なし。
注意点:入射光量が減少するため、暗所での視力低下が生じうる。
回折型EDOF
原理:エシェレット回折パターンにより単一焦点を引き延ばす。色収差を低減しつつほぼすべての光を透過させる。
TECNIS Symfony / Synergy(J&J Vision):回折型2焦点+EDoFのハイブリッド設計。
Clareon Vivity(Alcon):X-WAVEテクノロジーにより光を分割せず引き延ばす非回折型設計。
強化単焦点型
原理:中央光学領域の曲率変化または波面変調により焦点を拡張する。FDA基準では真のEDOFに該当しない。
EyHance(J&J):中心から周辺へ連続的な度数変化を持ち、異常光視症が少ない。
RayOne EMV(Rayner):正の球面収差を増加させて焦点深度を強化する。約1.25 Dの視覚域拡張が可能。
日本国内で使用されている代表的な老視矯正眼内レンズを以下に示す。回折型3焦点、回折型2焦点+EDoF、分節型2焦点など多様な設計がある。
| レンズ名 | 原理 | 近方視力 |
|---|---|---|
| PanOptix(Alcon) | 回折型3焦点 | ○ |
| Synergy(J&J) | 回折型2焦点+EDoF | ○ |
| LENTIS Comfort | 分節型2焦点 | × |
PanOptixとFineVisionは眼鏡非使用率が約90%に達する。LENTIS Comfortは単焦点レンズとして認可されており、近方視力の付加はないが中間距離の改善が得られる。回折型3焦点が主流となり、術後に自然な見え方と感じるまでの期間は数日〜数週間に短縮されている。
EDOF 眼内レンズを含むすべての老視矯正眼内レンズに共通する合併症として、感染症(眼内炎を含む)、眼圧上昇、角膜浮腫、後発白内障(PCO)、眼内レンズ偏位、黄斑浮腫、網膜剥離がある。重篤な術後合併症はまれである3)。
EDOF 眼内レンズと三焦点眼内レンズのハロー発生率に有意差は認められない(OR = 0.64, P = .10)1)。複数の研究でEDOF群のグレアが三焦点群よりも少ないとの報告がある一方、スターバーストの頻度はEDOF群で高い場合もある1)。多くは軽度で日常生活に支障をきたすものではない1)。
眼鏡非依存率は三焦点眼内レンズ群がEDOF群より有意に高い(P = .02)1)。視覚の質(QoV)質問票スコアでも三焦点群が有意に良好である(MD = 1.24, P = .03)1)。一方、患者満足度そのものには有意差がなく、両群とも高い満足度が報告されている1)。
Karamら(2023)の22研究・2200眼を対象としたメタアナリシスでは、EDOF 眼内レンズは三焦点眼内レンズに対し術後屈折と近方視力で劣るものの、中間視力は同等であり、ハロー・グレア・患者満足度にも差がないことが示された1)。レンズ選択は個々の臨床判断に基づくべきとされている。
メタアナリシスでは、EDOF 眼内レンズと三焦点眼内レンズのハロー発生率に有意差はなかった1)。多くの報告でハローやグレアの訴えは軽度であり、日常生活を妨げるほどではないとされている。
EDOF 眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べ眼鏡非依存率が有意に高い3)。ただし三焦点眼内レンズとの比較では、EDOF 眼内レンズの眼鏡非依存率はやや低い1)。近方作業時に眼鏡が必要になることがある。
EDOF 眼内レンズの光学原理はレンズの設計によって異なるが、共通する目標は「単一の焦点を引き延ばし、遠方から中間距離まで連続的な明視域を得ること」である。
エシェレットと呼ばれる回折パターンを後面に施し、色収差の低減と焦点の延長を同時に達成する。回折光学系でありながら、ほぼすべての光エネルギーを透過させる。バイフォーカル眼内レンズやトリフォーカル眼内レンズのMTFピークと比較すると、EDOF 眼内レンズのMTFピークは遠方と中間距離で三焦点眼内レンズと重なるが、三焦点眼内レンズは近方に追加のピークを持つ。
Alcon社のVivityは、光を分割することなく引き延ばし・シフトさせるX-WAVEテクノロジーを採用している。約2 mmの範囲で放射状の曲率を不連続に変化させることで焦点深度を拡張する。回折構造を持たないため、回折型に比べハローが生じにくいとされる。
ピンホール効果を利用し、光学系の開口を制限することで被写界深度を増大させる。原理は写真のカメラの絞りと同じである。入射光量が減少するため、暗所視力への影響が課題となる。
中央光学部の屈折力を周辺部より高くする、または波面変調を導入することで焦点を拡張する。異常光視症が少ないことが利点であるが、焦点深度の拡張幅は限定的である。
多焦点とEDOFの光学原理を融合させたハイブリッド型眼内レンズ(例:TECNIS Synergy)の臨床データが蓄積されつつある。三焦点眼内レンズとの比較では、遠方・中間の矯正視力に有意差はなく、裸眼中間視力はハイブリッド型がやや良好(MD = 0.055, P < .05)との報告がある3)。一方、裸眼近方視力は三焦点眼内レンズが優れる3)。ハロー発生は三焦点眼内レンズで32%多い傾向が示されている3)。
光学設計の進歩により、近方視力とコントラスト感度を両立させる次世代EDOF 眼内レンズの開発が進んでいる。波面制御技術や材料科学の発展により、異常光視症をさらに低減しつつ広範な明視域を提供するレンズの実現が期待される。レンズ選択は患者個々のニーズと眼の状態に基づき、臨床医の判断で決定すべきである1)。