この疾患の要点
ぶどう膜滲出症候群(UES)は脈絡膜 ・毛様体 ・網膜 の特発性滲出性剥離を生じる稀な疾患である。
英国の疫学調査では年間発生率は1000万人あたり約1.2と推定されている。
強膜 の異常による眼内液の排出障害が主な病因と考えられている。
I型(真性小眼球)、II型(正常眼球+強膜肥厚)、III型(正常眼球+正常強膜)の3型に分類される。
I型・II型には強膜開窓術が有効であり、1回の手術で約83%に解剖学的改善が得られる。
III型ではステロイド 治療により95%で滲出の消退が報告されている。
両眼罹患率は65%以上であり、対側眼にも注意が必要である。
ぶどう膜滲出症候群(Uveal Effusion Syndrome; UES)は、脈絡膜・毛様体・網膜の特発性滲出性剥離を呈する稀な症候群である。1963年にSchepensとBrockhurstにより初めて報告された1) 。特発性毛様体脈絡膜滲出とも呼ばれる。
通常は健康な中年男性に発症する。17例の初報では患者のほぼ全員が男性であった1) 。英国の前向き疫学調査(BOSU; 2009〜2011年)では年間発生率が1000万人あたり約1.2と推定されている1) 。両眼に罹患する頻度が65%以上と高い1) 。
視野欠損 、視力 低下、変視症 を主訴として受診する1) 。初期には他疾患との鑑別が困難であり、ある報告では初診時に正しくUESと診断されたのはわずか16%であった1) 。
UESは以下の3型に分類される。
型 眼球の特徴 強膜 I型 小眼球(眼軸長 16mm前後) 肥厚・異常 II型 正常眼球(眼軸長21mm前後) 肥厚・異常 III型 正常眼球 正常
I型は真性小眼球(nanophthalmos)に伴い、強度遠視 (平均+16ジオプター)を呈する。II型は眼球は正常大だが強膜肥厚を認める。III型は特発性で、眼球も強膜も正常である。
Q ぶどう膜滲出症候群はどのくらい稀な疾患か?
A 英国の全国的な前向きサーベイランスでは、年間発生率は1000万人あたり約1.2と報告されている1) 。正確な有病率は不明だが、ぶどう膜炎 や網膜疾患の中でも極めて稀な部類に属する。
30〜40歳代に多く発症する。初期には以下の症状が認められる。
視力低下 :黄斑浮腫 の進行に伴い徐々に悪化する。
視野欠損 :胞状の網膜剥離 が生じた場合、その部位に一致した視野の欠けを自覚する。
変視症 :ゆがんで見える症状で、黄斑部 の障害を反映する。
かすみ目 :視界全体のぼやけとして認識される。
前眼部と硝子体 には炎症所見や色素細胞の浮遊を認めないのが特徴であり、他の炎症性疾患との鑑別に有用である。
前眼部所見
拡張した上強膜血管 :I型で認められることがある。
Schlemm管内の血液 :I型に特徴的な所見である。
前房 炎症 :通常は軽微または欠如する1) 。
眼底所見
脈絡膜・毛様体剥離 :周辺部から始まり環状に進展する。橙褐色の充実性隆起として観察される1) 。
滲出性網膜剥離 :移動性に富む網膜下液 を伴う非裂孔原性剥離。体位変換で液が移動する。
レオパードスポット :RPE の肥大・増殖による豹紋状の色素変化。慢性例に特徴的で永続的な視力低下の原因となる1) 。
視神経乳頭 浮腫 :軽度の乳頭腫脹を伴うことがある。
蛍光眼底造影 では、広範囲にわたる顆粒状の過蛍光やレオパードスポットパターンを認めるが、明らかな蛍光漏出は認めない。インドシアニングリーン造影では造影早期から脈絡膜血管からの蛍光漏出が著明で、血管透過性の亢進を示唆する。
UESの病因は十分に解明されていないが、強膜の一次性異常が中心的な役割を果たすと考えられている。
強膜の異常 :コラーゲン線維束の乱れとグリコサミノグリカン(GAG)様沈着物の蓄積により強膜が肥厚する1) 。これがタンパク質や水分の経強膜的排出を障害する。
渦静脈の圧迫 :肥厚した強膜が渦静脈の強膜貫通部を絞扼し、脈絡膜からの静脈還流を障害する1) 。
小眼球症 (nanophthalmos) :nanophthalmos患者の登録調査では、26.1%にぶどう膜滲出を認め、17.4%に無症候性の滲出を認めた1) 。
強膜透過性の低下 :小眼球眼では網膜下液中のアルブミン濃度が通常の2〜3倍に上昇しており、タンパク質の経強膜的排出が障害されていることを示唆する1) 。
静脈過負荷 :近年の研究では、UESと中心性漿液性脈絡網膜症 (CSC)がいずれも脈絡膜静脈の過負荷(venous overload choroidopathy)に起因するスペクトラム上の疾患である可能性が指摘されている5) 。
白内障 手術や緑内障 手術は小眼球眼でのUES発症の誘因となりうる。114眼の小眼球眼白内障手術のうち29眼に合併症が生じ、その半数がぶどう膜滲出であった1) 。
また、COVID-19ワクチン接種後のUES発症も報告されている2) 。Agarwalらは全不活化ウイルスワクチン(Covaxin BBV152)接種2週間後に片眼性のIII型UESを発症した71歳男性を報告した2) 。アジュバント(Alhydroxiquim-II)による異常な免疫応答の誘発が推測されている2) 。
予防・日常のケア
小眼球症と診断されている方は、定期的な眼科検査が推奨されます。
白内障手術など眼の手術を受ける際は、UES発症の可能性について主治医に確認しましょう。
片眼に発症した場合は対側眼にも生じる可能性があるため、経過観察が重要です。
UESは除外診断であり、脈絡膜滲出を引き起こす他の原因を慎重に除外する必要がある1) 。鑑別すべき疾患は以下の通りである。
Vogt-小柳-原田病 :両眼性で髄膜症状・聴覚障害・皮膚症状を伴う。ステロイドに反応する。
後部強膜炎 :Bスキャンで「Tサイン」を認め、眼痛を伴う。
脈絡膜腫瘍 (悪性黒色腫、転移性腫瘍):超音波で充実性病変を認める。
中心性漿液性脈絡網膜症(CSC) :限局性の蛍光漏出を認める点で異なるが、胞状CSCとの鑑別は困難な場合がある5) 。
薬剤性 :スルファ剤(トピラマート、アセタゾラミド など)が原因となることがある1) 。
各画像検査の特徴的所見を以下に示す。
検査法 主な所見 Bスキャン超音波 脈絡膜肥厚・剥離、Tサイン陰性 UBM 毛様体上腔の液貯留、強膜厚の測定 OCT 脈絡膜腫脹、網膜下液、RPE変化
Bスキャン超音波 :脈絡膜剥離は滑らかな厚い半球状を示す。後部強膜炎のTサインは認めない。内部エコーを認めない点で腫瘍性病変と鑑別される1) 。眼軸長の計測とともに強膜肥厚の評価にも有用である。健常者の強膜厚は0.95mm(SD 0.18mm)であるのに対し、UESでは術中に強膜肥厚を認めた症例では2.3mm(1.5〜2.9mm)であった1) 。
超音波生体顕微鏡(UBM) :毛様体と強膜の分離を観察でき、毛様体上腔の滲出液貯留を早期に検出する。強膜突起から後方2〜3mmの位置で強膜厚を測定する。
光干渉断層計(OCT) :脈絡膜の腫脹、網膜下液、RPEの局所肥厚(レオパードスポット)を描出する3) 。Swept source OCTは深部の脈絡膜厚や脈絡膜皺襞 の評価に有用である4) 。III型UESではパキコロイド (脈絡膜肥厚)の特徴が認められることがある1) 。
フルオレセイン蛍光眼底造影(FA) :びまん性の点状過蛍光を認めるが、VKHやCSCのような明瞭な蛍光漏出は認めない1) 。他の滲出性網膜剥離の原因の除外に有用である。
インドシアニングリーン造影(ICG) :早期から脈絡膜のびまん性過蛍光を認め、後期まで持続する1) 3) 。脈絡膜血管の拡張と透過性亢進を反映する。
MRI :I型・II型では強膜肥厚がT1・T2強調画像で明瞭に描出される1) 。腫瘍や後部強膜炎の除外にも有用である。CTでも小眼球と強膜肥厚の有無を確認できる。
マルチモーダルイメージングを組み合わせることで、特にIII型UESの診断精度が向上する3) 5) 。
Q III型UESはどのように診断するのか?
A III型は正常な眼軸長・正常な強膜厚であるため、除外診断となる。マルチモーダルイメージング(OCT、ICG、超音波、FA)を組み合わせ、脈絡膜肥厚・脈絡膜うっ血・周辺部脈絡膜剥離を確認しつつ、VKH・後部強膜炎・腫瘍など他の原因を除外する3) 。
UESの治療はタイプ分類に基づいて選択される。I型・II型では手術が中心となり、III型では薬物治療が第一選択となる。
I型・II型に対しては、強膜の通過障害を改善する目的で強膜開窓術を行う。
強膜切除術(sclerectomy) :赤道部付近に部分層(50〜75%厚)の強膜切除窓を作成し、中央にKelly穿孔器で0.75mmの全層強膜切開を加える1) 。1983年にGassが初めて報告した術式であり、4象限に行う方法が基本である。
治療成績 :1回の手術で約83%、2回の手術で約96%の眼に解剖学的改善が得られる1) 。最終視力は56%の眼で2段階以上改善、35%で安定、9%で悪化する。
治療戦略 :初回手術では下方2象限に1か所ずつ作成する。軽快しない場合は同部位の脈絡膜を再露出するか、上方象限に新たに強膜窓を追加する。
マイトマイシンC :術中に塗布することで、線維化による経強膜流出路の再閉塞を防ぐ効果がある1) 。
術後補助療法 :網膜下液の吸収が不良な場合には、浸透圧利尿薬の点滴や炭酸脱水酵素阻害薬 の内服で吸収が促進されることがある。
複数回の強膜開窓術でも改善が得られない場合に検討される。人工的後部硝子体剥離 を作成し、網膜下液の排液とガスタンポナーデ を施行する。ただし小眼球眼では鋸状縁 が前方に位置するため、強膜貫通創を通常より輪部 に近い1〜1.5mmに設定する。後部硝子体剥離の作成と粘稠な網膜下液の排出は困難であり、手術には熟練を要する。
Shieldsらは104眼のUESを対象とした研究で、III型UESの95%がステロイド治療(経口・テノン嚢 下・点眼またはそれらの併用)で消退したと報告した1) 。手術を要したのは5%のみであった。
Agarwalら(2023)はCOVID-19ワクチン接種後に発症したIII型UESの71歳男性に対し、経口プレドニゾロン60mg/日(1mg/kg)とミコフェノール酸モフェチル 1g×2回/日を投与し、1年で完全消退を得た2) 。18ヶ月時点で再発を認めなかった。
Kumarasamyら(2026)は片眼にCSC、対側眼にIII型UESを呈した47歳男性を報告し、経口プレドニゾロン60mgの漸減投与で両眼の病変が完全に消退した5) 。2年間の経過観察でUES眼の再発は認めなかった。
その他の薬物療法として以下が報告されている1) 。
炭酸脱水酵素阻害薬 :アセタゾラミドはRPEからの液体排出を促進する。単独または強膜切除術との併用で改善が報告されている。
プロスタグランジン関連薬 :ラタノプロストは強膜のメタロプロテアーゼ活性を増加させ、コラーゲンを減少させることで経強膜的高分子透過性を改善する可能性がある1) 。
NSAIDs :インドメタシンの内服により脈絡膜の血管透過性亢進を抑制する効果が報告されている1) 。
抗VEGF薬 :強膜切除術後の難治例にラニビズマブ やベバシズマブ の硝子体内注射 で改善が報告されている1) 。
治療における注意点
III型に対する強膜切除術は効果が乏しいとの報告があり、まず薬物治療を試みるべきである1) 。
ステロイドは眼圧 上昇を招きうるため、頻回の眼圧モニタリングが必要である。
アセタゾラミドなどのスルファ剤は、まれにぶどう膜滲出を誘発する可能性があり注意を要する1) 。
黄斑部の色素上皮障害が高度になると視力予後は不良であるため、黄斑浮腫の遷延が認められれば早期に治療に踏み切るべきである。
Q 薬物治療だけで治るのか?
A III型UESではステロイドにより95%で改善が報告されている1) 。ただしI型・II型では強膜異常が根本原因であるため、薬物治療のみでは不十分なことが多く、強膜開窓術が標準治療となる。タイプ分類に基づいた治療選択が重要である。
UESの病態は、強膜異常を中心として複数の要因が関与する。
房水 は前房から毛様体筋を通過してぶどう膜強膜流出路に入り、脈絡膜上腔・脈絡膜血管・渦静脈を経て眼外に排出される1) 。この流出路が障害されることでUESが発生する。
I型・II型UESの強膜は組織学的にコラーゲン線維束の配列異常とプロテオグリカン沈着を認める1) 。このGAG様沈着物が強膜透過性を低下させ、眼内のタンパク質や水分が経強膜的に排出されにくくなる。
タンパク質が脈絡膜上腔に蓄積すると、組織コロイド浸透圧が上昇する1) 。これにより脈絡膜上腔への液貯留が生じ、脈絡膜剥離が形成される。慢性的な滲出は網膜色素上皮(RPE)の代償不全を引き起こし、イオンチャネルによる水輸送が障害される結果、滲出性網膜剥離が発生する。
高タンパク濃度とRPEの貪食作用に刺激され、RPEが網膜下腔に遊走・増殖し、レオパードスポットパターンが形成される1) 。
肥厚した強膜が渦静脈を圧迫し、脈絡膜からの静脈還流を障害するという仮説がある。ヒトの眼には通常3〜8本の渦静脈が存在するが、UES症例では2〜4本と少ないことが報告されている1) 。Brockhurstは10眼の小眼球UESに対する渦静脈減圧術で改善を報告した1) 。
近年、UES(特にIII型)とCSCがパキコロイドスペクトラム (脈絡膜肥厚を基盤とする疾患群)を介してつながる可能性が注目されている。Spaideらは脈絡膜静脈の過負荷(venous overload choroidopathy)を病態の共通基盤として提唱した5) 。CSCとUESは短眼軸・強膜肥厚・脈絡膜循環障害・脈絡膜上腔への液貯留を共有する7) 。ただし、色素上皮剥離(色素上皮剥離)・限局性RPE漏出・gravitational tract・フィブリンはUESでは稀であり、CSCに特異的な所見と考えられている7) 。
Kumarasamyら(2026)は片眼に慢性CSC、対側眼にIII型UESを呈した症例を報告し、両疾患が静脈過負荷脈絡膜症のスペクトラム上に位置することを示した5) 。
緑内障手術で使用されるEx-PRESSシャントをUES治療に応用する試みが報告されている。
Yepezらは3眼のII型UESに対し、結膜 切開と斜め強膜切開を介してEx-PRESSシャントを挿入し、48時間以内に脈絡膜滲出が消退したことを報告した1) 。1〜2年の経過観察で再発を認めなかった。
低侵襲性が利点であるが、長期成績や他のタイプへの適応に関するデータはまだ限られている。
COVID-19パンデミック以降、ワクチン接種後のUES発症が複数報告されている2) 。ワクチンに含まれるアジュバントがShoenfeld症候群(自己免疫/炎症症候群)を惹起し、ぶどう膜滲出につながる可能性が推察されている2) 。因果関係は未確定であり、現時点ではワクチン接種とUESの時間的関連を示す症例報告の段階にとどまる。
UESとCSCを脈絡膜静脈の過負荷という共通病態で統合的に理解しようとする研究が進んでいる5) 7) 。この概念が確立されれば、両疾患に共通する治療標的の同定につながる可能性がある。
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