典型的所見
前房細胞・フレア:前房内の炎症所見。程度は軽度〜中等度が多い。
角膜後面沈着物(KP):微細な点状KPが多いが、豚脂様KPを呈する例もある。
虹彩後癒着:慢性化した症例で出現する。

尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(tubulointerstitial nephritis and uveitis syndrome; TINU)は、急性尿細管間質性腎炎(TIN)と両眼性ぶどう膜炎を合併する稀な全身性炎症疾患である。1975年にDobrinらにより初めて報告された1)。21世紀初頭には世界で約133例の報告にとどまっていたが、その後症例報告は増加し、約600例に達している1)。
発生率は年間100万人あたり1〜2例と推定される1)。ぶどう膜炎患者に占める割合は0.1〜2%であり、TIN生検例の約5%に本症候群が認められる8)。小児では眼サルコイドーシスや若年性慢性虹彩毛様体炎とともにぶどう膜炎の主要原因の一つである。
疫学的には若年女性に好発する。2022年の系統的レビューでは発症年齢の中央値は17歳、女性対男性比は1.8:1と報告されている1)。ただし最近の報告では、診断意識の向上に伴い成人・高齢者での診断例も増加している1)6)。北アイルランドの研究では平均診断年齢が43歳であったとの報告もある6)。特定の民族・人種・地理的要因との関連は確立されていない。
年間発生率は100万人あたり1〜2例と推定される。ぶどう膜炎全体の0.1〜2%を占めるにすぎず、実際には特発性と診断されている未診断例が相当数存在すると考えられている1)。
TINU症候群では全身症状と眼症状が認められる。
全身症状は非特異的であり、腎炎に先行または同時に出現する。
眼症状は典型的な前部ぶどう膜炎の症状を呈する。
約80%が急性発症の両眼性非肉芽腫性前部ぶどう膜炎として発症する1)。ぶどう膜炎は前房細胞・フレアを伴い、65%が両眼性、88%が前部ぶどう膜炎である1)。
典型的所見
前房細胞・フレア:前房内の炎症所見。程度は軽度〜中等度が多い。
角膜後面沈着物(KP):微細な点状KPが多いが、豚脂様KPを呈する例もある。
虹彩後癒着:慢性化した症例で出現する。
後眼部所見
視神経乳頭腫脹:約33%に認められ、後部ぶどう膜炎への進展を示唆する4)。
硝子体混濁:約22%で硝子体細胞を認める4)。
網膜滲出斑:約11%に出現する4)。
眼症状と腎症状の出現時期には時間差がある。65%の症例で眼症状は腎症状の後に出現し、21%で先行、15%で同時発症である。眼症状は腎診断の最大14ヶ月後に出現することもあり1)、この時間差が診断を困難にする主要因である。
TINU症候群の正確な病因は不明であるが、遺伝的素因を有する個体において環境因子が引き金となり発症する免疫介在性疾患と考えられている1)7)。
特定のHLA遺伝子型との関連が報告されている。Levinsonらは18例中13例でHLA-DQA1*01/DQB1*05/DRB1*01ハプロタイプを同定した1)。日本人ではHLA-A2、HLA-A24、HLA-A31、HLA-DR4との関連が指摘されている7)。
薬剤性尿細管間質性腎炎がTINU発症の契機となる場合がある。Mandevilleらのレビューでは、報告例の約24%に抗菌薬使用歴、18%にNSAIDs使用歴が認められた7)。原因薬剤として報告されているものは以下の通りである。
EBウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、クラミジアなどの先行感染との関連が示唆されている1)。SARS-CoV-2感染との関連を示唆する症例も報告されており、腎組織からウイルスのスパイクタンパクが検出された例がある2)。
甲状腺機能亢進症や関節リウマチなどの自己免疫疾患との合併が報告されている1)7)。
TINU症候群は除外診断であり、腎と眼の両方を侵す他の全身疾患を除外する必要がある1)。
Mandevilleらの診断基準(2001年)が広く使用されている7)。
| 分類 | 要件 |
|---|---|
| 確定例 | 腎生検でTINを確認+ぶどう膜炎 |
| 推定例 | 典型的な臨床所見+尿中β2ミクログロブリン高値 |
いずれの場合も、サルコイドーシス・SLE・シェーグレン症候群・結核などの他疾患を除外することが前提である1)。
腎炎の評価に重要な検査所見は以下の通りである。
TINの確定診断は腎生検によってのみ可能である7)。典型的な組織所見は以下の通りである。
腎症状とぶどう膜炎の両方を呈する疾患は多数あり、鑑別が重要である。
確定診断には腎生検が必要であるが、腎疾患が軽症の場合はリスクが利益を上回ることがある。尿中β2ミクログロブリン高値と典型的な両眼性前部ぶどう膜炎があれば「推定例」として診断できる5)。腎臓内科と協議のうえ判断する。
TINU症候群の治療は眼炎症と腎炎症の双方に対して行う。眼科と腎臓内科の連携が重要である。
前部ぶどう膜炎に対しては以下の局所治療が行われる。
腎機能が速やかに正常化しない場合は、副腎皮質ステロイドの全身投与が行われる。
リファンピシンやサルファ剤など誘因となりうる薬剤がある場合は中止する。
ステロイドの副作用が許容できない場合や治療抵抗例では、免疫抑制薬が検討される1)。
ぶどう膜炎に対しては、ステロイド点眼に反応しない場合やステロイド減量困難例でTNFα阻害薬(アダリムマブ)の使用も報告されている1)5)。
網膜血管炎を伴い重症化した場合や再発時には、ステロイド内服や免疫抑制薬投与が必要となる。
腎炎に対するステロイド治療は中央値約8ヶ月で中止可能とされる。一方、ぶどう膜炎の治療は中央値18ヶ月と腎炎より長期間を要する5)。再発に備えた長期的なフォローアップが推奨される。
TINU症候群の正確な発症機序は解明されていないが、液性免疫と細胞性免疫の双方が関与する自己免疫疾患と考えられている1)7)。
腎生検の組織学的所見では、浸潤細胞の主体はヘルパー/インデューサーT細胞サブセットである6)。これは細胞性免疫が病態の中心的役割を担うことを示唆している。
液性免疫の関与も報告されている。Tanらは、TINU症候群患者9例中高率に血清抗修飾CRP(modified CRP; mCRP)抗体を検出し、mCRPが腎組織と眼組織に共通する標的自己抗原である可能性を示した7)。
腎の尿細管上皮と眼の毛様体上皮は発生学的に類似した構造を有する。両組織に共通する酵素の機能不全や免疫応答の標的破壊が、腎と眼の同時障害の機序として想定されている。
HLA-DQA1*01/DQB1*05/DRB1*01ハプロタイプとの強い関連が報告されている1)。これらのHLAクラスII分子が自己抗原の提示に関与し、自己反応性T細胞を活性化する機序が推測される。
薬剤や感染は、ハプテン誘発性のサイトカイン産生や過敏反応を介して免疫応答を惹起すると考えられている。NSAIDsや抗菌薬がTIN発症の引き金となることは知られており、これがTINU発症にもつながる可能性がある。
Cunhaら(2026)は4例のケースシリーズを報告し、1例では関節リウマチ既往とNSAIDs使用、別の1例ではウイルス性胃腸炎が先行した。環境因子の多様性を示す報告であった1)。
García-Fernándezら(2023)は、12歳女児のTINU症例において腎生検組織からSARS-CoV-2スパイクタンパクを免疫蛍光法で検出した2)。症状発症後3ヶ月および10ヶ月時点の2回の腎生検でウイルスタンパクが持続的に検出された。SARS-CoV-2の腎向性がTINUの発症・増悪に関与する可能性が示唆された。
Aritaら(2023)は、12歳男児のTINU症例で通常の眼底検査では検出困難な潜在性脈絡膜炎をマルチモーダルイメージング(ICG蛍光造影・OCT・レーザースペックルフローグラフィ)で検出した4)。TINU症候群においても後眼部の潜在的炎症が存在する可能性が示され、脈絡膜新生血管(CNV)予防の観点からも詳細な画像検査が推奨される。
Vazquezら(2024)は、TINU診断後21ヶ月目にメトトレキサート・アダリムマブ投与中にもかかわらず神経網膜炎を発症した12歳女児を報告した5)。高用量ステロイドとインフリキシマブへの変更により視力は20/20に回復した。免疫抑制下でも新たな眼合併症が発生しうることを示す症例である。
単球走化性タンパク質1(MCP-1)はTIN患者の尿中で高値を示し、疾患活動性との相関が報告されている7)。今後、TINU症候群のモニタリングや重症度評価への応用が期待される。
Zhangら(2025)は、74歳女性においてTINU症候群とモノクローナルガンモパチー(MGUS)の合併例を報告した6)。腎生検で急性間質性腎炎を確認し、血管壁にκ軽鎖の沈着を認めたが、糸球体・尿細管へのMIg沈着はなかった。グルココルチコイド治療によりTINUに起因する腎障害は改善した。