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ぶどう膜炎

トキソプラズマ症(眼トキソプラズマ症)

眼トキソプラズマ症は、偏性細胞内寄生性原虫である Toxoplasma gondii が網膜に感染して発症する網脈絡膜炎である。感染性ぶどう膜炎の最も一般的な原因であり、一部の国では後部ぶどう膜炎全体の50%以上を占める7)

T. gondii は世界人口の約1/3に感染している7)。ネコ科動物が終宿主であり、ヒトを含む哺乳類や鳥類が中間宿主となる。原虫には以下の3つの形態がある。

  • オーシスト(oocyst):ネコの糞便中に排出される土壌形態
  • タキゾイト(tachyzoite):活動性感染時の急増殖型
  • 組織シスト(tissue cyst):網膜内で休眠状態をとる緩増殖型(ブラディゾイト)

眼トキソプラズマ症に起因する眼疾患の割合は、米国で約2%、ブラジルで18%、アフリカで最大43%と推定されている。熱帯地域で感染率が最も高く、原虫の増殖に適した温暖湿潤な環境を反映する。本邦ではぶどう膜炎の原因疾患の約1%を占める。

T. gondii の集団構造は高度にクローナルであり、北米・欧州ではI型、II型、III型の3系統が主流である7)。II型が後天性眼病変の大半を占め、I型は先天性トキソプラズマ症に多いとされる。ブラジルではI型やアトピカル型が後天感染に関与し、遺伝子型の違いが臨床像の多様性につながる可能性がある7)

Q 先天感染と後天感染はどう違うのか?
A

先天感染は母体の初感染時に胎盤を通じて胎児に伝播するもので、両眼黄斑部の瘢痕病巣が典型的である。後天感染は出生後に汚染食物や水を介して新規に感染し、眼底周辺部に陳旧性病巣を伴わない限局性網脈絡膜炎として発症する。詳細は「病態生理学」の項を参照。

活動性の眼トキソプラズマ症では以下の症状を認める。

  • 飛蚊症:硝子体炎に伴い、最も頻度の高い症状である
  • 霧視視力低下):病変の部位と大きさに応じて軽度〜高度まで変動する
  • 眼痛・充血:二次的な虹彩毛様体炎を併発した場合に出現する

眼トキソプラズマ症の臨床所見は典型的所見と非典型的所見に大別される。

典型的所見

「霧中のヘッドライト」:硝子体炎を伴う白色の限局性網膜炎。本疾患を強く示唆する所見である。

網脈絡膜瘢痕:色素沈着を伴う陳旧性瘢痕。再発病巣はこの縁に出現する傾向がある。

硝子体炎:軽度〜重度まで様々な程度を示す。

網膜血管炎:病巣付近の血管に認められる。Kyrieleis plaqueを伴う分節状動脈炎がみられることもある。

前部ぶどう膜炎:二次的な非肉芽腫性虹彩毛様体炎。肉芽腫性・星状の角膜後面沈着物を認めることもある。

非典型的所見

乳頭炎・視神経網膜炎視神経乳頭の腫脹。黄斑スターを伴うこともある。

点状外層網膜炎(PORT:深層網膜の多発性小病変。OCTで巨大外網膜嚢胞(HORC)を認めることがある2)

網膜血管閉塞:動脈枝閉塞や樹氷状血管炎を生じることがある。

強膜炎網膜剥離:重症例で合併する。

多局性びまん性壊死性網膜炎:免疫不全患者で高度の両側性病変を呈することがある7)

先天感染では、両黄斑部に主病変として瘢痕性病巣(中心部に灰白色の線維性増殖組織と黒褐色の色素沈着が混在し、周囲に脱色素輪を伴う)がみられる。その近傍に娘病巣と呼ばれる小さな色素性瘢痕を認めることがある。後天感染では、眼底周辺部に陳旧性病巣を伴わない限局性の白色〜灰白色の滲出性網脈絡膜炎がみられ、強い硝子体混濁や網膜血管炎を伴う。

非典型的な症例では急性網膜壊死(ARN)や眼内リンパ腫と鑑別が困難となる場合がある5)。あるオランダのコホートでは、3乳頭径を超える大型病変18例中4例が急性網膜壊死と初期診断された5)

T. gondii の感染経路は主に以下の3つである。

  • 経口感染:加熱不十分な肉(豚肉、羊肉、鹿肉など)に含まれる組織シストの摂取。汚染された水や野菜からオーシストを経口摂取する場合もある
  • ネコ科動物からの感染:ネコの糞便中に排出されるオーシストへの接触
  • 経胎盤感染:妊娠中の母体の初感染時に胎児へ伝播する。感染率は妊娠末期になるほど上がるが、胎児における疾患重症度は妊娠初期ほど高い

主なリスク因子は以下の通りである。

  • 加熱不十分な肉の摂取:ジビエ(鹿肉)は特にリスクが高い。ある症例集積では、生焼けの鹿肉摂取後に全身症状が1〜2週間以内、眼症状が平均2.6か月後に出現した4)
  • ネコとの接触:3匹以上の猫や子猫の飼育
  • 免疫不全状態:AIDS、血液悪性腫瘍、免疫抑制薬使用。CLL患者ではイブルチニブ使用中の日和見感染として報告がある3)
  • 高齢者:後天感染による眼病変の頻度が高い傾向がある7)

Kohlerら(2023)は鹿肉摂取に関連した初感染4例を報告した。全例が男性、平均56歳で、10〜11月の猟期に曝露し、全身症状が数週間以内に、眼症状が1〜3か月後に出現する明確な時系列を示した4)

Q 妊娠中に感染した場合、必ず胎児に影響するか?
A

母体の初感染が成立しても胎児に感染が成立するとは限らず、大部分は不顕性感染にとどまる。ただし一部は先天性トキソプラズマ症として重篤な眼・神経症状を呈するため、妊婦の抗体スクリーニングと早期治療が重要である。

眼トキソプラズマ症の診断は主に臨床所見に基づく。「霧中のヘッドライト」所見と色素沈着を伴う網脈絡膜瘢痕の組み合わせが典型的であり、多くの場合は臨床診断が可能である。

検査意義注意点
IgG抗体既感染の確認陰性なら除外可。陽性率は年齢とともに上昇
IgM抗体最近の感染を示唆1年以上高値が続く例もある
IgGアビディティ感染の新旧を推定高アビディティは慢性感染を示唆5)

免疫正常者でIgG抗体が完全に陰性であれば、トキソプラズマ症はほぼ除外できる。ただし免疫不全患者では抗体陰性でも活動性感染の可能性がある3)。CLL患者の低ガンマグロブリン血症では偽陰性に注意が必要である3)

後天感染の場合、血清IgM抗体価の上昇がみられ、のちに低下すれば診断的価値がある。IgG抗体価の上昇もみられるが、不顕性感染が多いため、抗体価が高くてもトキソプラズマ脈絡膜炎とは限らない。先天感染の再発時にはIgM抗体価上昇はみられない。

前房水または硝子体液からのPCR検査は、非典型例や診断困難例で有用である。

  • 感度:前房水PCRで約64%1)、硝子体PCRで27〜75%5)
  • 特異度:100%5)
  • 免疫不全患者では感度が75%に上昇する3)

眼内液中のトキソプラズマ抗体価とIgG値の比(Goldmann-Witmer係数)を計算する方法もあり、感度29〜81%、特異度83〜100%と報告されている5)。イムノブロット法と合わせて3法を併用すると感度85〜97%、特異度93%に達する5)

Shakhaら(2024)は非典型的な多巣性網膜炎の33歳男性で、前房水PCRにより T. gondii を検出し確定診断に至った。ステロイドのテノン嚢下注射後に増悪した症例であり、確定診断前のデポステロイド投与の危険性を示した1)

  • 感染性:結核、ウイルス性網膜炎(サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV))、トキソカラ症、梅毒、バルトネラ、眼内炎
  • 非感染性ベーチェット病サルコイドーシス、眼内リンパ腫
  • 特に注意すべき鑑別:免疫不全患者のCMV網膜炎、急性網膜壊死、眼内リンパ腫3)5)

2021年にStandardized Uveitis Nomenclature(SUN)ワーキンググループがトキソプラズマ網膜炎の分類基準を発表し、限局性または寡数の壊死性網膜炎に感染の証拠(PCR陽性またはIgM陽性)あるいは特徴的臨床所見(色素沈着瘢痕、円形〜楕円形の網膜炎、再発性の急性経過)を満たすことが含まれる1)

Q 血液検査で陽性なら必ず眼トキソプラズマ症か?
A

IgG抗体陽性は過去の感染を示すのみであり、眼病変が存在するとは限らない。不顕性感染が多いため、眼トキソプラズマ症の診断には臨床所見との総合的な判断が必須である。

すべての病変に治療が必要なわけではない。周辺網膜に限局した軽度の炎症は自然治癒傾向を有する。治療適応は以下の場合である。

  • 黄斑を脅かす病変、視神経乳頭・乳頭黄斑線維束の病変
  • 主要な網膜血管に近接する病変
  • 高度な硝子体混濁
  • 著しい視力障害、大きな病変
  • 免疫不全状態、妊娠、単眼状態

本邦では主にアセチルスピラマイシン(0.8〜1.2 g/日、分3〜4)を少なくとも30日間投与する。活動性炎症が消失するまで2〜3か月間継続することもある。硝子体炎症が強い場合はステロイド薬内服(例:プレドニゾン20〜30 mg/日から開始)を併用するが、抗菌薬投与開始後数日待ってから併用するのが望ましい。

クリンダマイシン1.2 g分4内服を4〜6週間1クールとして使用する方法もある。ステロイド薬0.5 mg/kg/日内服を併用すると眼所見の改善が早い。滲出性病変の瘢痕化とトキソプラズマ抗体価の低下があれば治療終了とする。

ピリメタミン+スルファジアジン+ステロイドの3剤併用が古典的治療法であり、米国ぶどう膜炎学会の調査で回答者の32%が第一選択とした。ピリメタミンは葉酸拮抗薬であるため、骨髄抑制予防にホリナート(ロイコボリン)を併用する。通常4〜6週間投与する。

トリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)

Section titled “トリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)”

TMP-SMX(160/800 mg)1日2回投与は、ピリメタミン+スルファジアジンの代替として安全かつ有効である7)。副作用が少なく、入手しやすい利点がある。

Kohlerら(2023)は4例の初感染すべてをTMP-SMZ単独で治療し、迅速な網膜病変の改善を得た。ただし全身症状の再燃を防ぐために少なくとも3か月間の継続投与が必要であった4)

クリンダマイシン1 mg+デキサメタゾン0.4 mgの硝子体注射は、全身投与に匹敵する有効性を示し、2年後の再発率も6〜15%と同等である5)。全身療法が禁忌の患者に適応される7)。副作用がほぼなく、消退までの期間は約2.5±1週間とされる5)

アジスロマイシン500 mg初回、以後250 mg/日の投与がTMP-SMXと同等の効果を示す5)。ピリメタミンとの併用でスルファジアジンの代替となり、副作用の頻度は低い7)

Syed Mohd Khomsahら(2023)は35歳女性の両眼性眼トキソプラズマ症に対し、アジスロマイシン500 mg/日とプレドニゾロン漸減を6週間投与した。硝子体炎と視神経乳頭腫脹は4週で消退したが、乳頭黄斑線維束の線維化と黄斑パッカーにより右眼視力は不良であった6)

アトバコン750 mg 1日4回は、第一選択薬への不耐容例に使用される5)。治療開始1〜3週間で反応が得られ、重大な副作用は少ないとされる。

TMP-SMX(160/800 mg)を週3回の長期間欠投与により、再発率が23.8%から6.6%に低下したとする前向き無作為化試験がある7)。別の無作為化試験では、1錠を隔日で311日間投与し、6年時点の再発率が1.4%(プラセボ群27.5%)であった5)

トキソプラズマ感染症自体に手術適応はないが、合併症として生じた網膜剥離、黄斑上膜ERM)、硝子体出血に対して硝子体手術が行われる5)

Kohlerら(2023)の症例では、初感染4例中2例で合併症が発生した。ERM+嚢胞様黄斑浮腫と、退縮した新生血管による硝子体網膜牽引である4)。ERM症例では硝子体手術と膜剥離により視力が改善した。

Q すべての再発を治療する必要があるか?
A

周辺網膜に限局した小病変であれば自然治癒することもある。しかし、再発のたびに網膜内シスト数が増加するため、将来の再発リスクを最小限にとどめる目的で、すべての再発を抗菌薬で治療すべきとする考えもある。後極部病変や視力低下を伴う場合は治療が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

T. gondii は網膜を主要な感染部位とし、脈絡膜・硝子体・前房にも波及する7)。脈絡膜病変は網膜感染に二次的に生じ、単独では出現しない。

経口摂取されたオーシストまたは組織シストは腸管で栄養型(タキゾイト)に変化し、血行性に全身に散布される。網膜への到達経路として、白血球が寄生虫を運搬する経路と、タキゾイトが血管内皮を直接通過する経路が提唱されている6)

タキゾイトは網膜内のさまざまな細胞に感染するが、最も感受性の高い宿主細胞はMüller膠細胞である6)網膜色素上皮(RPE)が感染すると成長因子産生に異常が生じ、隣接する非感染RPE細胞の増殖を促す。この機序が特徴的な色素沈着瘢痕の形成に関与すると考えられている。

壊死性網膜炎では血管炎と網膜破壊が進行する。組織学的にはBruch膜の壊死を伴う広範な肉芽腫性炎症浸潤が認められる7)。瘢痕化は辺縁から中心へ向かって進行し、色素沈着の程度は症例により異なる。

ブタやヒツジの生肉、ネコの糞便中の胞嚢体が経口的に母体内に入り、血中でタキゾイトに成長した後、胎盤を通じて胎児に感染する。胎盤感染が成立しても発症は少なく、大部分は不顕性感染にとどまるが、10〜20代にかけて再発することがある。先天性トキソプラズマ症の主症状は、網脈絡膜炎、水頭症、脳内石灰化、精神運動障害の4徴である。

先天性トキソプラズマ症の治療を受けた430例の評価では、中央値12年の追跡で30%に眼病変が認められた7)。しかし重篤な両眼視力障害は130例中わずか2例であり、全体的な機能予後は文献の予測よりも良好であった7)

再発の原因は完全には解明されていないが、網膜内の休眠シストの破裂7)、または末梢血中を循環するトキソプラズマの関与が推定されている。再発リスクは初発エピソードから1年以内が最も高い。再発病巣は古い瘢痕の縁に生じる傾向があるが、眼底の別の場所にも出現する。瘢痕病巣の約1/3に再発が起こり、思春期に多い。

Pidro Miokovicら(2024)は16歳女性の眼トキソプラズマ症で、外網膜に巨大嚢胞様変化(HORC)を認めた2)。HORCは全眼トキソプラズマ症の2.5%にしか認められない稀な所見であり、外境界膜とRPE内側境界の間に位置する。治療後2週間でHORCは消退し、視力は0.5から1.0に改善した。


免疫不全患者における診断の課題

Section titled “免疫不全患者における診断の課題”

免疫不全患者では非典型的な臨床像を呈し、診断が遅れやすい。従来の血清学的検査が偽陰性となりうるため、PCR検査の役割が一層重要となる。

Yazdanpanahら(2021)は、CLL患者の74歳女性で眼トキソプラズマ症が眼内リンパ腫と鑑別困難であった症例を報告した3)。硝子体液のフローサイトメトリーと細胞診でリンパ腫は否定され、ITS特異的プライマーによるPCRで500万コピー以上の T. gondii DNAが検出された。トキソプラズマのDNAが眼内リンパ腫細胞から検出された報告もあり、両者の関連性が示唆されている3)

Dillonら(2022)は、広範な多巣性網膜病変を呈した2例を報告した5)。症例1は急性網膜壊死の臨床診断で入院加療されたが、硝子体PCRでトキソプラズマ陽性と判明した。症例2は眼内リンパ腫との鑑別で脈絡網膜生検が行われ、免疫染色で多数のタキゾイトが確認された。両症例とも、臨床的に3乳頭径を超える大型かつ多巣性の病変であり、典型的な1〜2乳頭径の単発病変とは大きく異なっていた。

米国ミネソタ州ではオジロジカの T. gondii 血清陽性率が22.5〜32.2%に達し、隣接州ではさらに高い4)。猟期(秋季)に加熱不十分な鹿肉を摂取した後、冬季に眼症状が出現するパターンが報告されている4)。鹿肉の安全な調理には内部温度64℃以上への加熱、あるいは事前の低温保存が推奨される。


  1. Shakha, Chawla R, Sinha A, Meena S. Atypical acquired toxoplasmosis. Indian J Ophthalmol. 2024;72:772-774.
  2. Pidro Miokovic A, Ratkovic M, Pidro Gadzo A. Toxoplasmosis in the outer retina. Rom J Ophthalmol. 2024;68(2):198-201.
  3. Yazdanpanah O, Monday LM, Surapaneni S, Singh V, Chi J. Ocular toxoplasmosis mimicking lymphoma: exploring the correlation and distinction. Cureus. 2021;13(1):e13014.
  4. Kohler JM, Mammo DA, Bennett SR, Davies JB. Primary ocular toxoplasmosis secondary to venison consumption. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023;29:101776.
  5. Dillon AB, Budoff G, McCannel CA, Tsui E, Pullarkat ST, Schwartz SD. Ocular toxoplasmosis: no stranger to the masquerade ball. J Vitreoret Dis. 2022;6(5):391-398.
  6. Syed Mohd Khomsah SN, Muhammed J, Wan Hitam WH. Macular pucker: a devastating complication in ocular toxoplasmosis. Cureus. 2023;15(2):e34617.
  7. Commodaro AG, Belfort RN, Rizzo LV, Muccioli C, Silveira C, Burnier MN Jr, Belfort R Jr. Ocular toxoplasmosis: an update and review of the literature. Mem Inst Oswaldo Cruz. 2009;104(2):345-350.

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