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ぶどう膜炎

交感性眼炎

交感性眼炎(sympathetic ophthalmia; SO)は、片眼の穿孔性眼外傷または内眼手術を契機に両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎を生じる稀な自己免疫疾患である。外傷や手術により免疫特権を有していた眼内のぶどう膜組織が露出し、メラニン蛋白に対する自己免疫反応が惹起される。

外傷または手術を受けた眼を起交感眼(exciting eye)、対側眼を被交感眼(sympathizing eye)と呼ぶ。この概念はヒポクラテスの時代から知られ、最古の文献は1500年代に遡る。

発症率は穿孔性眼外傷後の0.2〜0.5%、眼球壁穿孔を伴う手術後の0.01〜0.05%とされる。人種差はなく、さまざまな年齢層に発症する。眼外傷が男性に多いため本症も男性に多いが、手術後の症例では性差はない。

受傷から発症までの期間は2週間から数か月が多い。ただし、5日から66年という報告もあり、長期間を経て発症する可能性がある。近年は手術器具と術式の改良により切開創が小さくなったため、術後発症例は減少傾向にある。

Q どのような手術が原因になるか?
A

実質的にあらゆる内眼手術が原因となりうる。特に網膜復位術や硝子体手術など複数回の手術後に多い。硝子体切除術や毛様体破壊術は発症率がやや高いとされる。

発症初期には頭痛、難聴、耳鳴りとともに両眼の視力低下・歪視が出現する。近見視力の低下が初期症状となることが多い。

  • 霧視・視力低下:両眼性に生じる。発症は潜行性の場合も急激な場合もある。
  • 眼痛:毛様充血を伴う疼痛。
  • 羞明:光に対する過敏性が増す。
  • 充血結膜充血・毛様充血を認める。

原田病と同様の両眼性急性汎ぶどう膜炎を呈する。眼所見は前眼部から後眼部まで多彩である。

前眼部所見

角膜後面沈着物(KP):豚脂様の沈着物を認める。

前房内炎症:前房内の細胞浸潤とフレアが出現する。

後癒着虹彩水晶体の癒着を生じる。

併発白内障:慢性炎症やステロイド使用により発症する。

後眼部所見

硝子体炎硝子体混濁を認める。

視神経乳頭の発赤・腫脹:乳頭炎を伴う。

漿液性網膜剥離:後極部を中心に多発性にみられる。

ダレン・フックス結節網膜色素上皮ブルッフ膜の間に形成される上皮様細胞集簇。

眼圧は炎症性緑内障による上昇、または毛様体機能不全による低眼圧のいずれも生じうる。重症例では眼球癆に至ることもある。

全身所見として、中国の大規模研究では髄膜刺激症状(24%)、耳鳴(25%)、難聴(20%)、脱毛(13%)、白毛症(11%)が報告されている。回復期には夕焼け眼底(脈絡膜メラニン色素の脱失)を呈する。

Q 原田病との違いは何か?
A

病態は原田病と同一であるが、発症の契機が異なる。原田病には先行する外傷歴がなく、全身所見の合併率が高い。原田病では通常、後部所見が先行し前眼部炎症は後から生じるパターンをとる。

交感性眼炎の原因は穿孔性眼外傷と内眼手術である。ぶどう膜が露出するような外傷や手術を契機に、ぶどう膜組織が全身の免疫系に認識され、自己のメラニン蛋白に対するT細胞性自己免疫疾患が発症する。

主なリスク要因は以下の通りである。

  • 穿孔性眼外傷:ぶどう膜組織の脱出・露出を伴う外傷がもっとも典型的な原因である。
  • 内眼手術:硝子体切除術、網膜復位術、毛様体破壊術など、特に複数回の手術がリスクを高める。
  • 小切開手術以外の術式:近年は切開創の縮小化により術後交感性眼炎は減少している。

穿孔性眼外傷または内眼手術の既往、眼所見、画像検査所見、および眼外症状から総合的に判断する。詳細な眼科的既往歴の聴取がきわめて重要である。病歴が不十分な場合でも、診察時に過去の外傷痕跡があれば診断の手がかりとなる。

回復期に夕焼け眼底を呈すれば診断はより容易になる。

  • 光干渉断層計(OCT):漿液性網膜剥離の評価と経過観察に有用である。脈絡膜肥厚(パキコロイド)の検出にはEDI-OCTを用いる。網膜色素上皮は直線状ではなく波状・凸状となり、多局性の網膜下液貯留を認める。インターディジテーション・ゾーンやエリプソイド・ゾーンの乱れがぶどう膜炎の臨床徴候に先行する場合がある。
  • フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):後極部を中心に多数のピンポイント蛍光漏出点を認める。後期相では漿液性網膜剥離に一致する領域で漏出液の網膜下貯留像を呈する。
鑑別疾患交感性眼炎との主な相違点
原田病(VKH)外傷歴なし、全身所見が多い
結核性ぶどう膜炎感染性、結核の全身所見
梅毒性ぶどう膜炎血清学的検査で鑑別

最も重要な鑑別疾患は原田病である。免疫抑制療法の開始前に感染性ぶどう膜炎(結核、梅毒など)を除外しなければならない。

Q 起交感眼を摘出していても発症するか?
A

交感性眼炎が発症した後に起交感眼を摘出しても、既知の治療上の利益はない。発症後の摘出は被交感眼の炎症を改善しないとされている。

交感性眼炎は初診時から免疫調節療法を開始すべき数少ない適応症の一つである。感染症の除外が確認でき次第、速やかにステロイドを開始する。

原田病と同様にステロイドパルス療法が第一選択である。

  • パルス療法:メチルプレドニゾロン1,000mg/日を3日間点滴静注する。後眼部の変化を迅速に軽減させる効果がある。
  • 大量療法:メチルプレドニゾロン200mg点滴から段階的に減量し、内服に切り替える方法もある。

ステロイド大量投与により漿液性網膜剥離は速やかに消失し、多くの症例で視力は1.0以上に回復する。ステロイド内服はゆっくりと減量し、再発がなくても6か月以上かけて中止する。

ステロイド内服の減量スケジュール例(原田病準拠)を以下に示す。

投与量投与期間
200mg/日 → 100mg/日各2日間ずつ段階的減量
60mg/日 → 30mg/日4日〜2週間
20mg → 5mg/日各4週間ずつ漸減

ステロイドの減量中に再発を繰り返す遷延例では免疫抑制薬を併用する。

  • シクロスポリン(ネオーラル):3〜5mg/kg/日を分2で投与する。定期的なトラフ値測定と腎機能・肝機能のモニタリングが必要である。
  • TNF阻害薬:ステロイドと免疫抑制薬でも制御困難な場合に検討する。
  • ステロイド点眼:リンデロン点眼液(0.1%)を1日3回など、炎症の程度に合わせて増減する。
  • 散瞳薬:ミドリンP点眼液を1日1回(夜)使用し、虹彩後癒着を予防する。
  • 併発白内障:ステロイド白内障は高率に出現する。完全寛解後は通常の白内障手術と同等のリスクで施行可能であるが、遷延例ではステロイド内服を継続しながら比較的安定した時期に手術を行う。他のぶどう膜炎と比べ術後炎症は比較的少なく、眼内レンズ挿入も問題ない。
  • 続発緑内障β遮断薬プロスタグランジン関連薬炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を順に使用する。薬物療法で制御困難な場合は線維柱帯切開術やそれでも不十分であれば線維柱帯切除術を検討する。

起交感眼の予防的摘出については議論がある。

  • 摘出の目的:ぶどう膜・網膜組織の免疫系への曝露を防ぐこと。
  • 発症後の摘出:発症後の摘出には既知の治療上の利益はない。
  • 発症前の摘出:発症後2週間以内に起交感眼を摘出すると被交感眼の予後が良いとの報告がある。ただし、適切な治療により起交感眼にも有用な視力が残る可能性があるため、摘出は起交感眼の視力が極めて不良かつ回復見込みがなく、かつ被交感眼のぶどう膜炎が重篤な場合にのみ検討する。
Q 眼球摘出と眼球内容除去術のどちらを選ぶべきか?
A

歴史的には眼球摘出術が選択されてきたが、眼球内容除去術でも良好な転帰を示す報告がある。内容除去術は施行が容易で美容的結果も優れる。交感性眼炎の稀少性と現代の有効な治療手段を考慮すると、摘出自体を行わない選択肢もある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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交感性眼炎の発症機序は原田病と同一と考えられている。眼は免疫特権を有する臓器であり、通常はぶどう膜内の抗原が全身の免疫系に認識されることはない1)。穿孔性外傷や内眼手術によりこの免疫特権が破綻し、メラニン蛋白をはじめとする眼内抗原が免疫系に曝露される。

主な炎症媒介物質はぶどう膜組織に浸潤するT細胞である。浸潤細胞の第一波はCD4+ヘルパーT細胞で構成され、続いてCD8+細胞傷害性T細胞が浸潤する。体外試験では、交感性眼炎患者の末梢血においてぶどう膜メラノサイトに対するT細胞増殖反応が確認されている。

自己免疫性ぶどう膜炎の発症には血液網膜関門(BRB)の破綻が密接に関連する1)。BRBは網膜に免疫特権環境を提供しているが、網膜S抗原/アレスチンや光受容体間レチノイド結合蛋白(IRBP)などの眼内自己抗原が曝露されると、特定条件下で制御不能な免疫応答が惹起される1)

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)使用時には、外傷や手術による眼内抗原への過去の曝露が意図しないT細胞活性化を引き起こす可能性も指摘されている2)

脈絡膜にびまん性の肉芽腫性炎症を認める。リンパ球、上皮様細胞の巣、多核巨細胞が脈絡膜をびまん性に肥厚させる。上皮様細胞や巨細胞にはしばしばメラニン色素が含まれる。

特徴的な所見として以下がある。

  • ダレン・フックス結節:網膜色素上皮とブルッフ膜の間に位置する色素含有上皮様細胞の集簇である。
  • 脈絡膜毛細血管板の温存:原田病では脈絡膜毛細血管板に炎症が波及するが、交感性眼炎では通常温存される。
  • 網膜への波及なし:炎症プロセスは通常、網膜には及ばない。

前眼部では虹彩が結節状の浸潤を伴い肥厚する。

交感性眼炎は非常に稀な疾患であり、大規模な前向き研究は困難である。今後の研究の方向性として以下が挙げられる。

  • バイオマーカーの探索:自然治癒する症例と遷延化する症例を早期に区別する指標は現在存在しない。これを予測するバイオマーカーが同定されれば、治療方針の個別化が可能になる。
  • 生物学的製剤の応用:TNF阻害薬はすでに一部の難治例に使用されているが、他の生物学的製剤(IL-6阻害薬など)の有効性に関する知見の蓄積が期待される。
  • 免疫チェックポイント阻害薬との関連:ICI使用患者において過去の眼外傷が交感性眼炎様の反応を誘発する可能性が指摘されており2)、そのメカニズムの解明が進められている。

  1. Yang S, Li T, Jia H, et al. Targeting immune cells in autoimmune uveitis: insights from studies on BRB dysfunction. Front Immunol. 2020;11:578071.
  2. Kang EH, Lally SE, Shields CL. Immune checkpoint inhibitor-associated ocular inflammation. Am J Ophthalmol. 2025;271:164-181.

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