前部ぶどう膜炎
豚脂様角膜後面沈着物:大型脂肪様沈着物。肉芽腫性の特徴所見。
虹彩結節:ケッペ結節(瞳孔縁)とブサッカ結節(虹彩面)。
隅角結節:テント状周辺虹彩前癒着の原因。特異性が高い。

サルコイドーシスは全身の諸臓器に非乾酪性肉芽腫(壊死を伴わない肉芽腫)が形成される原因不明の疾患である。肺門縦隔リンパ節・肺・眼・皮膚の罹患頻度が高いが、心臓・神経・肝・脾・唾液腺など全身に病変を形成しうる。
眼サルコイドーシスの歴史は1909年にさかのぼる。ヘールフォルト(Heerfordt)がぶどう膜炎・耳下腺腫脹・発熱を呈した3例を報告したのが最初の眼症状の記載である。
全身性サルコイドーシスの30〜60%に眼病変が生じ、眼症状が主症状となることも少なくない1)。ぶどう膜炎は最も多い眼病変であり、患者の20〜50%に発症する1)。日本ではぶどう膜炎・内眼炎の原因疾患の第1位を占めるが、欧米や東南アジアでは比較的少ない。
発生年齢は男性では20歳代にピーク、女性では20歳代と50〜60歳代の二峰性を示す。人種では北欧系およびアフリカ系アメリカ人に多い。米国での年間発生率は白人で10万人あたり10.9、黒人で35.5と報告される2)。
霧視・羞明・飛蚊症・視力低下などの眼症状で発見される場合が多い。次いで皮膚の発疹・咳・全身倦怠・発熱・結節性紅斑・関節痛・不整脈がみられるが、無症状で健康診断の胸部X線により両側肺門リンパ節腫脹から発見されることも多い。
小児にもサルコイドーシスは発症する1)。5歳以下で発症する「早期発症型」はNOD2遺伝子変異による常染色体優性の遺伝性疾患であり、Blau症候群(散発性)とも呼ばれる1)。8〜15歳で発症する「成人型」は環境抗原への過剰免疫応答と考えられている1)。
全患者の30〜40%では眼症状が初発症状である。霧視や飛蚊症で眼科を受診し、精査の結果サルコイドーシスと診断される例は少なくない。
眼サルコイドーシスの自覚症状は病変の部位と範囲によって多様である。
眼サルコイドーシスの臨床所見はきわめて多彩であり、眼球およびその付属器のあらゆる部位に影響を及ぼしうる。
前部ぶどう膜炎
豚脂様角膜後面沈着物:大型脂肪様沈着物。肉芽腫性の特徴所見。
虹彩結節:ケッペ結節(瞳孔縁)とブサッカ結節(虹彩面)。
隅角結節:テント状周辺虹彩前癒着の原因。特異性が高い。
後部ぶどう膜炎
蝋涙状滲出物:網膜静脈周囲の白黄色血管鞘。
脈絡膜肉芽腫:黄橙色の散在性病変。大型では網膜剝離を合併。
視神経乳頭肉芽腫:灰白色の隆起性病変。
サルコイドーシスの原因は不明である。疾患感受性のある個体において、何らかの抗原によりTh1型細胞免疫反応(IV型アレルギー)が惹起され、全身諸臓器に肉芽腫が形成されると考えられている。
潜在的な誘因として複数の病原体・物質が示唆されている1)。
遺伝的素因も重要であり、ときに家族発生がみられる。早期発症型(5歳以下)ではNOD2遺伝子変異が同定されている1)。NOD2タンパク質の異常により核内因子κB(NF-κB)を介した過剰な炎症シグナルが生じ、さらに最近の研究ではNOD2の機能障害から病的なTh17細胞が出現することが示唆されている1)。
肉芽腫の基本構造は類上皮細胞・マクロファージ・リンパ球から成る1)。多彩な免疫細胞集団が病態に関与している。
リスク因子として以下が知られている。
サルコイドーシスの診断は臨床所見・検査所見・組織学的所見を総合して行う。全身疾患であり、眼所見からサルコイドーシスを疑った場合は血液検査・胸部X線・胸部CTを施行し、呼吸器内科や皮膚科に併診する。
ステロイド全身投与は病変を縮小させ診断が困難になるため、眼症状として緊急を要する状態でなければ診断確定までステロイドの全身投与は避けるべきである。
両側肺門リンパ節腫脹と血清アンジオテンシン変換酵素高値・血清可溶性インターロイキン2受容体高値のうち両側肺門リンパ節腫脹を含む2項目以上を認めれば、臨床診断群が強く疑われる。
確定診断のゴールドスタンダードは組織生検による非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の証明である2)6)。生検部位はリンパ節・経気管支肺生検・気管支壁・皮膚・肝・筋肉・結膜などである。
眼病変においても脈絡網膜生検により非乾酪性肉芽腫が証明されうる2)。悪性リンパ腫など他の疾患との鑑別が必要な場合には、侵襲的であるが脈絡網膜生検が有用である2)。
2019年に改訂された国際眼サルコイドーシスワークショップの診断基準が広く使用されている1)5)。
他の肉芽腫性ぶどう膜炎の原因(結核・梅毒など)を除外したうえで、以下の3段階で診断する。
| 診断分類 | 条件 |
|---|---|
| 確定 | 組織生検で非乾酪性肉芽腫+適合するぶどう膜炎 |
| 推定 | BHL+眼内臨床徴候2つ以上 |
| 疑い | 眼内臨床徴候3つ以上+全身検査所見2つ以上 |
眼内臨床徴候(7項目)は以下の通りである。
2021年にはぶどう膜炎命名法標準化(SUN)作業グループによる分類基準も発表されている1)。SUN基準は特異度を重視しており、研究目的での使用が主な意図である。
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会および厚生労働省びまん性肺疾患調査研究班による診断基準では、「組織診断群(確実)」と「臨床診断群(ほぼ確実)」の2段階で診断する。
眼サルコイドーシス診断の手引きでは、以下の6項目中2項目以上を有する場合に眼病変を疑う。
除外すべき疾患として、悪性リンパ腫、結核、ベーチェット病、ヘルペス性ぶどう膜炎、IgG4関連疾患などが挙げられる。
サルコイドーシスと悪性リンパ腫はいずれも脈絡膜病変やリンパ節腫脹を呈しうるため、鑑別が困難な場合がある。PET検査で腫瘍性の高代謝を認めない場合はサルコイドーシスが疑わしいが、確定には組織生検が必要である2)。悪性腫瘍の既往がある患者では脈絡網膜生検が考慮される2)。
眼サルコイドーシスの治療は、炎症の鎮静化と合併症の予防を目的とする。サルコイドーシスは比較的ステロイドへの反応性が良好な疾患であるが、慢性に経過することが多く治療も長期化しやすい。
局所治療で消炎や視力改善が得られない場合に考慮する。ステロイド薬が肺病変の遷延化に関与する可能性が指摘されているため、原則として不可逆性の視機能低下を起こしうる眼病変に対して行う。
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会「サルコイドーシス診療の手引き-2018」における全身投与の適応は以下の通りである。
投与法は以下の通りである。
再発が多い疾患であり、漸減はゆっくりと行う。再燃時はステロイド増量や後部テノン嚢下注射を検討する。
ステロイド抵抗性の症例、減量に伴い再燃を繰り返す症例、副作用のために内服継続が困難な症例で追加を考慮する。
Zongら(2025)は14歳の小児眼サルコイドーシス例で、経口プレドニゾン・メトトレキサート(15mg/週)・アダリムマブ(40mg/隔週)の併用により硝子体混濁と血管炎は消退したが、乳頭周囲脈絡膜新生血管(PCNV)は緩徐に進行し、抗VEGF硝子体注射の追加を要したと報告した5)。アダリムマブの減量後にPCNVが再活性化したことから、十分な投与量の維持が重要であることが示唆されている。
軽症例では自然軽快を期待してステロイド点眼のみで経過をみることも可能である。ただし後眼部病変(囊胞様黄斑浮腫・広範な網脈絡膜炎・視神経病変など)がある場合にはステロイド点眼だけでは不十分であり、後部テノン嚢下注射や全身投与が必要となる。
サルコイドーシスの病態は、疾患感受性を有する個体における環境抗原への過剰な免疫応答に基づく。
抗原提示細胞がTh1細胞を活性化し、インターフェロンγやTNF-αなどのサイトカインが産生される。これによりマクロファージが活性化・凝集し、類上皮細胞に分化して非乾酪性肉芽腫が形成される1)。
成人型サルコイドーシスの病因は依然不明であり、個々の患者で異なる可能性がある1)。結核菌抗原やCutibacterium acnesが候補病原体として検討されているが、確定されていない1)。
NOD2遺伝子変異、特にR334W・R334Qなど中央NACHT domainの変異がNOD2の異常な活性化を引き起こす1)。異常なNOD2タンパク質はNF-κBシグナルを過剰に亢進させ、多数の炎症遺伝子の転写を促進する1)。
最近のNapier・Leeらの研究では、NOD2の機能障害からぶどう膜炎に関連する病的なTh17細胞が生じることが示唆されている1)。
サルコイドーシスの肉芽腫性炎症は眼球のあらゆる組織を侵しうる。前眼部では虹彩・隅角・線維柱帯への肉芽腫沈着が特徴的であり、隅角の炎症性閉塞や結節による房水流出障害が続発緑内障の原因となる4)。緑内障はサルコイドーシスの眼病変の11%に認められる4)。
後眼部では網膜血管壁への肉芽腫浸潤が静脈周囲炎を引き起こし、蝋涙状滲出物の形成に至る。脈絡膜肉芽腫が増大すると、網膜色素上皮を越えて網膜下へ白色滲出性病巣を形成し、漿液性網膜剝離を合併する。
脈絡膜新生血管(CNV)は後部〜汎ぶどう膜炎の合併症として出現する5)。炎症環境下でのミトコンドリア呼吸障害がVEGF産生を亢進させ、脈絡膜新生血管の発生・進展に関与すると考えられている5)。
神経サルコイドーシスは広範な神経症状を引き起こす。最も多い症状は脳神経障害であり、特に顔面神経(第VII脳神経)と視神経(第II脳神経)が侵されやすい。ヘールフォルト症候群は顔面神経麻痺・耳下腺腫脹・ぶどう膜炎・発熱を特徴とするサルコイドーシスの一型であり、完全型は全患者の0.3%にみられる6)。
Nakamuraら(2025)は78歳女性の不完全型ヘールフォルト症候群を報告した6)。顔面神経麻痺と発熱が1年前から存在し、入院後の精査でACE高値(27.4 U/L)とsIL-2R高値(3,670 U/mL)を認めた。縦隔リンパ節生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が確認され、眼科的評価でぶどう膜炎が判明した。ステロイド投与なしで症状は改善し、退院後1年3ヶ月間安定している。
がん免疫療法に用いられるPD-1阻害薬は、自己免疫疾患を有する患者での使用が相対的禁忌とされている。眼サルコイドーシスの既往を持つ患者への投与の安全性に関するデータは限られている。
Readら(2025)は、重症眼サルコイドーシスの既往を持つ転移性皮膚有棘細胞癌患者に対しペムブロリズマブを2年以上投与した症例を報告した3)。眼サルコイドーシスの再燃は認められず、腫瘍に対しては完全〜部分奏効が得られた。慎重な眼科的モニタリングのもとでPD-1阻害薬が安全に使用できる可能性が示唆されたが、個別のリスク・ベネフィット分析が不可欠である。
サルコイドーシスと悪性リンパ腫の関連は「サルコイド-リンパ腫症候群」として古くから知られている2)。サルコイドーシスによる免疫系の調節障害がリンパ腫発症の素因となる可能性が指摘されている2)。サルコイドーシスは傍腫瘍症候群としても、また抗腫瘍薬治療との関連でも観察される2)。
Smithらの報告によれば、16歳未満で発症し3年以上追跡された52例の成人型サルコイドーシス(中央値11.5年追跡)において、50%が成人期に至っても活動性疾患を有し治療を要した1)。さらに小児期に寛解した患者の19%が成人期に再発した。疾患持続例では50%に眼病変が継続していた。予後予測因子は同定されておらず、生涯にわたる経過観察が推奨されている。
眼サルコイドーシスに合併する脈絡膜新生血管に対しては、抗VEGF硝子体注射と免疫調節療法の併用が重要とされる5)。
Airaldiらの研究では、特発性多巣性脈絡膜炎に続発する炎症性脈絡膜新生血管に対し、全身ステロイド単独よりも免疫調節療法のほうが良好なコントロールを得たと報告されている5)。この知見はサルコイドーシス関連脈絡膜新生血管の管理にも応用可能であり、抗VEGF治療のみでは不十分な場合に免疫調節療法の強化が必要であることを示唆している。