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ぶどう膜炎

ミコフェノール酸モフェチル(ぶどう膜炎治療)

1. ミコフェノール酸モフェチルとは

Section titled “1. ミコフェノール酸モフェチルとは”

ミコフェノール酸モフェチル(Mycophenolate Mofetil; MMF)は、ミコフェノール酸(MPA)のプロドラッグである。活性代謝物MPAは、1896年にイタリアの微生物学者ガセオによってPenicillium brevicompactumから最初に単離された化合物であり、その後アリソンとエグイによって臓器移植における免疫調節薬として開発され、1995年にFDAに承認された。

現在では臓器移植の拒絶反応予防のほか、ループス腎炎・SLEベーチェット病・炎症性眼疾患など多くの自己免疫疾患にも使用されている。日本ではぶどう膜炎への保険適用はないが、海外ではステロイドとの併用で頻繁に処方される薬剤である。

眼炎症性疾患においては、副作用プロファイルが良好なステロイド節約薬として、メトトレキサートと並んで重要な位置づけにある2)

Q セルセプトとミコフェノール酸の違いは何か?
A

セルセプト(Cellcept)はミコフェノール酸モフェチル(ミコフェノール酸モフェチル)の商品名であり、MPAのプロドラッグである。経口投与後に加水分解されてMPAとなる。ミコフェノール酸ナトリウム(Myfortic)は腸溶性製剤であり、同じ活性代謝物MPAを生成するが製剤が異なる。ミコフェノール酸モフェチルは非経口投与よりも経口での生体利用率(約94%)が高い。

自覚症状(治療対象の疾患として)

Section titled “自覚症状(治療対象の疾患として)”

ミコフェノール酸モフェチルが使用される非感染性ぶどう膜炎患者が呈する症状。

  • 充血・眼痛:前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)での主症状。
  • 霧視飛蚊症:中間部・後部ぶどう膜炎での硝子体混濁による。
  • 視力低下黄斑浮腫・硝子体混濁・炎症性合併症による。
  • 羞明:前眼部炎症に伴う。

ミコフェノール酸モフェチルが特に有効とされる疾患と使用場面。

  • 原田病(Vogt-Koyanagi-Harada病):急性期にステロイド+ミコフェノール酸モフェチルの併用で93%の眼が20/20の視力を維持したとの報告がある1)
  • 非感染性後部・汎ぶどう膜炎FAST試験でメトトレキサートと比較した場合、後部・汎ぶどう膜炎ではメトトレキサートが優位だが、その他の形態ではミコフェノール酸モフェチルとメトトレキサートの治療成功率は同等。
  • 慢性眼炎症疾患全般:Baltatzisらの研究では慢性眼炎症の85%以上で有効が報告されている2)

ミコフェノール酸モフェチルを必要とするぶどう膜炎に対する免疫調節療法の開始を検討する主な理由は以下の通りである。

  • 経口ステロイドでコントロールできないぶどう膜炎
  • ステロイドの長期使用に伴う副作用(骨粗鬆症・糖尿病・精神症状など)の回避
  • 特定のぶどう膜炎診断(フォークト・小柳・原田病・サルコイドーシス・眼内リンパ腫など)
  • ステロイド不耐容

ミコフェノール酸モフェチルの前に以下のスクリーニングが推奨される。

  • 白血球分画を含む全血算
  • 肝機能検査・アルブミン・クレアチニン・尿検査
  • B型・C型肝炎ウイルス血清検査
  • 結核スクリーニング(ツベルクリン反応/インターフェロンγ遊離試験)

ミコフェノール酸モフェチル治療中の定期的なモニタリングが重要である。

  • 全血算:好中球減少症・血小板減少症・貧血の確認。生命を脅かす血球減少症の早期発見。
  • 肝機能検査:肝毒性のモニタリング。
  • 腎機能検査:クレアチニン・尿検査。
  • 感染症スクリーニング:サイトメガロウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症のリスク。

副作用を報告する患者は20%未満とされるが、用量依存性の胃腸障害と骨髄抑制が最も多く報告される副作用である。

  • 標準的な投与量:1日量1,000〜3,000 mgを2回に分けて経口投与。効果を見ながら増減する。
  • 慢性ぶどう膜炎への投与:1日10 mg未満のプレドニゾロンと併用し、1回1〜1.5 gを1日2回投与。
  • 開始方法:少量(数日間、1日500 mg)から開始し数週間かけて目標用量まで増量することで胃腸耐容性が改善する可能性がある。

フォークト・小柳・原田病患者への効果

急性期フォークト・小柳・原田病(ミコフェノール酸モフェチル+ステロイド):93%の眼が20/20の視力を維持。再発性前部ぶどう膜炎および「夕焼け状眼底」の出現を全患者で予防(平均追跡期間37ヶ月)1)

慢性眼炎症全般

**成人85%・小児88%**で有効とされる(慢性ぶどう膜炎治療患者)。

副作用プロファイルが良好であり、他の免疫抑制療法の代替として価値がある2)

最も重要な事項は以下の通り。

  • 絶対禁忌:妊娠・授乳・ミコフェノール酸過敏症
  • 最も一般的な副作用:用量依存性の胃腸障害(悪心・嘔吐・下痢)・骨髄抑制
  • 重篤な副作用
    • 悪性腫瘍(リンパ腫・皮膚癌・エプスタイン・バールウイルス関連移植後リンパ増殖性疾患)
    • 重篤な感染症(サイトメガロウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス・BKウイルス腎症・進行性多巣性白質脳症
    • 血液疾患(好中球減少症・赤芽球癆)
    • 胃腸合併症(出血・潰瘍・穿孔)
副作用カテゴリ具体的内容
胃腸障害悪心・嘔吐・下痢(用量依存性)
骨髄抑制好中球減少・血小板減少・貧血
感染症サイトメガロウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス・日和見感染
悪性腫瘍リンパ腫・皮膚癌
Q ミコフェノール酸モフェチルを使い始めて何ヶ月で効果が出るか?
A

ミコフェノール酸モフェチルを含む免疫調節薬は効果発現に数週間〜数ヶ月を要する。臨床反応は通常、治療開始から2ヶ月後から認められる。ミコフェノール酸モフェチル治療開始時には経口ステロイドを同時に使用しながら、ミコフェノール酸モフェチルの効果発現を待つのが一般的な方法である2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ミコフェノール酸モフェチルは経口投与後に速やかに加水分解されてミコフェノール酸(MPA)となる。

MPAの主な作用機序は以下の通り。

イノシン一リン酸脱水素酵素(IMPDH)の可逆的阻害:DNA複製におけるイノシン一リン酸からグアノシン一リン酸への変換に必要な律速酵素を選択的に阻害する。

この変換ステップはプリンヌクレオチドのde novo合成における律速段階であり、このステップが阻害されると以下の結果が生じる。

  • B細胞・T細胞の増殖抑制
  • 抗体産生の減少
  • リンパ球の動員・接着分子発現の抑制

選択的な作用機序:体内の多くの細胞はプリン塩基のサルベージ経路(既存の核酸塩基を再利用する経路)でも必要な核酸塩基を調達できる。一方、免疫担当リンパ球はde novo合成に強く依存しているため、ミコフェノール酸モフェチルは選択的にリンパ球の増殖を抑制する。これにより副作用が他の免疫抑制薬と比べて少ない選択性の高さが生まれる。

活性化Tリンパ球のアポトーシス誘導:ミコフェノール酸は活性化Tリンパ球に発現するイノシン一リン酸に結合して、これらのアポトーシスを誘導する。

フォークト・小柳・原田病における病態(ぶどう膜メラノサイトへの自己免疫攻撃)に対しても、リンパ球増殖の選択的抑制により炎症を制御できる1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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FAST試験(ミコフェノール酸モフェチル vs メトトレキサート)のサブグループ解析

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非感染性ぶどう膜炎患者を対象としたランダム化比較有効性試験(FAST試験)では、後部・汎ぶどう膜炎ではメトトレキサートがミコフェノール酸モフェチルより有意に優れた治療成功率を示した一方、全形態ぶどう膜炎全体では有意差はなかった2)。このサブグループ解析はミコフェノール酸モフェチルの使用適応の精緻化に貢献している。

原田病に対するミコフェノール酸モフェチル+ステロイド療法

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FAST試験の216例中93例が原田病患者であり、メトトレキサート(25 mg/週)とミコフェノール酸モフェチル(1.5 g×2回/日)のランダム化比較が行われた1)。原田病サブグループでの成績分析により、急性期・慢性期それぞれでの最適治療法の確立に向けたエビデンスが蓄積されている。

グレーブス眼症(甲状腺眼症)への応用

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欧州甲状腺学会およびEUGOGOガイドラインでは、中等症から重症かつ活動期のグレーブス眼症患者に対する第一選択治療として、中等量のメチルプレドニゾロン静脈内投与と経口腸溶性ミコフェノール酸ナトリウムの連日投与の併用を推奨している。これは眼炎症疾患全般へのミコフェノール酸モフェチルの応用可能性を示している。


  1. Urzua CA, Velasquez V, Sabat P, et al. Earlier immunomodulatory treatment is associated with better visual outcomes in a subset of patients with Vogt-Koyanagi-Harada disease. Am J Ophthalmol. 2015;160(5):remainder.
  2. Baltatzis S, Tufail F, Yu EN, Vredeveld CM, Foster CS. Mycophenolate mofetil as an immunomodulatory agent in the treatment of chronic ocular inflammatory disorders. Ophthalmology. 2003;110(5):1061-1065.

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