前房所見
前房炎症細胞・フレア:多数の炎症細胞とフィブリンが前房内に充満する。
前房蓄膿:炎症細胞とフィブリンが前房下方に層状に堆積する。重症例で認められる。
前房内フィブリン:虹彩または水晶体前面に付着し瞳孔領を覆うことがある。
角膜後面沈着物(KP):細かい非肉芽腫性のKPが角膜後面に散在する。

HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎(HLA-B27 associated acute anterior uveitis; HLA-B27-AAU)は、ヒト白血球抗原B27(HLA-B27)陽性者に好発する急性・再発性の非肉芽腫性前部ぶどう膜炎である。
急性前部ぶどう膜炎全体の約50%がHLA-B27に関連しており、非感染性ぶどう膜炎の最も頻度の高い特定可能な原因として世界的に知られている1)。
HLA-B27の民族的分布:
| 民族・地域 | HLA-B27陽性率 |
|---|---|
| パプアニューギニア パワイア族 | 53% |
| カナダ ハイダ族 | 50% |
| スカンジナビア北部 | 14〜16% |
| 白人(コーカサス系) | 8〜10% |
| 非ヒスパニック系白人(米国) | 7.5% |
| アフリカ系アメリカ人 | 2〜4% |
HLA-B遺伝子座はCD8+ T細胞へ抗原を提示するMHCクラスI表面抗原をコードし、105以上のサブタイプと132の遺伝子アレルが存在する。HLA-B27は抗原結合溝のアミノ酸構成が特異的で、自己免疫応答との関与が示唆されている。
日本における本疾患はぶどう膜炎全体の2.5〜6%程度であり、欧米(50%)と比較して低頻度である。また本邦でHLA-B27陽性者の割合は4〜63%と報告に幅がある。
HLA-B27陽性者の大多数はぶどう膜炎を発症しない。HLA-B27は疾患感受性を高める遺伝因子であり、発症には他の環境的・免疫的要因も関与する。ぶどう膜炎のみで全身疾患を合併しない症例もある。
突然に発症する片眼性の症状が特徴である。
炎症エピソードは通常2か月以内に消退し、平均年1〜2回の再発を繰り返す。左右交互に発症することが多く、両眼同時発症はきわめて稀である。
前房所見
前房炎症細胞・フレア:多数の炎症細胞とフィブリンが前房内に充満する。
前房蓄膿:炎症細胞とフィブリンが前房下方に層状に堆積する。重症例で認められる。
前房内フィブリン:虹彩または水晶体前面に付着し瞳孔領を覆うことがある。
角膜後面沈着物(KP):細かい非肉芽腫性のKPが角膜後面に散在する。
虹彩・隅角所見
虹彩後癒着:高頻度に形成され、瞳孔辺縁の虹彩が水晶体前面に癒着する。
iris bombé(虹彩膨隆):虹彩後癒着が全周に及ぶと前房水の流れが遮断され、虹彩が前方へ膨隆する。急性閉塞隅角緑内障の原因となる。
Descemet膜皺襞:強い前房炎症時に角膜後面の皺として観察される。
眼圧低下:急性炎症では毛様体機能低下により眼圧が低下することが多い。
稀な所見として、視神経乳頭炎、軽度の硝子体炎、嚢胞様黄斑浮腫、帯状角膜変性なども報告されている。
急性炎症では毛様体の機能が障害され、眼内液(房水)の産生が低下するため眼圧が下がりやすい。一方、炎症細胞や炎症性産物による線維柱帯の閉塞、または虹彩後癒着によるiris bombéが生じると眼圧は上昇する。
HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎は免疫学的機序によって生じる非感染性前部ぶどう膜炎である。
関連する全身疾患(脊椎関節症):
HLA-B27陽性であっても眼症状のみで全身疾患を伴わない症例も存在する。
発症傾向:
診断は臨床症状と眼所見の組み合わせによる。感染性眼内炎の除外が重要である。
全身評価:
検査:
鑑別診断として感染性眼内炎・他の自己免疫性ぶどう膜炎・急性隅角閉塞緑内障を考慮する。B27陰性の急性前部ぶどう膜炎でも臨床像はほぼ同様であることを念頭に置く。
治療の目標は急性炎症の迅速な消退と合併症の予防である。
ステロイド点眼(第一選択):炎症の程度に応じて高用量・高頻度から開始する。
消炎とともに漸減し、再発に注意しながら継続する。
散瞳・調節麻痺薬:
炎症に伴う眼圧上昇にはβブロッカー・炭酸脱水酵素阻害薬点眼を用いる。プロスタグランジン関連薬は単純ヘルペスウイルスの再活性化リスクがあるため、角膜上皮炎の合併がある場合は慎重に使用する。
経口ステロイド:局所治療に抵抗する重篤な前眼部炎症や、iris bombéによる急性緑内障を合併した重症例に用いる。プレドニゾロン1mg/kg/日で開始し、数週間かけて漸減する。
全身性免疫抑制薬:視力を脅かす再発を繰り返す患者や全身疾患(脊椎関節症)を合併する患者に使用する。代謝拮抗薬(メトトレキサート・アザチオプリン)や生物学的製剤が選択される。
アダリムマブ(Adalimumab):脊椎関節症(spondyloarthropathy)を合併するAAU患者に対して承認されている。非感染性の後部または汎ぶどう膜炎を主対象とするFDA承認薬であり、前部ぶどう膜炎単独での使用は適応外となる。
HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎は再発性であるが、治療中止後に必ず再発するわけではない。平均年1〜2回の再発が多いが、再発頻度は個人差が大きい。全身疾患を合併する場合、その治療(生物学的製剤など)が眼の再発抑制にも有効な場合がある。
HLA-B27はMHCクラスI分子として、三量体(MHC重鎖・β2ミクログロブリン・ペプチド)を形成してCD8+ T細胞に抗原を提示する。HLA-B27の抗原結合溝はアミノ酸構成が特異的で、本来は自己抗原に反応しないT細胞が活性化される「分子擬態(molecular mimicry)」や「誤った折り畳み(misfolding)」仮説など、複数の機序が提唱されているが、完全には解明されていない。
HLA-B27関連疾患(強直性脊椎炎・反応性関節炎など)において、免疫学的な炎症が関節から眼へと波及する機序、または眼組織固有のHLA-B27を介した自己反応性T細胞の活性化が前部ぶどう膜炎を引き起こすと考えられている。
急性発症・短期間での消退・再発性という臨床経過は、自己限定的な免疫応答の特性を反映している。眼内の炎症消退後も、リンパ球が眼内に残存し再活性化する機序が再発を繰り返す一因と考えられる。
持続的な炎症により虹彩後癒着・続発性緑内障・白内障・嚢胞様黄斑浮腫などの合併症が生じうる1)。
HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎において、急性炎症エピソード後に持続性の瞳孔散大(atonic pupil)を生じる稀な合併症が報告されている。
Alkhaldiら(2025)は、HLA-B27関連再発性前部ぶどう膜炎の既往を持つ38歳女性において、両眼性の不可逆的散瞳(6mm固定)が認められた症例を報告した1)。眼圧上昇(29〜32mmHg)と散瞳薬使用(シクロペントラート1%)が重なり、虹彩括約筋の虚血性障害(Urrets-Zavalia様症候群)をきたしたと考察した。ピロカルピン(0.1%および1%)に対する緊張性反応は認められず、1年以上の経過観察でも固定散瞳が持続した。
本病態は前部ぶどう膜炎・眼圧上昇・散瞳薬使用の3要素が重なった際に虹彩括約筋の虚血が生じるとする機序が提唱されている。虹彩蛍光造影(iris fluorescein angiography)による虹彩虚血の確認が診断に有用とされるが、神経学的原因(第3神経麻痺・中脳病変など)との鑑別が先行して行われなければならない。
TNF阻害薬(アダリムマブ・インフリキシマブ)は脊椎関節症合併AAUにおいて再発頻度を低下させるとの報告が蓄積されており、難治性・再発性症例への応用が広がっている。