眼所見
前部ぶどう膜炎:肉芽腫性・非肉芽腫性の前房炎症。豚脂様KP(mutton-fat KP)、Koeppe結節・Bussaca結節が特徴的。
隅角結節・テント状周辺虹彩前癒着:隅角の肉芽腫性病変。
塊状硝子体混濁:雪玉状・数珠状(string-of-pearls)の硝子体混濁1)。
後眼部病変:網膜血管周囲炎、多局性網脈絡膜病変、視神経乳頭肉芽腫が報告される1)。

ヘールフォルト・ワルデンストレーム症候群(Heerfordt-Waldenström syndrome; HWS)は、サルコイドーシスの稀な亜型である。1909年にデンマークの眼科医クリスチャン・フレデリック・ヘールフォルトによって初めて報告され、1937年にスウェーデンの医師ヤン・G・ワルデンストレームによってサルコイドーシスの特異な臨床像として正式に分類された。
ぶどう膜耳下腺熱(uveoparotid fever)とも称され、ICD-10コードはD86.8(その他のサルコイドーシス)に分類される。
HWSはサルコイドーシス患者の4.1〜5.6%に発症し、稀ではあるが全身諸臓器に及ぶ病変をきたす点で予後を左右する病態である。
サルコイドーシス全体の病態は、疾患感受性のある個体において病因抗原によりTh1型細胞免疫反応が起こり、全身諸臓器に類上皮細胞と巨細胞からなる乾酪壊死を伴わない肉芽腫が形成されるものである。サルコイドーシスは肺・肺門縦隔リンパ節・眼・皮膚の罹患頻度が高いが、心臓・神経・筋・肝・唾液腺・骨など全臓器に病変を形成しうる。
HWSとHLA-DRB1*04アレルとの相関が1,000例を対象とした研究で示されている。
別の病気ではなく、サルコイドーシスの特殊な臨床亜型である。サルコイドーシスの根底にある肉芽腫性炎症反応が、特定の臓器組み合わせ(眼・耳下腺・顔面神経・発熱)として現れたものがHWSである。
HWSの呈示は曖昧な傾向があり、古典的な4徴候が同時に現れないこともある。
眼病変は患者の11〜83%に発生し、最も多いのは前部ぶどう膜炎である。顔面神経麻痺の発生率は25〜50%であり、本症候群の重要な構成要素となる。耳下腺病変は約6%に発生し、通常は両側性である。
眼所見
前部ぶどう膜炎:肉芽腫性・非肉芽腫性の前房炎症。豚脂様KP(mutton-fat KP)、Koeppe結節・Bussaca結節が特徴的。
隅角結節・テント状周辺虹彩前癒着:隅角の肉芽腫性病変。
塊状硝子体混濁:雪玉状・数珠状(string-of-pearls)の硝子体混濁1)。
後眼部病変:網膜血管周囲炎、多局性網脈絡膜病変、視神経乳頭肉芽腫が報告される1)。
全身所見
耳下腺腫脹:両側性・軟らかい・無痛性の腫脹が典型的。
顔面神経麻痺:末梢性(完全または不全麻痺)。兎眼(lagophthalmos)を伴うことがある。
発熱:ほとんどの患者に微熱がみられる。
神経学的病変:三叉神経麻痺・進行性多巣性白質脳症の報告もある。
文献レビューでは、上記以外にも心嚢液貯留・両側眼瞼腫脹・口腔乾燥症・乾性角結膜炎など多彩な合併症が報告されている。
サルコイドーシス362例の英国・豪州・ニュージーランドの研究では、全身合併症が77%に認められ、最多は肺(56%)、次いで皮膚(27%)・関節炎(16%)・神経(14%)であった1)。
HWSの正確な病因は完全には解明されていないが、根底にある病理は肉芽腫性炎症反応である。
サルコイドーシスの病因となる抗原候補として、マイコバクテリウム属(Mycobacterium tuberculosis等)・Cutibacterium acnesなどの微生物や無機物質(ケイ酸塩等)が示唆されているが、確定的なエビデンスはない1)。基本的な肉芽腫の構造は類上皮細胞・マクロファージ・リンパ球からなる1)。
遺伝的素因として、HLA-DRB1*04アレルとの関連が知られている。
HWSは基本的に臨床診断であり、以下の2つの臨床型に分類される。
| 型 | 診断基準 |
|---|---|
| 完全型(complete type) | 4主徴(前部ぶどう膜炎・耳下腺腫脹・顔面神経麻痺・発熱)すべてが存在 |
| 不全型(incomplete type) | 前部ぶどう膜炎・耳下腺腫脹・顔面神経麻痺のうち2つ以上が存在 |
診断を支持する検査:
鑑別診断:
血清ACE上昇・胸部X線の両側肺門リンパ節腫脹は診断に有力な根拠を与えるが、これだけでは確定診断とならない。確定診断には組織生検による非乾酪性肉芽腫の証明が必要である。所見が揃わない場合は胸部CT・ガリウムシンチグラフィ・気管支肺胞洗浄などを追加する。
ステロイドが治療の第一選択であり、顔面神経麻痺・ぶどう膜炎・耳下腺腫脹の消失をもたらす。
局所治療(眼):
全身治療(ステロイド経口):
初期投与量は0.5mg/kg/日(重症の場合は1mg/kg/日)で開始し、1〜2か月ごとに5〜10mgずつ漸減する。最終投与量を2.5〜5mg/日として1〜数か月継続し終了する(全投与期間3か月〜1年以上)。
以下の代替薬が選択される:
顔面神経麻痺に伴う兎眼(lagophthalmos)がある場合は人工涙液も使用する。
HWSを含むサルコイドーシスの基本的な病理は、類上皮細胞(macrophageが変化した細胞)・多核巨細胞・リンパ球からなる非乾酪性肉芽腫の形成である。
Th1型細胞免疫反応(IV型アレルギー)が中心的な役割を担い、環境抗原に対する過剰な免疫応答として肉芽腫が形成されると考えられている。多彩な免疫細胞集団が発症病態に関与している1)。
眼の肉芽腫性炎症では:
サルコイドーシスにおける緑内障は症例の約11%に発生し、隅角の炎症性デブリや結節による線維柱帯閉塞が機序である1)。
顔面神経麻痺の機序としては、顔面神経管内または近傍での肉芽腫形成による直接的な神経圧迫・虚血が想定される。
TNF阻害薬(インフリキシマブ・アダリムマブ)は難治性サルコイドーシスの治療において有望な成績が報告されている。眼サルコイドーシスに対してもインフリキシマブの有効性が症例報告・後方視的研究で示されており、ステロイド節減効果が期待される。
国際眼サルコイドーシスワークショップ(IWOS)は2019年にサルコイドーシス眼病変の診断基準を改訂し、7つの眼内臨床徴候(KP・虹彩結節・テント状周辺虹彩前癒着・雪玉様硝子体混濁・網脈絡膜病変・脈絡膜結節・視神経病変)と8つの全身検査所見の組み合わせによる3段階の診断確実性(確実・推定・可能)を設けている。IWOSの基準はすでに約50の臨床研究で実装されている1)。