PSS型(ポスナー・シュロスマン症候群様)
発症年齢:20〜50代の若年男性
眼圧:40〜60 mmHgの著明な上昇
前房炎症:比較的軽度(細胞2+以下)
KPs:中〜大型の灰白色肉芽腫性KP
経過:寛解と再発を繰り返す

サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスである。 40歳以上の成人では血清陽性率が80〜85%に達する。
免疫不全者では壊死性網膜炎を引き起こすことが知られているが、免疫正常者においてもサイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎(CMV anterior uveitis: サイトメガロウイルス AU)を起こすことが近年明らかになっている。 サイトメガロウイルス AUはアジア—とりわけ中国・日本—での報告が多く、遺伝的感受性やサイトメガロウイルスの血清有病率の地域差が関係すると考えられている。
報告例の多くは男性に見られ、発症年齢には二峰性の分布がある。 再発性急性型は30〜50代に多く、慢性高眼圧型は50〜70代に多い傾向がある。
ICD-10-CM診断コード:B25.9 / H20.9
患者は典型的に以下の症状を訴える。
サイトメガロウイルス AUはHSV・VZVよりも潜行性に発症し慢性の経過をたどることが多い。 ヘルペスで典型的な角膜知覚低下・水疱・皮疹を欠くため、誤診されやすい。1)
サイトメガロウイルス AUは臨床的に以下の2つの亜型に大別される。1)
PSS型(ポスナー・シュロスマン症候群様)
発症年齢:20〜50代の若年男性
眼圧:40〜60 mmHgの著明な上昇
前房炎症:比較的軽度(細胞2+以下)
KPs:中〜大型の灰白色肉芽腫性KP
経過:寛解と再発を繰り返す
FUS型(フックスぶどう膜炎症候群様)
発症年齢:40〜60代の高齢者
眼圧:慢性的な軽〜中等度上昇
前房炎症:軽度の慢性炎症
KPs:角膜内皮全体に散在するびまん性微細星状KP
経過:潜行性の慢性型
いずれの亜型でも、以下の所見が特徴的に見られる。
HZV(VZV)ぶどう膜炎では角膜知覚低下・帯状の皮疹・水疱が診断の手がかりになりますが、サイトメガロウイルス AUではこれらを欠きます。小型のKPs、びまん性虹彩萎縮、眼圧上昇はサイトメガロウイルス AUでより多く見られます。確定診断には前房水のPCR検査が必須です。1)
サイトメガロウイルスは骨髄系前駆細胞に潜伏し、免疫監視を免れる。 何らかのきっかけで前眼部のマクロファージ・樹状細胞内のサイトメガロウイルスが再活性化し、インターフェロン-γ・インターフェロン-βを放出して組織炎症を起こすと考えられている。
再活性化を誘発しうる薬剤として以下が報告されている。
ドライアイなど日常的な眼疾患の治療薬でも再活性化が起こりうるため、既往サイトメガロウイルス感染者では注意が必要である。
:::tip 予防と日常ケア サイトメガロウイルスに対する市販ワクチンは現時点で存在しない。 全身免疫状態の維持(バランスの良い食事、適度な運動、糖尿病・高血圧などの慢性疾患管理)が一次予防の基本となる。 再活性化リスクのある患者に免疫抑制薬を使用する際は、サイトメガロウイルス AUの可能性を念頭に置く。 :::
感染性前部ぶどう膜炎が疑われ、かつ以下のいずれかを満たす場合は前房穿刺を考慮する。
世界75名のぶどう膜炎専門家を対象としたDelphi調査では、73.3%が疑い例に対して常に前房穿刺を行うと回答した。1)
| 検査 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 定量RT-PCR | サイトメガロウイルス-DNAのコピー数を定量 | 感度71%(急性期)。10³ copies/mL以上で診断的価値あり |
| 抗体指数(AI)アッセイ | 眼内抗体合成の特異的解析 | 感度87%。慢性期に有用 |
| 両者の組み合わせ | 1回の穿刺で実施 | 感度100%を達成 |
サイトメガロウイルスはDNAウイルスであるため、定量(リアルタイム)PCRが必須である。 低レベルのサイトメガロウイルスはあらゆる前眼部炎症で検出される可能性があるため、定性PCRでは偽陽性が生じる。
なお、SUNワーキンググループはサイトメガロウイルス AUの研究分類基準として「前房水PCR陽性」を必須としている。1)
前房穿刺(前房水採取)は外来で局所麻酔下に行う比較的短時間の処置です。感染性ぶどう膜炎の原因ウイルスを特定するために重要な検査で、適切に行われれば合併症のリスクは低いとされています。サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の確定診断には不可欠な手順です。
サイトメガロウイルスはアシクロビル・バラシクロビル・ペンシクロビルには感受性がない。 第一選択薬はガンシクロビルまたはバルガンシクロビルである。
局所療法(第一選択)
薬剤:ガンシクロビルゲル 0.15%(局所)
投与法:1日4回
利点:全身毒性なし。定期血液検査不要
コンセンサス:専門家の85%が局所抗ウイルス開始を支持1)
70%が0.15%ガンシクロビルゲルを第一選択として選択1)
全身療法(重症・遷延例)
薬剤:バルガンシクロビル(経口)
導入量:900mg 1日2回、2週間以上
維持量:450mg 1日2回(炎症消失後)
使用基準:重症・遷延・非典型例で48%が適応判断1)
78%の専門家が全身療法として経口バルガンシクロビルを選択1)
注意:定期的な全血算・血清クレアチニンモニタリング必須(2週ごと)
再発時の対応:減量・中止で最大80%に再発が生じるため長期予防療法が必要。 再発した場合は初期投与量から再開し、より緩徐に漸減する(88%の専門家が支持)。1)
ステロイドは抗ウイルス薬のカバー下でのみ使用する(71%が支持)。1)
年1回以上の再発が2回以上の場合、75%の専門家が長期局所抗炎症療法を選択する。1)
薬物療法で眼圧コントロールが不十分な場合は緑内障手術を要することがある。 炎症が十分に制御されていれば、ステロイド・炎症による白内障に対して白内障手術も可能。
:::caution 治療上の注意点 バルガンシクロビルは骨髄抑制・腎毒性のリスクがある。 全身投与中は全血算と血清クレアチニンを2週ごとにモニタリングする。 また、投与量の減量や中止は高率な再発につながるため、漸減計画を慎重に立てる。 :::
効きません。サイトメガロウイルスはアシクロビル・バラシクロビル・ペンシクロビルに対して感受性を持たないため、これらの薬剤が無効なことがサイトメガロウイルス感染の徴候になります。ガンシクロビルまたはバルガンシクロビルが第一選択薬です。
サイトメガロウイルスは初感染後、骨髄系前駆細胞(単球・マクロファージ前駆体)に潜伏する。 完全には解明されていない機序により、前眼部のマクロファージや樹状細胞内でウイルスが再活性化する。 また、他部位での感染が循環血中の単球でのサイトメガロウイルス再活性化を誘導する可能性もある。
再活性化するとインターフェロン-γ・インターフェロン-βが放出され、前眼部炎症が生じる。
サイトメガロウイルスは角膜内皮細胞に直接感染し、内皮細胞数の減少を引き起こす。 長期に持続すると角膜変性(デコンペンセーション)に至り、角膜移植が必要となることがある。
眼圧上昇の機序は以下が考えられる。
66歳の免疫正常女性において、再発性の高眼圧性前部ぶどう膜炎に対して前房穿刺を行ったところ、サイトメガロウイルス-DNAが25,675 copies/mL検出された。 局所ガンシクロビル0.15%(1日4回)と経口バラシクロビル1g(1日2回)および局所ステロイドの併用療法により、炎症の消退と眼圧コントロールが得られ、最終眼圧12 mmHgで安定した。2)
21ヵ国100名の国際ぶどう膜炎専門家を招聘した2ラウンドDelphi調査では、75名(75%)が完遂した。1) サイトメガロウイルス AUの診断・治療には多くの領域でコンセンサスが得られにくいことが示されたが、以下の重要な合意点が得られた。
ただし、PCR陰性例における治療法や診断基準については国際的な合意が依然として未確立であり、さらなるエビデンスの蓄積が求められる。1)
サイトメガロウイルス AUの臨床エビデンスの多くはアジア(主にシンガポール・香港・日本)から集積されている。1) アジアではサイトメガロウイルスの血清有病率が欧米より高く、人種や民族背景が疾患表現型に影響する可能性が指摘されている。
:::danger 免責事項 本記事は医療情報の提供を目的とした教育的コンテンツです。 個々の患者の診断・治療はかかりつけ医・専門医にご相談ください。 本記事の情報をもとにした自己診断・自己治療はお控えください。 :::