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ぶどう膜炎

ぶどう膜炎の点眼薬・局所治療 包括的ガイド

眼はきわめてユニークな臓器である。 外部からの診察が容易であり、局所点眼という形で直接薬剤を投与できる。 ぶどう膜炎は虹彩毛様体脈絡膜の炎症性疾患であり、前眼部病変には点眼薬が第一選択となる。

本ガイドでは、ぶどう膜炎の管理において使用頻度の高い点眼薬を以下のカテゴリに分類して解説する。

局所治療薬

ステロイド点眼:前眼部炎症の基本治療

散瞳・調節麻痺薬:虹彩後癒着の予防と治療

抗生剤・抗微生物薬感染性ぶどう膜炎の原因治療

合併症対策薬

眼圧降下薬続発緑内障ステロイド緑内障への対応

ただし:プロスタグランジン系とピロカルピンはぶどう膜炎では原則回避

非ステロイド性抗炎症薬:炎症が軽度に落ち着いた段階での代替薬

ぶどう膜炎では以下の自覚症状を呈する。

  • 眼痛・羞明(前眼部炎症)
  • 霧視視力低下
  • 充血(毛様充血)
  • 飛蚊症・霧視(硝子体混濁
所見詳細
角膜後面沈着物(KP)微細〜豚脂様(サルコイドーシス・結核性)
前房フレア・細胞1+〜4+で炎症強度を評価
虹彩後癒着散瞳薬で予防・解離を図る
硝子体混濁中間部・後部ぶどう膜炎の指標
続発緑内障眼圧上昇→降圧点眼(薬剤選択に注意)

ぶどう膜炎は部位により前部・中間部・後部・汎ぶどう膜炎に分類される。 局所治療薬の選択はこの分類と炎症の程度に依存する。

Q なぜ炎症が強いときに散瞳薬を使うのですか?
A

前房内に強い炎症が起きると、虹彩が水晶体前面に癒着する「虹彩後癒着」が生じます。 散瞳薬は毛様体筋や瞳孔括約筋を弛緩させ、この癒着を予防・解離します。 特にトロピカミド・フェニレフリン配合(ミドリンP)が広く用いられます。

ぶどう膜炎は感染性と非感染性に大別される。

感染性ぶどう膜炎の原因:

  • ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス
  • 結核・梅毒・トキソプラズマ・トキソカラ
  • 真菌(カンジダ等)

非感染性ぶどう膜炎の原因:

  • 自己免疫疾患(HLA-B27関連、サルコイドーシス、原田病等)
  • 若年性特発性関節炎関連
  • 特発性

診断は細隙灯顕微鏡検査による前眼部・後眼部の詳細評価が基本となる。 感染性ぶどう膜炎の除外として血清学的検査(PCR含む)を実施する。

免疫調節薬の開始前には以下のスクリーニングが推奨されている。1)

  • 血液化学検査(98.2%の専門医が実施)
  • 全血算(93.7%が実施)
  • QuantiFERON(TB検査、88.7%が実施)

炎症強度はSUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)ワーキンググループの分類に基づき評価する。1)

Q 感染性ぶどう膜炎にステロイドを使ってよいですか?
A

感染性ぶどう膜炎でも、原因への治療(抗菌薬・抗ウイルス薬等)と並行して術後の炎症コントロールにステロイドを使うことがあります。 ただし、感染を十分にコントロールしない状態でのステロイド単独投与は感染を増悪させる危険があります。 必ず原因治療を優先してください。

ぶどう膜炎の局所治療の基本はステロイド点眼薬である。 力価の低い順から:フルオロメトロン → ロテプレドノール → リメキソロン → プレドニゾロン → ジフルプレドナート。

薬剤名濃度特徴・用途主な副作用
フルオロメトロン(FML)炎症軽度な場合眼圧上昇(少)
ロテプレドノール(Lotemax)0.2, 0.5, 1%低眼圧リスク眼圧上昇(少)
プレドニゾロン(Pred Forte)0.12, 1%眼内炎症の標準治療白内障・眼圧上昇
ジフルプレドナート(Durezol)0.05%強力。重症例白内障・眼圧上昇

漸減(テーパリング)について

局所ステロイド(点眼)の漸減は必須ではない。 治療期間が3〜4週間未満であれば、用量にかかわらず漸減は不要である。 ステロイド3〜4週間超の場合のみ、視床下部-下垂体-副腎系の回復を促すため漸減が推奨される。 これは全身ステロイドの概念であり、局所点眼には副腎抑制のリスクはほぼない。

前房炎症が存在する間は散瞳薬の点眼を継続し、虹彩後癒着の発生を予防する。

薬剤名効果持続時間濃度主な用途
アトロピン7〜12日0.5〜3%重症ぶどう膜炎・前房出血
スコポラミン3〜7日0.25%アトロピンアレルギー時
ホマトロピン1〜3日2〜5%ぶどう膜炎に有用
シクロペントラート約1日ぶどう膜炎・屈折検査
トロピカミド6〜24時間0.5, 1%散瞳下眼底検査

トロピカミド・フェニレフリン配合(ミドリンP)は前房炎症時の標準的な散瞳薬として日本で広く使われる。 就寝前の1日1回点眼が基本処方例として提示されている。

ぶどう膜炎では続発緑内障・ステロイド緑内障が合併しやすい。 眼圧上昇に対してはβ遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬が優先的に選択される。

薬剤クラス代表薬特徴
β遮断薬チモロール、ベタキソロール房水産生抑制。1日2回
炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド、ブリンゾラミド房水産生抑制。1日3回
α作動薬ブリモニジン房水産生抑制・流出促進。乳幼児禁忌

ぶどう膜炎で使用を避けるべき眼圧降下薬:

  • プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト等):眼圧が逆に上昇することがある。炎症を増悪させるリスクも指摘される
  • ピロカルピン:縮瞳薬であり虹彩後癒着を促進する危険がある

前眼部ステロイド点眼でコントロール不十分な中間部・後部・汎ぶどう膜炎には全身療法を検討する。

標準的第一選択は経口プレドニゾロン(初期用量1mg/kg/日、4週以内に減量)である。1) ステロイド依存例・ステロイド離脱困難例には従来型免疫調節薬または生物学的製剤を追加する。

従来型免疫調節薬の第一選択(疾患別):1)

  • 若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎:メトトレキサート(93.2%)
  • HLA-B27陽性ぶどう膜炎:メトトレキサート(80.1%)
  • サルコイドーシス:メトトレキサート(62.4%)

生物学的製剤:1)

アダリムマブが第一選択として97.7%の専門医に採用されている。 VISUAL I/II試験でTNF-α阻害の有効性が確立され、FDA・EMAが承認済みである。 メトトレキサートとアダリムマブの併用療法は専門医の84.0%が採用している。1)

Q 局所ステロイドを長く使っても漸減しなくていいですか?
A

3〜4週間未満の短期使用であれば漸減は不要です。 欧州内分泌学会のガイドラインでも「3〜4週間未満の使用なら用量を問わず漸減不要」と記載されています。 ただし、3〜4週間を超えて使用した場合は視床下部-下垂体-副腎系の回復のために漸減が必要です。 局所点眼では全身への副腎抑制リスクはほぼありませんが、突然中止より段階的な減量の方が安全です。

ぶどう膜炎の眼圧上昇には以下の機序がある:

  1. 線維柱帯の目詰まり(炎症細胞・タンパク質)
  2. 線維柱帯炎(直接炎症)
  3. 隅角結節
  4. 周辺虹彩前癒着
  5. ステロイド薬による眼圧上昇
  6. 血管新生緑内障
  7. 虹彩後癒着に伴う瞳孔ブロック

それぞれ治療方針が異なるため、隅角検査により眼圧上昇機序を正確に評価することが重要である。

散瞳・調節麻痺薬の作用機序:

抗コリン薬(アトロピン・トロピカミド等)は毛様体筋と瞳孔括約筋を弛緩させ、散瞳と調節麻痺をもたらす。 毛様体筋の弛緩により疼痛・羞明が軽減され、さらに虹彩後面と水晶体前面の接触を減らして後癒着を防ぐ。 アドレナリン受容体作動薬(フェニレフリン等)は瞳孔散大筋を収縮させ散瞳を補助する。

局所ステロイドの作用機序:

ステロイド点眼薬は炎症性サイトカイン産生の抑制・免疫細胞遊走の阻害により前眼部炎症を鎮める。 力価の強いジフルプレドナートは受容体親和性が高く、重症前眼部炎症に対して優れた効果を示す。 一方で白内障誘発・眼圧上昇のリスクも高いため、必要最小限の力価を選択することが原則である。

前部ぶどう膜炎の局所治療フロー

ステップ1:ステロイド点眼(炎症程度に応じ力価選択)

ステップ2:散瞳薬(ミドリンP等)で虹彩後癒着を予防

ステップ3:眼圧上昇時はβ遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬(プロスタグランジン系・ピロカルピン禁忌)

ステップ4:コントロール不十分→全身ステロイドまたはTenon囊下注射

中間部・後部の局所追加治療

テノン囊下注射トリアムシノロン(40mg/mL)0.5mL

適応黄斑浮腫・硝子体混濁・後極部炎症

全身療法:中間部・後部では全身ステロイドが主体

免疫調節薬:6ヵ月以上のコントロール不良例に追加

生物学的製剤の進歩により、ぶどう膜炎の治療は大きく変化した。 アダリムマブの広範な使用が確立され、VISUAL I/II試験・SYCAMORE試験の結果により多くの疾患型でのエビデンスが蓄積されている。1)

今後の課題として以下が挙げられる:

  • 薬剤徐放システムを用いた局所投与(デキサメタゾン硝子体内インプラント等)の普及
  • 生物学的製剤バイオシミラーの登場による治療アクセスの向上
  • 最適な免疫調節薬の組み合わせ・投与期間の確立
  • 薬剤中止の最適なタイミングの解明(寛解から2年以上維持後の中止が一般的)1)
  1. Branford JA, et al. Practice patterns of a large international group of uveitis specialists in the treatment of non-infectious uveitis. Br J Ophthalmol. 2025;109:482–489. doi:10.1136/bjo-2024-326239

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