前眼部所見
フリクテン性・肉芽腫性結膜炎:過敏反応によるもので、結節性紅斑と併発することが多い。
虹彩毛様体炎(肉芽腫性):「豚脂様(mutton fat)」角膜後面沈着物を伴う。前房内に虹彩結節を生じることもある。
上強膜炎・強膜炎:炎症の波及による。

コクシジオイデス症(Coccidioidomycosis)はCoccidioides immitisおよびC. posadasiiの胞子吸入によって発症する全身性真菌感染症である。別名「渓谷熱(Valley Fever)」または「サンホアキン渓谷熱(San Joaquin Valley Fever)」とも呼ばれる1)。
Coccidioides属は乾燥した土壌・砂漠性気候に生息し、米国南西部(アリゾナ州、カリフォルニア州、テキサス州西部、ニューメキシコ州南部)、メキシコ北部、中南米に流行地がある1,2)。建設工事、農業、風嵐などによる土壌攪拌で胞子が飛散し、吸入感染が生じる。
発症率は増加傾向にあり、2019年には米国で人口10万人あたり15.2例が報告され(97%がアリゾナ・カリフォルニア両州からの報告)、1998年の5.3例/10万人から約3倍に増加した1)。実際の症例数は検査率の低さから報告数を上回ると推定される。
CDCへの報告義務があり、2018年には15,611例が記録されている。眼コクシジオイデス症は稀であり、肺などの一次感染部位からの播種に伴って発生するため、発症率の特定は困難である。
コクシジオイデス症は流行地への旅行歴があれば流行地以外でも発症しうる。また、流行地に以前住んでいた移植後患者では免疫抑制療法を機に再活性化するリスクがある1)。旅行歴・居住歴の詳細な聴取が診断に欠かせない。
眼コクシジオイデス症の症状は侵された部位によって異なる。
全身症状として発熱・倦怠感・息切れ・咳・胸痛・体重減少・頭痛・遊走性関節痛・寝汗が見られる場合、播種性感染を疑う。
「砂漠リウマチズム(desert rheumatism)」と称される三徴(発熱・結節性紅斑・関節痛)が典型的な全身症状として知られる1)。
前眼部所見
フリクテン性・肉芽腫性結膜炎:過敏反応によるもので、結節性紅斑と併発することが多い。
虹彩毛様体炎(肉芽腫性):「豚脂様(mutton fat)」角膜後面沈着物を伴う。前房内に虹彩結節を生じることもある。
上強膜炎・強膜炎:炎症の波及による。
後眼部所見
びまん性脈絡膜炎:網膜温存型の広範な脈絡膜浸潤。
脈絡網膜炎:出血・浮腫・滲出物を伴う乳頭傍型。ブルッフ膜上の黄白色混濁(黄斑・後極部に好発)。
眼内炎:重症播種例での最重症所見。周辺部の脈絡網膜瘢痕は非活動性を示す。
眼外所見には眼瞼肉芽腫・眼窩病変・視神経肉芽腫・萎縮・脳神経麻痺(特に外転神経麻痺)が含まれる。外転神経麻痺は中枢神経系コクシジオイデス症における頭蓋内圧亢進に続発する所見として知られる。
Coccidioides属は土壌中で節足胞子(arthroconidia;長さ2〜5ミクロン)を形成し、吸入後に肺胞内で球体(spherule;直径75〜100ミクロン)に変態する1)。球体は内部で100〜300個の胞子(endospore)を産生し、破裂して放出された胞子がさらに新たな球体を形成する。
Th2リンパ球欠損または機能不全が播種性病態と関連することから、Th2免疫が主要な防御機構と考えられている1)。
重症化のリスク因子を以下に示す。
コクシジオイデス症の診断は、血清学的検査・真菌培養・組織病理学の組み合わせで行われる1,2)。
| 検査 | 所見 | 用途 |
|---|---|---|
| フルオレセイン蛍光眼底造影(FA) | 網膜病変の性状把握 | 脈絡網膜炎の評価 |
| 胸部X線・CT | 肺病変・縦隔リンパ節腫大 | 一次感染部位の評価 |
| MRI/CT(眼窩・頭部) | 眼窩病変・中枢神経系播種評価 | 神経症状・眼窩病変 |
眼所見単独での確定診断は困難であり、血清学的検査(IgM・IgG抗体)・流行地への渡航歴・全身症状の評価が重要である。眼外部位(皮膚・リンパ節等)の生検が可能な場合は優先的に行う。眼内生検は侵襲が高いため、全身的評価で診断がつかない場合に限定される。
2016年に米国感染症学会(IDSA)が公表したガイドラインに基づき治療方針を決定する。
第一選択(軽症〜中等症):
重症・難治例:
難治例・眼内炎例ではボリコナゾールおよびアムホテリシンBの硝子体内投与が試みられているが、アムホテリシンBは網膜毒性リスクが高い。感染症専門医との協働が必須である。
硝子体網膜病変の程度に応じて硝子体手術(硝子体切除術)を検討する。
感染症専門医との密接な協働が不可欠である。IDSAガイドラインに沿った治療計画の立案・期間の設定は感染症専門医が担い、眼科的管理と並行して進める。長期的な抑制的アゾール療法が必要となる症例も多い。
Coccidioidesは吸入された節足胞子(arthroconidia)が肺胞に到達すると、体温の影響で球体(spherule)へと形態変換する。球体は直径75〜100ミクロンに成長し、100〜300個の内胞子(endospore)を内包する1)。球体が破裂すると内胞子が放出され、自然免疫系(マクロファージ・好中球・樹状細胞)に認識され、IL-1・IL-6・IL-12・TNF-αなどの炎症性サイトカインが産生される1)。
球体が大きくなると自然免疫エフェクター細胞(好中球・単球・NK細胞)が効果を失い、適応免疫(CD4+T細胞→Th1経路→IFN-γ産生→マクロファージ活性化)が主役となる。Th2機能不全・欠損が播種性病態と関連する点が特徴的である1)。
球体破裂後に残存する胞子が免疫系に排除されない場合、血行性播種が生じ脈絡膜血管系を含む全身各臓器に肉芽腫性病巣が形成される。眼内病変は通常、肺からの播種性疾患の一環として発症する。
慢性型では肺線維症・石灰化を伴う肉芽腫が形成され、重症例では髄膜炎(最も直接的な死因)・骨髄炎・皮膚・リンパ節・眼への播種が生じる1)。
コクシジオイデス症に伴う急性呼吸窮迫症候群に対してコルチコステロイドの補助療法が試みられているが、真菌の毒性増強リスクへの懸念から従来は使用が控えられてきた。その有効性は依然限定的とされる1)。
C. immitisとC. posadasiiのゲノム解析(Neafseyら、2010年)により、種間の交雑・遺伝子浸透が明らかにされ、宿主免疫応答の違いを説明する遺伝的多様性のメカニズム解明が進みつつある1)。感染の重症度・無症候性感染の仕組みの解明が今後の課題とされている。
Zaheriら(2023)は、コクシジオイデス症の病態・治療選択肢についてレビューし、主な防御機序としてのTh2免疫の役割と、今後の研究課題(無症候性感染のメカニズム解明、より有効な予防戦略の開発)を提示した1)。