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ぶどう膜炎

バードショット網脈絡膜症(Birdshot Retinochoroidopathy)

1. バードショット網脈絡膜症とは

Section titled “1. バードショット網脈絡膜症とは”

バードショット網脈絡膜症(birdshot retinochoroidopathy; BSCR)は、散弾状脈絡網膜炎とも呼ばれる慢性の両側性後部ぶどう膜炎である。 後極部から周辺部にかけて多局性のクリーム色〜黄橙色の脈絡膜病変が、散弾銃の弾痕のように散在することが名称の由来である。 白斑状脈絡網膜炎(vitiliginous chorioretinitis)とも呼称される。

1949年にFranceschetti医師らによって初めて報告され、1980年にRyanとMaumeneeが「Birdshot Retinochoroidopathy」として命名した。 わが国では比較的まれな疾患であり、主に40〜60歳代で発症し、やや女性に多い。

HLA-A29との関連がほぼすべての例で認められ、自己免疫疾患の可能性が強く指摘されている。 また、網膜S抗原との関連も報告されている。

疾患の特徴

発症年齢:40〜60歳代

性差:やや女性に多い

罹患眼:両眼性

経過:慢性。再発・寛解を繰り返しながら進行

主要な検査所見

HLA-A29:患者の80〜98%で陽性

眼底:後極部中心の多局性クリーム色脈絡膜病変

FA:病変部は過蛍光を示すが漏出はない

網膜電図:錐体介在性の30Hzフリッカー遅延が感度高い

Q バードショット網脈絡膜症はどのような疾患ですか?
A

散弾銃の弾痕のような外観の脈絡膜病変が後極部を中心に両眼に多発する、慢性の後部ぶどう膜炎です。わが国ではまれで、40〜60歳代のやや女性に多い疾患です。HLA-A29がほぼすべての患者で陽性であることが特徴的で、自己免疫疾患と考えられています。適切な治療なしでは視機能が進行性に低下するため、長期的な管理が必要です。

最も多い症状は視力低下(68%)で、次いで飛蚊症(29%)・夜盲(25%)・色覚異常(20%)・羞明(19%)・光視症(17%)がみられる。 視力障害は通常、疾患の後期に顕著になる。 中心視力が良好に維持されていても、視野欠損(びまん性狭窄・中心暗点・盲点拡大)が先行することがあり、患者が「何かがおかしい」という漠然とした訴えのみを呈することもある。 このため診断が大幅に遅れる場合がある。

全身的な関連として、高血圧・白斑(vitiligo)・皮膚悪性腫瘍・難聴・気分障害などが報告されている。

前眼部:

前房炎症は軽微または消失しており、前眼部炎症が軽いことが特徴的である3)。 後癒着や角膜後面沈着物は通常認めない。

後眼部:

硝子体炎(vitritis)は消失から中等度まで様々で、微塵状の混濁がみられる。 疾患の初期段階では、網膜血管漏出が唯一検出可能な異常の場合がある4)。 病変が進行すると、視神経周囲から始まる多局性のクリーム色〜黄橙色の卵円形または円形の脈絡膜病変が、赤道部を中心として脈絡膜層レベルに散在する。 個々の病変の大きさは乳頭径の約1/2程度で、融合することもある。 病変は視神経乳頭から周辺部に向かって放射状に広がる傾向がある。

合併症として、囊胞様黄斑浮腫CME)・視神経乳頭浮腫・網膜血管炎・網膜下新生血管を認めることがある。 嚢胞様黄斑浮腫はバードショット網脈絡膜症症例の最大84%で報告されており、他のぶどう膜炎(約30%)より高頻度である。 また、血管狭細化・網膜色素上皮(RPE)変化・視神経萎縮も認められる。

蛍光眼底造影所見:

フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では、脈絡膜病変は造影早期・後期ともに過蛍光を示すが漏出はない点がベーチェット病との鑑別点となる11)。 黄斑浮腫・視神経乳頭の過蛍光も描出される。 インドシアニングリーン蛍光造影ICGA)では、脈絡膜炎の活動性病変が低蛍光スポットとして認められ、FAよりも脈絡膜病変の検出感度が高い11)

電気生理学的所見:

網膜電図は著明に減弱し、眼球電図(EOG)のL/D比は低下する。 初期段階ではa波振幅に対してb波振幅が不釣り合いに減少するnegative typeを示す。 病期の進展とともにa波の振幅も減弱する。 錐体介在性の30Hzフリッカー遅延の検出が、バードショット網脈絡膜症の評価とモニタリングに最も感度が高い方法とされる。

Q バードショット網脈絡膜症の眼底はどう見えますか?
A

後極部から赤道部にかけて、脈絡膜層レベルに乳頭径の約1/2大のクリーム色〜黄橙色の円形・卵円形の病変が多数散在します。視神経乳頭から周辺部に向かって放射状に広がるのが特徴的で、「散弾銃の弾痕のよう」と形容されます。蛍光眼底造影ではこれらの病変が過蛍光を示しますが、漏出はありません。

バードショット網脈絡膜症とHLA-A29アレルとの関連は、既知のあらゆる疾患の中で最も強い遺伝的関連の一つである。 一般人口でのHLA-A29陽性率が約7%であるのに対し、バードショット網脈絡膜症患者の80〜98%がHLA-A29陽性であり5)、相対リスクは50〜224倍に上昇する。 網膜S抗原(retinal S-antigen)との関連も指摘されているが、患者と対照群で血清抗S抗原抗体価に有意差がないとの報告もある。

リスク要因内容
HLA-A2980〜98%で陽性。一般人口の7%に対して相対リスク50〜224倍5)
性別・年齢40〜60歳代、やや女性に多い
人種北欧系の家系に多く報告されている
網膜S抗原関連が指摘されているが機序は未解明

T細胞介在性の自己免疫疾患であると広く考えられている。 感染症がトリガーとなってTリンパ球を刺激し、自己ペプチドを発現させるという説がある。 組織病理学的には、脈絡膜の様々なレベル・網膜血管周囲・篩板前視神経乳頭内にリンパ球浸潤の多局性病巣が認められる。 炎症性滲出物が脈絡膜の解離面に浸潤し、線維化を起こして脈絡膜間質を癒着させ、萎縮性病変をもたらすと考えられている。

:::tip 日常生活の注意点 バードショット網脈絡膜症は治療なしでは視機能が進行性に低下する疾患です。中心視力が良好でも視野が狭くなる場合があるため、定期的な視野検査と電気生理検査(ERG)による経過観察を継続することが大切です。免疫抑制薬を使用している間は感染症への注意が必要で、発熱や倦怠感が続く場合は速やかに担当医に相談してください。 :::

2021年、ぶどう膜炎命名法の標準化(SUN)ワーキンググループが機械学習モデルを用いた分類基準を公表した。

以下の基準1〜3をすべて満たすか、または基準4を満たす場合に分類される:

  1. 眼底検査における特徴的な両側性多局性脈絡膜炎(クリーム色または黄橙色の卵円形・円形病変)
  2. 前房炎症が消失または軽微(前房細胞消失または軽微、KP・後癒着なし)
  3. 硝子体混濁が消失または中等度
  4. または、多局性脈絡膜炎に加えHLA-A29陽性であり、かつ眼底またはICGで特徴的所見を認める

以下の場合は除外:梅毒血清反応陽性、サルコイドーシスの証拠(両側肺門リンパ節腫脹・非乾酪性肉芽腫)、眼内リンパ腫の証拠。

検査室検査(他疾患除外目的):

  • 全血算(CBC)、梅毒検査(RPR/FTA-ABS)
  • ACE・リゾチーム(サルコイドーシス除外)
  • 胸部X線・胸部CT(サルコイドーシス除外)
  • ツベルクリン反応またはクオンティフェロン(結核除外)
  • HLA-A29検査

補助的検査

  • FAF(自発蛍光眼底撮影): 視神経乳頭周囲の癒合性低自発蛍光が症例の73%に認められ、慢性化・重症度と関連
  • FA(フルオレセイン蛍光造影): 病変の過蛍光・黄斑浮腫・視神経乳頭過蛍光・血管漏出を評価11)
  • ICGA(インドシアニングリーン蛍光造影): 脈絡膜病変の活動性評価に優れる(疾患初期から感度高)11)
  • 光干渉断層計(OCT): 脈絡膜病変・囊胞様黄斑浮腫・網膜菲薄化を評価。楕円体帯(ellipsoid zone)消失は視力予後悪化と関連
  • OCTA: 異常血流シグナルの同定
  • 視野検査: 中心視力良好でもびまん性狭窄・中心暗点・盲点拡大が高頻度に生じる
  • 網膜電図: 30Hzフリッカー遅延がモニタリングに最も感度が高い
鑑別疾患鑑別ポイント
サルコイドーシス最重要。全身検査異常(ACE上昇・両側肺門リンパ節腫脹)、静脈周囲炎
多発消失性白点症候群(MEWDS)片眼性・急性・自然軽快、前房炎症軽微
急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)急性発症・両眼性・比較的良好な予後
梅毒性ぶどう膜炎梅毒血清反応陽性
結核性ぶどう膜炎クオンティフェロン陽性・胸部異常所見

バードショット網脈絡膜症治療の主力は副腎皮質ステロイドと免疫抑制療法の組み合わせである。 治療を行わない場合、ほとんどの患者で視機能が進行性に低下し、10年間で16〜22%の患者が視力0.1以下になる(他のぶどう膜炎では4%)。

一般的にプレドニゾロン0.5〜1mg/kg/日から全身投与を開始する。 プレドニゾロン0.5mg/日(5mg錠8錠、分2)が標準的な開始処方例とされている。 経口ステロイド単独で長期維持(20mg/日未満で無症状維持)できたのは15%未満であり、免疫抑制療法との併用が推奨される。 全身療法にもかかわらず黄斑浮腫が持続する場合は、局所ステロイド注射(Tenon嚢下注射・眼内インプラント)も使用される。

:::caution ステロイドインプラントの注意点 バードショット網脈絡膜症では、ステロイドインプラントは他のぶどう膜炎と比較して強力な眼圧上昇反応と関連しており、最大40%の患者で線維柱帯切除術が必要となり、全症例で白内障手術が必要となるとの報告がある。使用前にリスク・ベネフィットを十分に検討する必要がある。 :::

免疫抑制療法(ステロイド減量目的)

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ステロイドの副作用を最小限に抑えるため、免疫抑制薬を早期から併用する。

  • ミコフェノール酸モフェチル: 後部ぶどう膜炎・汎ぶどう膜炎において他の代謝拮抗薬より効果的とされ、バードショット網脈絡膜症での第一選択として多く使用される6)
  • メトトレキサート: ランダム化比較試験では後部・汎ぶどう膜炎全般においてミコフェノール酸モフェチルよりわずかに治療成功率が高い(統計的有意差なし)との結果がある
  • シクロスポリン(ネオーラル®): 再発時に免疫抑制薬として考慮する
  • アザチオプリン: 副腎皮質ステロイドや他の免疫抑制薬と併用で使用されることがある6)

免疫抑制療法による1年間の治療成功率は67〜90%と推定されている。 プレドニゾンの用量を長期使用に安全な7.5mg未満に減量することは、通常6か月以内に可能で、最大90%がステロイド減量・75%がステロイド完全中止を達成できるとの報告がある。 ただし減量中に40%以上の患者で再燃が起こる可能性があり、その場合は第二選択の免疫調節療法追加が必要となる。

従来の免疫抑制薬に反応しない難治性例では、生物学的製剤へのステップアップが適応となる。

  • アダリムマブ: バードショット網脈絡膜症において最も多く使用される第一選択生物学的製剤(93.2%)6)。視力の改善と併用免疫調節療法の減量成功が示されているが、単独での完全寛解は困難
  • インフリキシマブ: TNF-α阻害薬として難治性ぶどう膜炎に有効性を示す
  • トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体): 成功例が報告されているが、バードショット網脈絡膜症における使用のエビデンスは現時点では限られている

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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バードショット網脈絡膜症の病態生理は不明な点が多いが、T細胞介在性の自己免疫疾患であると広く考えられている。 HLA-A29陽性眼の組織病理学的検査では、脈絡膜の様々なレベル・網膜血管周囲・篩板前視神経乳頭内にリンパ球浸潤の多局性病巣が認められる。

HLA分子がどのように自己免疫を惹起するかは不明だが、特定の自己ペプチドのアレル特異的提示またはHLAタンパク質の安定性を介してT細胞を活性化するという仮説がある5)。 感染症がトリガーとなってTリンパ球を刺激し、自己ペプチドを発現させるという説も提唱されている。

炎症性滲出物が脈絡膜の解離面に浸潤し、線維化を起こして脈絡膜間質を癒着させ、萎縮性病変をもたらすと考えられている。 脈絡膜の関与は網膜のみならず独立して生じ、網膜への波及として網膜血管炎・嚢胞様黄斑浮腫が生じる3)。 バードショット網脈絡膜症は両側性かつ進行性、非対称性の疾患であり、網膜と脈絡膜の両方が独立して影響を受ける3)

錐体系および桿体系の機能低下が網膜電図に反映される。 初期のnegative typeは、光受容体機能が比較的保たれた段階での内層網膜(双極細胞・神経節細胞)への炎症性影響を示唆する。 30Hzフリッカー(錐体介在性)の遅延が早期から認められることは、本疾患が錐体系に強い影響を与えることを示す。

2021年のSUNワーキンググループによる機械学習を用いた分類基準の更新により、早期診断の精度が向上した。 HLA-A29検査とICGAの活用により、眼底病変が不明確な初期段階での診断が可能となっている。

マルチモーダルイメージングの進歩

Section titled “マルチモーダルイメージングの進歩”

OCTアンギオグラフィ(OCTA)の導入により、無侵襲で脈絡膜血流異常の評価が可能となった。 FAFによる視神経乳頭周囲の低自発蛍光パターン(73%に認められる)が、慢性化・重症度の指標として注目されている。 楕円体帯(ellipsoid zone)の消失をOCTで定量化することで、視力予後の予測が向上している。

アダリムマブがバードショット網脈絡膜症への第一選択生物学的製剤として広く使用されるようになり6)、従来の免疫抑制薬への反応不十分例での視機能維持に貢献している。 トシリズマブなど新たなクラスの生物学的製剤の有効性報告も蓄積されつつある。

  • HLA-A29を持ちながらも発症しない個体との差異の解明
  • 疾患活動性の客観的バイオマーカーの確立
  • 最適な治療開始時期・期間・減量プロトコルの標準化
  • 視野・網膜電図・OCTなどの機能的エンドポイントを用いた治療効果評価の標準化

:::danger 免責事項 本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療行為を指示するものではありません。治療に関する判断は必ず専門医の指示に従ってください。薬剤の用量・用法は個々の病態により異なりますので、実際の処方は担当医師にご相談ください。 :::

  1. Testi I, Mahajan S, Napolitano P, et al. Multimodal imaging in posterior uveitis – a review. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2021;11:32. doi:10.1186/s12348-021-00261-3
  2. Wakefield D, et al. Birdshot Chorioretinopathy. Cureus. 2024;16:e58867. doi:10.7759/cureus.58867
  3. Agrawal R, et al. The role of HLA-A29 in birdshot chorioretinopathy and immune checkpoint inhibitor-related uveitis. Am J Ophthalmol. 2025. doi:10.1016/j.ajo.2024.01.007
  4. Tomkins-Netzer O, et al. Treatment of non-infectious uveitis with biologics: a survey of the International Ocular Inflammation Society. Br J Ophthalmol. 2022;106:482-488. doi:10.1136/bjophthalmol-2020-318065
  5. Testi I, Mahajan S, Napolitano P, et al. Multimodal imaging in posterior uveitis – a review. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2021;11:32.

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