疾患の特徴
発症年齢:20〜50歳代の青壮年
性差:男女比ほぼ1:1。眼病変は若年男性に重症例が多い
地域分布:シルクロード沿い地域(地中海〜中東〜東アジア)に高頻度
遺伝的背景:HLA-B51またはA26陽性頻度が高い

ベーチェット病(Behçet病)は、口腔内アフタ性潰瘍・眼病変・外陰部潰瘍・皮膚症状の4主症状を呈する原因不明の難治性全身性炎症疾患である。 炎症は急性一過性だが、再発を繰り返す点が本症の特徴とされる。 20〜50歳代の青壮年層に発症し、男女比はほぼ1:1である。 ぶどう膜炎は男性患者の約70%、女性患者の約45%にみられ、若年男性で重症例が多い。
地中海から中国・日本に至るシルクロード沿いの地域に高頻度でみられる。 患者ではHLA-B51またはA26陽性の頻度が高く、免疫遺伝学的素因と環境因子が発症に関与すると推測されている。 本症はかつて失明率の高い疾患であったが、現在では免疫抑制薬の進歩により失明率は低下している。
疾患の特徴
発症年齢:20〜50歳代の青壮年
性差:男女比ほぼ1:1。眼病変は若年男性に重症例が多い
地域分布:シルクロード沿い地域(地中海〜中東〜東アジア)に高頻度
遺伝的背景:HLA-B51またはA26陽性頻度が高い
4主症状
口腔内アフタ性潰瘍:有痛性の再発性潰瘍。初発症状のことが多い
眼症状:急性虹彩毛様体炎・網膜ぶどう膜炎・網膜血管炎
外陰部潰瘍:有痛性の境界鮮明なアフタ性潰瘍
皮膚症状:結節性紅斑・毛囊炎様皮疹・血栓性静脈炎
ベーチェット病は、口腔内アフタ性潰瘍・眼症状・外陰部潰瘍・皮膚症状という4主症状を持つ、再発を繰り返す全身性の炎症疾患です。原因は不明ですが、自己免疫的な機序が推測されています。シルクロード沿いの地域に多くみられ、遺伝的背景(HLA-B51)と環境因子が関係すると考えられています。眼病変は特に重要で、適切な治療を受けないと失明に至ることもあります。
眼症状の自覚症状として、炎症発作期に霧視・視力低下・飛蚊症などがみられる。 炎症は片眼ずつ異なる時期に繰り返すことが多い。 重症例では月に数回の発作頻度となり、軽症例でも年に1回程度の発作が数年〜10年以上にわたって続く。 黄斑部に限局した網膜炎を繰り返すことがあり、不可逆的な視力低下の原因となる。
全身症状では、口腔内アフタ性潰瘍(90%)・皮膚症状(75%)・外陰部潰瘍(50%)が主にみられる。 口腔内アフタ性潰瘍は舌・頬粘膜・口唇・歯肉などに好発し、周囲に発赤を伴う有痛性潰瘍である。 本症ではほぼ必発であり、初発症状のことが多い。 10日以内に瘢痕を残さずに治癒するが、再発を繰り返す。
副症状として、変形や硬直を伴わない関節炎・副睾丸炎・消化器病変・血管病変・神経病変がある。
眼所見:
眼症状として以下の2つが発作性に繰り返す。 (1) 前房蓄膿を伴うことがある急性虹彩毛様体炎。 (2) びまん性の硝子体混濁・網膜脈絡膜炎・網膜血管炎。
ベーチェット病の前房蓄膿は、好中球浸潤を主体とするためサラサラしており、きれいな水平ニボーを形成する。 体位の変動により容易に移動する点が特徴的で、粘稠性の高いHLA-B27関連ぶどう膜炎の前房蓄膿とは異なる。 前眼部の角膜後面沈着物は微塵様で、非肉芽腫性の所見を呈する。
網膜ぶどう膜炎の急性増悪時には、硝子体混濁・網膜血管炎・白色の網膜渗出斑・出血がみられる。 白色渗出斑は白血球の浸潤と虚血による視神経線維腫脹に伴うもので、比較的早く(1週間前後で)消失する特徴がある。 閉塞性血管炎により、網膜静脈分枝閉塞症様の出血をきたすこともある。 眼発作を繰り返すと、網脈絡膜や視神経乳頭が徐々に障害され、網膜萎縮・視神経萎縮となり、高度で不可逆的な視力障害に至る。
蛍光眼底造影検査では、眼発作がないときでも網膜毛細血管から広範囲にわたって旺盛な蛍光漏出(シダ状蛍光漏出)を認めることが多く、本症に特徴的とされている。
また、眼内炎症に伴い併発白内障・続発緑内障を合併し、視力障害の原因となることがある。
小児患者においても、後部ぶどう膜炎・網膜血管炎・乳頭炎を呈する重篤な眼症状が報告されており1)、診断の遅れが平均11.3±8.5か月に及ぶ例もある1)。
皮膚所見:
皮膚症状は下腿に好発する結節性紅斑、皮下の血栓性静脈炎、顔面・頸部・背部などにみられる毛囊炎様皮疹または痤瘡様皮疹である。 外陰部潰瘍は有痛性の境界鮮明なアフタ性潰瘍で、男性では陰囊・陰茎、女性では大小陰唇に好発する。 口腔内アフタ性潰瘍に類似するが、反復頻度は低い。
ベーチェット病の前房蓄膿は好中球性のため「サラサラ」しており、きれいな水平ニボーを形成して体位変換で移動するのが特徴です。一方、HLA-B27関連ぶどう膜炎の前房蓄膿は粘稠性が高く、二ボーを形成せず隆起した形状になります。この性状の違いが診断の手がかりになります。
ベーチェット病の原因は不明だが、外因として連鎖球菌などの病原微生物の関与が、内因として遺伝的背景や免疫異常の関与が推定されている。 病態としては、好中球の機能異常やTNF-αをはじめとするサイトカインの異常が中心的な役割を担い、口腔粘膜・眼・皮膚・外陰部を中心とした炎症反応が発作性かつ反復性に生じる。
リスク要因として以下が挙げられる。
| リスク要因 | 内容 |
|---|---|
| HLA-B51 | 患者での陽性頻度が高い主要な遺伝的マーカー |
| HLA-A26 | 独立したリスクアレルとして報告あり |
| 地域・人種 | シルクロード沿い地域(地中海〜中東〜東アジア)に高頻度 |
| 性別・年齢 | 20〜50歳代で発症。若年男性に重症眼病変が多い |
小児例では全ベーチェット病症例の約1.6〜7.7%を占め2)、HLA-B51陽性例での眼病変の重篤化が報告されている1)。
:::tip 日常生活の注意点 コルヒチンは眼発作予防のため長期服用が必要です。眼発作が一見おさまっていても、自己判断で服薬を中止しないようにしましょう。また、光凝固治療が激しい発作を誘発することがあると知られているため、担当医と十分に相談することが大切です。 :::
ベーチェット病の診断は、厚生労働省特定疾患ベーチェット病調査研究班の診療ガイドライン(1987年)に基づき行われる。 眼症状からみた診断については、ベーチェット病眼病変診療ガイドライン(2012年)を参考に行う。
完全型は経過中に4主症状すべてが出現したもの、不全型は3主症状もしくは2主症状と2副症状が出現したもの(または定型的眼症状と他の1主症状・2副症状)と定義される。副症状として中枢神経病変、血管病変、腸管病変、副睾丸炎、関節炎がある。 特殊病型として腸管型・血管型・神経型に分類される。
| 型 | 要件 |
|---|---|
| 完全型 | 4主症状すべて出現 |
| 不全型 | 3主症状または2主症状+2副症状 |
| 特殊型 | 腸管型・血管型・神経型 |
眼科的検査:
全身的検査:
小児症例では診断の遅れが生じやすく、眼症状出現から診断まで平均11.3±8.5か月を要した報告がある1)。 多系統症状が揃わない初期には他疾患との鑑別が難しいため注意を要する2)。
眼炎症発作に対する対症療法として以下を行う。
第一選択薬(軽症):
コルヒチン(0.5mg錠、1mg/日を2回分服)が眼発作予防の第一選択として長く用いられてきた。 コルヒチンとシクロスポリンの投与は炎症発作の抑制に有効であるが、造血系・腎臓・肝臓・中枢神経系障害などの副作用に注意を要する。 適応外使用だが、本剤のみで部分的所見改善が約60%の患者にみられ、ガイドラインでも軽症例への推奨がある。 内服開始時に軟便・下痢を生じることがあるが、1週間程度で落ち着くことが多い。 眼発作が一見落ち着いても長期服薬が必要であり、定期的な血液検査(肝腎障害・顆粒球減少・横紋筋融解症モニタリング)を要する。
中等度以上の症例:
生物学的製剤(難治・重症例):
小児重症例ではメチルプレドニゾロン静注+インフリキシマブ+アザチオプリンの併用療法で長期寛解が得られた報告がある1)。 また、難治性ベーチェット病においてインフリキシマブとアダリムマブは同等の有効性を示し、迅速・顕著・完全な臨床反応が報告されている2)。
:::caution 治療上の注意点 生物学的製剤(インフリキシマブ・アダリムマブ)は感染症の重篤化リスクがある。投与前に結核・B型肝炎のスクリーニングを必ず行う。光凝固治療が激しい眼発作を誘発することがある点にも注意が必要である。眼内レンズ挿入は可能である。 :::
コルヒチンやシクロスポリンで眼発作がコントロールできない難治性・重症例に使用されます。日本眼科学会専門医かつ日本眼炎症学会会員であり、eラーニングを修了した医師のみが処方できます。0・2・6週の初期投与後、8週間隔で継続投与します。投与前には結核やB型肝炎のスクリーニングが必須です。
ベーチェット病の発症機序は、免疫遺伝学的素因と環境因子の複合的関与によると推測されている。
遺伝的要因:
HLA-B51はベーチェット病に最も強く関連する遺伝的マーカーである。 HLA-B15・B27・B40・B44・B52・B57やA26なども独立したリスクアレルとして複数の集団で同定されている2)。 HLA分子がどのように自己免疫と関連するかは不明な点が多いが、特定の自己ペプチドのアレル特異的提示またはHLAタンパク質の安定性を介してT細胞を活性化するという仮説がある。
炎症メカニズム:
好中球の機能異常が中心的な役割を担い、TNF-αをはじめとするサイトカインの過剰産生が、口腔粘膜・眼・皮膚・外陰部を中心とした炎症反応を引き起こす。 眼内では閉塞性血管炎が生じ、網膜毛細血管の透過性亢進(蛍光眼底造影でのシダ状蛍光漏出)として現れる。 急性増悪期には白血球(好中球)の浸潤と虚血による白色渗出斑が形成される。 この渗出斑は比較的早く(1週間前後で)消失するが、発作を繰り返すことで網脈絡膜や視神経乳頭が徐々に不可逆的に障害される。
炎症の発作性反復:
ベーチェット病の炎症は急性一過性だが、発作が繰り返される。 眼発作を繰り返すうちに、徐々に網膜萎縮・視神経萎縮に至り、高度な視機能障害をきたす。 前房蓄膿が好中球性でサラサラした性状を呈することも、好中球主体の炎症メカニズムを反映している。
小児症例では診断遅延が起きやすく、眼症状が全身症状の確立以前に発現することも機序理解の一助となる1)。
インフリキシマブ(抗TNFα抗体)の眼科領域への適用は、従来の免疫抑制薬で制御困難な重症ベーチェット病の予後を大きく改善した。 アダリムマブとの比較研究では両者の有効性は同等であり、患者のライフスタイルに合わせた選択が可能となっている2)。 特に小児例でも、インフリキシマブを含む積極的治療により4例中3例が良好な視力を維持したとの報告がある1)。
成人と比較した小児ベーチェット病の臨床的差異が注目されている1)。 小児例では後部ぶどう膜炎・網膜血管炎・乳頭炎が発症初期から重篤に現れることが多く、診断の遅れが視機能予後に影響する1)。 平均診断遅延11.3±8.5か月という報告は、小児眼科診療における早期認識の重要性を示唆している1)。
心臓病変(心内血栓・冠動脈病変・弁膜症)は成人ベーチェット病患者の2.4〜12.1%に合併するが2)、小児例では特に心内血栓が主体(10/14例)で、成人とは異なる分布を示す2)。 弁膜症を合併した場合、活動期に外科的介入を行うと弁周囲逆流の高率発生が知られており、術前の炎症コントロールが不可欠である2)。
:::danger 免責事項 本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療行為を指示するものではありません。治療に関する判断は必ず専門医の指示に従ってください。薬剤の用量・用法は個々の病態により異なりますので、実際の処方は担当医師にご相談ください。 :::