ベーチェット病
炎症パターン:再発寛解型ぶどう膜炎。汎ぶどう膜炎が最多。
特徴:両眼性が多く、前房蓄膿・硝子体混濁・網膜血管炎を伴う。繰り返す発作が視力予後を悪化させる。

アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)は、腫瘍壊死因子α(TNF-α)に特異的に結合する遺伝子組み換えヒト型IgG1モノクローナル抗体である。分子量148kDa、1,330アミノ酸から構成される。
2002年に米国FDAで関節リウマチへ初承認された。適応はその後、乾癬性関節炎・強直性脊椎炎・クローン病・潰瘍性大腸炎・斑状乾癬・化膿性汗腺炎へ拡大した。眼科領域では2016年6月に成人の中間部・後部・汎ぶどう膜炎の治療薬として承認された。小児への適応は2017年に行われた。2)
活動性非感染性ぶどう膜炎を対象としたVISUAL I試験と非活動性を対象としたVISUAL II試験で有効性が確立された。1) 若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎に対してはSYCAMORE試験(Ramanan AV et al., NEJM 2017)でアダリムマブ+メトトレキサート併用の有効性が示されている。1)2)
国際的な実臨床パターン調査(221名の専門医対象)では、11種類すべての非感染性ぶどう膜炎においてアダリムマブが生物学的製剤の第一選択とされ、全体での選択率は97.7%に達した。1)
非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎が主な適応である。ベーチェット病、サルコイドーシス、若年性特発性関節炎関連、HLA-B27関連、原田病(フォークト・小柳・原田病)などの原因疾患に対して広く使用される。2016年にFDA承認、日本でも同年より使用可能となった。1)2)
アダリムマブの適応となる非感染性ぶどう膜炎では以下の症状が認められる。
アダリムマブが用いられる主要な適応疾患の眼所見を以下に示す。
ベーチェット病
炎症パターン:再発寛解型ぶどう膜炎。汎ぶどう膜炎が最多。
特徴:両眼性が多く、前房蓄膿・硝子体混濁・網膜血管炎を伴う。繰り返す発作が視力予後を悪化させる。
若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎
サルコイドーシス
発生頻度:眼病変は全体の10〜80%に生じ、ぶどう膜炎が最多の眼症状。
特徴:肉芽腫性炎症。豚脂様角膜後面沈着物・隅角肉芽腫・網脈絡膜肉芽腫を呈する。
アダリムマブが治療対象とする非感染性ぶどう膜炎は、TNF-αが過剰産生される免疫疾患に起因する。主な原因疾患は以下の通りである。
国際調査では、全身免疫調節薬を開始する主な適応として、プレドニゾロンでコントロール不良(94.1%)、特定の診断(89.1%)、プレドニゾロン不耐性(84.2%)が挙げられている。1)
TNF-α阻害は脱髄と関連することが知られており、多発性硬化症を合併する患者にはアダリムマブは禁忌となる。1)
プレドニゾロンでぶどう膜炎がコントロール不良の場合(94.1%)、特定の診断(ベーチェット病・若年性特発性関節炎関連など)がある場合(89.1%)、プレドニゾロン不耐性の場合(84.2%)が主な開始適応とされている。1) 詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
本セクションでは、アダリムマブ導入前に必要なスクリーニング検査と投与中のモニタリング体制を解説する。
国際調査では221名全員が何らかのスクリーニングを実施していた。以下の検査が高頻度に行われている。1)
治療開始前スクリーニングの実施率を以下に示す。
| 検査項目 | 実施率 |
|---|---|
| 血液生化学スクリーン | 98.2% |
| 血算 | 93.7% |
| クォンティフェロン | 88.7% |
結核スクリーニング(クォンティフェロン検査またはツベルクリン反応)は特に重要であり、潜在性結核感染が確認された場合は予防的化学療法後に投与を開始する。B型肝炎ウイルスの検査も必須である。
重篤な感染症リスクがあるため、日本眼炎症学会のガイドラインに基づいた全身モニタリングが不可欠である。
標準的な投与量を成人と小児で以下に示す。
成人
標準投与:隔週40mg皮下投与
投与間隔:週1回投与の報告例もあるが、標準は隔週投与である。
小児(若年性特発性関節炎関連)
10kg以上15kg未満:隔週10mg
15kg以上30kg未満:隔週20mg
30kg以上:隔週40mg
小児ぶどう膜炎では、最大40mgとして2週間ごとに24mg/m²の投与が報告されている。
治療は一般的に2年以上の継続が必要とされ、炎症コントロールの維持が目標となる。1)
疾患別のアダリムマブ第一選択率を以下に示す。1)
| ぶどう膜炎の種類 | 使用率 |
|---|---|
| 若年性特発性関節炎関連 | 97.3% |
| HLA-B27関連 | 96.4% |
| サルコイドーシス | 92.8% |
| ベーチェット病 | 72.4% |
若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎では、米国眼科学会はメトトレキサートを第一選択、アダリムマブを第二選択として推奨している。SYCAMORE試験でアダリムマブ+メトトレキサート併用の有効性が確立された。1)2)
ベーチェット病眼症では、米国眼科学会がインフリキシマブまたはアダリムマブを第一・第二選択のステロイド節約薬として強く推奨している。ベーチェット病では従来薬としてアザチオプリンが52.0%で第一選択に選ばれている。1)
バードショット脈絡膜網膜症では従来薬としてミコフェノール酸が39.8%で第一選択に選ばれる。1)
既存治療(ステロイド・従来型免疫調節薬)に抵抗性の非感染性ぶどう膜炎に対してアダリムマブが使用され、ステロイド薬減量効果を含む有効性が報告されている。日本眼炎症学会からガイドラインが示されており、重篤な感染症誘発リスクを考慮した導入前スクリーニングと投与中モニタリングの実施が求められている。
90%以上の専門医が、ぶどう膜炎患者の白内障手術前に3か月以上の炎症鎮静を要求している。1) ベーチェット病では特に6か月以上の無発作期間が望ましい。
メトトレキサートが従来型免疫抑制薬の第一選択(57.0%)、アダリムマブが生物学的製剤の第一選択(97.7%)である。両者の併用(84.0%)が最多の治療戦略とされている。1) 疾患の種類や重症度によってはアダリムマブを先行使用することもある。
血液生化学(96.4%)と血算(88.2%)を12週ごとに確認するのが標準的である。安定期の患者では6〜12週ごとに眼科評価を行う。治療開始前には結核スクリーニング(クォンティフェロン88.7%)とB型肝炎検査が必須である。1)
TNF-α(腫瘍壊死因子α)は多機能な炎症性サイトカインである。マクロファージ・T細胞・肥満細胞・顆粒球・NK細胞などから産生される。
その主要な機能は以下の通りである。
TNF-αの生理的役割は量依存性である。低用量では感染に対する免疫反応を増強し、高用量では過剰炎症と臓器障害を引き起こす。大量急激放出は敗血症性ショックの原因となる。
アダリムマブは以下の2つの機序でTNF-αを阻害する。
これらの機序によりTNFαが阻害され、炎症性サイトカインカスケードが抑制される。3)
非感染性ぶどう膜炎の多くはT細胞介在性の自己免疫機序が関与しており、TNF-αが炎症増幅の中心的役割を担っている。SITEコホート研究を含む複数の試験で従来型免疫抑制薬(メトトレキサート等)の有効性が確認され、VISUAL I/II試験でTNF-α阻害の有効性が確立された。1)
メトトレキサートは従来、小児若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎の標準的な従来薬として使用されてきた。しかし27〜48%の小児で炎症コントロールが不良であり、20%が副作用を経験する。2)
SYCAMORE試験(2017年、NEJM掲載)は、若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎の小児を対象にアダリムマブ+メトトレキサート群とプラセボ+メトトレキサート群を比較した。アダリムマブ併用群はプラセボ群に対し治療失敗までの期間で有意な優越性を示し、若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎に対するアダリムマブの有効性が確立された。1)2)
VISUAL III試験(長期オープンラベル延長試験、Suhler EB et al. 2018)で安全性と有効性の長期データが蓄積されている。SITEコホート研究では約16,000名を中央値10年にわたり追跡し、アダリムマブ使用に関連した癌死亡率・全死亡率の有意な増加は認められなかった。
アダリムマブのバイオシミラー(後発生物学的製剤)について、先行品と同等の安全性と有効性が研究で示されている。さらなるエビデンスの蓄積が継続中である。
全身投与を回避する目的で、アダリムマブの硝子体内投与(1.5mg、初回・2週後・以後4週ごと、計26週)の有望な結果が報告されている(Hamam らの知見)。ただし現時点では研究段階である。
研究では安全性と有効性においてオリジナル製剤と同等であることが示されている。ただし、さらなるエビデンスの蓄積が進行中であり、切り替えに際しては担当医と十分に相談することが重要である。