コンテンツにスキップ
腫瘍・病理

IgG4関連眼窩炎症

IgG4関連眼疾患(IgG4-related ophthalmic disease; IgG4-ROD)は、IgG4陽性形質細胞に富む線維炎症性病変が眼および眼窩に発生する疾患であり、全身性のIgG4関連疾患(IgG4-RD)の眼窩局在型である。

IgG4-RDは2001年に日本で血清IgG4高値を伴う自己免疫性膵炎として初めて報告された。眼窩は膵外病変として最初に報告された部位であり、2004年にIgG4関連Mikulicz病が初めて記載された。

わが国において原発性眼窩腫瘍の中で最も多いのはリンパ増殖性疾患であり、これには悪性リンパ腫、反応性リンパ過形成、IgG4-ROD、特発性眼窩炎症が含まれる。リンパ増殖性疾患だけで眼窩腫瘍全体の50〜60%を占める。特発性眼窩炎症と診断された症例の17〜60%がIgG4-RODであったことが明らかになっている。

IgG4-RODに男女差はなく、平均年齢はおよそ55〜60歳であり、20歳未満の症例はまれである。

  • 涙腺:62〜88%。最多。
  • 眼窩脂肪:28.6〜40%。
  • 外眼筋:19〜25%。
  • 三叉神経周囲:9.5〜39%。
  • 眼瞼:12%。
  • 鼻涙管系:1.5〜9.5%。
  • 眼瞼腫脹:涙腺腫大による。典型的には無痛性で緩徐に進行する。しばしば対称性で唾液腺腫脹を伴う(Mikulicz病)。
  • 眼球突出:外眼筋や眼窩軟部組織の腫脹による。
  • 複視:外眼筋病変に伴い拘束性斜視を生じうる。下直筋が最も頻繁に侵される。
  • 視力低下・視野障害:圧迫性視神経症による。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 涙腺腫大:S字型変形を伴う眼瞼腫脹。MRIで両側性の涙腺腫大を認める。
  • 三叉神経腫大:眼窩上・眼窩下神経周囲の腫瘤。
  • 外眼筋腫大甲状腺眼症との鑑別が必要。
  • 視神経周囲病変:視神経症を併発しうる。血清IgG4が2,090mg/dLの高値例では視神経症による視力低下の報告がある。

全身病変はIgG4-ROD患者の68%に認められる。最も多い併発部位は唾液腺(43%)、リンパ節(27%)、膵臓(20%)である。

Q IgG4-RODと甲状腺眼症はどう鑑別するか?
A

両者とも外眼筋腫大と眼球突出を呈しうる。鑑別には血清IgG4値、甲状腺機能検査(T3、T4、TSH)、MRI所見(IgG4-RODではT2低信号)、および組織生検が重要である。IgG4-RODは涙腺腫大を伴いやすく、甲状腺眼症では下直筋・内直筋の腫大が優位である。

IgG4-RODの病因は不明であるが、液性免疫・細胞性免疫の異常が関与すると考えられている。

  • B細胞異常:リツキシマブ(抗CD20)の有効性からB細胞の関与が示唆される。
  • Th2サイトカイン:IL-4、IL-5、IL-13の産生増加が報告されており、好酸球増多やIgE上昇を伴う。
  • 抗原刺激:涙腺での体細胞超変異が局所的免疫応答を示唆している。

リスク因子としては高齢男性(全身型)、アトピー素因、喘息、アレルギー性鼻炎との関連が報告されている。IgG4-ROD患者は非ホジキンリンパ腫のリスクが高い可能性がある。

以下の3項目で判定する。

  1. 画像所見:涙腺、三叉神経、外眼筋の腫大。または眼組織の腫瘤・肥厚性病変。
  2. 病理組織学的所見:著明なリンパ形質細胞浸潤。IgG4/IgG陽性細胞比40%以上、またはIgG4陽性細胞が50/HPF超1)
  3. 血清IgG4:135mg/dL以上。

3項目すべて満たす場合を「確定」、1と2を満たす場合を「準確定」、1と3を満たす場合を「疑い」と分類する1)

  • MRI:T1強調像で等信号、T2強調像で低信号。ガドリニウムで均一に増強される。
  • FDG-PET/CT:遠隔・無症候性病変の検出に有用。

血清IgG4値は治療反応のマーカーとなるが、確定IgG4-RD患者の40%は血清IgG4が正常である。IgG4値の上昇は膵癌、リンパ腫、ANCA関連血管炎でも認められうるため、特異度は限定的である。

特にMALTリンパ腫との鑑別が重要である。MALTリンパ腫では通常IgG4染色は陰性であるが、陽性となる例もある。IgH遺伝子再構成検査が鑑別に有用である。

鑑別疾患鑑別のポイント
MALTリンパ腫IgH遺伝子再構成検査
シェーグレン症候群抗Ro/La抗体
サルコイドーシスACE値、胸部画像
多発血管炎性肉芽腫症ANCA血清学
甲状腺眼症甲状腺機能検査

治療前に悪性腫瘍を除外するための組織診断が必須である。

ステロイド内服漸減療法(第一選択)

Section titled “ステロイド内服漸減療法(第一選択)”

プレドニゾロン0.6mg/kg/日(または30mg/日)で2〜4週間の導入後、2週間ごとに10%ずつ漸減する。維持量10mg/日を最低3ヶ月間継続する。

初期反応は89〜100%と極めて良好であるが、治療中・治療後の再発率は最大70%に達する。維持量5mg/日の継続により、再発率が3年間で92%から23%に低下する。

視神経症による視力低下・視野欠損が著しい場合に適応する。ソル・コーテフ500mg/日×3日間を1クールとし、1〜3クール投与する。

リツキシマブ(抗CD20抗体)は奏効率93%、再発率9%と最も有効な疾患修飾薬である。14日間隔で2回の1g点滴投与が推奨される。本邦では保険適用外である。

メトトレキサートアザチオプリンミコフェノール酸モフェチルなどが使用されるが、エビデンスは限定的である。

Nodaら(2021)は眼圧31mmHg・視力低下を呈したIgG4-ROD症例に対し、経頭蓋的アプローチによる生検と眼窩外壁減圧術を施行し、術後3日で視力が劇的に改善したと報告した4)。視力を脅かす症状がある場合、ステロイド投与前の外科的減圧も選択肢となる。

Q ステロイド治療後に再発した場合はどうするか?
A

再発は漸減中(プレドニゾロン10mg/日未満への減量時)またはステロイド中止後に多い。再発時の管理には経口ステロイドの再投与(6〜10週間)またはリツキシマブなどの疾患修飾薬の追加が含まれる。リツキシマブは再発率9%と最も低い。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

IgG4-RDの3つの主要な病理学的特徴は以下の通りである。

  1. 密なリンパ形質細胞浸潤
  2. 席巻状(storiform)線維化
  3. 閉塞性静脈炎

これらのうち2つ(最も多いのは1と2の組み合わせ)を認めればIgG4-RDと診断される。IgG4-RODではTリンパ球が認められ、涙腺病変では席巻状線維化が見られない場合もある。

免疫組織化学では、IgG4陽性形質細胞が10/HPF以上(涙腺疾患では100/HPF以上)、かつIgG4/IgG陽性細胞比40%以上が必要とされる1)

病態の中心にはB細胞異常があり、Th2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)の過剰産生がIgG4およびIgEの上昇、好酸球増多を引き起こす。涙腺における体細胞超変異の証拠は、局所的な抗原応答の存在を示唆している。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

SARS-CoV-2ワクチン接種後のIgG4-ROD

Section titled “SARS-CoV-2ワクチン接種後のIgG4-ROD”

Zhangら(2024)はSARS-CoV-2ワクチン接種後にIgG4-RODを発症した症例を報告した。文献レビューでは9例が収集され、うち5例がワクチン接種後、4例が感染後に発症していた2)。免疫調節異常がIgG4-RDの病態に関与する可能性が示唆されている。

Liuら(2025)はSAPHO症候群にIgG4-RODを合併した症例を報告した。TNF-α経路の調節が両疾患の治療に有用である可能性が提案された3)

経頭蓋的アプローチによる眼窩減圧

Section titled “経頭蓋的アプローチによる眼窩減圧”

Nodaら(2021)は血清IgG4値1,255mg/dLの63歳男性に対し、翼状突起経由の経頭蓋的生検と眼窩外減圧術を施行した。術後3日で視力が0.7 LogMARから−0.1 LogMARに改善し、眼圧も31mmHgから15mmHgに正常化した4)。ステロイド治療のリスクが高い症例における新たな外科的選択肢として注目される。

Takahiraら(2023)はIgG4-RODの診断基準を改訂し、画像所見・病理組織学的所見・血清IgG4値の3軸で確定・準確定・疑いに分類する体系を提示した1)。涙腺病変では100 IgG4陽性細胞/HPF以上を要する厳格な基準が採用されている。


  1. Takahira M, Goto H, Azumi A. The 2023 revised diagnostic criteria for IgG4-related ophthalmic disease. Jpn J Ophthalmol. 2024;68:572-576.
  2. Zhang P, Wu Q, Xu X, et al. A case of IgG4-related ophthalmic disease after SARS-CoV-2 vaccination: case report and literature review. Front Immunol. 2024;15:1303589.
  3. Liu C, Chen T, Wang Y, et al. SAPHO syndrome complicated by IgG4-related ophthalmic disease: a case report and literature review. Front Immunol. 2025;16:1563542.
  4. Noda R, Inoue T, Tsunoda S, et al. Surgical management for IgG4-related ophthalmic disease by a transcranial biopsy combined with extraorbital decompression: illustrative case. J Neurosurg Case Lessons. 2021;1(8):CASE20170.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます