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眼外傷

眼球摘出術

眼球摘出術(enucleation)は、眼球全体とその眼内内容物を取り除き、眼窩周囲・眼窩構造(外眼筋・眼瞼・眼窩脂肪)を保存する外科的手技である。

眼球を対象とする術式には類似したものが存在するため、それぞれの定義を明確にする必要がある。

  • 眼球摘出術(enucleation):眼球全体と視神経の一部を摘出する。眼窩周囲構造は温存する。
  • 眼球内容除去術(evisceration)強膜を外眼筋の付いたまま温存し、眼球内組織のみを除去する。整容面でやや有利だが、悪性腫瘍が疑われる例には禁忌。
  • 眼窩内容除去術(exenteration):眼球に加えて軟部組織を含む眼窩内容物全体を除去する。より広範な術式である。

1500年代に「摘絶(extirpation)」として初報され、当時は結膜や外眼筋は温存されなかった。1800年代半ばにインプラントなしの眼球摘出術が文献記載され、1886〜1887年にインプラント挿入の初報がなされた。

摘出眼球の組織学的検査が可能であり、眼内悪性腫瘍では眼球外浸潤の有無を病理学的に確認できる。眼球内容除去術と異なり眼球全体を摘出するため、悪性腫瘍の播種リスクがない点が利点である。

Q 眼球摘出術と眼球内容除去術はどう違うのですか?
A

眼球摘出術は眼球全体を摘出するのに対し、眼球内容除去術は強膜・外眼筋を温存し眼球内容物のみを除去する。除去術の方が義眼の可動性に優れ整容面でやや有利だが、悪性腫瘍が疑われる場合は禁忌であり摘出術が選択される。摘出術では摘出眼の病理組織学的検査が可能という利点もある。

眼球摘出術は「疾患」ではなく「手術」であるため、ここでは本術式の適応となる臨床状態を記述する。

自覚症状(患者が訴える状態)

Section titled “自覚症状(患者が訴える状態)”
  • 眼痛:有痛性眼球癆や絶対緑内障では、麻薬鎮痛薬にも抵抗する難治性の眼痛を呈する。
  • 視力喪失:手術適応となる眼はほぼ全例が失明状態(光覚弁なし)にある。
  • 外傷後の眼球変形:眼球破裂・高度の穿通性眼外傷では著しい眼球変形を来す。

臨床所見(適応を示す医師の評価)

Section titled “臨床所見(適応を示す医師の評価)”

腫瘍性疾患

ぶどう膜メラノーマ:成人で最も多い眼内原発悪性腫瘍。眼球温存療法の成功率が低い場合に適応。視神経浸潤の有無の評価が不可欠。

網膜芽細胞腫:RB1遺伝子異常による小児網膜悪性腫瘍。視神経浸潤が疑われる場合に摘出適応。

外傷・疼痛眼

修復不能な眼外傷:強膜損傷やぶどう膜脱出が高度なもの、受傷から受診までの期間が長いもの。

有痛性眼球癆:眼内腫瘍が否定されている場合に限り適応。

絶対緑内障:薬物・手術に抵抗する終末期緑内障。

その他

交感性眼炎の予防:高度の眼球裂傷・破裂で修復不可能と判断される場合。

重度感染症:視力回復見込みがない進行した眼内炎

小眼球症:義眼装用目的での適応になることがある。

急性外傷における一次的眼球摘出の考え方

Section titled “急性外傷における一次的眼球摘出の考え方”

急性外傷で眼球摘出を要する場合の方針について、いくつかの重要な点がある。

  • 多くの外科医は、まず開放性眼球外傷の一次閉鎖を行い、光覚弁なしの状態が続く場合に摘出を検討することを推奨する。
  • 一次修復を先行させることで、患者は初期外傷後にメリット・デメリットを検討する時間を得られる。
  • 非受傷眼における交感性眼炎のリスクも考慮する必要がある。
  • 古典的な「14日ルール」(外傷後14日以内に除去)は恣意的であり、科学的裏付けがないことが示されている。
Q 外傷を受けた眼球は必ず摘出が必要になりますか?
A

そうとは限らない。多くの外科医はまず一次閉鎖を行い、術後も光覚弁なしが続く場合に摘出を検討する。急性外傷後は患者がメリット・デメリットを考える時間を確保することが重要とされる。14日以内に摘出すれば交感性眼炎を予防できるという古典的「14日ルール」には科学的根拠がないことも示されている。

眼球摘出術が必要となる主な原因疾患と背景要因を以下に示す。

  • 眼内悪性腫瘍脈絡膜メラノーマは成人で最も多い眼内原発悪性腫瘍であり、主な治療法は放射線療法と眼球摘出術である。網膜芽細胞腫はRB1遺伝子異常による小児網膜悪性腫瘍で、視神経浸潤が疑われる場合に摘出適応となる。
  • 眼外傷:眼球破裂・穿孔性眼外傷が原因となる。眼球破裂と穿孔性眼外傷では診断も手術戦略も大きく異なる。赤道部付近の深部裂傷では修復不能と判断されることがある。
  • 難治性疼痛:有痛性眼球癆や絶対緑内障に対する疼痛緩和目的の適応がある。
  • 感染症:病状が進行した眼内炎が原因となることがある。

眼球摘出術の「適応を判断するための検査」として構成する。

  • Bモード超音波検査脈絡膜悪性黒色腫に特徴的な所見(choroidal excavation、mushroom shape)の確認、網膜芽細胞腫や有痛性眼球癆にみられる石灰化の有無の評価に用いる。
  • 造影MRI(MRI非適応の場合は造影CT):腫瘍の有無・大きさ・眼外浸潤の有無を評価する。眼内悪性腫瘍の確認に必須である。
  • CT画像(外傷例):眼球破裂では眼球変形・駆逐性出血・小眼球の所見を確認する。穿孔性眼外傷では眼内異物の有無を確認する。
  • 迅速病理診断:悪性腫瘍に対する眼球摘出術では、摘出眼球の視神経断端に腫瘍細胞の浸潤がないかを迅速病理診断で確認する。断端陰性の確認が治療の完結を意味する。
  • 前眼部写真・CTによる眼内異物の確認を行う。
  • 結膜下出血の位置から裂創部位を推定できる。
眼球摘出後の眼窩インプラントと結膜面の術後写真
眼球摘出後の眼窩インプラントと結膜面の術後写真
Schmitzer S, Simionescu C, Alexandrescu C, Burcea M. The Anophthalmic Socket - Reconstruction Options. J Med Life. 2014;7(Spec Iss 4):23-29. Figure 3a. PMCID: PMC4962761. License: CC BY.
筋円錐内にメチルメタクリレート球を置いた術後眼窩の実写である。結膜面の被覆状態と義眼床を支えるインプラントの位置関係を示している。

眼球摘出術の標準的な手技の流れを日本の教科書に基づいて記述する。

全身麻酔下で行われることが多い。結膜を輪部で全周切開し、赤道部付近まで強膜を露出させる。

4直筋に5-0 PGA等の吸収糸をかけて切腱し強膜から分離する。内外直筋は眼球を把持できる程度の腱を残して切離するのがポイントである。上斜筋腱と下斜筋を切断し、断端の止血を十分に行う。

後部テノン嚢を強膜から分離後、内直筋と外直筋の付着部を把持して眼球を静かに引き上げながら回転させ亜脱臼させる。これにより視神経への到達が容易になる。

眼球摘出剪刀を閉じた状態で強膜に沿って後方へ挿入する。剪刀の先で視神経を索状物として触知したら、剪刀を少し開いて視神経をできるだけ後方で一気に切断する。悪性腫瘍の場合は視神経をより長く切断するよう努める。

止血・病理・インプラント挿入

Section titled “止血・病理・インプラント挿入”

切断直後に指で圧迫止血する。通常3〜5分で止血する。悪性腫瘍では視神経断端の腫瘍細胞浸潤の有無を迅速病理診断する。

筋円錐内に球形のインプラント(義眼台)を挿入し、上下直筋・内外直筋をインプラントの前で重ねるように縫合する。

前部テノン嚢と結膜を別々に縫合する。結膜囊内に抗菌薬軟膏を入れ、コンフォーマを挿入し、軽く圧迫眼帯を施す。

眼球摘出術と眼球内容除去術の比較

Section titled “眼球摘出術と眼球内容除去術の比較”

摘出術の特徴

病理診断が可能:摘出眼全体の組織学的検査ができる。悪性腫瘍では唯一の選択肢。

交感性眼炎リスクが低い:ぶどう膜抗原への曝露を完全に除去(古典的見解)。

眼球陥凹が生じやすい:米国調査で94%の義眼師が「摘出術後の方が眼球陥凹・深い上眼瞼溝が一般的」と回答。

内容除去術の特徴

整容面でやや有利:強膜・外眼筋を温存するため義眼の可動性が良好。

眼球陥凹が少ない:米国認定義眼師調査で82%が「内容除去術が最高の審美的結果をもたらす」と回答。

禁忌あり:悪性腫瘍が疑われる例には施行不可。

術式選択の基準として、早期受診で手術用顕微鏡下にぶどう膜組織を十分に除去できると考えられれば内容除去術を選択する。強膜損傷やぶどう膜脱出が高度な場合、受傷から受診までの期間が長い場合は眼球摘出術を選択する。

インプラントの種類と特徴を以下に示す。

種類代表材料特徴
多孔質インプラントハイドロキシアパタイト・多孔質ポリエチレン線維血管組織の増殖を促す。外眼筋固定が可能
非多孔質インプラントガラス・シリコン・アクリル・PMMA感染リスクが高い状況で有利。日本ではPMMAレジン球が代表的
  • 多孔質ポリエチレン:表面が滑らかで被覆不要。外眼筋を直接縫合可能でハイドロキシアパタイトより安価。
  • ハイドロキシアパタイト:1989年導入。表面が粗いためドナー強膜・無細胞真皮・心膜等での被覆が必要。
  • 2004年ASOPRS調査:多孔質ポリエチレン43%、ハイドロキシアパタイト27%、非多孔質20%。
  • 日本の現状:わが国では厚生労働省の認可を得た義眼台が存在しない。PMMA製レジン球が最も代表的であり、早期の認可導入が望まれている。
  • インプラントサイズ:最小20mmが推奨。「眼軸長マイナス2mm」の計算式が眼窩容積の補充に有効とされる。義眼の可動性はインプラント素材よりもサイズが影響し、大きいほど可動性が良好である。
  • 多孔質インプラント(多孔質ポリエチレン・ハイドロキシアパタイト)の露出率:眼球摘出術後1.5〜21.6%、眼球内容除去術後0〜3.3%。
  • 放射線照射歴のある患者ではインプラント露出率が高い。
  • 術後短期管理:術後短期間眼帯を装着し、手術1週間後に再診する。鎮痛薬と制吐薬を処方する。予防的抗生剤のエビデンスは不十分だが処方する外科医もいる。
  • コンフォーマ装用:長期放置すると結膜囊が収縮するため、コンフォーマやレディメイド義眼は必ず装用する。
  • 義眼装用開始:結膜囊の状態が落ち着いた術後1〜2か月から義眼装用を開始する。術後2〜4週を目安として疼痛や炎症が軽快した時期に義眼作製を開始する。
  • 小児の対応:先天無眼球や乳幼児期の摘出後は、できるだけ早期から義眼を装用し、眼瞼・眼窩の発育を促進する(5歳以下で特に重要)。
Q 義眼はいつ頃から装用できますか?
A

術後1〜2か月で結膜囊の状態が安定した後に義眼装用を開始する。それまでの間はコンフォーマ(仮義眼)を必ず装用し、結膜囊の収縮を防ぐ。長期放置すると結膜囊が著しく収縮するため、コンフォーマの早期装用が重要である。小児ではさらに早期の装用が眼窩発育のために推奨される。

一次的または二次的眼窩再建として自家真皮脂肪移植が用いられることがある。小児(特に5歳以下)では眼窩成長促進に有利であり、眼窩容積の補充に適している。網膜芽細胞腫による摘出後の小児では、経過中にdebulkingが必要となることがある。22mmを超えるインプラントでは初期張力による早期容積喪失のリスクに注意する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”
  • 病理診断の根拠:眼球全体と視神経を摘出することで、腫瘍の浸潤深度・視神経断端の腫瘍細胞残存・眼外浸潤の有無を組織学的に評価できる。眼球内容除去術では眼球全体の組織評価は不可能である。
  • 交感性眼炎リスクの低下:ぶどう膜抗原への曝露を完全に除去することで、対側眼に対する自己免疫反応(交感性眼炎)のリスクを低下させるとされる(古典的見解)。ただし近年の研究では眼球内容除去術後の交感性眼炎症例はほとんど報告されていない。
  • 多孔質インプラント:多孔質構造が線維血管組織の内部増殖(fibrovascular ingrowth)を促し、組織統合により可動性が向上する。外眼筋との固定も良好となる。
  • 非多孔質インプラント:組織内増殖がないため可動性低下・インプラント移動リスクが高い可能性がある。

無眼球腔症候群(Post-enucleation socket syndrome)の機序

Section titled “無眼球腔症候群(Post-enucleation socket syndrome)の機序”

眼球摘出後に眼窩容積が喪失すると、上眼瞼溝陥凹・眼球陥凹(enophthalmos)・眼瞼下垂が生じる。この病態は「無眼球腔症候群」と呼ばれる。外眼筋のインプラントへの不十分な固定はインプラント移動を引き起こし、症状を悪化させる。適切なサイズのインプラント選択と外眼筋の確実な縫合固定が予防の鍵となる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

眼球摘出後に「Charles Bonnet症候群(CBS)」と呼ばれる視覚幻覚が生じる場合がある。CBSは従来、両眼視力の60%以上の喪失が発症に必要とされていたが、片眼の視力喪失のみでも発症しうることが示されている。

Forte et al.(2025)は脈絡膜メラノーマによる眼球摘出後にCBSを発症した67歳女性を報告した1)。術翌日から視覚幻覚が出現し、2年間持続した。残存眼の視力は-0.07 LogMAR(良好)、微小視野計平均感度24.7dBであった。幻覚の内容は動くパターン・色のついた閃光・火・クリスマスツリー・ロボット・カワセミなど多彩であり、週に数回・各10秒以上の頻度で出現した。患者は幻覚が実在しないことを認識していた(insight保持)。

文献レビューでは片眼視力喪失後のCBSが9症例同定された。診断時平均年齢69.4歳(範囲52〜82歳)、男女比3:1であった。8/9例で視力喪失後数時間〜2日以内に幻覚が出現し、7/9例で幻覚が消失(平均17.6日、範囲2時間〜96日)した。複雑型幻覚が100%に認められ、人物像が最多(56%)であった1)

眼球摘出を受けるすべての患者にCBSの可能性を事前に説明し、術後のスクリーニングを行うことが推奨される。

Q 眼球摘出後に幻覚が見えることがあるのですか?
A

はい。Charles Bonnet症候群(CBS)と呼ばれる視覚幻覚が生じることがある。幻覚は動くパターン・色・人物像などさまざまで、患者本人は幻覚が実在しないことを認識している(insightが保たれる)。片眼の視力喪失のみでも発症しうることが報告されており1)、術前に患者へ説明しておくことが重要である。

外傷性眼球摘出と頭蓋内合併症

Section titled “外傷性眼球摘出と頭蓋内合併症”

精神疾患患者による自己眼球損傷(Oedipism)に伴う眼球完全脱出では、視神経の断裂によってくも膜下出血(SAH)が生じうることが報告されている。眼動脈は内頸動脈C6部から分岐してくも膜下腔を走行するため、眼動脈の断裂がSAH・内頸動脈解離を引き起こす可能性がある。

Flippin et al.(2023)は精神疾患患者による両側自己眼球摘出の症例を報告した2)。両側眼球が完全剥離し視神経の一部が付着した状態で搬送された。頭部CTAでは鞍上部のSAH+脳室内進展による小脳室内出血(IVH)が確認された。顔面骨折・血管解離はなく、外傷ICUで管理後に眼科チームが洗浄・デブリードマン・義眼台挿入・閉創を施行した。4日間の入院で神経学的・眼科的合併症なし、退院後精神科入院となった。

眼球の完全摘出・視神経断裂を認める症例では、必ず頭部CT(できればCTA)で頭蓋内出血を評価することが求められる。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)による日中過眠が重篤な眼外傷・眼球摘出の原因となりうることが報告されている。

Baker et al.(2024)はOSA+肥満低換気症候群の55歳女性がトイレで突然入眠し鋭利物に衝突、右眼球脱出(視神経約5cm断裂)を来し眼球摘出術+義眼台挿入を施行した症例を報告した3)。AHI 55.6イベント/時、酸素最低値63%であった。台湾の全国コホートデータ(6,915例)では、OSA患者は非OSAと比較して全体の外傷リスクが83.1%増加していた4)

未治療OSAが重篤な外傷のリスク因子となりうることを念頭に置き、OSA患者の外傷予防と適切な治療介入が重要である。


  1. Forte G, Assaf N, Forte P, Jolly JK. Charles Bonnet Syndrome associated with unilateral vision loss: A new diagnostic perspective. Ophthalmic Physiol Opt. 2025;45:681-688.
  2. Flippin JA, Truong E, Kishawi S, Allan A, Ho VP. Traumatic Bilateral Self-Enucleation With Subarachnoid Hemorrhage. Am Surg. 2023;89(11):4905-4907.
  3. Baker N, Schenck CH, Golden E, Varghese R. A case of accidental self-enucleation caused by obstructive sleep apnea. J Clin Sleep Med. 2024;20(8):1395-1397.
  4. Cheng AC, Wu GJ, Chung CH, et al. Effect of obstructive sleep apnea on the risk of injuries—a nationwide population-based cohort study. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(24):13416.

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