眼底所見
網膜血管の狭細化:動脈が著明に細くなる。
骨小体状色素沈着:中間周辺部網膜に骨小体状(bone spicule)の色素沈着を認める。網膜色素上皮細胞が神経網膜に移動した結果である。
蒼白な視神経乳頭:視神経の萎縮を示す蝋状の淡い乳頭色(waxy pallor)。
嚢胞状黄斑浮腫(CME):全症例の8〜60%に発生し、視力低下の重要な原因となる。

アッシャー症候群(Usher syndrome; USH)は、進行性の視力障害と感音難聴(sensorineural hearing loss; SNHL)を特徴とする希少な遺伝性疾患である。一部では前庭機能障害も伴う。1858年にフォン・グレーフェ(Albrecht von Graefe)が初めて報告し、スコットランドの眼科医チャールズ・アッシャー(Charles Usher)がその遺伝性を明らかにした1)。
日本ではRPとは別に、国が定める指定難病(難病法110疾病)の一つに認定されている。日本における有病率は人口10万人あたり約6.7人であり、世界的な推定有病率である4〜17人/10万人の範囲内に収まる1)。
USHは遺伝性の難聴・視覚障害を合わせ持つ症例の50%超を占め、先天性難聴の3〜6%に関与する1)。米国では約23,000人に1人の発生率と推定される。
USHは常染色体劣性遺伝形式をとり、近親婚が多い集団ほど発生率が高まる2)。現在、13の原因遺伝子と16の遺伝子座が同定されている。
臨床的に3つの主要サブタイプに分類され、さらに最近USH4が提唱されている1)。
| 型 | 難聴の特徴 | 前庭機能 | RPの発症時期 |
|---|---|---|---|
| USH1 | 先天性・高度〜重度 | 消失 | 10歳前後 |
| USH2 | 先天性・軽度〜高度 | 正常 | 思春期以降 |
| USH3 | 進行性 | 様々 | 様々 |
アッシャー症候群は、国が定める指定難病(難病法110疾病)の一つに認定されている。RPとは独立した疾患概念として指定されており、医療費助成の対象となる。
アッシャー症候群では難聴・視力低下・平衡障害が三主徴となる。症状の発症時期と重症度はサブタイプによって大きく異なる。
難聴に関する症状
視覚に関する症状
平衡障害に関する症状
RPによる眼底所見が中心となる。
眼底所見
網膜血管の狭細化:動脈が著明に細くなる。
骨小体状色素沈着:中間周辺部網膜に骨小体状(bone spicule)の色素沈着を認める。網膜色素上皮細胞が神経網膜に移動した結果である。
蒼白な視神経乳頭:視神経の萎縮を示す蝋状の淡い乳頭色(waxy pallor)。
嚢胞状黄斑浮腫(CME):全症例の8〜60%に発生し、視力低下の重要な原因となる。
電気生理・画像
アッシャー症候群の保因者が網膜色素変性症sin pigmento(色素沈着を伴わない)として発症する場合もある。USH1C遺伝子の保因者で骨小体状色素沈着を欠く、視力0.1程度まで低下した症例が報告されており、アッシャー保因者においてもRP類似の表現型が生じうることを示している2)。
アッシャー症候群にフックス虹彩異色性ぶどう膜炎(FHU)や先天性虹彩外反(ectropion uvea)が稀に合併する場合がある。RP患者のうちS抗原(retinal S-antigen)に反応する割合はUSH患者では約80%と高く、USHとFHUの関連が示唆されている5)。
また、MYO7A関連USHに両眼性の血管増殖性網膜腫瘍(vasoproliferative tumor; VPT)が生じた症例が報告されている。13歳女性でOS(左眼)に壊滅的なVPTと血管新生緑内障が生じ、その約3年後にOD(右眼)にも無症状のVPTが発見された3)。RPを持つ患者の視力低下をRPのみに帰因せず、VPTなどの合併症を積極的に検索することが重要である3)。
嚢胞様黄斑浮腫はUSHの8〜60%に生じるとされ、全例には発症しない。嚢胞様黄斑浮腫は視力低下の重要な原因であり、定期的なOCT検査による早期発見が推奨される。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
アッシャー症候群は常染色体劣性遺伝形式をとる遺伝性疾患であり、環境的リスク要因はない。両親が保因者である場合、子に発症する確率は25%である。
現在、13の原因遺伝子が同定されている。
USH1関連遺伝子(6種):MYO7A、USH1C、CDH23、PCDH15、USH1G(SANS)、CIB2
MYO7Aの変異がUSH1の約50%を占め、最も頻度が高い1)。USH1C変異はハーモニン(harmonin)タンパク質をコードし、蝸牛有毛細胞の機械受容に不可欠である2)。CDH23変異はUSH1を引き起こすとともに、統合失調症様症状や双極性障害との関連が報告されている4)。USH1G変異(SANS蛋白)はUSH1の0〜4%を占め稀だが、重篤な表現型を示す場合がある6)。
USH2関連遺伝子(3種):USH2A(usherin)、ADGRV1(GPR98)、WHRN(whirlin)
USH2Aが最も頻度が高く、USH2の主要な原因遺伝子である1)。最多の病原性変異はc.2299delGで、特にヨーロッパ系集団で多い1)。USH2A変異は非症候性RPの原因となることもあり、この場合は聴覚構造を保ちつつ網膜変性のみを引き起こす部分機能維持型の変異が多い1)。
USH3関連遺伝子(2種):CLRN1(clarin-1)、HARS1
USH3は全症例の2〜4%を占め最も稀であり、アシュケナージ系ユダヤ人やフィンランド人に多い(創始者効果)1)。
USH4(非典型型):ARSG(arylsulfatase G)遺伝子変異により40歳頃より難聴と視覚障害が発症する。網膜変化は黄斑周囲のリング状萎縮が特徴的で、他のUSHサブタイプとは異なる1,7)。
必ずしもそうではない。USH2A変異の一部(特に部分機能を保つミスセンス変異)は非症候性RPを引き起こし、難聴を伴わない場合がある。一方、機能喪失型変異(トランケーション、重篤なスプライス変異)はUSH2の典型的な聴覚・視覚両方の表現型と関連する1)。
アッシャー症候群の確定診断には複数の専門科による統合的評価が必要である。
診断基準は遺伝子所見、症状の重症度、進行パターン、発症年齢、前庭障害の有無に基づく1)。近年、前庭表現型の差によるサブタイプ鑑別の信頼性に疑問が呈されており、遺伝子検査による確定が重要視される1)。
眼科的検査
聴覚・前庭検査
遺伝学的検査
遺伝子検査は最も確定的な診断ツールである2)。次世代シーケンシング(NGS)を用いた14遺伝子以上のパネル検査が推奨される6)。
遺伝子検査を用いた確定診断の重要性を示す症例として、先天性難聴・視力低下・平衡障害をもつ患者がUSHと臨床的に疑われたが、エクソーム解析によりUSHでない別の疾患(Alstrom症候群や TUBB4B変異など)と確定された例が複数報告されている8)。遺伝性難聴と視覚障害が重なる場合、ALMS1、TUBB4B、CEP78、ABHD12、PRPS1などUSH以外の遺伝子も鑑別に挙げる必要がある8)。
現時点でアッシャー症候群の根治療法は存在しない。管理の目標は残存感覚機能の最大化とQOL向上にある。
USH2A変異を持つ4歳女児で人工内耳術後に聴力が回復し言語・コミュニケーション能力が改善した症例が報告されており、先天性難聴には可能な限り早期(2歳前)の介入が推奨される9)。
視野狭窄(トンネル視)や夜盲を伴うRPと前庭機能障害の組み合わせは、不慮の事故リスクを大幅に高める。体性感覚を代償として活用する適切な監督下でのスポーツ活動が推奨される。視野狭窄が進行した際の転倒防止対策が重要である。
人工内耳はすべての型で検討に値する。USH1では補聴器の効果が限定的なため人工内耳が特に重要となる。USH2・USH3では補聴器が機能する場合も多いが、人工内耳も選択肢となる。早期介入(2歳前)が言語発達に大きく寄与する9)。
アッシャー症候群は「一次線毛機能不全(ciliopathy)」として位置づけられており、内耳および網膜の感覚細胞に共通するタンパク質複合体の機能障害が病態の基盤にある1)。
蝸牛有毛細胞の不動毛束(stereocilia bundles)は、その構造的完全性を維持するためにアッシャータンパク質ネットワークに依存している。USH遺伝子変異は以下の2つの主要な内耳メカニズムを障害する。
USH1とUSH2は異なるタンパク質複合体を形成する。USH2複合体(Usherin–ADGRV1–Whirlin)は不動毛ankle linksの安定化に必要で、その破壊が機械受容トランスダクションを障害する1)。
視細胞の内節と外節の接合部には**周毛様体膜複合体(periciliary membrane complex; PMC)**が存在し、外節への輸送を制御する拡散障壁として機能する。
USH2A遺伝子は約800 kbの広範な領域にわたり72のエクソンを含む。コードされるUsherinタンパク質は多ドメイン膜貫通タンパク質(ラミニンEGFモチーフ・フィブロネクチンIII型リピート・ペンタキシンドメインを含む)であり、蝸牛と網膜の両方で機能する1)。その変異はスペクトルが広く、トランケーション変異ではUSH2の完全表現型、ミスセンス変異では非症候性RPのみを呈する場合がある1)。
アッシャータンパク質複合体は、線毛機能に不可欠な多タンパク質アセンブリとしてBBSomeと類似した位置づけにあり、その破壊が症候群性感覚変性をきたす1)。
USH1G遺伝子は17q24-25座位にあり、SANSタンパク質(ankyrin repeatsとSAMドメインをもつ足場タンパク質)をコードする6)。SANSは蝸牛有毛細胞・前庭器官・網膜・小脳・精巣に発現し、USH1Cタンパク質(ハーモニン)と協調してUSH1複合体を形成する。USH1G変異は稀(0〜4%)だが、典型的なUSH1の重篤な表現型を示す6)。
MYO7A変異を持つUSH患者でCalreticulin(CALR)遺伝子変異が共存した場合、心筋細胞の接着障害とミトコンドリア機能不全を生じ、特異な拡張型心筋症が合併し得ることが報告されている10)。患者線維芽細胞ではATP産生能が約20〜30%低下し、ガラクトース負荷でさらに30%の追加低下が認められた10)。MYO7A変異による細胞骨格動態の障害は心筋でのミトコンドリア分布異常にも寄与する10)。
はい、USH患者の4〜23%に精神症状(うつ・不安・統合失調症様症状など)の合併が報告されている4)。原因として①感覚喪失に伴う心理的ストレス、②神経学的異常(小脳・大脳萎縮など)、③USH関連遺伝子の多面発現(CDH23変異と統合失調症の関連など)の3つの仮説が提唱されている4)。継続的なメンタルヘルス評価が重要である。
MYO7A(USH1B)に対するAAV遺伝子治療(AGTC-501/AAVC-081):MYO7A遺伝子を搭載したAAVベクターによる第1/2相試験が進行中である。MYO7Aのコーディング配列は約6.7 kbと標準的なAAVのパッキング容量を超えるため、分割デュアルベクター戦略や大型容量レンチウイルスベクターが開発されている1)。
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)療法:USH2Aのエクソン13の深部イントロン変異(c.7595-2144A>G)を対象とした ASO製剤が開発されている。これはUSH2Aに最も多い病原性変異の一つに対する標的療法である1)。
N-アセチルシステイン(NAC):経口抗酸化剤として網膜変性の進行抑制効果が評価されている段階である。
BF844:USH3関連CLRN1変異を標的とした低分子化合物が前臨床研究段階にある1)。
遺伝子検査技術の進歩により、USH4などの非典型型を含む詳細な遺伝子型診断が可能になりつつある。遺伝子型に基づく分子標的療法の開発が急速に進んでおり、特に遺伝子治療は将来の治療として期待されている1)。早期遺伝子診断により、今後開発される遺伝子標的療法の適格者として識別できるという点で、現段階での正確な遺伝子診断の意義は大きい8)。
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Pichi F, Rissotto F, Qadha KN, Smith SD, Khan AO. Bilateral vasoproliferative tumors in Usher syndrome. Case Rep Ophthalmol. 2025;16:261-266. doi:10.1159/000542415
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Fowler N, El-Rashedy M, Chishti E, Vander Kooi CW, Maldonado R. Multimodal imaging and genetic findings in a case of ARSG-related atypical Usher syndrome. Ophthalmic Genet. 2021;42(3):338-343. doi:10.1080/13816810.2021.1891552
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