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網膜・硝子体

一過性スマートフォン失明

1. 一過性スマートフォン失明とは

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一過性スマートフォン失明(Transient Smartphone Blindness; TSB)は、暗所で側臥位(横向き)になりスマートフォンを見る際に生じる一過性の片眼視力喪失である。

2016年、Alim-MarvastiらがNEJM誌上で初めて報告した。報告された症例はいずれも、就寝前に暗所で横向きにスマートフォンを使用し、画面オフ後に数分間の視力喪失を自覚したというものであった。原因は器質的疾患ではなく、両眼間の光順応差という正常生理的現象と結論づけられた。

TIAや多発性硬化症などの重篤な疾患との鑑別が求められる点で、臨床上の重要性がある。また、ドライアイを含むデジタル眼精疲労(Digital Eye Strain; DES)との関連も指摘されている1)

Q スマートフォンを見ただけで一時的に見えなくなることがあるのか?
A

あり得る。暗い部屋で片眼を枕などで覆いながらスマートフォンを見た後、画面を消した時点で覆っていた眼の視力が一時的に失われる現象が報告されている。正常な光順応の差によるものであり、病気ではない。

典型的な発症状況と症状の特徴は以下の通りである。

  • 発症状況:暗所で側臥位になり、片眼を枕・腕などで覆った状態でスマートフォンを数分以上使用する。
  • 視力喪失:画面オフ後または体を起こした直後に、覆われていた眼の視力が急激に失われる。
  • 持続時間:数秒〜数分(多くは15分以内)で自然回復する。
  • 片眼性:常に覆われていた眼のみに生じる。両眼性は本疾患では生じない。

発症時に検査を行っても、すべての所見が正常範囲内に収まる。

発症状況

暗所での側臥位:片眼が枕や腕で物理的に遮蔽された状態。

スマートフォン使用:明輝度の画面を数分以上注視。

画面オフ後:遮蔽眼の視力喪失が出現するタイミング。

症状の特徴

片眼性・一過性:遮蔽眼のみ、数秒〜数分で回復。

無痛性:眼痛・頭痛は伴わない。

反復性:同じ状況で繰り返すことがある。

検査所見

視力・眼圧:正常範囲内。

眼底・MRI:器質的異常なし。

網膜電図:遮蔽眼でB波振幅の一時的低下が確認されることがある。

片眼が物理的に遮蔽された状態でもう一方の眼が明るいスマートフォン画面を長時間注視すると、両眼間で光順応の程度に大きな差が生じる。

  • 注視眼:明順応状態。光受容色素(主にロドプシン)が退色した状態にある。
  • 遮蔽眼:暗順応状態。暗所に置かれているにもかかわらず、まだ十分な感度回復が起きていない。

画面を消した直後、遮蔽眼が暗い環境に対して即座に対応できず、一時的な視力喪失として自覚される。この現象は正常生理反応であり、網膜や神経に損傷は生じない。

デジタル眼精疲労(DES)はスマートフォン長時間使用の代表的な合併症であり、一過性視力喪失との関連が指摘されている1)

診断は詳細な問診によって確立される。典型的な発症状況(暗所・側臥位・片眼遮蔽・スマートフォン使用)を確認することが最も重要である。

鑑別が必要な疾患を以下に示す。

疾患視力喪失の性状他の所見
一過性スマートフォン失明片眼・数秒〜数分検査正常
一過性黒内障片眼・数秒〜30分血管病変
NA-AION持続性・片眼視神経浮腫2)
閃輝暗点両眼・陽性症状あり偏頭痛既往
  • 一過性黒内障:頸動脈病変や心疾患に起因する一過性の片眼視力喪失。血管因子の評価が必須。
  • NA-AION(非動脈炎性前部虚血性視神経症:突然の持続性視力低下と視神経乳頭浮腫を特徴とする。TSBとは機序が根本的に異なる2)
  • 閃輝暗点:偏頭痛の前兆として生じる。陽性の視覚症状(ギザギザの光)を伴い、両眼性である。
  • 多発性硬化症視神経炎による視力低下は持続性で、眼球運動痛を伴うことが多い。
Q TIAと区別するポイントは何か?
A

TSBは典型的な発症状況(暗所・側臥位・片眼遮蔽・スマートフォン使用)が必ず存在し、同じ状況で繰り返す。神経学的症状を伴わず、血管危険因子もない若年者に多い。TIAや一過性黒内障が疑われる場合は頸動脈エコーや心臓評価が必要であるが、TSBに合致する状況であれば過剰検査を避けられる。

TSBは正常な生理的反応であり、治療は不要である。予後は良好で、器質的視力障害は残さない。

再発予防のために、以下の生活習慣の修正が有効である。

環境調整

明るい場所で使用:暗所でのスマートフォン使用を避ける。

間接照明の活用:就寝前の使用時は手元照明を点灯させる。

姿勢の改善

仰向けか座位で使用:片眼が覆われる側臥位を避ける。

両眼を開けて使用:片眼遮蔽が生じないよう姿勢を整える。

端末設定

ダークモードの活用:画面輝度を下げることで順応差を軽減する1)

輝度の自動調整:周囲の明るさに合わせた輝度設定を利用する。

Q ダークモードに切り替えると予防できるか?
A

ダークモードは画面輝度を低下させ、暗所での両眼間の光順応差を小さくする効果が期待される1)。ただし最も確実な予防は、側臥位での片眼遮蔽状態を避けることである。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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本疾患の中心的機序は網膜視細胞の光受容色素(ロドプシン)の退色と再合成の差にある。

遮蔽眼と注視眼の状態比較を以下に示す。

状態遮蔽眼(発症眼)注視眼
スマホ使用中暗順応中明順応・ロドプシン退色
画面オフ直後回復遅延 → 視力喪失正常暗順応

ロドプシンは光によって11-cis-retinalからall-trans-retinalへと異性化し(退色)、暗所で再びロドプシンへと再合成される。この再合成には数分を要する。

注視眼では長時間の明輝度暴露によりロドプシンが大量に退色しているが、暗所では通常通り暗順応が進行する。一方、遮蔽眼は暗所に置かれていたにもかかわらず、暗順応の回路が何らかの理由で遅延し、画面オフ後に突然暗所に晒されると即座に視機能を発揮できない状態となる。

網膜電図検査では遮蔽眼のB波振幅の一時的低下が確認されており、これが双極細胞を介した視細胞機能の一時的抑制を示す客観的証拠となっている。

NA-AION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)とは機序が根本的に異なり、TSBでは虚血・炎症・構造的損傷は一切関与しない2)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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ブルーライト低減技術とデジタル眼精疲労

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スマートフォン画面から放出されるブルーライトが視細胞に与える影響について研究が進んでいる。ブルーライトカットフィルタやダークモードが視機能に与える長期的影響については、まだ十分なエビデンスが蓄積されていない1)

デジタル眼精疲労(DES)との関連研究

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DESはスマートフォンやPC長時間使用に伴う症状群であり、一過性視力変動もその一症状として位置づけられつつある。TFOS(涙膜・眼表面学会)のDES報告書では、デジタルデバイス使用と一過性視力喪失との関連が示唆されているが、長期的な疫学データは不足している1)

Q 将来的に予防ガイドラインが整備されるか?
A

現時点では明確な予防ガイドラインは存在しない。DESに関する長期研究が蓄積されれば、スマートフォン使用時の推奨姿勢や輝度設定に関するエビデンスベースの指針が整備される可能性がある1)


  1. Wolffsohn JS, Vagge A, Deng S, et al. TFOS Lifestyle: Impact of lifestyle challenges on the ocular surface – Digital eye strain. Ocul Surf. 2023;28:165-175.
  2. Salvetat ML, Pellegrini F, Spadea L, et al. Non-arteritic anterior ischemic optic neuropathy: a review. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2023;261:1–15.

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