OCT
中心窩嚢胞様腔:星状・多房性の低反射腔がHFL・ONL・INLに形成される。
組織架橋(pillars):嚢胞腔内の垂直状架橋。星状パターンの原因。
部分PVD(VMA):86%に認める。硝子体-黄斑接着の残存2)。

星状非遺伝性特発性中心窩黄斑網膜分離症(Stellate Nonhereditary Idiopathic Foveomacular Retinoschisis; SNIFR)は、2014年にOberらによって初めて報告された比較的新しい疾患概念である1)2)4)。
その名称が示すように、以下の特徴を持つ除外診断的疾患である。
疫学的には60〜70代の女性に多い1)2)。両眼性であることが多く、発症に非同期性(左右で発症時期がずれる)を示すことがある2)。
特定の診断基準によって確定する疾患ではなく、近視性牽引・視神経ピット・CXLRS・外傷性網膜分離などを除外したうえで診断する除外診断的疾患である。OCTによる中心窩の星状嚢胞様変化とRS1遺伝子陰性が診断の中心となる。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
多くの場合は無症状であり、他疾患の検索中や健康診断を契機に偶発的に発見されることが多い1)2)3)。
症状を呈する場合は以下が主な訴えとなる。
OCTは本疾患の診断において最も重要な検査である1)2)3)4)。
OCTアンジオグラフィー(OCTA)は血管病変の除外に有用である3)5)。
OCT
中心窩嚢胞様腔:星状・多房性の低反射腔がHFL・ONL・INLに形成される。
組織架橋(pillars):嚢胞腔内の垂直状架橋。星状パターンの原因。
部分PVD(VMA):86%に認める。硝子体-黄斑接着の残存2)。
FA
蛍光漏出なし:嚢胞性黄斑浮腫(CME)との鑑別点。フルオレセイン蛍光眼底造影では通常、蛍光漏出を認めない。
OCTA
血管構造正常:CNV・毛細血管瘤を認めない3)。
CXLRS鑑別補助:OCTAでの血管評価がX連鎖先天性網膜分離症との鑑別に役立つ3)。
網膜電図(ERG)検査では、多焦点網膜電図(mfERG)において中心窩領域の振幅低下が認められる5)。また全視野網膜電図では、b波の低下が報告されている5)6)。ただし網膜電図所見の異常は軽微であることが多く、CXLRS でみられる著明なb波低下とは程度が異なる場合がある。
SNIFRの嚢胞様腔は血管透過性亢進によるもの(嚢胞性黄斑浮腫)ではなく、網膜組織そのものの分離・空隙形成によるものである。そのためFAで蛍光漏出が生じず、この所見は嚢胞性黄斑浮腫との重要な鑑別点となる。
SNIFRの確立した原因は不明であり、特定のリスク要因も明確ではない。現在提唱されている病因仮説は以下の通りである。
60〜70代の高齢女性に多い事実は、加齢に伴う後部硝子体剥離(PVD)進行過程と関連する可能性が示唆されている1)2)。
中心窩の星状嚢胞様変化を高解像度で描出できるOCTが診断の核心である1)2)3)4)。各種OCTモードを活用して分離腔の範囲・深さ・構造を評価する。
CXLRS(X連鎖先天性網膜分離症)との鑑別に必須である。SNIFRではRS1遺伝子変異は陰性となる2)3)6)。男性患者では特にCXLRSを除外するため必ず施行する。
SNIFRの診断において以下との鑑別が重要である。
| 疾患 | 主な鑑別点 |
|---|---|
| CXLRS | RS1変異陽性・男性・若年発症 |
| 近視性牽引 | 強度近視・後ぶどう腫 |
| 視神経ピット黄斑症 | 視神経乳頭の先天異常 |
CXLRS(X連鎖先天性網膜分離症)との詳細な比較を以下に示す。
| 項目 | SNIFR | CXLRS |
|---|---|---|
| 性別・年齢 | 高齢女性多い | 男性・若年 |
| RS1遺伝子 | 陰性 | 陽性2)3)6) |
| 網膜電図 b波 | 軽度低下 | 著明低下5) |
SNIFRに対する確立された標準治療はなく、多くの場合は経過観察が選択される1)2)3)。
無症状例・視力良好例では定期的なOCT検査による経過観察が基本方針である。自然消退例が報告されていることも、安易な治療介入を避ける根拠となる2)4)。
嚢胞性黄斑疾患に使用されることのある炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)は、SNIFRでは有効性が低い。
一定割合の症例で自然消退(自然経過での病変消失・縮小)が観察されている2)4)。
Machado Nogueiraら(2021)は、硝子体黄斑牽引(VMA)が解離した後にSNIFRの病変が消退した症例を報告した4)。この観察はVMAがSNIFR発症・維持に関与する可能性を支持するものである。
白内障を合併したSNIFR症例への白内障手術は安全に施行可能であり、多焦点眼内レンズ(多焦点IOL)の使用も報告されている2)6)。白内障手術によりSNIFRそのものが増悪するという証拠はなく、視力改善が期待できる白内障合併例では手術を検討してよい。
SNIFRに対するCAI(炭酸脱水酵素阻害薬)の有効性は現時点では低いとされている1)3)。嚢胞性黄斑浮腫とは病態が異なり、血管透過性亢進による液貯留ではないためと考えられる。自然消退例も存在するため、まず経過観察が優先される。
SNIFRの病態生理はまだ完全には解明されていないが、以下のメカニズムが有力視されている。
後部硝子体剥離(PVD)が不完全な状態では、黄斑部に硝子体黄斑牽引(VMA)が持続する。この機械的牽引が以下の連鎖を引き起こすと考えられる4)。
HFLは中心窩に特有の組織で、視細胞の軸索が外顆粒層から斜め方向に走行する層である。この斜走構造が機械的ストレスに対して脆弱であり、分離腔の形成起点となりやすいと考えられている1)4)。
Machado Nogueiraら(2021)は、VMAが解離した後にSNIFRの嚢胞様変化が消退した症例を報告し、VMAを介したMüller細胞機能不全がSNIFRの主要病態である可能性を論じた4)。この仮説によれば、VMAが解離して機械的牽引が消失することで、Müller細胞機能が回復し、液の再吸収と組織修復が起こると解釈できる。
Bayram-Suverza(2025)は、SNIFRが非同期性に両眼発症することを報告し、片眼の確定診断後も対側眼の定期的なOCT追跡が必要であると論じた2)。この知見はSNIFRの自然史の理解を深めるものであり、診察プロトコールの確立に寄与する。
SNIFRが治療なく自然消退する症例の存在は、病態生理の理解において重要な手がかりである4)。VMA解離との関連が示唆されており、VMAの関与を確認・制御する手段(薬物的硝子体液化・硝子体牽引解除など)の有効性を検証する研究が期待される。
Hassanpoor(2025)は、OCTAが中心窩嚢胞構造の血管成分の有無を評価するうえで有用であり、CXLRSとの鑑別だけでなく**CARPET(capillary-related retinoschisis)**と呼ばれる毛細血管関連の網膜分離症との鑑別にも補助的に役立つことを報告した3)。今後、OCTAを含む多モーダル画像解析がSNIFRの病態解明・鑑別診断の精度向上に貢献することが期待される。
現在は自然消退例の存在から積極的治療の適応が限られているが、VMAとの関連が明らかになれば、薬物的硝子体液化(オクリプラスミン等)など低侵襲な硝子体牽引解除療法が有力な選択肢となりうる。また、疾患概念の確立が進むにつれ、症例集積による前向き研究の実施が期待される2)4)。