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網膜・硝子体

星状非遺伝性特発性中心窩黄斑網膜分離症(SNIFR)

1. 星状非遺伝性特発性中心窩黄斑網膜分離症(SNIFR)とは

Section titled “1. 星状非遺伝性特発性中心窩黄斑網膜分離症(SNIFR)とは”

星状非遺伝性特発性中心窩黄斑網膜分離症(Stellate Nonhereditary Idiopathic Foveomacular Retinoschisis; SNIFR)は、2014年にOberらによって初めて報告された比較的新しい疾患概念である1)2)4)

その名称が示すように、以下の特徴を持つ除外診断的疾患である。

  • Stellate(星状):OCTで中心窩に星状の多房性嚢胞様腔を形成する
  • Nonhereditary(非遺伝性):家族歴がなく、RS1遺伝子変異を認めない
  • Idiopathic(特発性)近視・外傷・視神経異常など既知の原因を除外した後に診断される
  • Foveomacular(中心窩黄斑性):病変は中心窩に限局する

疫学的には60〜70代の女性に多い1)2)。両眼性であることが多く、発症に非同期性(左右で発症時期がずれる)を示すことがある2)

Q SNIFRはどのように診断されるのか?
A

特定の診断基準によって確定する疾患ではなく、近視性牽引・視神経ピット・CXLRS・外傷性網膜分離などを除外したうえで診断する除外診断的疾患である。OCTによる中心窩の星状嚢胞様変化とRS1遺伝子陰性が診断の中心となる。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

多くの場合は無症状であり、他疾患の検索中や健康診断を契機に偶発的に発見されることが多い1)2)3)

症状を呈する場合は以下が主な訴えとなる。

  • 変視症:物が歪んで見える
  • 視力低下:中等度の低下にとどまることが多い

OCTは本疾患の診断において最も重要な検査である1)2)3)4)

  • 中心窩の星状嚢胞様分離:外顆粒層(ONL)・内顆粒層(INL)・Henle線維層(HFL)に多房性の低反射腔を形成する
  • 垂直方向の組織柱:嚢胞腔内に組織架橋(pillars)を認め、これが星状パターンの原因となる
  • 網膜全層への関与:網膜の外層から内層にかけて嚢胞様分離が及ぶことがある
  • VMAの存在:部分的な後部硝子体剥離(PVD)が86%に認められる2)。完全なPVD後に病変が消退した症例も報告されている2)4)

OCTアンジオグラフィー(OCTA)は血管病変の除外に有用である3)5)

  • SNIFRでは毛細血管網の構造は基本的に保たれており、CNV毛細血管瘤は認められない
  • CXLRS(X連鎖先天性網膜分離症)との鑑別において血管構造の評価が補助的に役立つ3)

OCT

中心窩嚢胞様腔:星状・多房性の低反射腔がHFL・ONL・INLに形成される。

組織架橋(pillars):嚢胞腔内の垂直状架橋。星状パターンの原因。

部分PVD(VMA):86%に認める。硝子体-黄斑接着の残存2)

FA

蛍光漏出なし:嚢胞性黄斑浮腫CME)との鑑別点。フルオレセイン蛍光眼底造影では通常、蛍光漏出を認めない。

OCTA

血管構造正常:CNV・毛細血管瘤を認めない3)

CXLRS鑑別補助:OCTAでの血管評価がX連鎖先天性網膜分離症との鑑別に役立つ3)

網膜電図(ERG)検査では、多焦点網膜電図(mfERG)において中心窩領域の振幅低下が認められる5)。また全視野網膜電図では、b波の低下が報告されている5)6)。ただし網膜電図所見の異常は軽微であることが多く、CXLRS でみられる著明なb波低下とは程度が異なる場合がある。

Q FAで蛍光漏出がないのはなぜか?
A

SNIFRの嚢胞様腔は血管透過性亢進によるもの(嚢胞性黄斑浮腫)ではなく、網膜組織そのものの分離・空隙形成によるものである。そのためFAで蛍光漏出が生じず、この所見は嚢胞性黄斑浮腫との重要な鑑別点となる。

SNIFRの確立した原因は不明であり、特定のリスク要因も明確ではない。現在提唱されている病因仮説は以下の通りである。

  • 硝子体黄斑牽引仮説:黄斑部への持続的な硝子体牽引がHFLや網膜組織の分離を引き起こすとする説2)4)。VMAが多くの症例に存在すること、VMA解離後に病変が消退した症例が存在することが根拠となる。
  • Henle線維層(HFL)の脆弱性仮説:中心窩に特有の解剖学的構造であるHFLが何らかの機械的刺激・変性に対して脆弱であり、分離が生じやすいとする説1)4)
  • Müller細胞機能不全仮説:網膜内の浮腫・液貯留の調節を担うMüller細胞の機能不全が、組織の分離・嚢胞形成を引き起こすとする説4)

60〜70代の高齢女性に多い事実は、加齢に伴う後部硝子体剥離(PVD)進行過程と関連する可能性が示唆されている1)2)

中心窩の星状嚢胞様変化を高解像度で描出できるOCTが診断の核心である1)2)3)4)。各種OCTモードを活用して分離腔の範囲・深さ・構造を評価する。

CXLRS(X連鎖先天性網膜分離症)との鑑別に必須である。SNIFRではRS1遺伝子変異は陰性となる2)3)6)。男性患者では特にCXLRSを除外するため必ず施行する。

SNIFRの診断において以下との鑑別が重要である。

疾患主な鑑別点
CXLRSRS1変異陽性・男性・若年発症
近視性牽引強度近視・後ぶどう腫
視神経ピット黄斑症視神経乳頭の先天異常

CXLRS(X連鎖先天性網膜分離症)との詳細な比較を以下に示す。

項目SNIFRCXLRS
性別・年齢高齢女性多い男性・若年
RS1遺伝子陰性陽性2)3)6)
網膜電図 b波軽度低下著明低下5)

SNIFRに対する確立された標準治療はなく、多くの場合は経過観察が選択される1)2)3)

無症状例・視力良好例では定期的なOCT検査による経過観察が基本方針である。自然消退例が報告されていることも、安易な治療介入を避ける根拠となる2)4)

嚢胞性黄斑疾患に使用されることのある炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)は、SNIFRでは有効性が低い。

  • 全身投与(アセタゾラミド内服)および局所投与(ドルゾラミド点眼)のいずれも、SNIFRに対しては無効または効果不十分との報告が多い1)3)
  • 局所CAI(ドルゾラミド)を投与した症例で改善が得られなかった報告もある1)

一定割合の症例で自然消退(自然経過での病変消失・縮小)が観察されている2)4)

Machado Nogueiraら(2021)は、硝子体黄斑牽引(VMA)が解離した後にSNIFRの病変が消退した症例を報告した4)。この観察はVMAがSNIFR発症・維持に関与する可能性を支持するものである。

白内障を合併したSNIFR症例への白内障手術は安全に施行可能であり、多焦点眼内レンズ(多焦点IOL)の使用も報告されている2)6)。白内障手術によりSNIFRそのものが増悪するという証拠はなく、視力改善が期待できる白内障合併例では手術を検討してよい。

Q 炭酸脱水酵素阻害薬は効かないのか?
A

SNIFRに対するCAI(炭酸脱水酵素阻害薬)の有効性は現時点では低いとされている1)3)。嚢胞性黄斑浮腫とは病態が異なり、血管透過性亢進による液貯留ではないためと考えられる。自然消退例も存在するため、まず経過観察が優先される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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SNIFRの病態生理はまだ完全には解明されていないが、以下のメカニズムが有力視されている。

硝子体黄斑牽引とMüller細胞機能不全

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後部硝子体剥離(PVD)が不完全な状態では、黄斑部に硝子体黄斑牽引(VMA)が持続する。この機械的牽引が以下の連鎖を引き起こすと考えられる4)

  1. VMAにより黄斑部に持続的な接線方向・垂直方向の機械的刺激が加わる
  2. 中心窩のMüller細胞(網膜の水分・イオン恒常性を担うグリア細胞)が機能不全に陥る
  3. Müller細胞による細胞外液の調節が破綻し、網膜内に液が貯留する
  4. HFL(Henle線維層)を中心とした網膜層の分離・嚢胞形成が生じる4)

Henle線維層(HFL)の解剖学的脆弱性

Section titled “Henle線維層(HFL)の解剖学的脆弱性”

HFLは中心窩に特有の組織で、視細胞の軸索が外顆粒層から斜め方向に走行する層である。この斜走構造が機械的ストレスに対して脆弱であり、分離腔の形成起点となりやすいと考えられている1)4)

Machado Nogueiraら(2021)は、VMAが解離した後にSNIFRの嚢胞様変化が消退した症例を報告し、VMAを介したMüller細胞機能不全がSNIFRの主要病態である可能性を論じた4)。この仮説によれば、VMAが解離して機械的牽引が消失することで、Müller細胞機能が回復し、液の再吸収と組織修復が起こると解釈できる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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非同期性発症と両眼性進展の解明

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Bayram-Suverza(2025)は、SNIFRが非同期性に両眼発症することを報告し、片眼の確定診断後も対側眼の定期的なOCT追跡が必要であると論じた2)。この知見はSNIFRの自然史の理解を深めるものであり、診察プロトコールの確立に寄与する。

SNIFRが治療なく自然消退する症例の存在は、病態生理の理解において重要な手がかりである4)。VMA解離との関連が示唆されており、VMAの関与を確認・制御する手段(薬物的硝子体液化・硝子体牽引解除など)の有効性を検証する研究が期待される。

Hassanpoor(2025)は、OCTAが中心窩嚢胞構造の血管成分の有無を評価するうえで有用であり、CXLRSとの鑑別だけでなく**CARPET(capillary-related retinoschisis)**と呼ばれる毛細血管関連の網膜分離症との鑑別にも補助的に役立つことを報告した3)。今後、OCTAを含む多モーダル画像解析がSNIFRの病態解明・鑑別診断の精度向上に貢献することが期待される。

Q 将来的に有効な治療法は開発されるか?
A

現在は自然消退例の存在から積極的治療の適応が限られているが、VMAとの関連が明らかになれば、薬物的硝子体液化(オクリプラスミン等)など低侵襲な硝子体牽引解除療法が有力な選択肢となりうる。また、疾患概念の確立が進むにつれ、症例集積による前向き研究の実施が期待される2)4)


  1. Perente I, et al. Stellate nonhereditary idiopathic foveomacular retinoschisis: bilateral non-myopic presentation and failure of dorzolamide. 2023.
  2. Bayram-Suverza A, et al. Stellate nonhereditary idiopathic foveomacular retinoschisis: spontaneous resolution, asynchronous onset, and clinical features (Table 1). 2025.
  3. Hassanpoor N, et al. Stellate nonhereditary idiopathic foveomacular retinoschisis: failure of systemic and topical carbonic anhydrase inhibitors, OCTA findings, and differential diagnosis including CARPET (Table 1). 2025.
  4. Machado Nogueira A, et al. Stellate nonhereditary idiopathic foveomacular retinoschisis: spontaneous resolution after VMA release and Müller cell hypothesis. 2021.
  5. Yadav NK, et al. Stellate nonhereditary idiopathic foveomacular retinoschisis: 網膜電図 findings including multifocal 網膜電図 amplitude reduction and b-wave reduction. 2022.
  6. Van der Auwera A, et al. Stellate nonhereditary idiopathic foveomacular retinoschisis: safety of cataract surgery and multifocal IOL implantation; RS1 gene negative. 2022.

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