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網膜・硝子体

スターガルト病(眼底黄色斑点症)

1. スターガルト病(眼底黄色斑点症)とは

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スターガルト病(Stargardt disease; STGD)は、若年期に発症する遺伝性黄斑ジストロフィーである。1909年にドイツの眼科医Karl Stargardtが7例の家族性黄斑変性として初めて報告した2)。1962年にFranceschettiが眼底に黄白色斑点(フレック)を伴う症例を「眼底黄色斑点症(Fundus Flavimaculatus)」として独立記載し2)、現在は両者を同一疾患スペクトラムとみなすことが多い。

有病率は1:8,000〜10,000と推定され1)、遺伝性黄斑疾患の中で最も頻度が高いとされる。発症年齢は多くが10〜20代であるが、成人発症例も存在する。

Q スターガルト病と眼底黄色斑点症は別の病気か?
A

かつては別の疾患とされていたが、現在はいずれもABCA4遺伝子変異を主因とする同一疾患スペクトラムと理解されている2)。フレックの分布範囲や発症年齢に差があるが、遺伝的背景は共通する。

  • 両眼中心視力低下:最も主要な症状。進行は緩徐なことが多い。
  • 色覚異常:後期にかけて生じやすい。
  • 羞明(まぶしさ):光過敏を訴える患者も多い。
  • 暗所での見えにくさ:錐体機能障害が主体だが、桿体も侵される場合がある。
  • 心因性との誤診:初期の視力低下が比較的軽く、眼底所見が乏しいため心因性と誤診されることがある。

黄斑部萎縮と黄白色フレックの組み合わせが特徴的である。フレックは卵形〜魚尾形を呈し、網膜色素上皮(RPE)レベルに存在する。進行すると黄斑に「bull’s eye(ブルズアイ)」パターンの萎縮を形成する。視神経乳頭周囲は比較的保たれる傾向があり、peripapillary sparingと呼ばれる1)

Fishmanらはスターガルト病の眼底所見をStage I〜IVに分類している2)

Stage黄斑所見フレック
I萎縮なし〜軽度黄斑周辺のみ
II黄斑萎縮あり黄斑周辺のみ
III黄斑萎縮あり黄斑+後極部
IV黄斑萎縮あり後極〜周辺部
Q 「bull's eye」所見はスターガルト病だけに見られるか?
A

bull’s eye黄斑症はクロロキン網膜症やコーン・ロッドジストロフィーなど他疾患でも認められる。スターガルト病に特異的な所見ではなく、蛍光造影やFAFを含む総合的な評価が必要である。

スターガルト病の原因遺伝子を以下に示す。

遺伝子遺伝形式特徴
ABCA4常染色体劣性490超の変異が既知
ELOVL4常染色体優性STGD3型
PROM1常染色体優性STGD4型

ABCA4(ATP結合カセットトランスポーターA4)が最も主要な原因遺伝子であり、患者の大多数を占める(STGD1型)。全世界で490を超える病的変異が報告されている。日本人患者ではc.4284G>T(T1428M)変異の頻度が約8%と比較的高いことが知られている。

2023年には新たにRDH8(レチノール脱水素酵素8)の複合ヘテロ接合変異がスターガルト病の原因として世界で初めて同定された1)。この発見はスターガルト病のビジュアルサイクル病態理解を大きく拡張した。

蛍光眼底造影

dark choroid(暗脈絡膜):蛍光造影早期に脈絡膜蛍光が遮断される現象。ABCA4変異例の約62%に認められる1)。スターガルト病に比較的特異的な重要所見である。

フレックの蛍光パターン:新鮮なフレックは過蛍光、古いフレックは低蛍光を呈する。

眼底自発蛍光(FAF)

萎縮域:RPE細胞消失により低自発蛍光を呈する。

フレックリポフスチン蓄積により過自発蛍光を示す。萎縮の進行をモニタリングするうえで有用である。

OCT

外節・楕円体帯(EZ帯):黄斑中心部のEZ帯消失が視力予後と相関する。

RPE変化:RPE層の不整・萎縮を可視化し、フレックの深さと構造を評価できる。

その他の検査として、網膜電図(網膜電図)は初期では正常〜軽度低下を示し、進行例では錐体および桿体反応の低下を認める。遺伝子検査はABCA4などの変異同定に有用であり、確定診断と遺伝カウンセリングに活用される1)

現時点でスターガルト病の根治療法は存在しない。治療の主軸は進行抑制と視機能維持である。

光曝露回避

UV・強光の遮断:光曝露がリポフスチン蓄積を加速させるとされる。UVカットサングラスの常用が推奨される1)

ビタミンA制限:過剰摂取は避けることが望ましい。

ロービジョンケア

拡大鏡・単眼鏡:残存視機能の最大活用。

遮光眼鏡:羞明の軽減に有用。

社会的支援:視覚障害者手帳の取得・就労支援との連携。

研究段階の治療

遺伝子治療:AAVベクターやCRISPRによるABCA4変異修復の臨床試験が進行中。

幹細胞治療:RPE細胞移植の臨床研究が行われている。

フェロトーシス阻害剤:新たな治療標的として注目されている1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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スターガルト病の中心的な病態は、ビジュアルサイクルの障害とリポフスチン蓄積である。

ABCA4タンパクは光受容体外節の円板膜に局在し、フリッパーゼとして機能する。光刺激後に生成されるN-レチニリデン-ホスファチジルエタノールアミン(NRPE)を円板膜内腔から細胞質側へ転送する役割を担う。

ABCA4機能不全により、ビジュアルサイクルの2段階が障害される1)

  1. 第1段階(ABCA4障害):NRPEの転送が停滞し、all-trans-レチナールが円板膜内腔に蓄積する。
  2. 第2段階(RDH8障害):all-trans-レチナールをall-trans-レチノールへ還元する酵素RDH8の機能も障害されると、蓄積がさらに増悪する1)

これらの障害によりall-trans-レチナールが二量化してA2E(N-レチニリデン-N-レチニル-エタノールアミン)が生成される。A2EはRPE細胞のリソソームに蓄積してリポフスチンを形成し、細胞毒性を発揮する。

近年、A2E蓄積によるフェロトーシス(鉄依存性の脂質過酸化による細胞死)と**TLR3(Toll様受容体3)**活性化を介した炎症経路の関与も明らかになりつつある1)。これらの経路がRPEおよび光受容体の変性を促進すると考えられている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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RDH8変異の同定とビジュアルサイクル研究

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Zampattiら(2023)は、ABCA4に変異を持たないスターガルト病患者においてRDH8の複合ヘテロ接合変異を世界で初めて同定した1)。この患者の表現型はABCA4変異例と臨床的に類似しており、RDH8がビジュアルサイクルの第2段階(all-trans-レチナールの還元)において果たす役割の重要性が示された。また同研究はフェロトーシス経路およびTLR3活性化がスターガルト病の病態に関与することを報告し、新たな治療標的として提唱した1)

AAVベクターを用いたABCA4遺伝子補充療法(例:AGTC-402/botaretigene sparoparvovec)の第I/II相試験が進行中である。CRISPR/Cas9によるゲノム編集を用いた変異修復アプローチも前臨床段階で検討されている。

ヒトiPS細胞由来RPE細胞の移植療法についても臨床研究が行われており、RPE萎縮の進行抑制が期待されている。

Q 遺伝子治療はいつ受けられるようになるか?
A

ABCA4を対象とした遺伝子治療の臨床試験が複数進行中だが、2026年時点で一般診療として利用できる段階にはない。詳細は「最新の研究と今後の展望」の項を参照。参加を希望する場合は専門施設に問い合わせることが必要である。

Q フェロトーシスとはどのような細胞死か?
A

フェロトーシスは鉄依存性の脂質過酸化による調節性細胞死である。A2E蓄積によりRPE細胞の酸化ストレスが増大し、フェロトーシスが誘導されると考えられている1)。フェロトーシス阻害剤はスターガルト病の新たな治療標的として研究されている。


  1. Zampatti S, Peconi C, Megalizzi D, et al. Identification of pathogenic variants in RDH8 in a patient with Stargardt disease: expanding the genetic spectrum and proposing new therapeutic targets. Genes (Basel). 2023;14(4):913.
  2. Cremers FPM, Lee W, Bhattacharya SS, et al. Clinical spectrum, genetic complexity and therapeutic approaches for retinal disease caused by ABCA4 mutations. Prog Retin Eye Res. 2020;79:100861.

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