蛍光眼底造影
dark choroid(暗脈絡膜):蛍光造影早期に脈絡膜蛍光が遮断される現象。ABCA4変異例の約62%に認められる1)。スターガルト病に比較的特異的な重要所見である。
フレックの蛍光パターン:新鮮なフレックは過蛍光、古いフレックは低蛍光を呈する。

スターガルト病(Stargardt disease; STGD)は、若年期に発症する遺伝性黄斑ジストロフィーである。1909年にドイツの眼科医Karl Stargardtが7例の家族性黄斑変性として初めて報告した2)。1962年にFranceschettiが眼底に黄白色斑点(フレック)を伴う症例を「眼底黄色斑点症(Fundus Flavimaculatus)」として独立記載し2)、現在は両者を同一疾患スペクトラムとみなすことが多い。
有病率は1:8,000〜10,000と推定され1)、遺伝性黄斑疾患の中で最も頻度が高いとされる。発症年齢は多くが10〜20代であるが、成人発症例も存在する。
かつては別の疾患とされていたが、現在はいずれもABCA4遺伝子変異を主因とする同一疾患スペクトラムと理解されている2)。フレックの分布範囲や発症年齢に差があるが、遺伝的背景は共通する。
黄斑部萎縮と黄白色フレックの組み合わせが特徴的である。フレックは卵形〜魚尾形を呈し、網膜色素上皮(RPE)レベルに存在する。進行すると黄斑に「bull’s eye(ブルズアイ)」パターンの萎縮を形成する。視神経乳頭周囲は比較的保たれる傾向があり、peripapillary sparingと呼ばれる1)。
Fishmanらはスターガルト病の眼底所見をStage I〜IVに分類している2)。
| Stage | 黄斑所見 | フレック |
|---|---|---|
| I | 萎縮なし〜軽度 | 黄斑周辺のみ |
| II | 黄斑萎縮あり | 黄斑周辺のみ |
| III | 黄斑萎縮あり | 黄斑+後極部 |
| IV | 黄斑萎縮あり | 後極〜周辺部 |
bull’s eye黄斑症はクロロキン網膜症やコーン・ロッドジストロフィーなど他疾患でも認められる。スターガルト病に特異的な所見ではなく、蛍光造影やFAFを含む総合的な評価が必要である。
スターガルト病の原因遺伝子を以下に示す。
| 遺伝子 | 遺伝形式 | 特徴 |
|---|---|---|
| ABCA4 | 常染色体劣性 | 490超の変異が既知 |
| ELOVL4 | 常染色体優性 | STGD3型 |
| PROM1 | 常染色体優性 | STGD4型 |
ABCA4(ATP結合カセットトランスポーターA4)が最も主要な原因遺伝子であり、患者の大多数を占める(STGD1型)。全世界で490を超える病的変異が報告されている。日本人患者ではc.4284G>T(T1428M)変異の頻度が約8%と比較的高いことが知られている。
2023年には新たにRDH8(レチノール脱水素酵素8)の複合ヘテロ接合変異がスターガルト病の原因として世界で初めて同定された1)。この発見はスターガルト病のビジュアルサイクル病態理解を大きく拡張した。
蛍光眼底造影
dark choroid(暗脈絡膜):蛍光造影早期に脈絡膜蛍光が遮断される現象。ABCA4変異例の約62%に認められる1)。スターガルト病に比較的特異的な重要所見である。
フレックの蛍光パターン:新鮮なフレックは過蛍光、古いフレックは低蛍光を呈する。
眼底自発蛍光(FAF)
萎縮域:RPE細胞消失により低自発蛍光を呈する。
フレック:リポフスチン蓄積により過自発蛍光を示す。萎縮の進行をモニタリングするうえで有用である。
OCT
外節・楕円体帯(EZ帯):黄斑中心部のEZ帯消失が視力予後と相関する。
RPE変化:RPE層の不整・萎縮を可視化し、フレックの深さと構造を評価できる。
その他の検査として、網膜電図(網膜電図)は初期では正常〜軽度低下を示し、進行例では錐体および桿体反応の低下を認める。遺伝子検査はABCA4などの変異同定に有用であり、確定診断と遺伝カウンセリングに活用される1)。
現時点でスターガルト病の根治療法は存在しない。治療の主軸は進行抑制と視機能維持である。
光曝露回避
UV・強光の遮断:光曝露がリポフスチン蓄積を加速させるとされる。UVカットサングラスの常用が推奨される1)。
ビタミンA制限:過剰摂取は避けることが望ましい。
ロービジョンケア
拡大鏡・単眼鏡:残存視機能の最大活用。
遮光眼鏡:羞明の軽減に有用。
社会的支援:視覚障害者手帳の取得・就労支援との連携。
研究段階の治療
遺伝子治療:AAVベクターやCRISPRによるABCA4変異修復の臨床試験が進行中。
幹細胞治療:RPE細胞移植の臨床研究が行われている。
フェロトーシス阻害剤:新たな治療標的として注目されている1)。
スターガルト病の中心的な病態は、ビジュアルサイクルの障害とリポフスチン蓄積である。
ABCA4タンパクは光受容体外節の円板膜に局在し、フリッパーゼとして機能する。光刺激後に生成されるN-レチニリデン-ホスファチジルエタノールアミン(NRPE)を円板膜内腔から細胞質側へ転送する役割を担う。
ABCA4機能不全により、ビジュアルサイクルの2段階が障害される1)。
これらの障害によりall-trans-レチナールが二量化してA2E(N-レチニリデン-N-レチニル-エタノールアミン)が生成される。A2EはRPE細胞のリソソームに蓄積してリポフスチンを形成し、細胞毒性を発揮する。
近年、A2E蓄積によるフェロトーシス(鉄依存性の脂質過酸化による細胞死)と**TLR3(Toll様受容体3)**活性化を介した炎症経路の関与も明らかになりつつある1)。これらの経路がRPEおよび光受容体の変性を促進すると考えられている。
Zampattiら(2023)は、ABCA4に変異を持たないスターガルト病患者においてRDH8の複合ヘテロ接合変異を世界で初めて同定した1)。この患者の表現型はABCA4変異例と臨床的に類似しており、RDH8がビジュアルサイクルの第2段階(all-trans-レチナールの還元)において果たす役割の重要性が示された。また同研究はフェロトーシス経路およびTLR3活性化がスターガルト病の病態に関与することを報告し、新たな治療標的として提唱した1)。
AAVベクターを用いたABCA4遺伝子補充療法(例:AGTC-402/botaretigene sparoparvovec)の第I/II相試験が進行中である。CRISPR/Cas9によるゲノム編集を用いた変異修復アプローチも前臨床段階で検討されている。
ヒトiPS細胞由来RPE細胞の移植療法についても臨床研究が行われており、RPE萎縮の進行抑制が期待されている。
ABCA4を対象とした遺伝子治療の臨床試験が複数進行中だが、2026年時点で一般診療として利用できる段階にはない。詳細は「最新の研究と今後の展望」の項を参照。参加を希望する場合は専門施設に問い合わせることが必要である。
フェロトーシスは鉄依存性の脂質過酸化による調節性細胞死である。A2E蓄積によりRPE細胞の酸化ストレスが増大し、フェロトーシスが誘導されると考えられている1)。フェロトーシス阻害剤はスターガルト病の新たな治療標的として研究されている。