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網膜・硝子体

鞏膜固定眼内レンズ(SFIOL)

1. 鞏膜固定眼内レンズ(SFIOL)とは

Section titled “1. 鞏膜固定眼内レンズ(SFIOL)とは”

鞏膜固定眼内レンズ(Scleral-Fixated Intraocular Lens; SFIOL)は、水晶体嚢またはチン小帯の支持が失われた眼に対し、眼内レンズのハプティクスを強膜に直接固定する術式の総称である。

  • 外傷:チン小帯断裂や水晶体嚢破損を伴う水晶体損傷
  • 眼内レンズ脱臼・亜脱臼:眼内レンズの位置異常
  • 先天疾患:Marfan症候群など水晶体脱臼を伴う結合組織疾患4)
  • 眼内手術合併症白内障手術中の後嚢破損
  • 無水晶体眼:嚢外法時代の遺残症例

SFIOLの安全性と視力予後は良好であり、長期追跡でも白内障手術の標準的手技と同等の成績が示されている10)

Shenら(2020)は米国眼科学会(AAO)のレビューとして、SFIOLの視力転帰・安全性が確立した固定法と同等であることを報告した10)

Q SFIOLはどのような状況で選択されるのか?
A

水晶体嚢やチン小帯が欠損しているため通常の嚢内固定ができない症例に選択される。外傷、Marfan症候群などの先天性水晶体脱臼、白内障手術合併症、眼内レンズ脱臼などが代表的な適応である4)10)

SFIOLに用いる眼内レンズの選択は、術式・眼軸長・術者経験などにより異なる。主要な製品は以下の通りである。

CZ70BD

素材:PMMAの一枚物レンズ

特徴:長期使用実績が豊富。縫着術(ab externo法)で広く用いられる。

注意:再縫着が必要になる場合がある。

Akreos / MX60

素材:疎水性アクリル

特徴:4点固定が可能で安定性が高い。折りたたみ可能で小切開対応。

注意シリコーンオイル使用眼では石灰化リスクがある2)

CT Lucia 602

素材:疎水性アクリル

特徴:Yamane法(強膜内固定)に最適化されたハプティクス設計。

注意:flange形成には専用のガイドが推奨される。

Carlevale 眼内レンズ

素材:アクリル

特徴:2.2 mm小切開対応。独自のT字型ハプティクスで縫合不要の強膜内固定が可能2)

注意DMEK同時施行も報告されている2)

石灰化リスクと小眼球への対応

Section titled “石灰化リスクと小眼球への対応”

疎水性アクリル眼内レンズ(Akreos等)は、硝子体手術後でシリコーンオイルを使用した眼での石灰化(calcification)が報告されている2)

Ghazalら(2023)は、Carlevale 眼内レンズを用いた強膜内固定術とDMEK(デスメ膜内皮角膜移植)の同時施行を報告した2)。2.2 mm切開で施行可能であり、角膜内皮疾患を合併する症例への応用が示された。

小眼球や高度低眼圧眼では術野が狭く、通常の固定法の施行が困難となる。

Alwohaibiら(2021)は小眼球症例に対してYamane法とglued法を組み合わせたアプローチを報告した7)。解剖学的制約のある症例では術式の工夫が必要である。

SFIOLの固定法は大きく「縫合固定(縫着術)」と「無縫合強膜内固定」に分類される。

強膜外から縫合針を挿入して眼内レンズハプティクスを結紮固定する方法である。

  • PMMAレンズ(CZ70BD等)に適する
  • 術野の確保が容易で術者の学習曲線が比較的短い
  • 縫合糸の経年劣化が課題となる

眼内から操作してハプティクスを牽引し、強膜に固定する方法である。

独自のZ字型縫合でハプティクスを強膜固定する手法。先天性水晶体脱臼にも適用される。

Correia Barbosaら(2023)は、3歳のMarfan症候群患者に対しZ縫合法でSFIOLを施行した4)。術後5年の追跡で最終矯正視力20/20を達成し、小児例での長期安定性が確認された。

無縫合強膜内固定(Yamane法・flange法)

Section titled “無縫合強膜内固定(Yamane法・flange法)”

眼内レンズのハプティクス先端を低熱で変形(flange形成)させ、強膜トンネル内に嵌め込む方法。縫合糸を使用しない。

  • Yamane法の標準手順
    1. 強膜に2か所のトンネル作成(対角180°)
    2. 27G針で前房から強膜外へ誘導
    3. ハプティクスを外に引き出し先端をflange化
    4. 強膜内に押し戻して固定

bent needle(湾曲針)の使用により精度が向上するとの報告がある1)

前眼部OCT(AS-OCT)を用いた術中モニタリングは、固定の質を客観的に評価する手段として注目されている。

Nuzziら(2021)は、SFIOL術中のAS-OCT評価として3つのチェックポイントを提唱した8)。眼内レンズ傾斜・偏位の早期検出に有用であることが示された。

以下に縫着術と強膜内固定術の主な比較を示す。

項目縫着術強膜内固定術
縫合糸不要
切開幅大(PMMA等)小切開可
長期リスク縫合糸破断ハプティクス変形

SFIOL術中は硝子体出血(subhyaloid hemorrhage; SH)が生じうる合併症である。

Sindalら(2023)は572例を対象とした後方視的研究で、SH発生率が3例(約0.5%)であったことを報告した1)。bent needle使用群での術中操作の簡略化が推奨された。

Q Yamane法と縫着術はどちらが優れているのか?
A

どちらにも長所と短所があり、一概にどちらが優れるとは言えない。Yamane法は縫合糸破断リスクがなく小切開対応だが、ハプティクス素材の適合性の確認が必要である。縫着術はPMMA等で実績が豊富だが縫合糸の長期劣化が問題となる1)10)

縫合を必要とするSFIOL術式では、縫合材料の選択が長期予後に大きく影響する。

Prolene(ポリプロピレン)縫合糸

Section titled “Prolene(ポリプロピレン)縫合糸”

従来から最も広く使用されてきた縫合材料である。

  • 破断率:文献報告により0〜27.9%と幅広い
  • 破断までの期間:術後数年〜10年以上
  • 長期使用による加水分解・光酸化が破断の原因とされる

Nakagawaら(2025)はPMMA 眼内レンズのProlene縫着術後18年で再縫着を要した症例を報告した6)。再縫着術後にBrown-McLean症候群(角膜周辺部浮腫)が生じた点が特記されている。

Gore-Tex(膨張ポリテトラフルオロエチレン; ePTFE)縫合糸

Section titled “Gore-Tex(膨張ポリテトラフルオロエチレン; ePTFE)縫合糸”

縫合強度・耐久性が高く、Proleneの代替として注目されてきた材料である。

  • ポリプロピレンと比較して引っ張り強度が高い
  • 生体内分解抵抗性が高く長期維持が期待された

しかし強膜融解(scleral melt)との関連が報告され、使用に際して注意が必要である。

Kalantanら(2025)はGore-Tex縫合糸使用後に強膜融解を生じた症例を報告した5)。縫合糸の異物反応が強膜壊死を引き起こしたと考えられており、長期経過観察の重要性が強調された。

縫合材料の種類に関わらず、露出した縫合糸は感染経路となりうる。

Arepalli ら(2022)は、Gore-Tex縫合糸を使用したSFIOL眼にCurvularia属による真菌性眼内炎が生じた症例を報告した9)。縫合糸露出部からの真菌侵入が原因と考えられた。

縫合材料の主な特性比較を以下に示す。

材料耐久性強膜融解感染
Prolene破断あり少ない縫合露出で注意
Gore-Tex高強度報告あり5)真菌感染報告9)
Q 縫合糸なしの強膜内固定術であれば縫合糸関連の問題は回避できるのか?
A

Yamane法などの無縫合強膜内固定では縫合糸破断や縫合糸関連感染は生じない。ただし、ハプティクスの固定の不安定化や偏位など別の長期リスクが存在する1)8)

SFIOL術後の視力予後は全般に良好である10)。先天性水晶体脱臼に対するZ縫合法では術後5年追跡で20/20が達成された4)。小眼球例でもYamane法とglued法の組み合わせにより良好な視力が得られた報告がある7)

  • 硝子体出血(SH):術中の操作に伴い生じうる。報告率は約0.5%1)
  • 眼内レンズ傾斜・偏位:縫合糸の緩みやflange固定の不均一が原因となる8)
  • Optic inversion(光学部反転):眼内レンズ光学部が後方に翻転した状態で、屈折異常の原因となる。

Cameronら(2023)はFAX(固定後摘出)後にoptic inversionが生じた症例を報告した3)。術中および術後早期の細隙灯顕微鏡確認が重要である。

  • 感染・眼内炎:縫合糸露出や術中操作を起因とする。真菌性眼内炎の症例報告がある9)
  • 強膜融解:Gore-Tex縫合糸使用例での異物反応として報告されている5)
  • 角膜内皮細胞減少:眼内レンズ接触・炎症・手術操作による内皮障害。長期的な経過観察が必要6)
  • Brown-McLean症候群:無水晶体眼や長期眼内レンズ固定術後に生じる角膜周辺部浮腫6)

Nakagawaら(2025)は縫着術後18年でProlene縫合糸の破断による脱臼を生じ、再縫着術後にBrown-McLean症候群が発症した症例を報告した6)。長期経過後の合併症として認識が必要である。

Q SFIOL術後の経過観察はどのくらい続けるべきか?
A

縫合糸の破断や強膜融解、眼内レンズ偏位は術後10年以上を経て生じることがある6)。術後良好な視力が得られていても定期的な眼科受診を継続することが不可欠である。

水晶体嚢やチン小帯が欠損した眼では、通常のCPS(嚢内固定)やACS(毛様溝固定)が選択できない。その場合、強膜実質内に眼内レンズハプティクスを直接固定することで光学系を成立させる。

強膜内固定の安定性は強膜の組織強度に依存する。Yamane法のflange固定では、熱変形したハプティクス先端が強膜トンネル内に機械的に嵌合する。縫合固定では縫合糸の引張強度と組織との摩擦により支持される。いずれの方式でも、長期的には固定強度の変化(縫合糸の劣化、組織リモデリング)が生じる可能性がある。

強膜融解(Gore-Tex縫合糸)は異物に対する慢性炎症反応で、縫合糸周囲の強膜組織が壊死・菲薄化する機序で生じる5)。角膜内皮障害は術中の器具接触・術後炎症・眼内レンズの位置異常による慢性刺激などが複合的に関与する6)


Yamane法およびCarlevale 眼内レンズなど縫合不要な固定法の技術改良が続いている。Carlevale 眼内レンズは2.2 mm切開での挿入が可能であり、DMEKとの同時施行も報告されるなど適応範囲が広がっている2)

術中および術後のAS-OCT評価が眼内レンズ偏位の早期検出に有効とされる8)。将来的には術中リアルタイムガイダンスへの応用が期待されている。

小眼球や先天性水晶体脱臼など解剖学的制約のある症例に対する固定法の工夫が報告されている4)7)。長期の視機能発達や合併症の追跡が今後の課題である。


  1. Sindal MD, et al. Scleral-fixated intraocular lens with bent needle technique: outcomes in 572 cases. J Cataract Refract Surg. 2023.
  2. Ghazal AA, et al. Carlevale 眼内レンズ with 2.2 mm incision and simultaneous DMEK: a case series. Cornea. 2023.
  3. Cameron JD, et al. Optic inversion after FAX scleral-fixated 眼内レンズ. J Cataract Refract Surg. 2023.
  4. Correia Barbosa E, et al. Z-suture scleral fixation in a 3-year-old with Marfan syndrome: 5-year follow-up. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2023.
  5. Kalantan H, et al. Scleral melt associated with Gore-Tex suture in scleral-fixated 眼内レンズ. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025.
  6. Nakagawa S, et al. Repositioning of PMMA scleral-fixated 眼内レンズ 18 years after primary surgery and subsequent Brown-McLean syndrome. Jpn J Ophthalmol. 2025.
  7. Alwohaibi M, et al. Combined Yamane and glued 眼内レンズ technique for scleral fixation in microphthalmos. J Cataract Refract Surg. 2021.
  8. Nuzzi R, et al. Three-checkpoint AS-OCT evaluation for scleral-fixated 眼内レンズ positioning. Ophthalmol Ther. 2021.
  9. Arepalli S, et al. Curvularia endophthalmitis after Gore-Tex sutured scleral-fixated 眼内レンズ. Retina. 2022.
  10. Shen JF, et al. Scleral fixation of intraocular lenses: AAO ophthalmic technology assessment. Ophthalmology. 2020;127:e44–e65.
  11. Krix-Jachym K, Ferber-Viart C, Gaucher D. Scleral fixation of toric intraocular lens in the absence of capsular support. J Cataract Refract Surg. 2024;50. PMC11006456.
  12. Choudhary MM, et al. Modified ab-externo scleral fixation method for dislocated scleral fixated intraocular lens. J Cataract Refract Surg. 2025. PMC11994169.
  13. Shekhar M, Menon RP. “Stay back technique” of scleral fixation of decentred intraocular lens-bag complex. Indian J Ophthalmol. 2022. PMC9426092.

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