CZ70BD
素材:PMMAの一枚物レンズ
特徴:長期使用実績が豊富。縫着術(ab externo法)で広く用いられる。
注意:再縫着が必要になる場合がある。

鞏膜固定眼内レンズ(Scleral-Fixated Intraocular Lens; SFIOL)は、水晶体嚢またはチン小帯の支持が失われた眼に対し、眼内レンズのハプティクスを強膜に直接固定する術式の総称である。
SFIOLの安全性と視力予後は良好であり、長期追跡でも白内障手術の標準的手技と同等の成績が示されている10)。
Shenら(2020)は米国眼科学会(AAO)のレビューとして、SFIOLの視力転帰・安全性が確立した固定法と同等であることを報告した10)。
水晶体嚢やチン小帯が欠損しているため通常の嚢内固定ができない症例に選択される。外傷、Marfan症候群などの先天性水晶体脱臼、白内障手術合併症、眼内レンズ脱臼などが代表的な適応である4)10)。
SFIOLに用いる眼内レンズの選択は、術式・眼軸長・術者経験などにより異なる。主要な製品は以下の通りである。
CZ70BD
素材:PMMAの一枚物レンズ
特徴:長期使用実績が豊富。縫着術(ab externo法)で広く用いられる。
注意:再縫着が必要になる場合がある。
Akreos / MX60
素材:疎水性アクリル
特徴:4点固定が可能で安定性が高い。折りたたみ可能で小切開対応。
注意:シリコーンオイル使用眼では石灰化リスクがある2)。
CT Lucia 602
素材:疎水性アクリル
特徴:Yamane法(強膜内固定)に最適化されたハプティクス設計。
注意:flange形成には専用のガイドが推奨される。
Carlevale 眼内レンズ
疎水性アクリル眼内レンズ(Akreos等)は、硝子体手術後でシリコーンオイルを使用した眼での石灰化(calcification)が報告されている2)。
Ghazalら(2023)は、Carlevale 眼内レンズを用いた強膜内固定術とDMEK(デスメ膜内皮角膜移植)の同時施行を報告した2)。2.2 mm切開で施行可能であり、角膜内皮疾患を合併する症例への応用が示された。
小眼球や高度低眼圧眼では術野が狭く、通常の固定法の施行が困難となる。
Alwohaibiら(2021)は小眼球症例に対してYamane法とglued法を組み合わせたアプローチを報告した7)。解剖学的制約のある症例では術式の工夫が必要である。
SFIOLの固定法は大きく「縫合固定(縫着術)」と「無縫合強膜内固定」に分類される。
強膜外から縫合針を挿入して眼内レンズハプティクスを結紮固定する方法である。
眼内から操作してハプティクスを牽引し、強膜に固定する方法である。
独自のZ字型縫合でハプティクスを強膜固定する手法。先天性水晶体脱臼にも適用される。
Correia Barbosaら(2023)は、3歳のMarfan症候群患者に対しZ縫合法でSFIOLを施行した4)。術後5年の追跡で最終矯正視力20/20を達成し、小児例での長期安定性が確認された。
眼内レンズのハプティクス先端を低熱で変形(flange形成)させ、強膜トンネル内に嵌め込む方法。縫合糸を使用しない。
bent needle(湾曲針)の使用により精度が向上するとの報告がある1)。
前眼部OCT(AS-OCT)を用いた術中モニタリングは、固定の質を客観的に評価する手段として注目されている。
Nuzziら(2021)は、SFIOL術中のAS-OCT評価として3つのチェックポイントを提唱した8)。眼内レンズ傾斜・偏位の早期検出に有用であることが示された。
以下に縫着術と強膜内固定術の主な比較を示す。
| 項目 | 縫着術 | 強膜内固定術 |
|---|---|---|
| 縫合糸 | 要 | 不要 |
| 切開幅 | 大(PMMA等) | 小切開可 |
| 長期リスク | 縫合糸破断 | ハプティクス変形 |
SFIOL術中は硝子体出血(subhyaloid hemorrhage; SH)が生じうる合併症である。
Sindalら(2023)は572例を対象とした後方視的研究で、SH発生率が3例(約0.5%)であったことを報告した1)。bent needle使用群での術中操作の簡略化が推奨された。
どちらにも長所と短所があり、一概にどちらが優れるとは言えない。Yamane法は縫合糸破断リスクがなく小切開対応だが、ハプティクス素材の適合性の確認が必要である。縫着術はPMMA等で実績が豊富だが縫合糸の長期劣化が問題となる1)10)。
縫合を必要とするSFIOL術式では、縫合材料の選択が長期予後に大きく影響する。
従来から最も広く使用されてきた縫合材料である。
Nakagawaら(2025)はPMMA 眼内レンズのProlene縫着術後18年で再縫着を要した症例を報告した6)。再縫着術後にBrown-McLean症候群(角膜周辺部浮腫)が生じた点が特記されている。
縫合強度・耐久性が高く、Proleneの代替として注目されてきた材料である。
しかし強膜融解(scleral melt)との関連が報告され、使用に際して注意が必要である。
Kalantanら(2025)はGore-Tex縫合糸使用後に強膜融解を生じた症例を報告した5)。縫合糸の異物反応が強膜壊死を引き起こしたと考えられており、長期経過観察の重要性が強調された。
縫合材料の種類に関わらず、露出した縫合糸は感染経路となりうる。
Arepalli ら(2022)は、Gore-Tex縫合糸を使用したSFIOL眼にCurvularia属による真菌性眼内炎が生じた症例を報告した9)。縫合糸露出部からの真菌侵入が原因と考えられた。
縫合材料の主な特性比較を以下に示す。
| 材料 | 耐久性 | 強膜融解 | 感染 |
|---|---|---|---|
| Prolene | 破断あり | 少ない | 縫合露出で注意 |
| Gore-Tex | 高強度 | 報告あり5) | 真菌感染報告9) |
Yamane法などの無縫合強膜内固定では縫合糸破断や縫合糸関連感染は生じない。ただし、ハプティクスの固定の不安定化や偏位など別の長期リスクが存在する1)8)。
SFIOL術後の視力予後は全般に良好である10)。先天性水晶体脱臼に対するZ縫合法では術後5年追跡で20/20が達成された4)。小眼球例でもYamane法とglued法の組み合わせにより良好な視力が得られた報告がある7)。
Cameronら(2023)はFAX(固定後摘出)後にoptic inversionが生じた症例を報告した3)。術中および術後早期の細隙灯顕微鏡確認が重要である。
Nakagawaら(2025)は縫着術後18年でProlene縫合糸の破断による脱臼を生じ、再縫着術後にBrown-McLean症候群が発症した症例を報告した6)。長期経過後の合併症として認識が必要である。
縫合糸の破断や強膜融解、眼内レンズ偏位は術後10年以上を経て生じることがある6)。術後良好な視力が得られていても定期的な眼科受診を継続することが不可欠である。
水晶体嚢やチン小帯が欠損した眼では、通常のCPS(嚢内固定)やACS(毛様溝固定)が選択できない。その場合、強膜実質内に眼内レンズハプティクスを直接固定することで光学系を成立させる。
強膜内固定の安定性は強膜の組織強度に依存する。Yamane法のflange固定では、熱変形したハプティクス先端が強膜トンネル内に機械的に嵌合する。縫合固定では縫合糸の引張強度と組織との摩擦により支持される。いずれの方式でも、長期的には固定強度の変化(縫合糸の劣化、組織リモデリング)が生じる可能性がある。
強膜融解(Gore-Tex縫合糸)は異物に対する慢性炎症反応で、縫合糸周囲の強膜組織が壊死・菲薄化する機序で生じる5)。角膜内皮障害は術中の器具接触・術後炎症・眼内レンズの位置異常による慢性刺激などが複合的に関与する6)。
Yamane法およびCarlevale 眼内レンズなど縫合不要な固定法の技術改良が続いている。Carlevale 眼内レンズは2.2 mm切開での挿入が可能であり、DMEKとの同時施行も報告されるなど適応範囲が広がっている2)。
術中および術後のAS-OCT評価が眼内レンズ偏位の早期検出に有効とされる8)。将来的には術中リアルタイムガイダンスへの応用が期待されている。
小眼球や先天性水晶体脱臼など解剖学的制約のある症例に対する固定法の工夫が報告されている4)7)。長期の視機能発達や合併症の追跡が今後の課題である。