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網膜・硝子体

網膜血管腫状増殖(RAP)

1. 網膜血管腫状増殖(RAP)とは

Section titled “1. 網膜血管腫状増殖(RAP)とは”

網膜血管腫状増殖(retinal angiomatous proliferation; RAP)は、加齢黄斑変性(AMD)の中でも特殊な亜型である。網膜内の深層毛細血管叢(deep retinal capillary plexus)から新生血管が発生し、網膜内・網膜下へと増殖する。現在の分類では「Type 3脈絡膜新生血管(Type 3 MNV)」と呼ばれる1)

2001年にYannuzziらが独立した疾患概念として提唱した。Freundらはのちに「Type 3 MNV」という統一命名を提案し、現在の国際的な分類に採用されている。

欧米の新生血管性加齢黄斑変性患者において、RAPは15〜20%を占める。日本では約5%と少ないが見逃しの多い疾患である。高齢女性に好発する点が特徴的である。

両眼発症率がきわめて高く、初診時に片眼のみでも1年以内に約80%、3年以内にほぼ100%の患者が両眼性となる。他の加齢黄斑変性亜型と比べ進行が速く、治療抵抗性を示しやすい。

Q RAPは加齢黄斑変性と同じ病気か?
A

RAPは加齢黄斑変性(AMD)の特殊な亜型に分類される。一般的な滲出型加齢黄斑変性とは新生血管の発生起源が異なり、脈絡膜ではなく網膜内毛細血管叢から発生する点が本質的な違いである。治療法は共通するが、治療抵抗性や両眼発症率が高い点で予後が異なる。

初期から中期にかけて以下の自覚症状が出現する。

  • 変視症(ものがゆがんで見える)黄斑部の網膜浮腫・滲出に伴い生じる。初期の訴えとして多い。
  • 中心暗点:病変が黄斑中心部に及ぶと中央が見えにくくなる。
  • 視力低下:新生血管の活動性が高い時期や、瘢痕化の進行とともに低下する。

症状の進行は比較的速く、早期受診・早期治療が視機能保護において重要である。

後極部に多発する軟性ドルーゼンの集簇とRPD(網状偽ドルーゼン)が基盤所見として特徴的である3)。網膜表層出血・囊胞様黄斑浮腫・網膜下滲出液が活動期の所見として認められる。進行すると色素上皮剥離(PED)を合併する。

RAPの病期分類(Stage分類)に基づく臨床所見を以下に示す。

Stage 1〜2

Stage 1(網膜内新生血管):深層毛細血管叢内での新生血管形成。網膜表層出血・網膜内浮腫が出現。FAで結節状過蛍光(ホットスポット)を認める。

Stage 2(網膜下新生血管):新生血管が網膜下腔へ進展。色素上皮剥離を伴うことが多い。SRFが出現し、嚢胞様黄斑浮腫が顕在化する。

Stage 3〜4

Stage 3(脈絡膜新生血管合併):網膜側新生血管と脈絡膜側新生血管が吻合。PDT治療の適応となる段階。血管性色素上皮剥離を伴う。

Stage 4(瘢痕期):円板状瘢痕の形成。新生血管活動性の低下とともに線維性増殖が生じ、中心視力の不可逆的低下につながる。

OCT所見では「bump sign」(RPEと神経上皮層の間の隆起性病変)が特徴的である。OCTアンギオグラフィ(OCTA)では網膜内・網膜下の新生血管網を無侵襲で描出できる。疾患活動性の指標として、OCT上のIRF(網膜内液)とSRF(網膜下液)が用いられる3)

Q OCTで何が見えるか?
A

OCTでは「bump sign」と呼ばれる網膜色素上皮(RPE)直上の小隆起が特徴的な所見である。また囊胞様黄斑浮腫・網膜内液(IRF)・網膜下液(SRF)・色素上皮剥離(PED)が観察される。活動性の評価にはIRFとSRFの有無が指標として用いられる。

RAPの主なリスク要因は以下の通りである。

  • 加齢:最大のリスク因子。高齢であるほど発症リスクが高い。
  • 性別:女性に多く発症する。
  • 人種:白人に多く、アジア人には比較的少ない。
  • 後極部の軟性ドルーゼン:多発する軟性ドルーゼンはAMD進行の重要な前駆所見である。
  • 網状偽ドルーゼン(RPD):RAPの重要なリスク因子であり、前駆所見としても認識されている3)。RPDは網膜色素上皮上の網状・点状の沈着物として観察される。
  • 遺伝的素因:ARMS2遺伝子多型およびCFH遺伝子多型が感受性に関与する3)

RAPの確定診断には複数のモダリティを組み合わせた評価が必要である。

以下に主な検査法とその所見を示す。

検査特徴的所見
FA(蛍光眼底造影)ホットスポット(結節状過蛍光)
IA(インドシアニン造影)hot spot・RRA(retino-retinal anastomosis)・RCA(retino-choroidal anastomosis)描出
OCTbump sign・IRF・SRF・色素上皮剥離・囊胞様黄斑浮腫
OCTA網膜内・網膜下新生血管の無侵襲描出

FAでは病変部に結節状の過蛍光(ホットスポット)を認める。インドシアニングリーン蛍光造影(IA)はRAPの診断に特に有用で、hot spotとともに網膜内血管吻合(RRA)および網膜−脈絡膜血管吻合(RCA)の描出が可能である。Stage 3における脈絡膜新生血管との吻合はIAで確認する。

OCTは病期評価・治療効果判定の主軸となる。bump signはRAPに比較的特異的な所見とされる。OCTAは無侵襲で新生血管活動性を評価でき、フォローアップにも有用である。

疾患活動性の判断基準としてIRFとSRFを用いる3)。IRFの存在は治療継続の指標となる。

抗VEGF薬硝子体内注射(第一選択)

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日本の診療ガイドラインでは、3型MNVに対する治療として抗VEGF薬硝子体内注射が第一選択である3)。承認薬はラニビズマブアフリベルセプト(2mg)、プロルシズマブ、ファリシマブであり、いずれも保険適用を有する3)

導入期は3ヶ月連続投与(月1回)を行い、その後はtreat and extend(T&E)法により投与間隔を延長しながら管理する3)。T&E法は治療効果を維持しながら注射回数を減らすことができる。

光線力学的療法(PDT)との組み合わせ

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日本の診療ガイドラインでは3型MNVに対するPDT単独は非推奨である3)。一方、国際的なメタ解析では16研究587例対673例を比較し、抗VEGF単独療法と抗VEGF+PDT併用療法で最終視力に差はなく、併用療法では注射回数が有意に減少することが示されている1)。PDT承認済みの段階での適用については個々の病態と施設の判断による。

ファリシマブ(二重特異性抗体:抗VEGF/抗Ang-2)はTENAYA・LUCERNE試験で従来薬と非劣性が示され、最長16週間隔での投与が可能である2)。アフリベルセプト8mg新製剤も長期的な治療間隔延長を目的に開発されており、有効性データが報告されている1)

Q 何回注射が必要か?
A

個人差が大きく、一概には言えない。導入期に3回連続注射を行った後、T&E法で投与間隔を調整する。RAPは他の加齢黄斑変性亜型より治療抵抗性を示しやすく、長期的に多数回の注射を要することがある。ファリシマブやアフリベルセプト8mg等の新規薬剤は投与間隔の延長が可能で、治療負担の軽減が期待される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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RAPの本質は、網膜深層毛細血管叢(deep retinal capillary plexus)を起源とする網膜内新生血管である。これがType 3 MNVと命名された根拠である。脈絡膜を起源とするType 1・Type 2 MNVとは発生機序が根本的に異なる。

軟性ドルーゼンの集簇とRPDが前駆病変として重要である。RPDはドルーゼンとは異なり、網膜色素上皮(RPE)上の網状〜点状の沈着物として観察され、RAPの発症予測因子として認識されている。

RPEと光受容体の機能障害を背景にVEGF等の血管新生促進因子が産生・蓄積し、深層毛細血管叢からの新生血管芽出が誘導される。新生血管は網膜内(Stage 1)→網膜下腔(Stage 2)→脈絡膜新生血管との吻合形成(Stage 3)へと進展する。

RAPは以下の3経路によって脈絡膜新生血管との吻合に至るとされている。

  • 網膜血管→網膜外層→RPE→脈絡膜
  • 脈絡膜新生血管→RPE→網膜
  • 両方向からの向い合わせ性伸展

いずれの経路においても、RPEと光受容体細胞の障害がVEGF産生亢進の起点となる。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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ファリシマブの長期投与間隔延長

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TENAYA・LUCERNE試験(Cheungら 2025年報告)は、ファリシマブ(抗VEGF/抗Ang-2二重特異性抗体)がアフリベルセプト2mgと視力・解剖学的転帰で非劣性を示し、患者の約半数が最長16週間隔での維持投与が可能であったことを報告した2)。Ang-2の阻害により血管安定化と滲出抑制の相乗効果が期待される。

アフリベルセプト8mg新製剤は既存の2mgより高用量で、より長い投与間隔(最長16〜20週)を目指した製剤である。メタ解析でもその有効性に関するデータが蓄積されつつある1)

ARMS2・CFH遺伝子多型に基づく発症リスク層別化と個別化治療戦略の研究が進んでいる3)。遺伝子プロファイルに応じた治療選択・予防介入の実現が今後の課題とされている。


  1. American Academy of Ophthalmology. Age-Related Macular Degeneration Preferred Practice Pattern 2024. AAO PPP 2024.
  2. Cheung CMG, Dansingani KK, Dolz-Marco R, et al. Faricimab for neovascular age-related macular degeneration. Eye. 2025;39:819-834.
  3. 日本眼科学会 加齢黄斑変性診療ガイドライン 第5版. 日本眼科学会; 2023.

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