前眼部所見
前房蓄膿(hypopyon):白血球が前房下方に層状貯留する。高さ1 mm以上は感染性眼内炎を強く示唆する1)。
フィブリン滲出:前房内に網状の白色フィブリンを認める1)。
角膜浮腫・混濁:内皮への炎症波及により角膜が白濁する。
創口の発赤・滲出:修復創の周囲に充血・膿性滲出を認める。

外傷性眼内炎(post-traumatic endophthalmitis)は、眼球開放性損傷を契機に微生物が眼内(前房・硝子体・網膜)に侵入・増殖して発症する重篤な感染症である。穿通性眼外傷に合併する割合は1〜3%とされるが、眼内異物(intraocular foreign body; IOFB)を伴う場合や汚染を受けた環境での受傷では頻度が上昇する。
起炎菌はグラム陽性球菌(Staphylococcus、Streptococcus など)が最多であり、小児では Streptococcus が最多との報告がある1)。土壌や有機物由来の Bacillus cereus は菌体外毒素(exotoxin)を大量産生し、感染後数時間〜数日で急速に眼組織を破壊するため特に危険とされる。真菌(Fusarium、Candida など)は発症が日〜週単位と遅延するため、疑わない限り見落とされやすい。
小児における外傷性眼内炎の発生率は2.8〜58%と報告によって幅があり1)、成人に比べ高率である可能性が指摘されている。
手術後眼内炎は術中の眼表面常在菌が侵入して発症するのに対し、外傷性眼内炎は受傷時に皮膚・土壌・植物など外部環境の多彩な菌が接種されて発症する。起炎菌スペクトラムが異なり、外傷性では Bacillus やグラム陰性桿菌など毒力の強い菌が関与しやすい。
外傷性眼内炎の症状は受傷後数時間〜数日で出現する。細菌感染では発症が急速で、真菌感染は発症が遅延する傾向がある。
病期や感染の重症度に応じて所見が異なる。前眼部・後眼部・眼窩周囲に分けて把握する。
前眼部所見
前房蓄膿(hypopyon):白血球が前房下方に層状貯留する。高さ1 mm以上は感染性眼内炎を強く示唆する1)。
フィブリン滲出:前房内に網状の白色フィブリンを認める1)。
角膜浮腫・混濁:内皮への炎症波及により角膜が白濁する。
創口の発赤・滲出:修復創の周囲に充血・膿性滲出を認める。
後眼部所見
硝子体混濁:初期は軽度の混濁にとどまるが、急速に白色〜黄色の高度混濁へ進行する。
眼底透見不良:硝子体混濁が高度になると眼底が観察できなくなる。
網膜壊死・剥離:重症例や Bacillus 感染では急速な網膜壊死を呈する。
眼窩周囲所見
前房蓄膿は外傷性眼内炎の重要な所見だが、非感染性の外傷後炎症(無菌性ぶどう膜炎)でも生じうる。起炎菌を同定する微生物学的検査と臨床経過を合わせて判断することが必要である。
外傷性眼内炎の主な原因は受傷時の微生物接種である。以下のリスク因子が知られている。
受傷の機序別にみると、穿通性損傷(penetrating injury)では創口から菌が直接接種されるため感染リスクが高い。IOFBを伴う損傷も同様に高リスクである。一方、破裂損傷(rupture injury)では外部からの菌の接種機会が少なく、相対的にリスクが低い2)。
早期修復は眼内炎リスクを大幅に下げるが(OR 0.39)2)、完全には防げない。修復後も予防的抗菌薬の全身投与や硝子体内注射が検討される場合がある。早期修復は感染予防だけでなく眼球の構造的保護にも重要である。
外傷性眼内炎の診断は臨床所見と微生物学的検査を組み合わせて行う。
起炎菌の同定は治療方針決定に不可欠である。検体は前房水穿刺・硝子体生検・創部培養から採取する。
外傷後の非感染性炎症(無菌性眼内炎・交感性眼炎)との鑑別が重要である。非感染性炎症では体温・白血球数が正常であることが多く、炎症の進行が比較的緩徐である。IOFBによる金属沈着症(siderosis、chalcosis)も鑑別に挙げる。
外傷性眼内炎の治療は眼内炎の重症度と起炎菌の推定に基づいて選択する。日本の教科書では病期別(前房炎症期→前房蓄膿期→硝子体混濁期)に応じた段階的治療が推奨されている。
抗菌薬の投与経路は局所(硝子体内・点眼)と全身(静脈・内服)がある。
眼内への直接投与により高濃度を達成できる最も重要な治療法である。標準的な投与量を以下に示す。
| 薬剤 | 投与量(1回) | 対象菌 |
|---|---|---|
| vancomycin | 1 mg/0.1 mL | グラム陽性菌 |
| ceftazidime | 2.25 mg/0.1 mL | グラム陰性菌 |
| voriconazole | 0.1 mg/0.1 mL | 真菌(疑い時) |
vancomycin 1 mg + ceftazidime 2.25 mgの硝子体内同時注射がグラム陽性・陰性双方をカバーする標準的な組み合わせである1)。培養結果が判明した後は起炎菌に合わせて抗菌薬を変更する。
報告例では、11歳男児の縫い針による穿通性外傷後眼内炎に vancomycin 1 mg + ceftazidime 2.25 mg + voriconazole 0.1 mgの硝子体内注射を施行したところ、培養で Moraxella が検出され、ceftazidime + dexamethasoneへ変更後2週で20/25、1か月で20/20まで回復した1)。
硝子体を除去して感染源を直接除去する最も有効な外科的治療である。硝子体切除術施行時には硝子体生検を行い、培養・薬剤感受性試験に供する。以下の場合に適応となる。
IOFBは持続的な感染源・毒性作用(金属沈着症)をもたらすため、緊急除去が原則である。
| 病期 | 主所見 | 主な治療 |
|---|---|---|
| 前房炎症期 | フィブリン・軽度混濁 | 点眼+全身抗菌薬 |
| 前房蓄膿期 | hypopyon形成 | IVI+全身抗菌薬 |
| 硝子体混濁期 | 眼底透見不良 | 硝子体切除術+IVI |
金属製・有機物製の眼内異物は感染源となるだけでなく、金属沈着症(siderosis、chalcosis)を引き起こすため原則緊急除去が推奨される。ガラスなど生体親和性の高い材質の場合は、手術リスクと便益を個別に評価して方針を決定することがある。
外傷性眼内炎は、眼球開放性損傷によって生じた創口から微生物が眼内に接種されることで発症する。
一次修復(primary repair)は感染に対する解剖学的障壁を再建する行為であり2)、修復が遅れるほど微生物が増殖する時間が延長され、感染が確立しやすくなる。損傷の機序によって接種量は異なる。穿通性損傷やIOFB損傷では創口を通じた直接の菌接種が起こるのに対し、破裂損傷(blunt trauma による眼球破裂)では外部からの接種機会が少ない2)。
細菌性眼内炎では炎症メディエーター(サイトカイン、プロテアーゼ)と菌体外毒素が協調して眼内組織を破壊する。Bacillus cereus が産生するlecithinase(phospholipase C)やネクロトキシンは数時間以内に網膜や硝子体を壊滅的に破壊する。
真菌性眼内炎では菌糸が組織に侵入し、マクロファージによる貪食が困難なため慢性的な肉芽腫性炎症が持続する。
Moraxella 属菌は難培養性で通常の培地では検出されにくい場合がある1)。小児の縫い針外傷後眼内炎からの分離報告があり、vancomycin耐性を示す株が存在するため、培養結果に基づく抗菌薬変更が重要である1)。
Sheridanら(2025)による6,469眼の系統的レビューとメタアナリシスは、24時間以内の一次眼球修復が眼内炎発症リスクを有意に低下させることをGRADE推奨として示した(OR 0.39、P=0.01)2)。ただし視力転帰については有意差は認められなかった2)。
Sheridan Cら(Ophthalmology 2025)は穿通損傷・IOFB損傷の双方で早期修復の有益性を確認したが、RCTの実施は倫理的に困難であり、観察研究のエビデンスに基づく推奨であると指摘している2)。
Moraxella を起炎菌とする小児外傷性眼内炎の報告は少なく、Awasthiら(2021)は縫い針外傷後の11歳男児例を報告した1)。小児ではStreptococcusが最多とされているなか、Moraxellaによる眼内炎は国際的にも症例報告レベルにとどまる。小児特有の起炎菌スペクトラムの解明と最適治療プロトコールの確立が今後の課題とされている1)。