ポリープ状脈絡膜血管症の特徴
橙赤色球状病変:RPE下のポリープ状血管拡張。眼底鏡で橙赤色の球状病変として観察される。
出血性色素上皮剥離:RPE下の大量出血による急峻な隆起。IRFは少ない傾向。
漿液血性色素上皮剥離:漿液と血液が混在したRPE剥離。

ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy; PCV)は、脈絡膜の異常分枝血管ネットワーク(branching vascular network; BVN)とその末端に生じるポリープ状血管拡張病変を特徴とする疾患である。5) 網膜色素上皮(RPE)下に橙赤色球状病変を形成し、漿液性・出血性の色素上皮剥離(PED)を引き起こす。
1982年にYannuzziらが「特発性出血性RPE剥離」として初報告した。5) 現在ではパキコロイドスペクトラムに属する疾患の一つとして位置づけられており、中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)や単純型パキコロイドと連続するスペクトラムを形成する。5)
50〜65歳の男性に多く発症する。日本人nAMD患者の23〜54%を占め、2) アジア人全体では22〜62%に達する。5) 欧米白人に比べてアジア人での有病率が著しく高いことが特徴である。
ポリープ状脈絡膜血管症はnAMDのサブタイプとして分類されることが多いが、病態・治療反応性・遺伝的背景に違いがある。nAMDよりも出血が多くIRFは少ない傾向にある。現在もパキコロイドスペクトラムとして独立した疾患概念とすべきかが議論されている。5)6)
典型的なnAMDと比較すると、ポリープ状脈絡膜血管症では出血が豊富な一方、IRF(網膜内液)は少ない傾向がある。5年間でSMHを生じる割合は約10%と報告されている。5)
眼底検査・画像検査で以下の特徴的所見を認める。
ポリープ状脈絡膜血管症の特徴
橙赤色球状病変:RPE下のポリープ状血管拡張。眼底鏡で橙赤色の球状病変として観察される。
出血性色素上皮剥離:RPE下の大量出血による急峻な隆起。IRFは少ない傾向。
漿液血性色素上皮剥離:漿液と血液が混在したRPE剥離。
nAMDとの対比
ポリープ状脈絡膜血管症:出血多・IRF少・SMHを生じやすい。ICGA必須。ポリープ閉塞が治療目標。
典型的nAMD:脈絡膜新生血管(CNV)が主体・IRF多・出血少。FAでよく描出される。
OCT所見では以下が重要である。5)
ポリープ状脈絡膜血管症の根本的な病態基盤はパキコロイド(pachychoroid)とされる。Haller層(外層脈絡膜血管層)の拡張とそれに伴う内層脈絡膜(Sattler層・毛細血管層)の菲薄化が特徴的な状態である。5)
CFH・ARMS2遺伝子多型との関連が報告されており、5) 典型的nAMDの感受性遺伝子と一部共通する。ただし両者の遺伝的背景は完全には一致しない。
ICGAがポリープ状脈絡膜血管症診断のゴールドスタンダードである。5) 脈絡膜血管の描出に優れ、早期過蛍光のポリープ状病変と異常分枝血管ネットワーク(BVN)を同定する。EVEREST基準(後述)はICGA所見を基盤としている。
EVEREST研究グループが定めたICGAに基づく診断基準が国際的に広く用いられている。以下のいずれかを満たすものをポリープ状脈絡膜血管症と診断する。5)
各検査の特性を以下に示す。
| 検査法 | 主な所見 | 特記事項 |
|---|---|---|
| ICGA | BVN・ポリープ | ゴールドスタンダード5) |
| OCT | ダブルレイヤーサイン・ボーラ | APOIS基準AUC 0.905) |
| OCTA | BNN3分類・感度82.6%特異度100% | 非侵襲的5) |
OCTのみによるポリープ状脈絡膜血管症鑑別にはAI支援によるAPOIS基準のAUC 0.90が報告されている。5) ダブルレイヤーサインはICGAを施行しない施設でのスクリーニングに有用であるが、感度は59%にとどまる。5)
OCTAはICGAに代わる非侵襲的検査として注目されている。BNN(分枝血管ネットワーク)を3タイプ(BNN type 1〜3)に分類でき、ポリープ状脈絡膜血管症の検出感度82.6%・特異度100%との報告がある。5)
OCT・OCTAの進歩によりICGA非依存の診断支援が可能になりつつあるが、現時点ではICGAがゴールドスタンダードである。OCT単独のAPOIS基準でAUC 0.90と高い識別能が示されているものの、治療方針(PDT追加の判断など)のためにもICGAは依然として重要である。5)
抗VEGF薬の硝子体内注射がポリープ状脈絡膜血管症の第一選択治療である。5)
アフリベルセプト vs ラニビズマブ
複数の研究でアフリベルセプトのほうがラニビズマブよりも高い有効性を示す。
Vellaら(2021)は、ラニビズマブ6回投与で無効だったポリープ状脈絡膜血管症症例にアフリベルセプト1回投与を行ったところ、SRF(網膜下液)が完全消失したことを報告した。著者らはCho(2015)の大規模研究(アフリベルセプト>ラニビズマブ)を引用し、アフリベルセプトの優れた有効性を考察している。3)
PLANET試験では、アフリベルセプト単剤とアフリベルセプト+PDT併用の比較において、アフリベルセプト単剤のPDTに対する非劣性が証明された。ポリープ閉塞率は単剤群でも85%以上に達した。2)3)
EVEREST I・II試験の結果
| 試験名 | 治療法 | 主要アウトカム |
|---|---|---|
| EVEREST I | PDT併用 | ポリープ閉塞率77.8%5) |
| EVEREST II | PDT+抗VEGF | +9.6文字(vs 抗VEGF単独)5) |
| PLANET | アフリベルセプト単剤 | PDTへの非劣性証明2)3) |
| PEARL | 抗VEGF+PDT | 日本人対象試験5) |
EVEREST I試験では、PDT+ラニビズマブ併用またはPDT単独での病変閉塞率が77.8%であったのに対し、ラニビズマブ単独は26.7%にとどまった。5) EVEREST II試験(RCT)では、PDT+ラニビズマブ群がラニビズマブ単独群に比べ24週時点で9.6文字多い視力改善を示した。5)
PDTに代わる低侵襲な選択肢として、マイクロパルスレーザーの有効性が報告されている。
Jafarら(2024)は577 nmマイクロパルスレーザー(デューティサイクル5%、400 mW、200 μm、200 ms)をポリープ状脈絡膜血管症に施行し、12週後にSRFが完全消失した症例を報告した。視力は20/60から20/25に改善した。著者らはEVEREST・PLANET試験と並ぶ治療選択肢としての位置づけを論じた。2)
大量の網膜下出血(SMH)を生じた症例には硝子体手術による血腫除去が必要となることがある。5)
Sasajimaら(2022)は、COVID-19ワクチン3回目接種後に急速進行したポリープ状脈絡膜血管症(79歳男性)に対し、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA 25 μg/0.05 mL)+SF6ガス1.2 mLを用いた硝子体手術を世界で初めて施行した症例を報告した。4)
複数の研究でアフリベルセプトのほうが高い有効性を示しており、PLANET試験ではアフリベルセプト単剤によるPDT非劣性も証明されている。現時点ではアフリベルセプトがポリープ状脈絡膜血管症の第一選択抗VEGF薬として推奨される。2)3)5)
ポリープ状脈絡膜血管症の病態はパキコロイドスペクトラムの概念に基づいて理解される。5)
Haller層に存在する拡張した大径脈絡膜血管(パキベッセル)が病態の中心をなす。5) 渦静脈が拡張したパキベッセルに吻合している割合は約90%であり、渦静脈うっ滞が脈絡膜毛細血管レベルまで及ぶことで慢性的な圧迫がRPEとBruch膜に加わる。5)
慢性的な脈絡膜うっ滞により以下の変化が段階的に生じる。
炎症による直接的なRPE・Bruch膜の損傷がポリープ状脈絡膜血管症発症の素地となり得る。1) 結核性脈絡膜炎から20年の経過後にポリープ状脈絡膜血管症が発症した症例では、慢性的な炎症による組織損傷の蓄積がポリープ状脈絡膜血管症発症に関与したと推察されている。1)
COVID-19ワクチン(3回目)接種後に急速進行したポリープ状脈絡膜血管症症例では、ワクチン誘発性の免疫・炎症カスケードが既存のパキコロイド素因に重なり、急速なポリープ拡張と大量SMHをきたした可能性が考えられている。4)
ブロルシズマブ(VEGF-Aへの高親和性単鎖抗体)とファリシマブ(VEGF-A/Ang-2二重阻害)のポリープ状脈絡膜血管症への応用が検討されている。
Cheungら(2025)のパキコロイドレビューでは、ブロルシズマブとファリシマブがポリープ状脈絡膜血管症を含むパキコロイドスペクトラム疾患に対して治療間隔延長(treat-and-extend; T&E)を可能にする候補薬として言及された。いずれも長期データの蓄積が待たれる段階である。6)
T&Eは初期の固定投与後に個別の再燃リスクに応じて投与間隔を延長する方式である。ポリープ状脈絡膜血管症を含むパキコロイド疾患への応用でも注目されているが、最適なプロトコールはまだ確立されていない。6)
577 nmマイクロパルスレーザーはPDTに比べ脈絡膜萎縮リスクが低い低侵襲治療として注目されている。2) 抗VEGF療法との組み合わせにおける有効性を検討する大規模RCTが待たれている。
OCT所見に基づくAI診断(APOIS基準)がAUC 0.90のnAMD-ポリープ状脈絡膜血管症鑑別能を示した。5) TIGER試験では、OCTAとAIを活用した新たな診断・治療反応評価システムが検討されている。5)
パキコロイドスペクトラム概念の普及に伴い、ポリープ状脈絡膜血管症をnAMDのサブタイプとして捉えるか独立した疾患として捉えるかの議論が続いている。6) 治療選択肢の最適化にはより精緻な疾患分類が必要と考えられている。6)